襲われていた女――諏訪子が気を失ってしまったので、近くの洞窟に連れて行った。
「・・・これは、酷いな。」
背嚢から予備の布団を広げて、その上に彼女を寝かして傷などの状態を診る。
主な外傷としては左瞼の切り傷、左腕の骨折、身体の様々なところにある打撲。
あの時間に合って良かったと思う。
「取り敢えず、軽い応急処置だけでもして置こう。 」
背嚢の中から薬箱と包帯、清潔な布を取り出す。
――そういえば、
そんな事を考えながら布と包帯で簡易的な眼帯を作る。
幸い、左瞼の傷は目には届いていないみたいだ。
母謹製の外傷用の傷薬(血止め、殺菌、回復促進の効果がある)を塗って眼帯を付ける。
手足の打撲には痛み止めと腫れを抑制する軟膏を塗っておく。
「この骨折は、どうしようか・・・。」
最悪の場合、切らなければなならいかも?
うーん。
やるか?
やりたく無いけど、人の腕を切るよりはマシ・・・かな?
僕は左腕で諏訪子の左腕に触れ、能力を使った。
「僕の左腕と諏訪子の左腕の"境界を曖昧に"する。『
【ありとあらゆるものを曖昧にする程度の能力】を解除し、彼女と僕の境界をもとに戻す。
どうやら無事、彼女の骨折は僕の右腕に移ったみたいだ。
コレ、あんま多用すると曖昧になって混ざっちゃうから他の傷はしょうがない。
「あー痛い。一旦煙にしてから再構成っと。」
僕の折れている右腕を一旦煙にしてから折れていない形に戻す。
こういうときは自身が妖怪で良かったと想う。
妖怪の能力や妖力の使い方を教えてくれた
さてと、ある程度の処置は終わった。
後は
◇◇◇◇
そうして待つこと数時間。
彼女が目を覚ました。
「あーうー。此処は?」
「近くの洞窟だよ。」
「この手当は君が?」
「ああ。左瞼はあんま開けない方がいいぞ。傷が開く。」
「うん。」
会話が途切れでしまった。
そういえば、彼女の名前とかは聞いたけどちゃんとした自己紹介はしていないなと思い至った。
紅が「自己紹介はちゃんとしなさい!」って言ってる気がするし。
そう思って、彼女に声をかける。
「あー。あらためて?僕は、
すると、彼女は驚いた様な顔をしたあとくすっと笑った。
「ふふっ。君は結構不器用なんだね。私は諏訪子。しがない白蛇だよ。よろしく、クロ。」
「ああ、よろしく。諏訪子。」
◇◇◇◇
諏訪子が起きたので、事情を聞くことにした。
諏訪子は僕の知らない様々なことを話した。
「私はね、正確には土地に居着いた霊物みたいなものなんだ。」
「霊物は膨大な力を内包している。まあ、霊物って妖怪とかにとっては御馳走みたいなものなんだ。」
「で、あの妖怪に見つかって襲われてたってわけなの。」
「なるほど。でも、膨大な力があるんだったら妖怪ぐらい撃退できないのか?」
「それはね、霊物は存在自体が力なのさ。要するに力を使うと自分も減っちゃうってわけ。さっきの妖怪は思いの外強かったみたいでね、クロが来なかったら今頃彼奴の腹の中さ。」
「諏訪子。この後はどうするんだ?」
「あーうん。クロを私の住処に招待したいけど、未だ動けなさそうなんだよね。」
「怪我人なんだから無理はしなくていいぞ。僕が助けたんだし、治るまでぐらいは面倒を見るよ。」
「あーうー。じゃあ、お世話になります。」
「うん。任せとけ。」
こうして俺と諏訪子の生活が始まった。
◇◇◇◇
朝起きて、何時もの修行をする。
昼ぐらいに魚をとってきて諏訪子と食べたり。
そうして諏訪子と暮らし始めて2日がたった。
諏訪子は消耗していて存在が安定しないのか朝起きたら蛇になって首に巻き付いていたりする。
諏訪子によると無意識に近くの力を吸収しようとしてしまったらしい。
「・・・。じゃあ、僕が諏訪子に力を渡せば良いんじゃないか?」
「いいの?」
「いいぞ。」
てな訳で今日、包帯を変えた後に力の譲渡を試すことになった。
◇◇◇◇
万が一のために洞窟に結界を張り、諏訪子と向き合う。
諏訪子が僕の背中と首に手を回し、僕を引き寄せた。
このときの諏訪子はとても蠱惑的だった。
「クロ、少し痛いかも。我慢して。」
そう言った後、諏訪子は僕の首に噛み付いた。
諏訪子は僕を強く抱きしめた。
瞬間、何かが吸われる感覚と
嗚呼、溶けて、融けて、解けて、曖昧に――
僕の意識はそこで暗転した。
◇◇◇◇
――寂しいと感じた
――感じてしまった
――
――
――
――そんなとき、
――
――
――
――
――嗚呼、温かい
――寂しくない
――ずっと、このまま
――――「黒、起きなさいっ!!」
最後の「救われた」というのは黒が紅の病を直せなかったことを無意識下で悔やんでいたため、諏訪子は助けられたという思いがあったからです。