東方黒雲録   作:文才の無い本の虫

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――これは名もなき神が、無貌神に至るまでの平穏だった一幕。

――有り得たかも知れない世界。

――下手に人の形を残してしまった神の話。


この話は、とある作品の二次創作要素を含みます。


EX,Another√「銀」

 

 

「ったく・・・・・上はなにやってんだ?!」

 

 

「まったくもってその通りね」

 

 

サービスキャップを深く被った青年が敵の射線から隠れながら、自身の相棒――ナタルに通信で愚痴をこぼす。

 

ナタルは青年――ネームレスの愚痴に苦笑しながら物陰からアサルトライフルを敵の居る方向に連射。

 

ネームレスは物陰からちらりと周囲を確認し、ナタルに気を取られた敵の頭部を狙撃する。

 

 

「ネームレス、貴方よくそれで当てられるわね」

 

 

「腕のいい相棒のお陰かね」

 

 

二人は軽口を叩き合った後に二手に分かれ、敵の数を減らしていく。

 

彼らは元傭兵の軍人。

 

二人しかいない特殊部隊。

 

国の長の指示で動き、敵対者やテロの芽を摘む者。

 

 

「・・・・・クリア。周囲に生存者ゼロ。ナタル、お前の方は?」

 

 

「此方もクリアよ。周囲に生存者ゼロ。あるのは盗まれたと思われる『マルチフォームスーツ』位ね」

 

 

「あー。あの『天災』が作り上げた発明品か」

 

 

「ええ。まぁ、貴方を差し置いて『天災』とは笑えるけどね」

 

 

ナタルは「貴方の方が余っ程常識外れよ」と笑う。

 

ネームレスは「まぁ確かにな」と同意し、周囲を警戒しながらナタルに合流するために歩く。

 

ネームレスはナタルのナビゲートで彼女のいる倉庫にたどり着く。

 

その倉庫には『天災』が作り上げた発明品――『マルチフォームスーツ』が佇んでいた。

 

 

「さて、『マルチフォームスーツ(コレ)』をどうしましょうか」

 

 

「んーそうだな。型式からして・・・・・ウチの試作機じゃねえかコレ。盗まれたっていう報告は無かった筈だが」

 

 

「いよいよきな臭くなってきたわね」

 

 

「何時ものことだろ」

 

 

「・・・・・そうだったわ」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「・・・・・ナタル、起きろ」

 

 

すやすやと先程まで俺も寝ていたベッドで産まれたままの姿で寝ている相棒の肩を揺する。

 

 

「ん・・・・・今何時?」

 

 

「7時。さっさと服着ろ」

 

 

俺はナタルに手短に時間を伝え、持って来た彼女の服を投げ渡す。

 

それを受け取ったナタルは何を思い付いたのか、Yシャツを胸を隠す様に持ち、ニヤニヤとした。

 

 

「いやんエッチ♪」

 

 

「はっ倒すぞ」

 

 

イラッと来て拳を握る。

 

一変病院送りになりたいのだろうか?

 

 

「まだ死にたくは無いから着るわ・・・・・でも別にそれ以上(・・・・)も見てるんだし良くない?」

 

 

俺と彼女は恋人という訳では無い。

 

長期潜入任務で色々あり、その爛れた関係がズルズルと続いている。

 

・・・・・ナタル、駄目人間だけど魅力的ではあるんだよなぁ。

 

 

「人としてってやつだよ。それに今日はアレの稼働実験だろ?」

 

 

「そうだったわ!」

 

 

ナタルは今日の用事を思い出したようで、急いで服を着始める。

 

今日は俺と彼女が回収した『マルチフォームスーツ』試作機の正式採用型――確か開発コードは『銀の鐘』だっけか?――の稼働実験の日だ。

 

あの数週間前の任務の後に『世界初の男性操縦者』が現れたりとしてばたばたした後、ナタルと()はテストパイロットに抜擢された。

 

何の縁かは知らんがあの『試作機』のコアを流用したらしい。

 

俺は何時もの様に朝飯を作り、テーブルに並べる。

 

 

「「いただきます」」

 

 

「・・・・・相変わらずネームレス、貴方の料理は美味しいわね」

 

 

「そりゃどーも」

 

 

「今考えると貴方って案外優良物件よね」

 

 

「そうか?・・・・・でも、俺は異端者だしなぁ。まともな恋愛とかは無理だろうな」

 

 

現にナタルとの関係も健全とは言い難いし、愛と云うものはとうに擦り切れちまったしな。

 

感情とかは擦り切れてんのにまるで人間の様に身体的な欲求は残ってるから不思議なもんだ。

 

 

「ふふっ・・・・・ええ、確かにね。貴方は異世界()だものね」

 

 

「まぁ、何でこんなのが神様してんだろうな」

 

 

クズ、異端者、ヒトデナシロクデナシ・・・・・悪口悪評といったものは言われ尽くしたのでは内だろうか?

 

このナタルとの世界は何個目の世界だろうか?

 

そもそも俺は居て良いのか?

 

 

「さぁ?」

 

 

俺のぽつりと溢した疑問にナタルはいたずらっ子の様に微笑んで首を傾げる。

 

何となく救われた気がした。

 

・・・・・だから俺はこの関係をズルズルと続けてる(手放したくない)んだろうなぁ。

 

そうしている内に時間は過ぎ、食べ終わった食器を二人で片付ける。

 

窓を締め、家の鍵を閉め、傭兵時代から愛用している二人乗りのバイクに跨がる。

 

ナタルがヘルメットを被り、後ろに乗ったのを確認し、クラッチを握りながら右足を地面につけ、左足で1速に入れる。

 

 

「ナタル、行くぞー」

 

 

「ええ」

 

 

さて、今日も頑張りますかね。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

――System,Boot…(システム、ブート)

 

 

私の装着している『銀の福音』が起動を開始する。

 

ハイパーセンサーで見てみるとネームレスは近くで見守ってくれているみたいね。

 

この子の稼働実験もこれが最終工程。

 

それに今日、この稼働実験が終わったらネームレスに渡さなきゃいけないものがある。

 

まったく困った神様ね。

 

 

――System,All Green.(システム正常)

 

――『Silverio Gospel』,start up.(『銀の福音』、起動)

 

 

「こちら、ナタル。『Silverio Gospel』起動を確認。異常は診られないわ」

 

 

「――了解。PIC及びメイン、サブスラスタの動作確認を?!」

 

 

「どうしたの?」

 

 

オペレータとの通信が途切れる。

 

私の疑問に答えたのは情報端末を見ていたネームレスだった。

 

 

「不味い、襲撃だ!!稼働実験は中止、奴らの狙いは『銀の福音』だ!!逃げるぞナタル!!」

 

 

瞬間、稼働実験場の天井が崩落した。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「不味い、襲撃だ!!稼働実験は中止、奴らの狙いは『銀の福音』だ!!逃げるぞナタル!!」

 

 

俺は急いで状況を把握する。

 

――上か!!

 

俺は『銀の福音』の姉妹機である『銀の御旗』を装着、崩落してくる天井に向けてAIC(慣性停止結界)を全開にする。

 

 

「はっ、がら空きだぜ!!銀色ぉ!!」

 

 

「な?!」

 

 

横から大きな装甲脚を装備した『マルチフォームスーツ』を着た女性が襲いかかってくる。

 

その装甲脚はAICを使用していたことにより、がら空きだった俺の胴を薙ぎ払った。

 

俺は背中から壁に叩きつけられる。

 

・・・・・痛えなぁ。

 

AICによる押さえが無くなったことにより、崩落してくる天井の向こうでナタルが声を上げるのが見える。

 

 

「ネームレス!!」

 

 

「ったく。ナタル、逃げろ!!時間は稼ぐ!!」

 

 

「〜〜!!」

 

 

ナタルは天井によって見えなくなった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「・・・・・ネームレス、貴方に・・・・・コレを」

 

 

「銀色の十字架?」

 

 

「・・・・・誕生日プレゼント、よ。貴方が、前に言ってた名前を、考えたの、よ。顔のない神様、ニャルラトホテプ。どう、かしら?」

 

 

「ああ・・・・・良い名前だ」

 

 

「それなら、良かったわ。『銀の福音(この子)』と、飛べなかったのと、貴方と、もっと、居れなかったのが、後悔ね・・・・・ネームレス、いえ、ニャル。愛してるわ」

 

 

「・・・・・こんな化物に情でも湧いたか?」

 

 

「ええ、だって、私を、見て、くれたから。化物だろうと、関係無いわ」

 

 

「・・・・・」

 

 

「私は、幸せ、だったわ。貴方も、幸せになって、ね?」

 

 

「・・・・・ああ」

 

 

「私の、物は、好きに処分して、くれて、構わないわ。ニャル、愛してる、さような、ら・・・・・」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

腕の中で息絶えたナタルを見る。

 

まるで眠っているようだ。

 

だが、もう目を開けることは無いだろう。

 

 

「ナタル・・・・・」

 

 

「ははは!!お前も今すぐソイツのとこに送ってやるよ!!」

 

 

「・・・・・初めてだ」

 

 

済まないな、『銀の御旗』。

 

今から俺はお前を人殺しの道具として使う。

 

――マスターの御心のままに

 

・・・・・ありがとう。

 

 

「あ?」

 

 

「・・・・・怒り、憤怒ってのはこんなもんだったんだな。ああ、済まないなナタル。俺はお前を愛していたみたいだ」

 

 

「何をごちゃごちゃと・・・・・」

 

 

「"黙れ"」

 

 

俺はAICで奴の動きを停める。

 

 

「あ゛?・・・・・動かなねえ?!」

 

 

そりゃそうだろう。

 

何せこの『銀の御旗』は容量の殆どをAICに割いているから。

 

本来は『銀の福音』の盾役だったんだから。

 

リミッターを外せば倒壊したビルをも受け止める程の出力がある。

 

 

「――ラーフフィスト」

 

 

背後のサブアーム一対が展開し、計四本の腕をもった異形の『マルチフォームスーツ』。

 

俺はラーフフィストというマニピュレータ型ワイヤーアンカーを射出し、奴を拘束する。

 

 

「こんなもん引き千切ってやる!!」

 

 

「いや、そのまま死ね」

 

 

ワイヤーを巻き取り、奴に高速接近。

 

膝の装甲が展開し、パイルバンカーが顔を出す。

 

俺は膝蹴りの要領でパイルバンカーを奴に叩き込んだ。

 

グシャリ、と何かを潰すような音をハイパーセンサーが拾う。

 

奴の断末魔の言葉も。

 

 

「・・・・・地獄に落ちろ、か。済まんが俺のほうが閻魔より強いんでな。当分落ちることは無いだろうな」

 

 

俺はナタルの遺体を優しく抱え、スラスタを吹かす。

 

取り敢えず、帰ろう。

 

俺とナタルの家に。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「・・・・・ナタル、お前のことは連れて行く。俺の自分勝手を恨んでくれて構わない。何せ終わりのない旅路だからな・・・・・俺は、探してみるよ。幸せってやつを」

 

 

――行きましょう、マスター

 

 

「ああ、『銀の御旗』。行こうか」

 

 

 

 





『ネームレス/ニャルラトホテプ』
世界を彷徨う無貌の神。紺のサービスキャップはナタルに「良く似合ってるわ」と言われたものらしい。これまでに幾つもの世界を旅しており、悪口悪評といったものは大方言われ尽くした。元々はどんな性格だったのかは自身でもわからない。

『ナタル』
ネームレスの傭兵時代からの相棒。『銀の福音』のテストパイロットだった。『とあるテロ組織』の襲撃によって命を落とす。ネームレスに銀色の十字架と名前を贈った。彼が彼女を忘れることは二度と無いだろう。いや、彼女は彼の中に居る。




《用語解説》

『天災』
マルチフォームスーツを作り上げた天才。その傍若無人さに『天災』と呼ばれている女性。八つ当たりで国を滅ぼし掛けたらしい。

『マルチフォームスーツ』
とある天才が宇宙に行くために作り上げた発明品。兵器として使われてしまっている。『天災』によってコアが五百弱しか製造されておらず、女性しか使用出来ない。意志が存在する。




この世界にはニャルラトホテプ/ナイアルラトホテップなる神は存在しない。
正真正銘、科学で成り立っている世界なのだから。
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