穢れなき虜囚   作:ヤン・デ・レェ

26 / 26
満足

夜襲の後の交渉により、道路構築の権利と共に子供達と件の少年兵をHCLI社側が引き取ることになった。子供達に関してはジタンの行動記録を呼んだキャスパーの手によって滞りなく日本に送還され、新しい人生を送れるようにと手配された。

 

しかし、件の少年兵ジョナサン・マルに関しては、満場一致で軟禁処置と相成り、ココの部隊に引渡された。ココは少年を輸送船内の船室ではなく、急遽空いたコンテナを改装して作った窓のない部屋に留め置く様に指示していた。トイレの際には入口の見張りに口頭で許可をとり、連れ立って用を足すことが決められ、入浴は定時に見張りの監視を受けながらで行われた。

 

しかし、その他には特別の暴力もなく、少年は日がな一日、天井を見て過ごしたり、持ち込みが許可されたラジオから流れて来る音楽や情報を聞き流したり、そうして時間が来れば三食と入浴を済ませて消灯時間に眠るという、なんとも健康的だが退屈な船上生活を送ったのだった。

 

ジョナサンは満足していた。これから殺されるにしても子供たちは平穏に暮らせるらしい。暴れる気も起きず、誰一人欠けることなく平和な国に言ったのだと思えば…少なくとも今は真相はさておき、満足した気分だった。

 

キャスパーと名乗った真っ白の男は余程、自分が撃った男のことを気にしているらしく、男が救い出した子供も、そうでない子供もまとめて日本での生活を保障すると言っていた。「今回は特別だし、基盤も金もあの人のものを使ってる。彼が勝手に僕に丸投げしてるだけだよ。」とは言っていたが、それにしたって気前が良かったとジョナサンは思った。

 

そんなある日、少年の下に一人の男が現れた。精悍な顔の男は、しかしストレチャーに乗せられた包帯の塊のような形をして少年の前に現れると、彼と共に入出した真っ白い女…コンテナに軟禁される直前に少し話した記憶のある…の介助を受けながら、上体を起こした。

 

「はじめまして、ジョナサン。俺のことは何か、聞いてるかな。」

 

男の声は酷く優しかった。精悍で鋭利な刃物のような外見からは想像できなかった声に、ジョナサンは戸惑った。

 

だが、聞かれているなら答えなくてはいけない。真っ白い女からのちょっぴり警戒するような視線を潜りつつ、ジョナサンは男と向き合った。

 

「アンタのことは知らないし聞いてない。でも…多分、僕が撃ってしまった人だ。」

 

変な聞き方になってしまったと、ジョナサンは眉を八の字に歪めた。何と言うのが正解なのか…こういう時は謝るべきなのか…彼には分らなかったのだ。

 

ジョナサンの様子を伺って、という訳ではないが気にした様子も無く男は言った。

 

「俺はジタン、ジタン・コッポラって言うんだ。それで、なんだ、確かに君に撃たれた人だよ。」

 

ジョナサンは「ジタン…」と零し、それからだんまりになった。

 

ジタンは少し戸惑いながらも自分から話しかけることにした。

 

「別に君をどうこうしようとか、そんなことは考えていないんだ。何か代償をくれとも、そんなことは思っちゃいない。ただ…なんていうか、あの時の俺はどんなだった?」

 

ジョナサンは変なことを聴くやつだと思った。自分のことなのに、撃たれた時のことを覚えていないなんて、と。

 

「変なの…あの時、アンタは避けなかった。避けようともしなかった。変だなっては思ったけど、足に酷い怪我もしてた。だから動けなくてそのまま黙って撃たれたんだ…そう、思ったくらいだよ。」

 

ジョナサンの所感を聴いて、ジタンはしばらくの間空を仰いだ。

 

目を瞑り、開いてからジタンは言った。

 

「…んー…と、多分、満足しちゃったんだろうなぁ。」

 

「まんぞく?」

 

ジョナサンは不思議に思った。自分に抵抗もせずに撃たれた理由が満足してたからだなんて、と。

 

「うん。満足。」

 

「どうして?」

 

ジタンは優しい顔をして言った。

 

「君、あの子知ってるだろう?あの、マルカって子供。あの子ね、俺が助けたんだよ。」

 

いきなり何を言い出すんだろう。戸惑いながら、でもジョナサンはお礼と謝罪を言うべきかと迷った。

 

「え?あぁ、うん…ありがとう…知らなくて撃ってしまった。ごめんなさい…。」

 

ペコリと、自分でも少し不思議な気持ちになりながら頭を下げると、男が笑った。

 

「いやいや、だから、お陰で俺は満足しちゃったんだよ。」

 

「だ、だから、その満足したって何なのさ。」

 

「うぅむ…そうとしか、言いようがないんだよ。でも、そうだなぁ、凄く好いことをしたから、じゃないか。」

 

「すごくいいこと?」

 

「うん…なんか、俺はあんまり良い人じゃないからさ、でも何かを変えたんだってそういう気がしたんだよ。あの子に、そういう気持ちにさせて貰ったんだよ。それで、君の方に走っていこうとしたあの子達を見て、それで何かほっとしたっていうか、もういいやってなったんだ。」

 

ジョナサンはジタンの言葉を黙って聞いた。

 

「…なんで、僕と話そうなんて…。」

 

「一緒に来ないか?俺達と。」

 

「え…?」

 

突然の誘いに、驚いたのはココも同じだった。

 

「え!?いきなり?ねぇ、ジタンッ!私は聞いてないよ!」

 

「俺も話してないぜ?今思いついたからな。」

 

「えぇ~…もう、どうしてそんなこと思ったの?あと、君はどうしたいの?」

 

「え、えぇっと?」

 

ジョナサンは混乱していた。死んだと思っていた男が生きていて、自分と会って話したいと言ってきて、来たらきたで満足したから撃たれただのと…。ジョナサンは混乱していた。

 

「…どうして、僕なの?」

 

「俺が撃たれようと思ったのが、それが君だったからだ。」

 

「まるで他人事みたい…。」

 

「そんなもんだよ、それで?どうする?他に行く当てがあるならそれでいいし、居心地が悪かったら出てってもいい。俺が金を出すし、なんなら学校とかに通うか?今からならキャスパーに土下座してあの子たちと同じ道を、歩めるかはともかく試すことが出来る。そういう機会を、俺が用意しよう。さぁ、どうする?」

 

「…どうして?」

 

「…わからない。でも、なんとなく。」

 

「なんとなくで決めて良いの?」

 

「良くない。でも、俺が好いならそれでも構わないんだ。俺の問題だからな。さ、頭を撃ったお詫びと言ったらなんだが、少し旅行に付き合うつもりで…どうだ?給金も弾むぜ?…俺じゃなくてレームが。」

 

「……じゃぁ…。」

 

 

 

 

この日、ココの私兵部隊に新しい顔が入った。ジタン肝入りで参加した年若い新入りに皆が興味津々であった。

 

新隊員の名をジョナサン・マル。

 

仲間達は彼をヨナと呼ぶ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

海蛇(作者:ムンムン)(原作:ヨルムンガンド)

転機は世界のあちこちに転がっている。▼海賊から一転して、PMCの傭兵となった少年は襲った船にて硝煙の香る世界へと足を踏み入れていく


総合評価:1953/評価:8.88/連載:5話/更新日時:2026年05月12日(火) 19:00 小説情報

進撃の赤い巨人(作者:ヤン・デ・レェ)(原作:進撃の巨人)

これは一人の絶対的カリスマ(ヒモ野郎)が愛と理想とを貫き通し、全てを力技で乗り越えつつ、人民の明るい未来へと進撃する物語である。尚、ヒロイン枠はヤンデレで埋め尽くされている模様。


総合評価:8547/評価:8.68/完結:41話/更新日時:2023年11月11日(土) 00:00 小説情報

その日暮らし(作者:夏の一日)(原作:グランブルーファンタジー)

後のサムライビューティーの弟ユウガオは、剣術の才能はあるが無気力で、何事にも本気になれない。ある日神社で黄昏ていた彼の目の前に、あの伝説のゴールドムーン150個または9000グラブルコインの刀、晩蝉が現れた。彼は世界の理を断ち切るその刀で何をなすのか。


総合評価:619/評価:8.23/連載:10話/更新日時:2026年06月24日(水) 21:48 小説情報

TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが(作者:つる植物)(オリジナル現代/戦記)

 TS転生した先は魔法少女が異形の魔物と戦う世界だった。▼ 孤児だった俺に魔法少女の適正があったので魔法少女になった。▼ しかもなんか魔物を適当に斬っていたらSクラスの1位になっちゃった。▼ 同期の2位は俺を殺しに掛かってくるし、他のSランク頭の可笑しい奴らばかり。▼ 一般人の俺は今日も魔物をたたっ斬るのであった。▼ 


総合評価:1425/評価:8.44/連載:13話/更新日時:2026年06月23日(火) 15:00 小説情報

ブレイザー・ヴィリー(作者:ヤン・デ・レェ)(原作:BLACK LAGOON)

ひょんなことから『BLACK LAGOON』の世界に転生した男が、危険な女性たちと出逢い関係性を深めながら、悪党としても栄達する話。▼*pixiv様にも同時投稿しております。▼*pixivでリクエストを頂いて、現在進行形で執筆している二次創作です。主人公の名前、背景、外見などについては、リクエスト主様にご提出いただいた設定に基づいております。


総合評価:8775/評価:8.48/完結:9話/更新日時:2026年06月18日(木) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>