聖王ちゃんと魔王ちゃんのワルツ   作:3×41

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逃亡中につき

 

 

 ケムリは憂鬱だった。

 彼がテクテクと歩く暗い森は今の彼のどんよりとした気分とシンクロしているかのように

 あるいはあざわらうかのように薄ぼんやりとした影をケムリの周囲に落としながら

 灰色の風にとりおりざわめいている

 そういった風景にもケムリは一向になぐさめられた気分にならなかった

 それはおそらく背後で朝から言い争っている二人の幼女によるものに違いない

 

「だからあれはワシのせいではないというておろうに。

 言うなれば事故。そう、まさに不慮の事故じゃな」

 この一人は金髪で赤目の幼女で、名前はアスティと呼んでいる。

「そういう不慮の不幸な出来事の積み重ねがこの結果に繋がったと言えるじゃろうし、

 その連鎖の中にわしの姿は一切ない」

 

「いいえ、あなたですわよアスティ。徹頭徹尾あなたのせいですわ」

 このもう一人はアッシュブロンドの長髪の灰色の目の少女でケムリはセスタと呼んでいる。

「それは見解の相違というものじゃのう」

 

 どういう見解の相違だ。言い合う二人の前でケムリはふとそう思ったが

 言い合いに参加することはしないでいる

 

「見解の相違なものですか。お兄ちゃんもそうは思いませんか?」

「知らん。二人で決着をつけてくれ。っていうか黙っておくわけにはいかないのか?」

「まずアスティ、あなたは面白半分に都市のマフィアに手を出していますわよね。

 宝物庫もほぼからにしています。

 そして都市の領主の娘も行方不明になっています。

 これらを以下に一つずつ詳細に話しても私は一向に構いませんわよ」

「それらは確かに事件と言える。その点に何ら反論はない。

 しかし重要なのはそのどの事件にもわしは全く関わっておらんということじゃ。カカカ」

「それらの事件の一つでもあなたが知ってて見過ごすわけがないじゃないですか。

 ねぇお兄ちゃんもそう思いますわよねぇ?」

 

 こいつらそんなことやってたのか。

 なんか逃げなきゃいけない空気感こそ感じ取ってた自分の空気読みを褒めてあげたい。

 

「ていうかそれならもし捕まったらぼくたち貼り付けにでもなるんじゃないか?

 ちょっと二人とも、次の街まで走るぞ」

「まぁワシは一切関わってはおらんが多分磔ではないんじゃないかのう」

 アスティが口を挟み、セスタが続ける

「ケムリお兄ちゃん。こんな幼女二人をつかまえて走るぞ、、って、、、

 それに向こうは馬を駆ってくるに決まっていますわ」

「そうじゃろうなぁ。どっから幼女二人抱えて馬に乗った

 騎士団の追撃から逃げ切れるという自意識が出てくるんじゃ?

 怖い。あの街に滞在しだしてからいま初めてワシ怖いわ」

「じゃぁどうするんだよ」

 ケムリがふたりの幼女に聞き返す。

「それはまぁ、ある程度の対策はしておりますわ」

「まぁその対策をやったのはワシじゃがの」

「そうなのか? あらかじめ馬を全部逃がしておいたとか?」

「ワタクシはその程度にしておくべきだと強く主張したんですよ」

「あれ、ワシなんか悪者にされそうになってない?」

「そんなことはないけどさ。まぁ追手が来ないっていうならチョウジョウだけどさ」

「ふむ、まぁ数ヶ月の間はそうなるじゃろうな」

「えぇ、数ヶ月ですわね。そのあとはわかりませんけれど」

二人の幼女が口々にいう

「うん? まぁそれくらいあれば次の街にもつくだろうさ。幸い顔は見られてないわけだし。九死に一生だよな」

 

「おい!! 馬を出せ!! 今回は裏の奴らも動いてる。そっちに捕まったら厄介なことになるぞ」

 ケムリたちが後にした街では自警団が城壁の外で馬の手綱を受け取りながら情報を確認していた。

「犯人たちにしてみれば同じことだけどな。聞いた話だが領主が三老頭との裏取引に応じたらしい」

「三老頭が揃ったら領主もほぼ拒否権がないようなものじゃないか。

 一体何をしたら裏社会の最長老たちをここまで怒らせることができるんだ?

 いや、俺は絶対知りたくないが」

「これは交渉材料としては十分だろうな。ちょっと点数を稼いでおくか」

「点数? 領主は犯人を生け捕りにしたものには領土を約束するといってるぞ?」

「領土!? じゃぁ貴族じゃないか!! 一体どうなってるんだ?」

「とにかく俺は急ぎたい。他の奴らも目の色が違う。俺たちも命の取り合いを心配すべきかもしれないぞ」

「ああ、とにかく何日かかっても休まず馬を走らせよう。犯人には気の毒だがな」

 

 その犯人たちは一安心して遅めの昼食をとっていた。

「このシチュー。我ながらなかなかの出来だな。タマネギの出汁とコーンの出汁がカルメンを踊っているぞ」

「まぁうまいはうまいがのうお前様はよく自分の料理を手放しに賞賛できるものじゃのう。

 そういうやつは伸びんぞ」

「お兄ちゃんの料理はいつもとっても美味しいですわよ。でももう食材がありませんわね」

「それはセスタ。おまえのせいじゃろう」

 アスティが恨みがましそうにセスタに指摘する。

「えぇ、そうですわね。ワタクシはあなたと違って自分のしたことを偽りはしませんわ」

「まぁまぁ孤児院の子供達も喜んでたろうし、いいんじゃないか」

「わしは怪しんでたと思うがのう、匿名で孤児院の前に食材ドカ置きって今日日怖いじゃろ」

「いいのですわ。それに結果的に追われる身となってはそうしておいたのが

 奏功し他とも言えますわ。ねぇお兄ちゃん? そう思いますでしょう?」

「量の問題はあるかもしれないけどね。

 まぁ次のウィンザリアって街に着くまで持ってよかったよ。

 ほら、あれがウィンザリアの城壁だ」

 

 ケムリに言われてアスティとセスタが森を抜けた街を一望する。

「おー最近の街にしては一際城壁が頑丈じゃな」

「ウィンザリアは兵戦領域に隣接してるからそれでじゃないか?

 しかし心配するに越したことはなかっただろうけど

 追手がかかることはなかったみたいだな。安心したよ」

「きっとお兄ちゃんが速やかに街を移動したからですわよ。フフフ」

 セスタが花がほころぶように可憐に笑って見せる。

「それでおまえ様よ。ウィンザリアではどうするつもりなのじゃ?」

 アスティが邪悪な笑みを隠しながら聞いてくる。

「そうだなぁ。とりあえず鍛冶屋の真似事でもして糊口をしのごうとはしてみようかな

 それとおまえは絶対に知らない人についていかないし関わり合いにならないこと。いいな」

「おまえ様のいうことには逆らえぬな。委細承知したぞ」

「じゃぁなんでそんな邪悪な笑みを浮かべてるんだ? 今回はマジでメシなしにするぞ

 あとセスタも孤児を見かけたからって無差別に持ち物をあげるのはナシにしてくれよ」

「あらお兄ちゃん。喜捨ってとても素敵な概念だとセスタは思いますわよ」

「その分ダイレクトに僕たちの胃袋に入る分がなくなるのでなければね」

「はぁい。お兄ちゃんがそういうのならワタクシわかりましたわ」

「目玉いっぱいに涙浮かべながら言わないでくれよ。

 それじゃぁウィンザリアの門をくぐろうか。ごめんくださーい」

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