グェインが試験工房から外に出ると。
その出口はすでに二十人ほどの全身鎧の騎士に囲まれていた。
騎士たちはすでに抜剣していて見るからに殺気だっている。
「へぇ、こんな爺さんと女子供しかいねぇところにずいぶん
大所帯だことだねぇ」
「問答無用! 至宝は返してもらう!!」
グェインが言い終わる前に、その中の騎士の一人がいきなり
グェインに斬りかかってくる。
グェインは鋭い笑みを浮かべて、切り掛かる刀剣に
素手で左手の甲をかざすと、そのまま剣の腹に左手を当てて力を込め
左側に剣閃を逃していなすことでこれを回避した。
次に試験工房にいたケムリに叫ぶ。
「おいケムリ! 剣を一本よこせ」
「え、剣をよこせって…」
「ほいっとぉ」
逡巡するケムリをよそに、アスティがケムリが鋳造した複数の刀剣の一つを
つかみ、グェインに向かってぶん投げる。
ケムリが鋳造した刀剣はビュンビュンと回転してグェインへと飛んでいき、
グェインがその回転する刀剣の柄を手に取った。
「へっ、ありがとよ小さい嬢ちゃん」
その時すでに別の騎士がグェインに斬りかかってきていた。
グェインはその剣をケムリの刀剣で受け流すと
その剣を思いっきり武装した騎士の頭部の甲冑に叩きつけた。
ガァン! と炸裂音と火花が散り、ケムリの刀剣は砕け、
頭部を叩きつけられた騎士は脳震盪を起こして気絶した。
グェインがさらに叫ぶ。
「他の剣も投げろ!」
「ほいほいっとぉ」
アスティがいたずらそうな笑みを浮かべて、
まず一本をグェインに再び投げつけ、
ケムリの20本の刀剣をつかみ、それを試験工房の外の
中空へと空高く放り投げた。
グェインは最初の刀剣を再び掴むと、
次に迫っていた騎士の甲冑の隙間から切り付け、
空から落ちてきた別の刀剣を左手に掴むと、
その剣で別の騎士の斬撃に太刀打ちし、
右手に持っていた刀剣を別の騎士の甲冑の隙間へと投げつけて突き刺し、
また中空から落下してきた別の刀剣を掴むとそれで目の前の騎士の
頭部を叩きつける。
その戦闘を試験工房の隅から見ていたへパじいがグェインに言う。
「なぜこの、息子の〝聖王の槍〝を使わん!? これならそんな甲冑は簡単に斬り裂ける!!」
「俺って槍は使わないのよねぇ」
言いながら騎士の斬撃にケムリの刀剣を打ち付ける。
剣と刀がぶつかって火花が散り、ケムリの刀剣の方はヘシ折られてしまう。
そしてまた中空から落ちてきた刀剣を掴んで戦闘を継続する。
「それにこいつら至宝って言ってるじゃねぇか。それで斬っちゃこっちも寝覚めがわりぃわ」
「…ふんっ」
ヘパ爺はそのまま黙り込む。
と、その時遠方から叫び声が聞こえてくる。
「そこまで! この騒ぎは何事か!? この件はこのスパンダンが預かる!!
ヘパイストル殿とその工房員は速やかに裁判院へ連行する!!
ヘパイストル殿、抵抗なさいませぬよう」
現れた別の騎士の集団は、先日ケムリの商店を訪れてきていた
スパンダンという騎士の一段だった。
「やっと話のわかりそうなやつが出てきたか」
グェインが歯を剥き出しにしたまま軽口を続けた。
◆ ◆ ◆
ヘパ爺とノーラとケムリはスパンダンという騎士の仲裁のもと、
聖王庁なる部署の裁判院へと連行されていた。
その裁判院の部屋には聖王庁の三人の裁判官が眼前の壇上に座り、
左右には先ほどの襲撃してきていた騎士たちと同様の甲冑を着た騎士たちが
ズラリと並んでいる。
「この度の一件。断じて度し難し。我らが失われし聖王庁の至宝。
〝聖王の槍〝を盗み出すとは、それも一度ならず二度までも」
「ふんっ」
顔を紅潮させながら怒気を隠すことなくそう告げる裁判官に
ヘパ爺は鼻を鳴らしていった。
「盗んでなどいません。この槍は、ワシの息子が鋳造したものです」
「なんとっ、なんと破廉恥なことをっ!!」
裁判官たちがさらに顔面を紅潮させ怒気をあらわにする。
「貴様。ヘパイストル。どうやら腕を斬られただけでは飽き足らないようだな」
「何度でも言います。裁判官どの。この槍はヘパイストル工房のドーンズが鋳造しました。
なんならまた殴ってやってもワシは構わんが?」
「きっ、貴様ぁぁぁぁ!!」
「皆様! お待ちになってください!!」
裁判院の入り口から幼女の声が響く。
一同が裁判院の入り口を見ると、
仮面を被ったアッシュブロンドの幼女が立っているのが分かった。
「いや、なにしてるんだセスタ?」
「お兄ちゃん。なんのことを言っているのかわかりませんわ」
仮面を被ったアッシュブロンドの謎の幼女は、
白い布に包まれた棒のようなものを持ち裁判官たちの前にスタスタと歩いて行くと
この白い布の覆いをとった。
「ワタクシは使者としてこの場に参上いたしましたわ。皆様にこれを、と」
謎の幼女が白い包みをとると、それは一本の槍だと分かった。
途端に裁判長たちが目を見開き。左右にズラリと控えていた騎士たちが
膝をついた。左側にいた裁判官の一人が震えた声でいう。
「こっ、これこそまさしく!! これこそ失われた至宝!!
聖王の槍〝光槍・ヴィゾープニル〝にございます!!」
「た、確かに、まさしく…」
「で、では、、こちらの槍は?」
一同がざわめく。謎の幼女が続けていう。
「こちらのヘパイストルおじいさまの槍も
この時代において稀有な業物といえますわ。
命名しましょう。〝聖王の槍・ツー〝ですわ!!」
「ま、まぁそれはそのアレだが…」
裁判官の一人が謎の幼女のネーミングをゴニョゴニョと受け止めた。
その後、騎士たちに拘束されそうになりながら、
この子は使者です。使者ですから。お使いですから。
とケムリの説得によって無事切り抜け。
三人と謎の幼女は無事にヘパイストル工房への帰路についた。