先ほど突如介入した仮面の謎の幼女は
三人が裁判院を出ると軽く挨拶をしてどこかへ歩き去っていってしまった。
「いったい何者だったんじゃろうなあの子供は…」
「さぁねぇ。まぁ無事にすんだし、お父さんの最高傑作も戻ってきたし、
それでよかったんじゃないかい」
「なんでみんなわからないんだ…」
ケムリとしてもわからないならわからないで都合が良かったので
それ以上は何も言わなかった。
ヘパイストル工房への帰路についた。
「この槍は、〝聖王の槍・ツー〝はワシの息子ドーンズが鋳造したもんでのう」
「うわぁ、そのネーミングでいいんですか。しかしあの騒動はなんだったんですか?」
ケムリの感想をよそにヘパ爺は話を続ける。
「うむ、まぁ聖遺物としての聖王の槍は長らく失われておったんじゃがのう。
ワシのせがれは聖王の槍をこの世に復元することを生涯の目標にしておった。
祖先代々の我が一族の悲願じゃ。
そしてあの時は運よく精霊銀を手に入れることができた。
せがれは決意してゲヘナアドル火山の火口でその精霊銀を鋳造し聖王の槍の復元を試みた。
結果、ワシはセガレは見事に聖王の槍を復元したと思っとる。
しかしゲヘナアドル火山の溶鉱炉の熱は人間に耐えられるものではなかった。
そのときの熱傷でセガレは命を落としたが、やつの人生に悔いはなかったはずじゃ」
ヘパ爺は歩きながらどこか遠くを見るような目で続けた。
「しかし聖王の槍が復元できたことで聖王庁に物議が起こった。
失われた聖王の槍を盗んだのが息子ではないかと疑いの目が差し向けられた。
当然ワシは断固抗議したが、その結果がこれよ。しかしワシもこの結果に悔いはない。
セガレは失われた聖王遺物を、〝聖王の槍・ツー〝をこの世に復元した。
老先短いこのワシにはそれで十分じゃ」
「ははぁ。そういうものですかねぇ」
「ほんとバカだよ。ジジイも、お父さんも」
三人がヘパイストル工房に戻ると、アスティとセスタ、そしてグェインが三人を出迎えた。
「話は委細聞いておるぞお前様よ、結果オーライというわけじゃったな」
「まぁ結果としてはそうだけどな。あくまで結果としてはな
しかしセスタ、よかったのか? あれって貴重なものなんじゃないのか?」
「ケムリお兄ちゃん。なんのことかよくわかりませんわ」
「ボクにもそのノリ続けるのかよ」
「しかしですわお兄ちゃん。この世にわたくしのものなどは一切ありませんわ。
必要なものが、必要なところに向かえばいいのだと。そうセスタは思うのですわ。
それにあの子はあるべき場所を自分で選びますから。
必要があればまたどこかにうつろうことになると思いますし…」
「それはそれで問題だと思うんだけど… どうせ疑われるのここなんじゃぁ…」
「なんかよくわからねぇが丸くおさまったんならよかったじゃねぇか、ところでさぁケムリ」
よこからグェインが口を挟む。
「あぁグェインさん。先ほどはありがとうございました。あなたがいなかったら」
「ん? あぁいいのいいの。困った時はお互い様よ」
「えぇ、もっとひどいことになってたと思います…」
「あん? まぁそれでさ。俺らの傭兵団の次の戦いなんだが、ちょっと厄介なことになっててな」
「とおっしゃいますと?」
「俺らが敵の部隊を壊滅させたってとこは話したよな? それで向こうのお偉いさんが奥の手を出してくるみたいでよ。兵争領域の悪魔が多分出てくる」
「ほぅ? 悪魔? それは気になるのう」
とアスティ。
「といっても人間なんだけどな、そのはずだ。でもこれがつえぇのなんのって、
そいつが先陣切ってる、三重鉄突陣っていうんだが、
それで破れなかった騎士団も傭兵団もいねぇのよ」
「それはまた難儀ですね」
「それでよ。ヘパイストルの爺さんにも聞きてぇんだが、ここでなんか
そこそこ強度のある刀剣は作れねぇかなと思ってよ。今日は先日の礼もあるが
実のところそれを聞きたくて来たんだよ」
「強度のある刀剣ですかぁ。いやぁ、ボクは全力で打ってあれですからねぇ」
「まぁそうだわな。それならそれでなんとかやりくりしてみるけどよ」
グェインとケムリの話を聞いていたヘパイストルが
グェインの方にズンズンと歩いてくる。
「やる。ほれ、お前にこれをやる」
「なっ、ジジイ、そりゃぁお父さんの〝聖王の槍・ツー〝じゃねぇか!?」
「うわぁ、ノーラさんもそのネーミングでいいんですか?」
言われたグェインが少し逡巡した様子で尋ねる。
「くれるってならありがてぇけどさ。
でもいいのかい? この槍、大事なものなんだろ?」
ヘパ爺が続ける。
「かまわん。これはワシの持論じゃが、鋳造された武器というのは
戦場で心技体のある武人に使われて初めて生を受ける。
戦いに使われず飾られているだけの武具など死んでいるも同然よ」
「うーん。それならそれでありがたいんだけどねぇ。
でも俺さぁ、槍は使わねぇんだよなぁ。ありがてぇんだがどうしたもんかねぇ。
お、そうだケムリ。この槍、剣に打ち直せるか?」
「え、ボクですか? ま、まぁ腕こそ確かななさですが、再鋳造なら問題はないはずです。
ヘパ爺さん、今までしなかった死にそうな顔をしないでください。
再鋳造ならたぶんボクでもまだできるでしょう?」
「うっ、うぅ… まぁそれは確かにそうじゃが…」
「あ、そうだヘパイストルの爺さん。あんたこっちの刀は打ち直せるかい?」
そう言ってグェインは一本の刀をヘパ爺に見せた。
それは以前ケムリから買った妖刀だった。
ヘパ爺はその刀を受け取ると黙ってしばしその刀を眺める。
「なんじゃ、この殺意の塊みたいな刀は…? 誰じゃ? これは誰が打った?」
「さぁねぇ。ケムリの商店で買ったんだが、どこかから紛れ込んでたんだってよ」
「じゃろうな。しかしこれは… 明らかに遊びで打たれとるものじゃが…
この技術は… 人のものとは思えん…」
「どうだい? 刃先の方はこれでいいんだ。ボロいところは戦ってりゃ削れるから
むしろギザギザしてた方が受け流す用には使いやすいんだよ。
だからみねの部分の強度だけ
普通の刀程度にしれくれりゃたぶん使えると思うのよね。どうだい?」
「あぁ、あぁ、やる。やらせてくれ。おいノーラ。炉の火をたいてくれ」
「わかったよジジイ。仕方ないねぇこの人は」
ヘパ爺はノーラを連れて急いで本工房へと向かっていった。
「それでケムリ、そっちの剣の方はいつできる?」
「そうですねぇ。再鋳造なら問題ないとは思うんですが、期間については腕によるので
少しかかるかもしれません」
「じゃぁちょいとばかし急いでくれや。数日したら向こうも動きがあるだろうからさ」
「仕方がないのう。お前様のことでは仕方がないからワシも少々なら手を貸してやるかのう」
「いやそれはマジでいらないよアスティ。どっからその気遣いの気持ちが出てきたんだ?」
「でしたらワタクシも因果律に干渉しないくらいの少々のお手伝いならできますわ!」
「なんでセスタまでそこは張り合うんだよ… なんだよ因果律って…」
「できた! できたぞい! ほれグェイン。とりあえずこれを持っていけ」
「いやはえぇなヘパイストルの爺さん」
「刀身の交互の強靭な部分以外は異様にボロく作っとるが
打ってみたら基礎は一部の隙もなく出来あがとったわ。
これはワシが命名しよう。〝ディフレクタス〝じゃ。金はいらん。持っていけ」
「あぁ、ありがとよ。それじゃケムリそっちも頼んだぜ」
そう言ってグェインはグリフォニス傭兵団の駐屯地へと戻っていった。
「んじゃボクも試験工房で再鋳造を始めようかな。ていうかこれもヘパ爺さんが
再鋳造すればいいのでは…」
「ワシは右手がない状態で息子の最高傑作に手を加えることはできん。極めて不本意じゃが」
「不本意っていう必要ありましたか?
まぁ依頼は依頼なので許してください。では早速始めますね」
「えっ、ワシの晩御飯は!?」
「あぁそうか。アスティは晩御飯食べたらボクの分も持ってきてくれるか?」
「ワタクシはケムリお兄ちゃんを手伝いますわ。因果律に干渉しない程度にですけれども」
「だから因果律ってなんだよ。ありがとうセスタ。じゃぁお願いするよ」
そんなこんなでケムリは聖王の槍・ツーを手に試験工房へと向かった。