ガァーン ゴォーン ガァーン
ヘパイストル工房の試験工房に刀剣を再鋳造するハンマー音が響く。
試験工房の鋳造炉の前に座りハンマーを打ち付けるケムリの横でセスタがその様子をジーと観察している。
「ケムリお兄ちゃん。この部分はもうちょっとこうしたほうがよろしいかと思いますわよ」
セスタが言って別のハンマーで一打して簡単な修正を行う。
キイイィィィィィィィィン
セスタが再鋳造中の刀剣を打ち付けると澄んだハンマー音が響き、試験工房の外から
「か、神様ぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
というヘパ爺の声が聞こえてくる。
ヘパ爺にはあらかじめ助っ人を呼ぶけど秘密主義者なので試験工房には決して入らないように頼んでおいた。
ヘパ爺は一眼だけ合わせてほしい、鋳造するハンマーの動きだけでも見せてほしいと言ったが、
助っ人は断固として他人に姿を見せたがらないので申し訳ないが
試験工房には立ち入らないようにケムリが頼み込んでいたのだった。
セスタに1打だけ修正をしてもらい、再びケムリが聖王の槍・ツーの再鋳造を続ける。
ガァーン ゴォーン ガァーン
「…」
アスティが横から一打修正する。
「なぁお前さま。ここはもうちょっと刀身を伸ばしておくかのぅ」
キイィィィィィィィィン
「か、神様ぁぁぁぁああああぁぁぁ!!」
再び試験工房の外からヘパ爺の叫び声が聞こえてくる。
ケムリが再び再鋳造を続ける。
ガァーン ゴォーン ガァーン
「…」
「お兄ちゃん、ここはもう少し刀身を鋭くしておくべきですわよ」
キイイィィィィィィン
「か、神様ああぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
なんだろう。別にいいのだが、ケムリは少し釈然としない気分だった。
外のヘパ爺の叫び声はスルーしつつ再鋳造を進める。
「せっかくじゃから刀身に冥魔のルーンでも掘っておくかのう」
アスティがノミを取り出して幅広い刀身に一文字ルーンを刻むとセスタが抗議した。
「いけませんわよアスティ。でしたら反対側に聖輝のルーンを掘って中和いたしますわ」
「なにおぅ。ではさらにルキフグスの冥魔のルーンを加えてやるとするかのう」
「でしたらワタクシはその横にワーグナスの聖輝のルーンを掘って中和するまでですわ」
「コラコラ二人ともお客さんの大事な品物なんだからあんまり落書きするんじゃないぞ」
「まぁこの程度装飾の範囲内じゃろうお前さまよ。どうせただの人間に冥魔のルーンは発動できんしのう」
「だからといってワタクシは放置するわけにはいきませんわ」
二人の幼女はそういいながら結局刀剣両方の側面に合計16ずつのおかしな文字を刻み込んでしまった。
まぁこの程度ならアスティの言うように少し趣味の悪い装飾ということで納得してもらえなくもないだろう。
二人の幼女の協力もあり一応の形は仕上がってきた。
兵装領域の戦闘はどうなっているだろうか?
グェインの話ぶりからするとおそらく戦闘は既に始まっているかもしれない。
ケムリは仕上げの再鋳造を急いだ。
◆ ◆ ◆
兵装領域では紫犀騎士団が三重に陣形をなす三重鉄波陣を敷き、敵陣の猛攻に備えていた。
騎士団の司令官が号令する。
「前線のアンデスト傭兵団がやられたぞ! 総員盾を構えろ!」
紫犀騎士団の騎士たちは巨大な盾を掲げ地面に突き刺す。
中列の騎士は目の前の前列の騎士越しに敵陣の突撃を見据えていた。
が、突然目の前の騎士の体が爆発したように砕け、
次に巨大な盾が自分に突進してくるのが確認でき、そしてそのまま視界が暗転した。
◆ ◆ ◆
グリフォニス傭兵団の貼った陣営に老年の騎士、サー・バリスタンの号令が響く、
「紫犀騎士団が壊滅的な打撃を受けた!
ええい、お前らは何を悠長に構えているのだ!
これに即応し速やかに敵陣の戦闘に加われ!
紫犀騎士団の立て直しを支援するのだ!」
グリフォニス傭兵団の部隊の一角の戦闘でグェインは馬に乗ってサー・バリスタンの怒号を聞いていた。
グェインは左手にヘパ爺の再鋳造した妖刀゛ディフレクタス゛を持ち、
背中にケムリが鋳造した粗雑な刀剣を複数背負ったまま馬に騎乗している。
隣の千人長の傭兵がグェインに言う。
「紫犀騎士団でも突破されたってよ。俺は斥候しながら見てたんだが、
紫犀騎士団の三重鉄波陣が一直線に破られるところなんて初めて見たぜ。
なぁ俺逃げていいかな?」
「あん? あぁ好きにすればいいだろ?
グリフォンはやる気だろうけどな」
「まぁそうだろうねぇ。はぁーついに兵争領域の悪魔に当たることになるとはねぇ。ここはいっちょ腹括るかね」
「グリフォニス傭兵団! 出撃するぞ! 紫犀騎士団の立て直しを支援する!」
グリフォニス傭兵団の陣営の戦闘でグリフィンが号令を発する。
その号令に合わせて傭兵団の全部隊が戦闘中の紫犀騎士団の居場所へ馬を走らせ始めた。
グリフォニス傭兵団の進軍に伴いグェインの馬も敵陣と激突した。
兵争領域の悪魔は見当たらない。
グリフィンとの事前の打ち合わせでは兵争領域の悪魔がでたらグェインが対処することになっている。
馬を走らせながら目の前の敵陣に突撃する。
目の前の騎乗した敵の騎士のないできた刀剣を左手のディフレクタスで受け止める。
ディフレクタスのギザギザの刀身が敵の騎士の刀剣を受け止め、
グェインはそのままディフレクタスをひねってこの斬撃の剣閃を左側に受け流し、
右手に背中から抜いたケムリの打った刀剣を持ち、
これで思いっきり敵の騎士の頭部を打ち付け、ケムリの刀剣は砕け敵の騎士は脳震盪を起こして落馬した。
そのまま左手から迫る二人の敵の騎士のそれぞれの斬撃をディフレクタスで瞬時に撃ち落とす。
と、次の瞬間目の前に巨大な盾が迫ってきていた。
◆ ◆ ◆
「よぉ〜し、だいたいできたかなぁ。あとはちょっと仕上げをするだけだ」
「しかしお前さま、結構でかくなったもんじゃのう。これは人間に扱えるのか?」
「うーん、まぁそれは大体おまえのせいではあるんだけどな。たぶんグェインさんの力なら扱えるんじゃないか?」
「それにある程度のサイズがないと強度の問題もありますものね。お兄ちゃん。グェインさんならきっと問題なく扱えますわ」
「だといいんだけどね」
「ちなみにこの両手剣の名前ですけれども。ワタクシは聖王の槍・スリーがいいと思うのですわ!」
「うーん。でも槍じゃないしなぁ」
「ではストームブリンガー!という名前はどうじゃ?」
「うーん。ちょっと長くないか?
そうだな。じゃぁ゛ストンガー゛でいいんじゃないか?」
「なんかダサいのう」
「そのネーミングはダサいですわ。ケムリお兄ちゃん」
「お前らには言われたくないけどな。それじゃぁグェインさんのところに急ごう」
◆ ◆ ◆
ケムリは二人の幼女を連れて兵争領域に向かった。傭兵団の駐屯地で馬を借りて、アスティとセスタも乗せて戦闘中の陣営へと馬を走らせた。
「見つけたぞ! あれじゃろうグェインは」
「苦戦しておられる様子ですわね」
アスティとセスタが戦闘中の陣営の中で戦っている最中のグェインを発見した。
相手はおそらく兵争領域の悪魔と言われる傭兵だと思われた。
兵争領域の悪魔と言われる傭兵は一際目立つ巨漢で、左手に巨大な盾を持ち、右手に大剣を持っている。
そして左手の巨大な盾には鎖が繋がれていて、兵争領域の悪魔がその巨大な盾を
強靭な膂力で近くの傭兵へと投げつけるとこの傭兵の身体を盾の衝撃で爆散させ、
それを手元に手繰り寄せると再び次にグェインへと投擲した。
グェインは左手のディフレクタスでこの巨大な盾の投擲を弾くが、その衝撃で馬から転げ落ちた。
次に兵争領域の悪魔が騎乗したまま突進し右手の大剣でグェインへの斬撃へと振りかぶる。
そのすんでのところで馬に乗ったグリフォンがグェインの手を掴みこの大剣の斬撃をかわし、再び馬に乗せる。戦闘は激戦だった。
「いや、この剣どうやって渡せばいいんだ。
あんなのに巻き込まれたら即死しちゃうよ。
お〜い。グェインさ〜ん」
ケムリが叫ぶとグェインは一瞬ケムリのほうを見るが、再び巨大な盾の投擲を馬を右手にかわさせながらディフレクタスでこれを打ち落とす。
その戦闘の間には他の敵の騎士もいる。
ケムリにはとても付け入る隙があるように思えなかった。
「仕方がないのうお前さま、その剣をこっちによこせ」
「うん? どうすんだアスティ? じゃぁこれ」
「ちゃんと受け取れよグェイン。よっほっとぉ」
アスティがその剣を右手に持つと、そのまま振りかぶってはるか遠方のグェインへと投げつけた。
その剣はビュンビュンと高速で回転しながらグェインのほうへ飛んでいく。
グェインとケムリ達の間にいた騎士達はその剣に気づかずその回転のままに鎧ごと切り裂かれ、
回転する剣は血飛沫を散らしながらさらにグェインへと飛翔し、グェインは右手でその剣の柄を掴んだ。
「ギリギリ間に合ったな。いいじゃねぇか。よく手に馴染む」
グェインはその剣を掴むと鋭い笑みを浮かべた。
その剣は大剣だった。それは剣というにはあまりにも巨大だった。大きく、分厚く、重く、
そして両面に趣味の悪い落書きが刻まれていた。
グェインの背丈はあろうかというその巨剣は、マダラ模様に陽光を散らしている。
次の瞬間再びグェインに巨大な盾が迫る、グェインはディフレクタスを納めると、
その巨剣ストンガーを両手に持ち、この巨大な盾の突進にその巨剣を打ちつけた。
ガァァァァァンと衝撃音が響き、巨大な盾がひび割れながら弾き飛ばされる。
次にグェインは左手にディフレクタスを持ち、
右手はその腕だけで巨剣ストンガーを持ち、兵争領域の悪魔へと突進した。
グェインの右手の巨剣ストンガーの斬撃を兵争領域の悪魔がその大剣で太刀打ちする。
そのままグェインの嵐のような巨剣の斬撃を巨大な盾と剣で払いのける。
しかし斬撃が繰り返されるたびに兵争領域の悪魔の盾と剣はミシミシと刃こぼれを起こす。
「その剣で竜でも殺すつもりか?」
グェインの目の前の兵争領域の悪魔がつぶやくように言う。
グェインは鋭い笑みを浮かべて
「はっ。その前に今はお前だろ」
「そのようだな。俺のこれらでは不足のようだ」
兵争領域の悪魔はそういうと馬を反対方向へ向けさせて敵陣の奥へと馬を走らせていった。
グリフォンが叫ぶ。
「グェインに続け!! 敵陣を壊滅させるぞ!!」
グリフォンの号令に呼応してグリフォニス傭兵団が敵陣に突撃する。
グェインが先陣をきって巨剣ストンガーをふるい。目の前の複数の敵の騎士達をひとなぎで爆散させながら突撃していった。
「いやぁなんとか間に合ったみたいんでよかったよ」
ケムリはその様子を後ろでみながら安堵のため息をもらした。
「よかったですわねケムリお兄ちゃん。ストンガーのネーミングはダサいですけれども」
「そうじゃのう。ネーミングはダサいがよかったのうお前さま」
「だからお前らには言われたくないんだよ。まぁまぁとりあえず戻ろう。ここは危ないからな。お前らも含めてだけど」
ケムリ達は大勢が決したグリフォニス傭兵団たちの戦闘を見ながら先にウィンザリアへの帰路へとついた。