聖王ちゃんと魔王ちゃんのワルツ   作:3×41

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孤児院にて

 早朝、ケムリはウィザーズヴェイルの郊外にあるユークィンの孤児院を訪れていた。

 孤児院は突貫工事で作られたらしく、木造で簡素な作りだった。

 個人の横には馬屋もあるし、工房も一応あるようだった。

 孤児院の裏手には畑がすでにあらかた整地されている。

 セスタは孤児院を訪れてから目を輝かせ、ケムリに何か喜捨はできないかと尋ねた。

 アスティは孤児院の子供達の資質に興味があるらしく、

 孤児院の中や馬屋や工房の孤児達を見て回っている。

 

「ケムリはいいな。転移結界を張って直接宿から移動していいのはかなり異例だぞ」

「へ、へぇ。そうなんだ」

「私の国からはここはかなり遠いということもあるかもしれないがな、

 それでもヴェイルの郊外に孤児院を構えてそこで寝泊まりできるというだけでも精一杯だ。

 なぁどんな魔法を使ったんだ?」

「い、いやぁ。ハハ、なんでなんだろうね。ボクにもそこら辺はよくわからないんだけど、

 もしかしたらセスタが魔誘いのベルを鳴らしたから特別扱いされてるのかもね」

 

 ケムリはそこら辺の特別扱いについてそれが特別だとしらなかったが、

 とりあえず適当にはぐらかすことにした。

 

「普通は魔法学校の寮で暮らして人脈を深めるものなのですがね」

 

 ユークィンの隣で直立していたスチュワート・ワットスンが言う。

 

「一般的な生徒であればな。ワットスン、私は誰だ?」

「はっ、アルトリア公国が王女、ユークィン・アルトリア陛下です」

「そのとおりだ。おまえは本当に状況判断が的確だな。」

「まだまだお若いのが難点ですが、おっと」

「一言多いのがおまえの難点だな、ワットスン」

 

「ただいま戻りました。ユークィン」

「あぁ、おかえりアーサー。早朝からご苦労だったな」

「ユークィン、この子は?」

「あぁ、ここの孤児の一人で、アーサーという。こいつは店の主人に気に入られていてな。

 買い物は主にアーサーの役割分担として任せているんだ」

「ふーん。そういうもんかな。でも、この子…」

 

 アーサーはケムリ達に丁寧に挨拶をしたが、

 アーサーの目のところには包帯が巻かれているのがケムリに確認できた。

 目が見えてないのにどうして自分たちの立ち位置がハッキリ認識できているのだろう。

 

「アーサーさん。おいたわしいですわ。因果律に干渉しない程度であればワタクシが…」

「やめておけセスタ。こいつは自分で目を潰しておる。

 少なくとももう数年が経つまではこうしておいたほうがこいつのためじゃろう。

 この目はあまりによく見える」

「アスティ何を。え、えぇ、そうですわね」

 

 井戸のそばに腰掛けているユークィンたちの位置からは

 孤児院の中庭でガウェインとランスロットと木刀で遊んでいるのが見えた。

 遊んでいるというか、剣の稽古だろうか。

 年恰好はアスティやセスタと同じくらいだが、

 ケムリにはすでに時々剣閃が見えなかった。

 アスティがそれを見つけると二人に駆け寄って稽古に加わった。

 

「どれ。少し稽古をつけてやるとするかのう。おいお前ら、二人で打ち込んでこい」

「え、いいのかよ。俺は遠慮しねぇぜ?」

「かまわんかまわん。若いものが遠慮をするのではない」

「でもあなたボク達と同じ歳なんじゃぁ…」 

「よっ、ほっ、やはり筋がいいのう。

 どれ、まだ本気ではないじゃろう。本気で打ち込んできてみろ」

 

 そう言われたガウェインとランスロットは少し顔を見合わせて

 真剣な顔つきになって二人でアスティに打ち込んだ。

 

 ガガガガガガガガガガ

 

「おうおうやはり筋がよいのう。まだまだ荒削りじゃが

 二人ともそれぞれの型はもうできておる」

 

 ガウェインとランスロットの嵐のような打ち込みを

 アスティは顔色ひとつ変えずに全て太刀打ちし打ち落とす。

 

「くっ、俺たちが二人がかりで一発も通らないなんて…」

「なんなんだこの人は、ボク達と同じ歳なのに…」

「まぁそういうな。相手が悪い。

 それにお前らはまだ若いからのう。まだまだ伸び代がある。

 そうじゃ。せっかくじゃからこれをおまえらにやろう」

 

 アスティがそう言って二人にそれぞれ作物の種のようなものを渡す。

 

「え、いいのか? でもなんだこれ?」

「何かの種ですか?」

「それは時空位相を歪めてお前達の時間位相を最適な位置に、

 まぁ一時的に18歳ぐらいになると思えばいいじゃろう、

 時駆けの種子、〝クロノ・トリガー〝じゃ!!」

「ふぅん」

「畑に植えたら何か実がなるかな」

 

 アスティが遠くで何かゴニョゴニョ言いながら

 ガウェインとランスロットに種子やら何か色々なものを渡していたが

 ケムリはあまり気にしなかった。

 

 ケムリの近くでユークィンと一緒に水汲みをしていたアーサーが

 ふと山の方を振り向いた。

 

「朝が来る」

 

 アーサーがそう言ったすぐ後に山の合間から太陽がのぼり、

 オージェストン魔法学校の屋上から

 ミスリルの大鐘楼の鳴る音がゴォーンゴォーンゴォーンと響いてくる。

 ケムリはセスタとアスティを連れ、少しユークィンを待ってから

 オージェストン魔法学校へと登校した。

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