「え~であるからしてぇ~この歴史上の一大事、
400年前の大悪帝エイゴリスの侵略においても
ヴェイルの存在意義が遺憾無く振るわれることになったわけだわ」
今回のオージェストン魔法学校の授業は歴史についての授業だった。
ウィザーズヴェイルとその秘術は基本的には外界に持ち出さないというのが掟であるらしかったが、
それは時と場合によるということらしい。
授業の講師はメイスター・ドゥワドゥが担当している。
この巨漢のメイスターは少々居心地が悪そうに授業を続けている。
「わっしらの所属するこのヴェイルの力は基本的に外に持ち出すことはあっちゃならんということになっちょる、
とはいえおまえたちが卒業した時は卒業生として外界に出ることもあるじゃろうその時は一卒業生として
世の中のために力を使うことについては問題ないから心配せんでええぞ、
ただヴェイルに生来備わっとる力やアーティファクトやメイスター達は話が別ということだわ。
しかしそれも時と場合による。
400年前のことじゃからの、知っとるもんは少ないが、この時の大悪帝エイゴリスの侵略においては
裏で魔族が糸を引いていたという説もあるくらいでの。
52連合諸国存亡の危機という一大事だったわけじゃ。この時力を振るわれたのが誰あろうサウザンド・メイスター様じゃ。
この大悪帝エイゴリスの軍勢を極位魔法によって退けたと史料にはある。これでええですかの? サウザンド・メイスター?」
メイスター・ドワドゥが居心地が悪そうにしていた理由は
黒板の横手でロッキングチェアに座って授業の様子を眺めているサウザンド・メイスターだった。
ヴェイルの歴史においてもサウザンド・メイスターは生徒たちには無関心で授業を教えるということも
授業を参観するということもなかったということらしい。
この歴史の授業はそのサウザンド・メイスターが観覧するということで全てのクラスが参加を許可されていた。
広い教室には四柱のクラスから十二星のクラスまで様々な魔法学校の生徒たちが集まっている。
「なぁ~にが極位魔法じゃ。ただの第四階梯魔法ではないか」
座って授業を受けるケムリとセスタの横でアスティが机に肩肘をつきながら悪態をつく。
メイスター・ドゥワドゥは授業を続けながらサウザンド・メイスターに史実を確認する。
「ん~ではせっかくですからのう。サウザンド・メイスター様そこらへんのことをお話いただいても構わんですか?」
「ほっほっほ。よろしい。この時に私が使った魔法は第四階梯魔法、ティターンズ・フォールという」
広い教室で生徒たちがざわめく。
「あ~静かにせんかおまえら。まぁわからんでもないがこれを普通のことと思ったり自信を喪失せんようにの。
まぁいうまでもないことじゃが、第四階梯の魔法が使えるのはサウザンド・メイスターをおいて他にはおらん。
魔法学校の生徒にしても第0階梯の通常魔法を使えるようになるだけでも大したもんだぞ。まずはそこを目指さにゃならん。
そしてその中でも才覚があるものだけがマナエンチャントを生成して第一階梯の魔法が使えるようになることがある。
それができればそれだけで一人前の魔術師だと誰もが認める。
魔法学校に入学するだけでも一握りの人間だけじゃが、その中で特に魔術の才覚があるもんだけが
マナエンチャントを生成できるようになるわけだの。
そして数人のアーク・メイスターやこちらにおわすサウザンド・メイスター様だけが複数のマナエンチャントを多重生成できる。
およそ常人には到達できん領域じゃもんで、あまり気にせんようにな。
ダブルマナエンチャントの生成ですらマナエンチャントの8倍難易度があると言われちょる。それ以上は人間の領域だとは思わんことだわ」
「ほっほっほ。このティターンズ・フォールは魔相空間に魔力を凝縮しその魔力球を主に天空に転移するものなのだ」
「い、いえサウザンド・メイスター様。極位魔法の話は資料として興味深い話っちゃそうですが
こいつらには歴史の話の方をお願いしますだ」
「ほっほ、そうだな。メイスター・ドワドゥ。その時の大戦の跡地には巨大なクレーターが今でも残っている。
これはその時の戦いのものだ。私はこの時それらによって歴史のさざ波を静めた。
いかがですかな? セスティア、、いえ、セスタ君」
突然サウザンド・メイスターに名指しされたセスタが少しキョトンとして私見を述べる。
「えぇ、当時はそれ以外に方法がなかったのでしょうし、大変素晴らしいことだと思いますわ」
「おぉ、おおぉぉぉ、なんたる得難き……」
ニコニコと笑って授業を眺めていたサウザンド・メイスターは今度は顔を歪めておいおいと泣き始めた。
「いかがされましたかサウザンド・メイスター様?
ま、まぁ授業を続けるぞおまえたち。
この時のヴェイルの存在意義はいかんなく示されたがこれは例外的なもので一般には」
ドワドゥが授業を続ける。
「なぁ、セスタが特別扱いだったのは本当だったのかもしれないな」
ケムリの隣に座って授業を受けているユークィンがヒソヒソとケムリに言う。
「う、うーんどうかなぁ。偶然指されたってだけだろうしボクには判断がつかないけどね」
「もしかしたらセスタはサウザンド・メイスターの弟子に指名でもされるんじゃないか?
歴史上今までなかったことらしいぞ」
「ま、まぁそこまでのことはないんじゃないかな」
ユークィンの座っている長椅子の向こうでは
今日はアーサーを連れてきているらしく
アーサーはアスティやセスタより少し小さい背格好だが
歴史に興味があるのかせっかくの授業だからなのか
メイスタードワドゥの発言を黙々とノートに書き留めている。
相変わらず目の周りには包帯を巻いていて、目が見えないのは確からしかったのだが
時折ノートを手で触って文字を確認できているらしかった。
スチュワート・ワットスンは相変わらず教室の外側で直立している。
「おし。では今日の授業はここまで。わしは魔法学校の外側のドワーフ工房に戻るんでの」
そう言ってドワドゥは授業を終了し。サウザンド・メイスターは座っていた椅子ごと空間が歪み消え去ってしまった。
魔法学校の生徒たちも席を立ち始め、ユークィンが伸びをした。
「今日の授業は終わりだな。じゃぁ孤児院に帰ろう。退屈しないかと思ったがアーサーは勉強熱心だな」
「えぇ、ユークィン。とても面白かったです」
「ボクたちも工房に戻ろうか。アスティは退屈そうだったけど見るからに暇そうにしたらドワドゥさんに悪いだろ」
「はっ、あんなもん単なるアレクシスの自慢ではないか。何をしに来たんじゃあいつは」
「いけませんわよアスティ。あくまでドワドゥさんの授業なのですわよ」
「そんなもんしらんわーい」
アスティはそっぽを向いて口笛をピューピュー吹いている。
と、席を立とうとしたユークィンの机に右手がドンと置かれた。
それは以前にセスタに話しかけていたハーデスの生徒だった。
男子生徒は後ろに付き添いの人間たちを従えていた。
「あーいやだいやだ。いやだねぇ。
どうしてこの五大辺境伯が一つ暗黒卿第四席の名家であるこのボクが
汚らしい孤児などと一緒に授業を受けなくちゃぁいけないんだ?
王族っていうのは何をしてもいいのか?」
おまえ達もそう思うだろう? リトルフィンガー? サー・クレイゲン?」
「ケキャキャ。坊ちゃんのおっしゃる通りで!」
「……」
ハーデスの生徒とその付き添っている騎士がユークィンに言う。
この騎士には見覚えがあった。確か兵装領域でグェイン達の戦術会議に同席していた騎士の一人だ。
もう一人のクレイゲンと呼ばれた付き添いの騎士は厳しい表情のまま黙っているままだった。
「おまえだってそこの騎士達の連れ添いを許されているではないか。それと同じことだ。規則に従っているぞ」
「なななっ、こやつ、坊ちゃんに意見するとは。ケキャキャ、このような無礼者は打ち首にしてしまいましょう坊ちゃん」
「それは困るな。それでは国家的な問題になる。いくら我がアルトリア家と暗黒卿が対立しているといえどもね」
「ちっ、口の減らない女だ。おいそこの孤児、なんだおまえ目が見えないのか?
このボクはおまえのような卑しい身分のものが同席していい人間じゃぁないんだぞ?」
ハーデスの生徒にそう言われたアーサーはしかし黙ったままだった。
「なんだ口も聞けないのか? それとも怒ったってわけかい?
ここは男らしく試しにこのボクに手をあげてみちゃぁどうだい?」
そう言ってハーデスの生徒はアーサーの前に立ち
アーサーの目の前に右頬を突き出して見せた。
「ほらここだ。目が見えないなら目の前で手を振ってみるだけでいいんだ。よく狙うんだぞ?」
「おぉ坊ちゃん。卑しい孤児相手になんという勇気ある振る舞い! このケフカ感服いたしました!」
アーサーはキョトンとしている。
めんどくさいことになってるなぁと思うケムリの横で
邪悪な笑みを浮かべたアスティが右手の親指をピンと弾いた。
ドォン!
すると右頬を突き出していたハーデスの生徒が炸裂音と共に
教室の端に吹っ飛ばされた。
ハーデスの生徒はフラフラと立ち上がってユークィンとアーサーを指差して言った。
「なっ、やりやがったな。見たか!? おまえ達!! このボクに手を出したぞ!!
打ち首だ! その女と孤児を打首にしろ!! サー・クレイゲン!!」
教室の生徒達がざわめく。
ユークィンがため息をついて言う。
「あなたも気の毒だな。あいつが勝手に吹っ飛んだだけに見えたぞ?」
「すまんな。俺も命令には逆らえん」
クレイゲンと呼ばれた騎士はそう言って剣の柄を握った。
「なんだか楽しいことをしているじゃないか。私も混ぜてもらってもいいかな?」
別方向からの声に全員が振り向いた。
「なんだおまえは!? このボクに意見する気か!?」
ハーデスの生徒が吠えた相手は黒いフードをとった。
背の高い女性で帯剣しているのがケムリにも確認できた。騎士だろうか?
「ヴェイルのアーク・メイスター。グラミィ・ヴァルキュリアスだ。
久しぶりにヴェイルに戻ってサウザンド・メイスターの様子がおかしいと言うから見にきてみれば……
やれやれ、これだからクラスごとに分けているんじゃぁなかったのかね」
「なっ、なにがアーク・メイスターだ! ボクはあの暗黒卿の関係者だぞ!!」
「それがなにか? ヴェイルは外界とは縁遠くてね」
「暗黒卿は借りを返すんだ! サー・クレイゲン!!」
「ほう? いっかいの騎士が? 私に?」
アーク・メイスターが鋭い笑みを浮かべて右手の剣に手を添えると
次の瞬間ゾゾゾゾゾゾゾと斬り裂き音が響き。
次にこの広い教室の壁や天井が切り裂かれ壁が崩れ天井が崩落した。
「まだやるかね?」
アーク・メイスターがクイッとアゴをひねる。
その様子を見ていたケムリは
サウザインド・メイスターやこのアーク・メイスターは
なんでこう歴史あるはずの建物を簡単に破壊してしまうんだろうと内心で思っていた。
「おっ、覚えておけよ! アルトリア家! 借りは返すぞ!!」
ハーデスの生徒はそう言って騎士達を連れて教室を後にした。
「めんどうな手続きを踏まずにすんだよ。感謝するぞ。グラミィ・ヴァルキュリアス」
「気にすることはないよ。私はちょっと遊びにつきあっただけだしな」
「アスティ、おまえやりやがったな?」
「しらんしらん。ワシはしらんわーい」
そうケムリに問われたアスティはピューピューと口笛を吹いて知らんぷりを決め込んだ。
ケムリはクラス混合の授業には参加しないでおこうと心に決めた。