聖王ちゃんと魔王ちゃんのワルツ   作:3×41

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オージェストン魔法学校の郊外にて

 夕暮れ時、ケムリとセスタとアスティは

 ユークィンとアーサー、そして孤児院で合流した

 ガウェインとランスロットに連れ添って

 ヴェイルの外の街に物資の買い出しに訪れていた。

 ユークィンはワットスンが保安上の理由といって

 街の外で馬と一緒に待っている。

 

 一通りの物資をアーサーについていきながら買い込み、

 ケムリとガウェインとランスロットが荷物を引き受けていた。

 商業区画を歩きながらアーサーがアスティにポツリと言った。

 

「あの、アスティさん。ああいうことは、その、あまりよくないですよ」

「ほう、あれを見切ったか。ステルスはかけておったんじゃがのう」

 

 アスティが悪びれもせずそう答えて、アーサーに右手をつき出した。 

 

「そうじゃ、ガウェインとランスロットだけじゃぁ不公平じゃからのう、

 おぬしにはこれでもやろうかのう」

 

 アスティはそう言って細い棒のようなものをアーサーに手渡す。

 

「異界の金剛樹から打ち出したサンジュレスティンじゃ、

 今はレイピアのような形じゃが

 お前の資質次第では霊魂を吸ってちょっとは伸びるじゃろう」

「あの、いえ、ありがとうございます」

「しかしアーサーよ。お前もケムリ同様腰抜けじゃのう。

 あの場面ならドカーンとやってやればよかったんじゃ」

「どっからボクが出てきたんだよアスティ。

 いやあれで正しかっただろ」

「そうですわよアーサーさん。

 勇気は蛮勇を振るうことだけにあるわけではありませんわ。

 侮辱を受け流す勇気を貴方はお示しになられたのです。

 貴方は決してケムリお兄ちゃんのように腰抜けなのではないのですわよ」

「ボクもそう思うよアーサー。

 いやセスタそこはボクの立場もかばって欲しかったけどね」

 

 もう一通り物資を買い込み、ケムリの手持ちがいっぱいになったところで

 アーサーがケムリ達とガウェインとランスロットに言う。

 

「……ガウェイン、ランスロット、

 それにみなさんは先にユークィンのところに戻ってください。

 もう少し言いつかっている買い物がありますので」

「いやいや、ボクだってもうちょっとなら荷物を持てるよ」

「はい。とてもありがたいのですが

 あまり持ってもらうと歩いていて危ないですし、それに」

 

 アーサーは街の外に顔をやって言った。

 

「……夜が来ます」

 

 街の外では太陽が山の合間にほとんど全て吸い込まれていっているところだった。

 ケムリたちは物資をアーサーから受け取って

 暗くなる前に先に街の外で待っているユークィン達のところに戻ることにした。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 薄暗くなってきた路地をぬって

 ケムリ達が街の外の馬屋に戻ると、

 ワットスンが血まみれになって床に倒れているのが見えた。

 ガウェインとランスロットが抜剣したまま倒れている

 ワットスンに駆け寄った。

 

「ワットスンさん! よかった、息はあるぞ!」

「王国でも屈指のこの人がやられるなんて…… それに、ユークィンは……」 

 

 ランスロットが言ってケムリが辺りを見回すと、

 遠くに街から走り去る馬に乗った一団があり、

 遠目にその一団の男の一人が女を抱えているのが見えた。

 

「いやさらわれてるじゃないか。どうしよう。

 街の自警団に…… いやそれじゃ見失う」

 

 ケムリは言いながら辺りを観察した。

 血はポタポタと街の中へと続き途中で途切れている。

 おそらく二手に別れたのだろう。

 遠くに走り去る一団を見ながらガウェインがうめくように言う。

 

「ユークィンが……」

「アーサーの方は今から追ってもどうしようもないじゃろう。やつの出方による。

 おまえたち、この前やった種があるじゃろう? あれは持っておるか?」

「え、なんだ急に? あの種なら」

「畑に植えましたけれども」

「な、なにおぉう? ではもう一つずつやろう。それを食え」

「でも、これは?」

「それは時空位相を歪めておまえたちの時間位相を最適な位相に、

 まぁ一時的に18歳かそこらになると思えばいいじゃろう。

 時駆けの種子、〝クロノ・トリガー〝じゃ!!」

 

 アスティは右手と左手に持った剣をそれぞれ突き出した。

 

「ほれ、あとこれもやろう。

 ガウェインには白陽の剣ガランティン、

 ランスロットには月影の剣クエンティンじゃ。

 霊冥のルーンを起動できるかはお前ら次第じゃ。

 あとその種と剣のことは他の人間に知られんようにするんじゃぞ」

 

 アスティがそう言いながら

 ガウェインとランスロットにそれぞれ種子と剣を渡す。

 剣は長く、子供のガウェインやランスロットの背丈ほどあった。

 二人はそれを受け取りながら顔を見合わせた。

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

 残りの買い出しをすませて

 路地を歩いていたアーサーはすんと息を吸うと

 すぐに小走りに逃げ始めた。

 血の匂いだった。周囲の商店の売り物のものではなく、人間のものだ。

 アーサーの後ろから人に紛れて歩きよっていた

 灰色のフードの男がそれに合わせて歩調を早めた。

 

 自警団の場所は街の反対側だった。

 アーサーは路地を歩く人々をかわしながら裏手に入る。

 しかし後ろからは灰色のフードの男が距離を詰めてきていた。

 

 アーサーはそばの階段を降りて地下道に逃げ込み、

 さらに走って商品倉庫の一室へと逃げ込んだ。

 部屋はそこで行き止まりになっていて、

 一本のロウソクが弱々しく部屋を照らしている。

 アーサーの後ろでは灰色のフードの男が部屋の入り口から入ってきたところだった。

 男は息切れすることもなくアーサーに歩を進める。

 

「わるいが命令には逆らえん」

 

 灰色のフードに身を包んだ男は

 部屋に追い込んだアーサーにそう言って

 剣を抜いた。ロウソクの光に照らされて

 ロングソードが鈍く反射する。

 

 アーサーは行き止まりの部屋で振り返り

 腰からアスティにもらっていた小さいレイピアを引き抜いた。

 男はフードに覆われたまま

 噛み締めるような薄いため息をついた。

 

「子供があがくな。苦痛が増すだけだ。すぐに終わる」

「……ナイトイズ カミング」

 

 アーサーは小さくつぶやくとその小さいレイピアを目の前で一振りし

 火の灯ったロウソクを切り落とし部屋を暗闇が覆った。

 

   

     ◆ ◆ ◆

 

 

 ケムリは暗い森の中を馬を走らせていた。

 ケムリの馬の先にはガウェインとランスロットが馬を駆っている。

 二人は後ろを走るケムリよりもさらに背が高く長身の男に姿が変わっていた。

 それぞれの馬の走る先には古城が見えマダラ模様のフードを被った男が

 後ろ手に縛られた女をその城壁の上に座らせているところだった。

 城壁の前には剣を引き抜いた男達が

 ケムリ達を待ち構えている。

 

 ガウェインとランスロットは馬から飛び降り

 それぞれの剣を目に見えない剣閃で振り、

 野党たちを剣ごと切り倒していく。

 間合いの野党を一瞬で切り倒したランスロットが

 遠くの城壁の上の男に叫んだ。

 

「下郎!! そのお方を誰だと思っている!?」

「混乱はハシゴだ! ミーを高みまでいざなってくれる!

 ケキャキャキャキャ!」

 

 マダラ模様のフードを被った男は

 古城の城壁の上で笑いながら叫ぶ。

 男は城壁の上に座らせたユークィンの頭の上で

 ロングソードを大きく振りかぶった。

 

「ケキャキャ! 死ね! 王族! ミーのハシゴだ!!」

 

 男が笑いながら思い切りロングソードを振り下ろす。

 

 しかし振り下ろされたロングソードの剣先は

 キィンと鋭い音を立てて切り取られ弾き飛んだ。

 城壁の遠くでランスロットがクェンティンを振りヒュウと息を吐く、

 そして次に白い炎が男の横手の城壁を粉々に吹き飛ばし蒸発させた。

 ガウェインが赤熱するガランティンを再び構えて叫んだ。

 

「次はあてる!!」

「あっ、あわわわわっ!

 そんなことをしたらミーが死んでしまうじゃないかっ!

 この人殺しっ! 人でなし! 悪魔!」

 

 男はひとしきり叫ぶと城壁からいなくなり。

 後ろ手に縛られたユークィンにガウェインとランスロットが走り寄った。

 

「ありがとう。助かったぞ。ところできみたちは誰なんだい?」

「俺は、」「ボクは、」

 

 ガウェインとランスロットは口々に言いながら

 ユークィンの前にひざまづいて頭を下げた。

 

「貴方様の騎士です。貴方のそばに仕え、必ずや貴方をお守りします」

「うん? まぁ、なんだ。どうもありがとう、でいいのかな?」

 

 ユークィンは見知らぬ男たちに少し頭を傾げながら礼を言った。

 

 城壁の上を見やりながらケムリは馬の手綱を引いた。

 

「ユークィンは無事みたいだな。ボク達は先に戻ろう。アーサーも気になるし」

「まぁ無事でなかったらあいつら堕天しておったじゃろうしな。

 しかしおまえ様よ。もしやなにかを取り返そうとはしておらんか?」

「ワタクシはケムリお兄ちゃんにもいいところがあると思いますわ!」

「ありがとうセスタ。でもそれは逆になんかアレだけどね。もう言っちゃってるっていうか」

 

 言いながらケムリは街の方に馬を走らせた。

 

 

 

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