聖王ちゃんと魔王ちゃんのワルツ   作:3×41

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オージェストン魔法学校の廊下にて

 ケムリはアスティとセスタを連れてオージェストン魔法学校の廊下を歩いていた。

 隣にはユークィンとその後ろにワットスンがついてきている。

 

「ワットスンさん。もう平気なんですか?」

「当然です。スチュワートですから」

「そ、そういうものなんですか。アーサーの方はどうですか?」

 

 ケムリの質問にユークィンが答えた。

 

「アーサーも少し精神的に消耗してはいるみたいだったよ。

 身体的には無事だが、どうも野党に襲われた時に反撃せざるをえなかったらしい。

 あの年頃の子供に人を斬るという行為は少々重いものだったようだ」

「まぁ大事なくてよかったんじゃないか?」

「今回のことでは王国内でも少々物議になっていてな。

 〝小鳥達〝を使うことでとりあえずの対策とすることにした。

 ケムリも不用意な発言は慎むんだぞ。どこで誰が聞いているかわからないからな」

「ボクも防諜対象になってるのかよ。単純な物盗りとは見てないんだね」

「うん? まぁそう考える理由は複数ある。

 確かに野党が人をさらうということは時々あることだが、

 それなら私をさらったあとアーサーを狙う説明がつかない。

 そして複数人で襲ってきたとはいえワットスンが斬られるということも通常考えられない。

 あれでもワットスンは王国のスチュワートだ。

 その中でも特に剣に秀でていることが私の執事になっていることの理由のひとつでもある。

 そのワットスンがいくら不意打ちで複数人に襲い掛かられたとはいっても、

 それでそこらの野党に斬り負けるということは

 よほどの運が悪くない限りは考えられないことだ。

 以上の理由から単純な人攫いではなく、

 私の人間関係をある程度把握した人間の意図によるものだと言えるだろうな。

 しかも相当な腕利きを動かせる力を持っている。

 ただだからといって単純にあのハーデス生が命令したとも断定できない。

 昨日の今日でそんなことをしてしまえば真っ先に疑われるのはやつ自身だ。

 アーサーがあの場で手を出していないということも

 複数の生徒が証言しているから、立場を主張するにしても根拠に欠ける。

 そういう意味ではやつは格好の隠れみのにはなるだろうけどね。

 あいつだってそこまで愚かではないだろう。 

 それにそもそも、そんな意図的な計画を

 命令できるほどの胆力があいつにあるとも思えないぞ」

 

 ケムリにもそれはある程度もっともなことに思われた。

 魔法学校の廊下を歩きながら少し思案してユークィンに尋ねる。

 

「じゃぁ別の誰かが? アルトリア王国の関係者とか?」

「どうかな。そこまで候補に入れると思い当たるふしがあまりに多くなってくるな。

 いずれにしてもだ。首謀者はそこそこの狂人だろうな。

 こんなことをして得をすると考える人間はそうそういないだろうからな」

「うーん。それだと決定的な証拠みたいなものはどうやらないみたいだね。

 ところでガウェインとランスロットは無事だったのかい?」

「うん? アーサーならわかるがどうしてあの子達が? 

 そういえば二人ともしばらく孤児院で寝込んでいたけど。

 いまは回復して元気にしているぞ」

「そうなんだ。いや、あの後えらく消耗してたみたいだから心配になってさ」

 

「でもさユークィン。今回のことだって問題にできるし、するべきなんじゃぁないのか?」

「大事にはできないさ。すでにこちらでは内々に小鳥達を放った。しかしできることはその程度だろう。

 王国でも屈指の使い手であるワットスンを切り伏せる腕利きに襲われてアーサーは無事だった。

 私は素性の知れない大勢の野党に拉致されたが、

 すんでのところでこれまた素性の知れない美麗な騎士たちが

 駆けつけて窮地を救ってくれた。

 これが事実として、いったい誰が信じるんだ?

 むしろ夢見がちな乙女の夢想かなにかだと受け取られるのがオチだ。 

 事実だが、証明はできない。これだって根拠にかけるのさ」

「う~ん。そういうもんかねぇ」

「そういうものなのだ。ケムリは知らないのか? この世の中は理不尽なことだらけなんだぞ」

「それは知ってるよユークィン。

 たぶんキミが想像できないくらいに知ってるんだと思うよ。

 ボクとしては不本意なことだけどさ。

 その点はキミの言う通りだと思うよ。この世は理不尽なことだらけだ」

 

「理不尽、か。世の中にはおかしなことが起こることがあるもんなんじゃのう」

「ワタクシはこの世の全ての不条理が正されることを願っていますわ」

「まぁおまえらには言われたくないんだけどね」

 

 ケムリ達が歩いていると廊下の向こうからハーデスのクラスの一団が歩いてくるところだった。

 その先頭を歩いているハーデス生の男子生徒がユークィンを見つけてたじろぐ。

 

「あ、アルトリア家、なっ、なんでここに……」

「なんで? 私がこの魔法学校の生徒だからだ」

「あの狼狽した感じは決定的な証拠にはならないのかなぁ」

「しかし私が無事でよかったじゃないか。なぁケムリ?

 もし私に何かあってそれに正当な根拠がなかった場合は容易に戦争にでもなっていたぞ」

「ふんっ、いい気になるんじゃないぞアルトリア家! 痛い目を見ることになるぞ!」

「それはお互い様だろう。今日は控えの騎士は一人しか連れていないようだが?」

「お、おまえのしったことではない! 行くぞケフカ!」

「ええ、行きましょう坊ちゃん。ケキャキャ。いい気になるなよ! 女と幼女達め!」

 

 ハーデス生の男子はそういうと付き添いの騎士や生徒達を連れて

 足早にその場を後にした。

 

「……もしかして今ボクって透明だったりするのかな?」

「まぁ存在感としてはそうじゃろうな。いつものことじゃろ」

「ワタクシはケムリお兄ちゃんにもいいところはきっとあると思いますわ!」

「そこはボクの立場もしっかりかばってほしいんだけどね。まぁいいんだけどさ」

 

 ケムリはライブラのクラスの授業だったので、

 アルテミスのクラスへと向かうユークィンとそこで別れて

 三人でライブラのクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

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