ケムリ達がたずねたウィンザリアの城壁の門では複数の門番が隊商の入関の手続きをしていたり
槍の手入れをしたりしている
そのなかで比較的年齢の若いきさくそうな門兵がケムリ達の相手をした
「ほいほーい。もしかして新顔さんかな? 何名様かな?」
「ええと、ボクと、この子と、この子、で3人です」
「ほいほい。3名っと。ちなみにこの子たちは? 妹さん? 顔似てないねー」
「ええ、まぁそんなところですね」
「ワシはこのお方のロリ奴隷じゃ」
「ワタクシはお兄ちゃんのラブドールですわ」
「ほいほいっと。ちょっときみ警察のほういこうか」
「ええかげんにせぇよおまえら。違うんです門兵さん。ボクがそんな金回りなさそうなのはこの身なりでわかるでしょう
ええとこれ一応、市民証です」
「だ、だよね〜。うん、うんうん。確かにこの子達の監督権も認められてるね。
こらこらお嬢さん達、いくらかわいくてもおじさんをからかっちゃいけないよ」
「事実なんじゃがなぁ」
「事実ですわよねぇ」
「最近の子は冗談きついなー。さぁさぁウィンザリアへようこそ。お3人さん。
ちょうどいま街中忙しいから仕事を探してるならなんかかんかすぐ見つかると思うよ」
「それは渡りに船ですね。兵争領域の戦争が佳境に入っているとかですか?」
「それもあるんだけどね〜。それ以上に物流の問題だね。
きみたちヨークザンに行こうとして引き返してきたんだろ?」
「ヨークザンに? え、ええ、ええ。実はそうなんです」
横からアスティが口を挟んだ。
「いやヨークザンからきたぞ。どうしたケムリ記憶を失ってしまったのか?」
「おまえは黙ってろ。あはは、どうも冗談ばかり言う子たちで。もしかしてヨークザンのほうで何かあったんですか?」
「あー直接は見てない感じかー。どうも山道が崩落したのかな、ヨークザンへの道が通れないらしいんだよ。
それで橋をかける必要があるから、数ヶ月はかかるかな。それでヨークザンとの物流が途絶えてるんだよね。
まだ崩落とかで危ないから、しばらく近づかないほうがいいだろうね」
「それは運がよかった。いや、運がわるかったですね。
しばらくウィンザリアで鍛冶屋の真似事でもして暮らそうかと思っていたのですが、
ウィンザリアの職人ギルドの閉鎖性ってどんな感じでしょうか?」
職人ギルドはどこにでもあるが場所によっては非常に閉ざされていて
徒弟以外は商売をすることができないということも少なくない。
若い門兵はアゴをさすって少し考えると
「そうねぇー。大体のところはやっぱ部外者お断りって感じだけど
ヘパ爺のとこならいいかもわからんね。
いやぁー、いい腕した爺さんだったんだけどねー
ウィンザリアの4大公家に逆らって業物を召し上げられた上にさらに逆らって腕切られちゃったんだよね」
「それはなんというか、お気の毒な」
「そうそう。それで弟子達もこぞってやめちゃってさ。
今は息子の忘形見の孫娘と二人でなんとか工房切り盛りしてるってところなのよ」
「ふむふむ。でもなんだか聞いたところだとずいぶん頑固そうな印象を受けますね」
「まぁ普段であればウィンザリアでも断トツの閉鎖的なギルドと言ってもよかっただろうけどね
なんせ人がいないんじゃ何も作れないからね」
「ははぁ。そういうことですか」
「うんうん、そうなのよ。ところでそこの金髪の女の子はなんでさっきから満面の笑みを浮かべてるんだい?」
「病気なんです。放っておいてあげてください」
ウィンザリアの門をくぐってしばらく歩いているとアスティがケムリにヒソヒソ話す
「聞いたかお前様。4大公家といえばウィンザリアを支配する4貴族家のひとつということじゃろう? どうする?」
「おまえボクの話聞いてたのか? どうもしないだろ。知らない人と関わるなってまず言ってたよな」
「えーワシつまらーん」
「しらねぇよ。いやマジでメシナシにするからな」
「それでお兄ちゃん? ワタクシたちはそのヘパ爺って呼ばれていたお爺さんの工房に向かっているんだよね?」
「セスタはものわかりがよくて助かるよ」
「もう潰れる工房だということなのでしたら。孤児院に寄付をおすすめすることもできそうですわね」
「うーん。そういうところがなければなぁ。おっ、あそこの工房かな」
「うっせぇジジイ! 私に指図するんじゃねぇ!!」
ケムリ達が工房をたずねると早速
工房から女の怒鳴り声が響いてきた。
「なんかもめとるのう」
「ん? なんじゃおまえらは」
工房からへんくつそうなお爺さんが顔を見せる。
「こんにちは。門兵の肩にこちらの工房の評判をうかがいましてよければご挨拶をと伺わせていただきました。
その方はヘパ爺とお呼びでしたけれどもお名前をおうかがいしても?」
「ふむ。ワシはヘパイストルという名ではあるが、ヘパ爺でええぞ
どうせこの腕では何もできん」
ヘパ爺が右腕をあげてみせると右手の肘からうえがなかった。
貴族に逆らって腕を切られたというのは本当だったようだ。
工房からもう一人の女性が顔を見せる。こちらが息子の忘形見の孫娘だろう。
ケムリは簡単に自己紹介をした。
「私はノーラっていうんだ。ケムリはこの工房に所属したくてきたんじゃないのかい?
珍しいねぇ。腕のない親方に、女の鍛治職人しかいない工房にわざわざ所属しようなんてさ」
「ふん、ワシはお前を鍛治職人と認めた覚えは一度もない」
「なにが不満なんだよ! そこらへんの弟子より私のほうがよほどいい剣を打ってきただろうが!」
「それはお前の目が曇っとるからそう思うんじゃ。この未熟者が。
利き腕を失ったワシが左腕一本で打った刀のほうがまだ切れるじゃろうて
しかしケムリといったか。
よほど腕がないかよほどのあほかのどちらかじゃな
まぁ人手がいるのは事実じゃからのう。本工房は決して使うことを許さんが
試験工房なら使ってもええぞ」
「ええ、それで結構です」
「それじゃぁワシはメシにする。おいノーラ。剣ばかりうっとらんで米でもたかんか」
「うるせぇ死に損ない! んじゃケムリさ。ジジイとメシ食ったらさっそく工房に火をたくからさ
ちょっと待っててくれよ」
「決して本工房のものに触るんじゃないぞ」
ヘパ爺がそう念をおすとノーラと工房の2階へと上がって行った。
ケムリ達はその間に工房を見回した。
「ノーラさん。美人でしたわね」
とセスタ。
「どうする?ケムリ?」
とアスティ。
「なにがどうするだよ。うるさいな。とりあえず日銭にはありつけそうでよかったよ」
そう言っている間にアスティがちょろちょろと工房の中を駆け回り
「これが本工房のハンマーか」
「おい触るなって言われてただろ。
親方と亡くなったノーラさんの親父さんだけが使うことを許されてたってやつだろ?
神聖なものなんだろうから勝手に触るんじゃない」
「大きさとしては普通じゃのう。おお、結構重い」
「おまえしにたいのか? ボクは触るなっていったぞ。次は実力行使にでるぞ」
「これでこの鉄塊を鍛えるというわけか。よっほっとぉ」
キイイィィィィィィィィィィィン
アスティがハンマーを振り下ろすと金属音が本工房に響き渡った。
たちまち2階からドタドタと音をたててヘパ爺が駆け足でおりてきた。
「だ、、誰じゃ、、、」
「この距離でわかっていただけると思いますけれどもボクじゃありませんよ」
「いまうったのは誰じゃああぁぁぁぁああああああ!!!!!」
「ワタクシでもありませんわ。おじいさま」
「もちろんワシでもないぞ」
ヘパ爺は目を血走らせながら膝を折り地面に座り込んだ。
「か、神様・・・」
あとからノーラが降りてくる。
「どうしたんだジジイ、急におりてきてさ、、、
あー、もしかして誰かあのハンマー使った?
まずいなー弟子だったら即破門になるやつなんだけど。ケムリくんじゃないよね?」
「とうぜんボクじゃないです」
「ワタクシでもありませんわ。おねぇさま」
「ワシでもないぞ」
「うーん。まぁまぁ、子供のいたずらだったってならきついお灸ですむんじゃない?
もしかしたらそこらへんのインゴットがぶつかっただけかもしれないしさ。なぁジジイ」
「あっ、、ありえるか。あの音がただの人に、まして子供にできるわけがない」
「うーん。いいたかないけどジジイももうろくしてきてるんじゃねぇか。
腕きられて熱にでもうなされてんだろ。ちょっと休んでろよ」
ノーラにうながされてヘパ爺と二人でまた2階に上がっていった。
ケムリはほっと胸をなでおろした。