ゴォーン ガァン ゴォーン
早朝。雀達の囁きを散らして
ヘパイストル工房の敷地の西方の位置する試験工房から
ハンマーで刀剣を叩く音が響く。
「ふー。一応これくらいの数があれば行商の形にはなるかな」
ケムリは先日から鋳造していた30本ほどの刀剣を風呂敷に包み
二人の幼女を連れて
ウィンザリアの市場区画へとおもむいた。
ウィンザリアは現在紛争が絶えない
兵戦領域と呼ばれる場所に隣接していて、
武器の需要には事欠くことがない。
市場では早朝から傭兵たちがそれぞれの店で刀剣を見定めている
ケムリも行商人として市場の片隅の空き地を見つくろうと
その片隅に風呂敷を広げて
鋳造した刀剣を並べてその横に座り客をまった。
正直なところヘパじいやノーラの言うように
ないよりはマシという程度の武器なのだが
だからといってまったく売れるアテがないというわけではなかった
傭兵にもいろんなタイプがいて
名刀を一本使って戦う人や
何本も武器を用意して壊れたそばから次の武器を使う傭兵もいる
この二通りの種類のみでいうと
ケムリの打った刀剣を買ってくれるのは後者だろう
「おっ、おめぇ新顔だな。まだ若いようだが、どこの工房よ」
「えぇ、ヘパイストル工房の新人です」
「ああ、そうなの。じゃ、俺はこれで〜」
「まいど〜、またごひいきに〜」
この感じがけっこう少なくない
ヘパイストルの刀鍛冶としての名声は確固たるもので
ウィンザリアであの爺さんを知らないものはいないほどだが
逆に腕を斬り落とされ、彼の優秀な弟子達は全員工房を離れた
ということもまた知れ渡っている
なのでヘパイストル工房の新人というだけで
その手腕は推して知るべしというものだったし
実際にその通りの腕だったのでケムリにはなんとも言い難かった。
しばらくすると次はフルプレートアーマーをつけた
騎士の一団があらわれた。
「市場を視察しにきてみれば、
おまえ許可をとって販売しているのだろうな?
許可証はあるのか?」
「あ、はい。こちらに」
「ふむ。なんと、ヘパイストル工房のものか、
ではこれはまさかヘパイストル殿が?」
「いえ、これはボクが、まだまだ新人ですが」
「ふむ、まぁそうだろうな。さすがに利き腕を失ったとしても
あのヘパイストル殿がこのような武具を売ろうはずもない。
試し斬りに一本もらおうか」
「えぇ、まいどありがとうございます。
はい。確かにお代を頂戴いたしました」
「ふむ」
貴族はケムリが打った刀剣の鞘を取り、左手で持ち上げて
一瞥すると、後ろに控えていた付き人の一人に目配せして
この刀を横向きに持たせた。
そしてその貴族が持っていた美しく装飾された両手剣を引き抜くと
それを頭上に持ち上げ、上段の構えからフッと短く息を吐いて
付き人が横向きに持ったケムリの刀剣に叩きつけた。
スラァ
ケムリが売った刀剣は太刀打ちがままなることもなく
真っ二つに切り落とされた。
貴族の後ろに控えていた付き人たちがおーと拍手をする。
「ふむ、私の腕もなまっていないようだな。
おい新顔の鍛冶屋よ。この程度の刀では
戦場で相手が名刀をつかえば勝負にすらならんぞ」
「スランダン様の名刀バンディミシオンほどの刀剣は戦場に皆無かと」
後ろの付き人が付け加えた。
「しかしヘパイストル殿が利き腕を失ったのは本当に惜しい。
そして亡き息子殿の渾身の最高傑作まで召し上げられるとは、
重ね重ね口惜しいことだ。
おまえもあのヘパイストル殿の弟子であれば精進するのだぞ」
「はい。ありがとうございます」
その貴族はもう一度付き人に目配せをした。
「ではついでだ。そのほかの剣も三本ほどもらおうか」
「えぇ、えぇ、毎度ありがとうございます。是非ごひいきに」
今日はシチューにバイソンの肉も追加できそうだな。
ケムリが受け取った紙幣をそばに置きまた座っていると。
しばらく複数の傭兵がちょっと見てはすぐ立ち去って行った後、
ガッシリとした体型の傭兵が現れた。
その傭兵はケムリが並べた刀剣をジーっとしばらく見ている。
「すげぇなこりゃ。これなら鉄の棒を使った方がまだマシなんじゃねぇか?」
「はい、恐れ入ります。これからも精進いたしますんでごひいきに〜」
「悪いがオレはまだしにたくないんでな。まぁしかしよくもまぁ
ここまで均一にボロ剣ばかりを打てたもんだな。
逆に才能あるかもしれねぇぜ」
「恐れ入ります」
傭兵は憎まれ口を叩きながらケムリが並べた刀剣をガチャガチャと
乱雑に見比べる。
「なにか目ぼしいものをお探しで?」
「ん? まぁそうだな。オレは戦い方が雑なんでね。
そこそこの剣でもすぐ壊しちまうんだよな」
どうやら複数の武器を用意して戦うタイプの傭兵であるようだった。
「ではよろしければ複数お持ちになられますか? お安くしておきますが」
「んーそうだな。まぁ投げりゃ使えるかもしれんがな。
オレはグェインってもんだが、5本買ったらいくらになる?」
「そうですね。ではお安くして20クレジットくらいではいかがでしょうか?」
「20? ハハハハハ。おまえもうける気あんのかよ。そうだなぁ。 ・・・うん?」
ガチャガチャとケムリの刀剣を見比べる傭兵の目がピタリととまった。
「なぁ鍛冶屋。これもお前が打ったのか?」
「え? えぇ、はい。そのはずですが」
「こりゃまたすげぇボロ剣だな」
「えぇ、はい、恐れ入ります。そちらもお持ちになられますか?
サービスで21クレジットでかまいませんよ」
ケムリの言葉がとどいているのか
グェいんは黙ってその刀をじっと見つめている。
「いや、こりゃほんとすげぇ駄作だな」
「恐れ入ります」
「これに限っちゃわざわざ駄作になるように打ってある。
鍛えてる部分とそうじゃない部分が均一に繰り返されてる。
まるで使い手を殺すためにあるような打ち方だ」
「あ、じゃぁそれはボクじゃないかもしれません。
あれー、ほかのお弟子さんの刀が紛れ込んだのかなぁー」
ケムリはそう言って背後に座っている二人の幼女の金髪の幼女のほうを見た。
ふたりとも営業スマイルのつもりか二パーっと笑っている。
「わかりました。ではそれも含めて18クレジットでかまいません。
いかがでしょうか?」
「おまえ商才のほうもないんだな。いや、これをもらおう。
そこらへんの鍛冶屋なら自分の刀は200クレジットで売ってるがこれは?」
「そうですねぇ、ボクが打ったものではないようですし、
正直1セントでも値段をつけたくはないんですが、お察しするところ
それなりのお値段で買っていただけそうなご様子ですね」
「あぁ、こんな奇妙な駄剣も珍しいんでな。じゃぁ200クレジットでいいか?」
「200!? えぇ、えぇ、お客様がそれでいいとおっしゃるのでしたら
異論はございません。
では残りの5本はどういたしましょう」
「そっちは18クレジットでいいんだっけか」
「えぇ、えぇ、ではあわせて218クレジットですね。またごひいきに〜」
「オレの名はグェインってんだ、ってこれはさっきも言ったか、
おまえの名前はなんてんだ?」
「ボクはケムリといいます。こちらの二人はアシスタントですかね」
「かわいい嬢ちゃんたちだな。オレは兵戦区で傭兵やってんだ。
今はグリフォニア傭兵団に所属してんのよ。もしよけりゃたずねてこいよ。
変な腕の悪い鍛冶屋がいるって団長のグリフィンにも伝えといてやるからよ」
「えぇ、えぇ、ご贔屓にしていただければ重畳でございますんで」
しかしその紹介で歓迎されるのだろうか。
グェインはそう言って傭兵の駐屯区画へと歩いて行った。
「・・・なんか妖刀扱いされるような駄剣が混ざってたそうだけど?」
「ワタクシじゃありませんわよ。お兄ちゃん」
とセスタ。ケムリはセスタのほうは疑っていなかった。
「アレを見抜くやつがいるとは思わんかったのう。
普通は下の中の駄刀くらいかと見立てて
いざ使ってみたら木刀並みのボロさで即死するんじゃがな」
「おまえは本当にカス野郎だな。
次こんないたずらしたらその日のメシはないぞ。
でもそれが売り上げのほとんどであるボクの気持ちはどうすればいいんだ」
その後3人は帰り道に果物やバイソン肉を買い込んで
ヘパイストル工房の食卓で久しぶりのまともな食事にありつくことができた。