聖王ちゃんと魔王ちゃんのワルツ   作:3×41

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オージェストン魔法学校にて

 数日後、ヘパ爺の口利きによって

 オージェストン魔法学校の入学試験を受けられることになった

 ケムリとアスティとセスタの三人は

 ノーラに言われたとおり、ウィンザリアのモリス通りの13番通りに向かっていた。

 

「しかし試験か、どんな試験なんだろうな」

「どんな試験でもお前は通らんじゃろう。当然魔法の能力も皆無じゃしな」

「ワタクシはお兄ちゃんにも然るべき職能が与えられると信じていますわ」

「確かに試験対策なんて一切してないしな。まぁ受けるだけ受けて損はないと思うんだけど。

 おまえら頼むから無茶なことはしないでくれよ」

 

 ケムリが二人に頼むと

 セスタは花がほころぶような可憐な笑顔でうなずいてみせ、

 アスティは邪悪な笑みを浮かべて親指を立ててみせた。

 こいつは本当にわかっているのだろうか?

 

 モリス通りの13番通りに来ると。一際大きな建物が魔術師協会の支部だとすぐにわかった。

 

「ごめんくださーい。ヘパイストルさんの紹介で入学試験を受けにきた

 ケムリ・グレイスケイルという保護者と幼女二人なんですがー」

 

 ケムリが魔術師協会に足を踏み入れると、すでに受験者達が複数集められていた。

 部屋の奥にたたずむ黒いフードをきた人たちはおそらく試験官だろう。

 

「よくぞ来たな。魔の秘法を欲する欲深きものよ…」

「いえ、別に3食くえればいいんですが…」

「そなたらが喉から手が出るほど欲する魔の秘法は誰の手にでも渡るものではない。

 砂漠から砂金をえるようなほんの一握り、、その稀有な才覚を持つ魔に魅入られし者にのみ

 魔術師協会の扉は開かれるのだ…」

「なんか話聞かない人だな。ちなみに試験というのは?」

「ククク、もう始まっている。気づかないのか?」

「え、そうなんですか?」

 

 ケムリは辺りを見回した。

 すると先ほどいた人数よりちょっと人がいなくなっているような気がする。

 ケムリの近くにいた金髪の青年が部屋に飾られた大きな絵画を見てつぶやいた。

 

「この絵画は、ディヒテーの煉獄絵だが、ふむ、どうやら本物の絵と違う部分がある。

 これが第一の関門へのヒントか」

 

 そういうとまた数瞬考えて急いで魔術師協会の部屋から別の場所に移動して行った。

 

「あ、これは無理なやつだな」

 

 ケムリが魔術師協会の天井を見上げてうめいた。

 

「めんどくさいのう。おい、そこのやつ」

「…」

「そこの黒フードのやつじゃ。お前しかおらんじゃろう」

「我に何を求める? 欲深きものよ…」

「たしか入学試験には魔誘いのベルを使ったものがあったじゃろう。あれを持ってこい」

「魔誘いのベル? ククク…」

 

 アスティにたずねられて。黒フードの試験官は静かに笑った。

 

「あるにはあるが、どうするつもりだ? 魔の秘法は…」

「いいからさっさと持ってこい」

「…」

「何を黙っておるんじゃ」

 

 黒フードの試験官が黙ってしまうと、隣の黒フードの試験官が

 

「オウルさん、おとなげないですよ。小さなお嬢さん、

 魔誘いのベルは確かに試験方法の一つとしてあるにはあるのだけれど

 あれを鳴らすには入学できた学校生が数年かけて魔力を高めてやっと鳴らせるものなのよ」

「かまわんから持ってこい」

「…いいだろう。魔の秘法を欲するあまりに欲深きものよ…」

 

 黙っていたほうの試験官がそういうともう一人の試験官が

 部屋の奥から小さなベルを持ってきた。

 

「気をつけてね。この魔誘いのベルはほんの少量だけどミスリルが魔導鋳造されている

 とても希少なアーティファクトなの。

 それじゃぁ1番背の高いあなたからどうぞ」

「え、ボクですか?」

 

 ケムリが小さなベルを受け取る。

 確認してみたが振って鳴るようなベルではないようだ。

 一応念じてみる。

 

「はい。まったく魔力ナシ。帰りたまえ」

「なんかキャラ変わってませんか?」

「恥じることはないわ。この試験方法はそもそも成立しないから使われなくなったんだもの。

 では次はそちらのアッシュブロンドのかわいらしいお嬢さん。どうぞ」

 

 次にセスタがベルを受け取った。

 セスタが右手にベルを持ち目をつぶって念じるようにすると

 

 リィィィィィィィィン

 

 とかすかにベルが鳴り響いた。

 

 

「…驚いたわね。この子、もう魔力の才能があるわよ」

「…信じがたいがそのようだ。合格だ。魔に魅入られし者よ…」

「やったじゃないかセスタ。おめでとう」

「ふー。力加減が難しかったですわ」

「では最後にそこの無礼な子供」

「ん? ワシか」

 

 黙っていた試験官にアスティが魔誘いのベルを渡され、

 アスティはベルを右手に持った。

 

「ホッ」

 

 とアスティが少し力を込めるようにすると、

 魔誘いのベルはサラサラと砂のように腐れ落ちた。

 

「オウルさん、これは…」

 

 物腰の柔らかそうな試験官がもう一人のこじらせた試験官に言う。

 

「ふむ… ……なんだこれは?」

「アーティファクトとはいえ寿命だったのでしょうか?」

「かもしれんな。なにせ年代物だからな…」

 

 二人の間でちょっとした物議をしていると。

 その隣にいた3メートルはありそうな巨漢の黒フードの試験官が笑った。

 

「ワーッハッハッハ。こりゃええわい。合格。合格じゃ。

 少なくとも一人合格者が出ればええじゃろう。

 残りの保護者も保護者権を行使して同伴入学すりゃぁええ、

 このオラが推薦する!」

「メイスター・ドワドゥ。いいんですか?」

「とうぜんじゃ。少なくとも一人合格者が出た時点で問題はなかろう。

 そうじゃろう? アークメイスター・オウルよ」

「…ふむ。まぁそうだが…」

「ワーッハッハッハ、そうじゃろうそうじゃろう。なぁそこの三人、

 オラはこの魔法学校でメイスター、まぁ先生みたいなもんだのう、をやっておる。

 ドワドゥというもんじゃ。オラがおまえらを案内しよう。こっちゃぁこい」

 

「いいんですか? 合格したのはとりあえずセスタだけみたいですが、まぁいいのであれば

 こちらはなにも問題ないんですけれども。

 ボクはケムリといいます。ちなみにこっちの失礼なやつはアスティとよんでいます」

「おうおう。わかった。ケムリに、セスタに、アスティじゃな。そんじゃぁこっちじゃ」

 

 ケムリ達は巨漢の試験官に案内されてさらに奥の部屋に入った。

「ちなみにさっきのこじらせた試験官はオウル・ハントっちゅうやつで、

 アークメイスターっちゅう、まぁ極星魔導士っちゅうやつだな、

 メイスターやエルダーメイスターからさらに

 突き抜けた才能があるやつではあるんだが、

 魔術師協会でああいうのはあいつだけじゃから心配せんこっちゃぞ」

「あ、はい。安心しました」

 

 メイスター・ドワドゥは言いながら部屋の片隅にある砂時計をヒョイと裏返すと

 そのまま3分待って

 

「ほい。ついたぞい。ヴェイルにようこそお3人さん」

 

 入ってきた扉を再びあけるとそこは別の場所で

 広いひらけた谷の底であるのがわかった。

 谷の底とはいえどこまでも平地が広がり、遠くには森が見え、

 また一方では城のようなものが遠くに見てとれた。

 

「えっ、ここはウィザーズ・ヴェイルですか? ごめんなさいケムリお兄ちゃん。

 ワタクシここを知っていましたわ」

「オージェストン魔法学校なんじゃなかったのか?」

  

 ケムリの質問にはドワドゥが答えた。

 

「おお、魔誘いのベルをしっとったことといいなかなか勉強しとるようだの。

 まぁもともとウィザーズ・ヴェイルじゃったんじゃが、12の魔法学校を創設するにあたって

 それじゃぁ形にならんじゃろうってことで今の名前に落ち着いたんだわ。歴史としてはな」

 

 そのまま3人はメイスター・ドワドゥに連れられて

 オージェストン魔法学校の正門をくぐった。

 魔法学校は城のような造りで、

 城の頂上には大きなベルがどこからでも見えるように鎮座されている。

 そしてドワドゥの案内で大きな部屋へと通された。

 その部屋の様子を見てアスティがつぶやく。

 

「なんかちょっと雰囲気が違っておるのう」

 

 その大きな部屋は天井がかなり広く。天井に球体が12個円状に浮かんでおり、

 その中心には四つの柱が浮かんでいる。

 ドワドゥがそれについて質問する。

 

「ワシが案内するのはここまでじゃ。城の外れのドワーフ工房に住んどるからすきなときに

 訪ねてくりゃええぞ。

 こっからはエルダーメイスター・マグナゴルが引き継ぐことになっちょる」

「のうドワドゥよ。あの四つの柱はなんじゃ?」

「おうおうよくぞ聞いてくんなさった。

 この星読みの部屋は新しく入った学生を16のクラスに選別するんじゃ。

 まず柱の周りに12の球体があるじゃろう? あれはそれぞれのクラスを象徴しちょる。

 アリエス、タウラス、ジェミニ、キャンサー、レオ、、」

「それは知っとる。あの柱は?」

「あぁ、あの柱か。あれはまぁ。特別枠みたいなもんだわ。

 魔法学校には大貴族や五大辺境伯の関係者も入学するようになったんでの、

 普通の学生と混ざって問題が起こるとまずいんだわな。

 あの柱はそれぞれゼウス、バハムート、アルテミス、ハーデスの神が象徴されちょる、 

 っちゅうことになっちょるんだわ」

「神!? 神か! カーッカカカ、こりゃぁいいのう」

 

 アスティが笑っていると別の場所から喜色に満ちた叫び声が聞こえる。

 

「やった! ハーデスの柱に選ばれたぞ! 冥府の魔王の使者だ!!」

「ケムリたちがそちらを向くと、黒髪をオールバックにした青年と目が合った」

「おっ、まずい。早速五大辺境伯の関係者だの。問題を起こすなよ」

 

 メイスター・ドワドゥが耳打ちする。

 その黒髪の青年はこちらを見つけるとツカツカと歩み寄ってくる。

「キミが魔誘いのベルを鳴らして入学したというセスタかい?」

「あ、セスタはこのアッシュブロンドの幼女の子です」

「あ、そう。なぁセスタ。ボクほどかはわからないけど才能をお持ちのようだね。

 ボクは五大辺境伯がひとつあの暗黒卿の第三席の名家の出なんだがね。

 どうだい? ハーデス生に推薦してやるからボクの子分にならないか? 友達は選んだほうがいいぞ」

「え? ワタクシですか? フフフ、考えておきますわ。ねぇケムリお兄ちゃん?」

 

 セスタが受け流すと、その青年は片眉を吊り上げてまたツカツカとどこかへ歩き去った。

 

「ケムリお兄ちゃんはどの星に選ばれますかしら。ワタクシたちはそのクラスに所属するということで

 かまいませんわよね」

「しかし一向にどの球体も反応しないんだけど」

「ではライブラでいいじゃろう。おいライブラ」

 

 アスティがそらに浮かぶ球体の一つを指差すと

 その球体がリーンリーンという音を発し始めた。

 

「あなたはライブラの星球に選ばれたようですね。

 私はエルダーメイスター・マグナゴルです。では儀式がありますのでこちらへ」

 

 ケムリ達の案内を引き継いだのはマグナゴルという女史だった。

 50歳前後だろうか、とても厳しそうな印象を受けるメイスターだった。

 ドワドゥの話だと、基本的にこの魔法学校の先生は

 メイスターとエルダーメイスターが担当しているようで、

 メイスターが教員だとすると、エルダーメイスターは複数人の教頭のようなものらしかった。

 

「のうケムリよ。ジェミニに選ばれた普通の男はコネを作っておけよ」

「うん? 普通の男っていうと普通じゃない男もいるのか?」

「ジェミニさん達は変わった性格ですものね」

 

 アスティが説明を続ける。

 

「ジェミニは性格が捻じ曲がっとるからのう。

 基本的に美男子か将来的に美中年になる男しか選ばん。

 しかしそのジェミニがどのどちらでもなさそうな男を選ぶということは、

 そいつには何かがあるということじゃ」

「ボクはジェミニの星球にも選ばれなかったけど」

「しかし儀式というのはなにがあるのかのう」

「なんでスルーするんだよ。いや別にいいけどさ」

「私語は慎みなさい。こちらへ」

 

 3人はエルダーメイスター・マグナゴルに連れられて、螺旋階段を登ると、

 魔法学校の屋上にある巨大な鐘の前に連れてこられた。

 

「ご存知でしょうが、これがオージェストン魔法学校の大鐘楼です。

 純粋なミスリル製で学校長のサウザンド・メイスターと複数のアーク・メイスターしか

 この大鐘楼を鳴らせるものはいません。

 毎朝サウザンド・メイスターがおんみずからこの大鐘楼を鳴らし、

 我々一同の心身を引き締めるのです。

 まずこの大鐘楼を全ての入学生は叩いてその重みを確かめるのです」

「はい。わかりました」

「返事がなっていませんね。ケムリ・グレイスケイル」

「ええ、はい。わかりました。エルダーメイスター・マグナゴル」

「よろしい。ではおやりなさい」

 

 先ほどから新しい入学生たちがミスリルの大鐘楼を触っては屋上を後にする

 中には力一杯に殴りつけるものもいるが、ミスリルの大鐘楼は1ミリも動かなかった。

 エルダーメイスター・マグナゴルが簡単に説明する。

 

「まずこの大鐘楼を鳴らすには膨大な魔力が必要です。

 基本的な第一階梯の魔法を使うにはマナエンチャントを一つ精製しますが、

 第二階梯の魔法を使うにはマナエンチャントを二つ、

 ダブルマナエンチャントを精製してこれを行います。

 マナエンチャントを一つ生成するだけでも卒業生資格として認められるものですが

 ダブルマナエンチャントはその8倍難易度です。

 そしてこの大鐘楼を鳴らすには

 そのさらに8倍難易度のトリプルマナズエンチャントを生成する必要があるのです」

「じゃぁマナエンチャントを一つ精製することもできないボクには到底無理ですね」

「当然です。それどころか入学生にも、卒業生にもこれは不可能です。

 先ほども言ったように。この鐘を鳴らせるのは

 アーク・メイスターとサウザンドメイスターだけです。

 これはその重みを入学生たるあなたがたが確かめる通過儀礼なのです」

 

 言われてケムリがミスリルの大鐘楼に触れると、ジットリと冷たい感触と

 途方もない重量でまったく動かないことが察せられた。

 

「ワシはこれを鳴らしてもええのかのう?」

 

 横からアスティが口を挟んだ。

 

「あなたが? オーッホッホッホッホ、ホーホホ。いえ、失礼。

 えぇ、えぇ、かまいませんとも。小さなお嬢さん。

 もし鳴らすことができたら私があなたを学園長に推薦してあげますとも。

 よろしい。では、次のもの、、」

 

 エルダーメイスター・マグナゴルが後ろの生徒のほうを向き通過儀礼を続ける。

 

 アスティはなにやら呪文のような文言を口にしだした。

 次にアスティの右手に紫の球体が8つ出現し、それが右手に宿ると

 紫の魔力場が右手に出現し、アスティはその右手をそのままミスリルの大鐘楼に叩きつけた。

 

「゛オクタゴラムマナズエンチャント゛…゛アーク・エネミィ!!!゛」

 

 ガァァァァアアアアアアアアアン!!

 

「いけませんわアスティ! ゛フル・オー・リザレクションズ゛!!!」

 

「…どうしましたか、騒々しいですよ」

 

 エルダーメイスター・マグナゴルが二人のほうを振り返ると

 ちっと舌打ちするアスティと二パーと笑うセスタと

 先ほどと変わりないミスリルの大鐘楼が鎮座していた。

 

 並んでいたほかの入学生達がヒソヒソと

 

「おい、今あの鐘コナゴナに吹き飛んでなかったか?」

「いや、そのままだしな。幻覚かな…」

「騒々しいですよ。私語は慎みなさい」

 

 少々ざわついていた入学生たちをエルダーメイスター・マグナゴルがピシャリと

 静かにする。

 

「よろしい。では次は講堂に向かいます。サウザンド・メイスターが直々に

 入学生に訓示を授けられます」 

「はい。わかりました。エルダーメイスター・マグナゴル」

 

 ケムリは頭が痛くなってきていた。


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