数日後、ケムリは宿舎として登録した
ヘパイストル工房の試験工房で
再びガァーン、ゴォーン、ガァーンと
刀剣を鋳造するハンマー音を響かせていた。
オージェストン魔法学校への通学は
ヘパイストル工房の寮の一角の部屋を使用することになった。
これには魔法学校の巨漢の指導教員のメイスター・ドワドゥが助けになってくれた。
魔法学校への入学試験である部屋に通されそこからウィザーズヴェイルへと転移した時に
ひっくり返していた砂時計は転移の砂時計というらしい。
「へぇ。それで魔法学校への入学が無事決まったってわけか。
めでてぇじゃねぇか。おめでとさん」
ハンマー音を響かせるケムリの横手で見ていたグェインが言う。
どうやら兵争領域の戦闘がひと段落したらしい。
「えぇ、ありがとうございます。
とはいえ合格したのはセスタと、あとまぁ一応アスティということで
ボクはついでに入学できたというくらいのものなんですけれども」
「まぁまぁいいんじゃねぇか? それよりよぉ。またここに戻ってきて問題はねぇのかよ?」
「えぇどうもそう見たいです。何でしょう魔法学校の秘術って言うんですかね。
ここの工房の一角の部屋に転移結界を張って
魔法学校の外縁の転移室に移動できるようにしてくれたんですよ」
転移結界を実際に張ってくれたのは魔法学校の巨漢の指導教員、メイスター・ドワドゥだった。
聞いた話ではサウザンドメイスターが直々にやるとかいってたそうだが
周囲が直訴を重ねドワドゥが取り計らうことになったらしい。
「へぇ〜。便利なもんだねぇ。俺らの傭兵団の戦闘でもそれ使ってくれねぇもんかね」
「いやぁどうでしょう。基本的に魔法学校の秘術は
外界には干渉しないという掟みたいなものがあるそうで」
「まぁそうだろうな。ま、いってみただけよ」
「ところで傭兵団の皆さんは無事だったんですか?」
「おう、まぁ何とかな。あの嬢ちゃんたちのおかげってのもでかいぜ今回は」
「ははぁ、といいますと?」
「最初の陣形はバリスタンのおっさんに言われた通り疾風陣をしいて突撃したんだけどよ」
「あの年長の騎士の方ですか、いいんですかそんな言い方をして」
「いいのいいの。誰が聞いてるってわけでもあるめぇし。そんでよ、
その後表向きは俺たちが当たり負けして、逃げ出したって形をとったんだわ」
「ははぁ。それはまた思い切りましたね」
「ハハハ、まぁそうだな。そんでそのまま後退して後ろの紫犀騎士団に敵陣を押し付けて、
そのまま小さい嬢ちゃんたちが言ってたみてぇに最右翼の山地を迂回して、
外縁から紫犀騎士団と戦ってた敵陣を背後から挟撃して追い散らしたって寸法よ。
いやぁ嬢ちゃんたちサマサマってわけよ」
「お役に立てたなら何よりですわ」
その隣でケムリが刀剣を鋳造する様子を眺めていたセスタが
花がほころぶような可憐な笑みを浮かべていう。
「ハハハ、ありがとよ。あぁそういやもう一人の小さい嬢ちゃんは今日はいないのか?
そっちへの礼もグリフィンにことづかってたんだけどよ」
「そういえばアスティは昼頃からいませんね」
ケムリは少し嫌な予感がした。
試験工房の窓を見るとすっかり日は落ち、
窓の外は暗くなっていて、試験工房の炉の明かりが
その窓から見える暗闇を薄くオレンジにふちどっている。
「ケムリくーん。晩飯の準備ができたから呼びにきたよ。
そこのケムリくんのお得意さん、グェインつったかね。あんたも食っていくかい?」
「おっ、いいのかい? こりゃぁありがたいねぇ。ノーラつったっけ」
ノーラが食事の準備ができたとケムリたちに告げにきた。
少しおかしい。晩飯どきにアスティがいないというのはなかなか考えにくい。
と、ケムリたちのいる試験工房の窓の外から黒い影が飛び込んできた。
「よっとと。お前様、ただいま帰ったぞ」
「いやどっから入ってきてるんだよアスティ。行儀が悪いぞ」
試験工房の窓から中に飛び込んできたのはアスティだった。
よく見るとアスティは白い布に包まれた細長い棒のようなものを持っているのがわかった。
ケムリが怪訝そうに尋ねる。
「アスティ。その白い包みは?」
「おおこれか。よくぞ聞いてくれたのう。散歩してたらそこらへんに落ちとったんじゃ」
アスティがいって床に置いた白い包みを取ると。
それは一本の槍だと分かった。
ノーラが震えた声でいう。
「こっ、これは… お父さんが作った… 〃聖王の槍〃… 」
「うん? 聖王の槍ではないじゃろう。それはセスタが…」
「いやちょっと待てアスティ。どっからこれ持ってきたんだよ」
「だからそこらへんに落ちとったんじゃ。何度も言わせるでないお前様よ」
「んなわけねぇだろ」
ケムリとアスティが言っていると、
試験工房の外に大勢の鎧の金属音がガチャガチャと聞こえてくる。
「ん? こんな深夜にお客さんかい? それにしちゃぁずいぶんお怒りのご様子で」
グェインが鋭く笑いながら言う。
異変を察知してへパジイも試験工房へ入ってきた。
「どうした? 何があった… こっ、これは息子の〃聖王の槍〃!?」
「あんたがヘパイストルっつう腕切られた爺さんか、どうやらお客さんが大勢押しかけてる
みたいだぜ。でも話が通じる相手かなぁ。これも何かの縁ってことでよ。
ちょっと俺が接客してみようかね」
グェインが軽口をいいながら試験工房の扉から外に出ていった。