【完結】龍教団物語   作:蒸気機関

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12話:ダンジョンへ行こう その1

 

「ダンジョン?」

「そうだ、つい最近このヴェネトリオ付近に確認されたらしい」

ダンジョン、魔導迷宮とも呼称されるそれは、魔力の吹き溜まりに生まれる空間の歪みである。

吹き溜まりが起きる原因は不明だが、その内部は建物のようであったり洞窟のようであったり、中には草原や森のようになっている場合もあるという。

そしてその中には魔物や動植物、森羅万象が異常生成され、さながら一つの世界を形成しているとさえ言われている。

一度入れば特殊な魔道具を使わない限り、最深部、最奥部に到達しないと出られず、探索の危険は大きい。

しかし、そこで得られるものは貴重なものも多いため、一攫千金を狙う冒険者が数多く挑むのである。

「で、それが我々に関係ありますかね?」

「大有りだとも。我が修道院が先んじて攻略すれば、他の教会の勢力に対して優位に立てるからな」

はぁ、院長はそういう事ばかり考える人だからな……。

「あと財宝も持って帰ってきておくれ」

これだもの。とはいえ、ワクワクしないと言えば嘘になる。ダンジョンにワクワクを求めるのは間違っているだろうか(いや間違っていない)。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

私は聖騎士ルーナと修道魔術師セヴェロ、それから砂漠の狐獣人の修道士マシニッサを呼び出した。

……マシニッサは呼んでいないのだが、こういった冒険事に興味があるそうだ。

「絶対、連れてってもらうッスからね!!」

置いていくとめんどくさそうなので連れて行くことになった。

「ダンジョンですか……面白そうですね!」

ルーナの言葉にセヴェロも無言で頷く。この二人もやる気はあるようだ。

「ダンジョンにはどのような疾病をも治療出来る薬が存在する場所もあると聞きます。もしそのようなものが手に入ったら、多くの人を救う事が出来るでしょう」

「確かにそうね……」

ルーナの意見には同意だ。救える命は多い方がいいに決まっている。

「では行きましょうか!」

私達はダンジョンへと潜る事にしたのだった。

ダンジョンの入口には、既に人だかりが出来ていた。どうやら私達が一番乗りではないらしい。

しかしながら、大半が野次馬の村人であり、冒険者らしき者はごく少数だった。

「おい、お前達!何が起こるかわからないから離れろ!とっとと仕事に戻れ!」

衛兵が叫ぶが、誰も言うことを聞く様子はない。

それもそうだろう、誰だってこんな珍しい出来事を見れる機会を逃すわけが無いのだ。

「失礼、衛兵殿」

「おや、修道会の方々ですか」

「はい、そうです。ですが今回は調査ですので、あまりお気になさらず」

「このダンジョンが現れて数日経ちますが、中に入った冒険者で帰ってきた者は未だ居ません。くれぐれもご注意を」

「ありがとうございます」

そう言って私達はダンジョンの中へと足を踏み入れた。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「これはまた凄いですね……!」

ルーナが感嘆の声を漏らす。無理もないだろう、私も同じ気持ちだ。

目の前に広がる光景は、まさに異様であった。

地面は土ではなく石になっており、壁はレンガのように規則正しく積まれている。

天井からはいくつものシャンデリアのような物がぶら下がっており、煌々と辺りを照らしていた。

さらに驚くべきことに、そこには植物が生えていたのだ。

「屋内とも屋外とも言えず、人工物とも自然物とも言えない、これがダンジョンの摩訶不思議ッスよ!」

マシニッサくんのテンションが爆上がりしている。

「一体どのように作られたのか、さながら人が探索する為だけに用意されたような構造ッス!ダンジョンの龍神がいたら真っ先にそっちを信仰するッス!」

この不信心者め。しかし、確かにこれは神の御業と言っても過言ではない。

そんな事を考えつつ、私たちは奥へと進むことにした。

しばらく歩くと開けた場所に辿り着いた。

広場の中心には巨大な噴水がある。

そしてその周りを取り囲むように様々な店が建っていた。武器屋や防具屋、道具屋、宿屋など様々だ。

「……まるで街のようですね」

「まさしくその通りッス!ここは……何なんスかね?」

「わからないのかよ」

思わず突っ込んでしまった。いや、本当にわからないのだが。

「買い物とか出来るのかな」

「それは無理じゃないスかね、ダンジョンに人間が生成されたって話は聞いたこと無いッス」

そうなのか……それはちょっと残念だ。

「あ、死体なら生成された記録が残ってるッスよ!外傷も無く、身元が一切不明なので大混乱を巻き起こしたって話ッス!」

それは本当にダンジョンで生成されたヤツなのか……何かの事件に巻き込まれたのではないのだろうか。まあ今更言ってもしょうがないけど。

セヴェロが武器屋の窓を覗いて何やら無言で騒いでいる。

一体何を見ているのだろうか? 気になって見に行くと、そこには立派な剣があった。その刀身はまるで鏡の如く磨き上げられており、刃こぼれ一つない。

柄の部分にも装飾が施されていて、美術品としても一級品に見える。

だが値段を見ると金貨1000枚というとんでもない額だった。バカが考えた値段みたいだ。

「貰っちゃう?」

コクコクと頷くセヴェロ。

「しかし、ダンジョンとは言え、窃盗は……」

「ダンジョンだから窃盗じゃないッスよ!第一店主もいないッス」

「うーん……まあ、確かに誰も所有していないものですけど……」

ルーナは若干抵抗があるようだが、多数決により神聖盗掠確定である。私たち本当に龍神の信徒か?

セヴェロが扉に手をかけると、マシニッサくんが止めに入った。

「罠に注意ッスよ、いつどこに仕掛けられているかわからないッス」

ダンジョンというものには、罠も生成されるらしい。単純な落とし穴から複雑なものまで多種多様だそうだ。

そして大抵の場合、油断したり気を抜いたり、財宝を目前にした時に引っ掛かってしまう。

「罠を解除するのに簡単な方法があるわ。罠を発動させること」

「駄目ですよ」

即却下されてしまった。やっぱりか。仕方がないので扉を調べる。

異端の審問にはこういう技術も必要なので、多少は心得ているのだ。何故必要なのかって?それ聞いちゃう?

ふむ、特に変わったところは見当たらない。ドアノブも鍵穴も怪しいところはないし、鍵もかかっていないようだ。

私は扉を、正面に立たないように気をつけながらゆっくりと開ける。そして中を覗き込んだ瞬間、私の顔面目掛けて矢が飛んできた。

「あぶなっ!」

私は間一髪で躱すことが出来た。危うく死ぬところだったぞ……!

「いや、刺さってるッスよ」

「うん」

……危うく矢が刺さるところであった!私は無傷だ!セヴェロ助けて!!死ぬ!!!

彼の早急な治療により何とか一命を取り留めた私。

「矢が細くて助かったッスね」

「ボウガンのボルトだったみたいです」

こんな調子で攻略出来るのか不安になってきちゃった……。

 


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