「大変です、街に痴女が現れたんですよ」
「え、そんな馬鹿な!」
町人の報せを受けた修道女が部屋に飛び込んできた。
厄介事ならこのアーデルヘイト異端審問官に任せてくれ!暇なのだわ。
街に馬を駆って向かうと、下着のような鎧を着た変態がいた。
14歳ぐらい、黒い長髪で、顔にガラスのついた謎の装飾品をつけている。
町人らに遠目からじろじろ見られても堂々としている。
まるで自分がこの世界の主役であるかのように振る舞う姿は、まさに異様であった。
「もし、そこのお嬢さん」
「はい?何でしょうか?」
彼女の異様な雰囲気、破廉恥な雰囲気に圧倒される。できれば関わり合いになりたくない!
「その服装は、公共の場に相応しくないですね……」
念の為持ってきていたローブを差し出す。
「……違う」
「え?」
「思ってたんと違う!ファンタジー世界なんだから!もっとこう、あるでしょ!?」
急に怒りだした、怖い。
「な、何を怒っているのですか……?」
「ごめんなさい、取り乱してしまって……ちょっと混乱してて……」
「はあ……」
「……私の格好どう思う?」
彼女は自分の服を指差す。下着のような鎧だ、胸と股間しか守っていない、なんか意味あるの?
「破廉恥、ですかね……」
「そう、それはわかっている……こういう装備の人っているの?」
「自分が知る限りでは初めてですね。聞いたことはないです」
「やっぱり……ファンタジー世界なのに……世界地図も地球とおんなじだし……」
なにやらブツブツと言っている。この口ぶり、ひょっとして狂気に頭が支配されているのではないか。
「あのー、医者の元へ連れていきましょうか?修道院に薬師がいまして……」
「私は正気よ!!」
「狂気に侵された人はみんなそう言うのです」
「私は、日本という国から転移してきたの!」
「はぁ、ニホンですか……聞いたこと……ある!」
異世界人の故郷の呼び名だ。聖女教徒が天上界と呼ぶ国である。
「とりあえず、立ち話もなんですので、修道院でお話を……馬乗ります?」
「馬!?乗りたい!」
急に目を年齢相応にキラキラさせる彼女。二人乗りで修道院へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
とりあえず、応接間に通した。どこから聞きつけたのかパメラが大慌てでやってきた。
「破廉恥ガールのお話聞かせてくれぇ!」
「破廉恥ガールって……私、キョーコと言います」
「私はアーデルヘイト。こっちの不遜なのはパメラ写字生」
軽く自己紹介を済ませると、キョーコは身の上話を始めた。
「あの、コスプレイヤーになりたくて、縫い物とか色々勉強してて、そしたら、クラスの不良にバレて、真冬の川に捨てられて、飛び込んだら、なんか女神様が出てきて、それで……」
よくわからない単語が多いが、とにかく辛い目に遭ったようだ。彼女はだんだんとしょぼくれていった。
「かわいそうにねぇ、辛かったねぇ、私と気が合いそうだねぇ」
パメラはなぜか同族意識を感じている様子である。
「女神様に、チート能力貰って、異世界に来たけど、この世界って、なんていうか、ゲームじゃないっていうか、現実っぽいというか、剣と魔法の世界だけど、そうじゃない部分もあって、それがまたリアルで、もう、どうしたらいいかわからないです……」
話を聞いてもらって安心したのか、借りてきた猫のように大人しくなっていた。
「外からの人なら、何か驚異的な力を貰っているんじゃないのかい?」
「えっと、写真が撮れます」
「……何が、何だって?」
「あの、紙をいただけますか?」
彼女の言うとおり、適当な白紙の羊皮紙を渡す。すると、彼女はそれを手にとって念じ始めた。
「"念写"!」
すると、じわじわと、私とパメラの精巧な絵が羊皮紙に浮かび上がってきた!すごい!
「これは……すごいわ。まるで見たものそのままを紙に描いたみたい……」
「写本が楽になりそうだねぇ」
二人して感嘆する。セヴェロに教えたら魔法の解析をしてくれるだろうか?
「実は、これを使ってコスプレイヤーを、異世界コスプレイヤーとなりたいんです!」
「こすぷれいやーがまず何なのかわからないよ」
「様々な衣装を着て、こうして念写して、色んな人に見てもらうんです」
「……やっぱり痴女じゃないの!」
「違いますってばぁ!」
どう違うというのか。そして金の臭いを嗅ぎ付けたのか院長が部屋に訪れた。扉の外で聞いていたのだろうか。
「話は聞かせてもらった!是非やろう!売れば金になると思わんかね!!」
「ご理解いただけましたか!」
結局キョーコはこの修道院で暮らす代わりに、コスプレ?写本の製造に乗り出したのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いいよいいよぉ、もっと腰を、こう!」
「こうですか?」
銀の仮面を被り、全身を包帯で巻いた上に例のビキニアーマー?とやらを身に着けたルーナ。
こう見るとめちゃくちゃスタイルがいいのがわかる。長身で乳も尻もデカいではないか!
なにやらセヴェロもウットリしている。やっぱ好きなんじゃないのか!?お姉さんに言うてごらん!?相談乗るよ!?
そして、キョーコがそれを見ながら、ポーズを指定して念写をしている。
「ニッチな感じもするけど、スタイルいいし、なかなかいい感じね!」
「ありがとうございます、少し、その、破廉恥な感じがしますが……」
独特な艶かしさを醸し出す絵が出来た。こういう感じで、どんどん念写して冊子にするのだという。
「コスROMってやつよ!」
また意味分かんない単語使ってる……。
羊皮紙だと原材料が高くなりすぎるため、東方世界、華国の商人より竹紙を買うことになる。
そして衣装、彼女はお針子たちに技術を教え、破廉恥衣装を量産した。
かくしてコスプレ写本は完成し、まずは貴族層へと売り出される。これは莫大な利益を産んだ。
彼女の言うところのチート能力?で写本を量産し、これがまた飛ぶように売れた。
……転生者が恐れられ、忌み嫌われる理由を我々は目の当たりにしたのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「殺すのは忍びない」
「無理に止めれば、他所へ行って同じことをするだろうねぇ」
「転生者の脅威がここまでとは……」
院長の部屋でパメラと三人、事の重大さに慄いている。
修道院の全面協力があったとはいえ、短期間でこの成果とは。
この凄まじいまでの影響力の塊を放置するのは危険だという点は意見が一致した。
「嗜好品である今はまだ良いが……この、本を量産するというのがな」
「……まあ、それはそうなんだけどねぇ」
「院長が深く考えずにやらせたせいですよ」
「だってこんなにいっぱい作れるとは思わなかったんだもん!」
この品質のものが実質紙代だけで大量に生産出来るとなると、恐ろしいことになる。
特に権力者は喉から手が出るほど欲しがるだろう。権力争いに巻き込まれかねないのだ。
まずプロパガンダや扇動に効果的だ、安価で大量に市場に流せば多くの人が手に取ることとなり、社会不安を引き起こすことも不可能ではない。
その他にもやろうと思えば色々と出来てしまうのである。聖女教徒が転生者を聖人と崇めるわけだ。
「大司教も王国も、黙ってはいないでしょうね」
「私はねぇ、彼女のことは好きだよ。だから、そういった政争の道具にされてしまうのは寂しいよねぇ」
「うーむ……」
「お三方!」
そこへルーナが扉をぶち破って入ってきた。なんてことするんだ。
「物騒なお話はおやめください。我々が愛を持って彼女を守り、そして説得することこそがクピドの教えに則る行動であるはずです」
扉をぶち破るのは教えてもらっていないが、確かに彼女の言う通り、愛を為すべきであろう。
「確かに、ルーナの言う通りだ。生産を絞って、信頼できる取引先だけと付き合うことにしよう」
……そもそも修道院なのでは、というツッコミは置いておくとして、出来るだけ社会を混乱させぬようにキョーコと付き合っていくことを決めた。
彼女も了承してくれたので、コスプレ写本は程々に出版する事となった。
まあ、あんな本が流通していたら大変風紀が乱れるだろうし、これでいいのだろう……。