【完結】龍教団物語   作:ターキィ

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25話:祈り

 

ルグヨンの伯爵の屋敷に戻る。

戻る頃には夜になっていたし、調合の準備はできていた。

「素晴らしい、これだけあれば、結構な回数失敗できる!」

伯爵はそう言うが、失敗は出来るだけしないで欲しい!

彼が使うのは錬金術と呼ばれる技術である。

錬金術というのは、様々な素材を組み合わせ薬品を作る技術であり、風邪薬からなんだか気分が良くなる依存性のある薬、透明化の薬や爆乳になっちまう薬まで様々なものが生成できる。

しかしながらかなりあやふやな技術であり、化学変化や、こじつけ、単なる偶然、不条理やその日の気分などを操る高いセンスと根気が要求される。

そのために様々なレシピが無数に存在している。大量の本やレシピを読むことで法則性を見つけ出すのが錬金術上達の鍵だ。

「素材はユニコーンの角、涙の結晶、青カビ、魔物の腎と肝、月の砂糖」

涙の結晶、これは生物の涙を集め、魔石粉末と混ぜることで生成する宝石だ。

月の砂糖は満月の夜に時々地表に降り注ぐ鉱石である。舐めると強烈な多幸感と中毒性があるので見かけたらすぐに衛兵の元へと届けよう、報奨金がもらえる。

青カビと魔物の腎と肝については、まあ説明せずともわかるだろう。

伯爵は大釜に素材の一部を入れると水を注いだ。

「錬金術の心得がある者は手伝って欲しい!」

セヴェロが手を挙げ、調薬に参加する。

「他の者たちは我々の成功を神龍クピドに祈っていてくれ……!」

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

宣言通り、本当に何度か失敗したようだが、翌朝には薬が完成した。徹夜をしたようだ。

「古来より癩は呪いや天罰によるものだと考えられ、薬による治療は試されてこなかった……だが、病である事と仕組みが解明されれば、研究が進み専門の治療薬が開発される!」

「ユニコーンの角なんて高価な素材を使う必要はなくなり、多くの人が治療を受けられるというわけですね!」

ルーナの言葉に頷く伯爵。そして彼は小さな瓶に針がついたようなものを取り出す。

「そして重要なのがこの器具。これは注射器、とある転移者の男から聞いた医療器具だ。これを使い、患者の血の通う管に直接薬を打ち込む!」

伯爵はそう言って、その注射器とやらの針をルーナに突き刺した。そして、薬を注入する。

「なにか変化はあるかね」

「いえ、まだ特には……」

「ではまた明日に様子を見よう」

ルーナは安静にすることになり、ベッドへと運ばれた。

「この忌まわしい病を克服する為の第一歩が、今踏み出されたんですよ!」

彼女は興奮気味であった。無理もない、今まで病気のせいで苦しんでいたのだから。

「もしこれで私の身体が治れば、癩は病である事が確定するわけです」

解呪の魔法も効かない凶悪な呪い、天罰、神々の気まぐれ、見た目が徐々に崩れていく癩はそういうふうに受け止められてきた。

だがこれは病であるというなら話は変わってくる。神は我々を気まぐれで呪ったり見放していたわけではなかったのだ。

「後は、目に見えない小さな生物の見つけ方、そしてそれの性質……おそらく気の遠くなるほどの時間がかかるでしょうね」

「そうね。わかる頃には私たち生きてないでしょ」

「ええ。ですがこれは希望です。私たちの意思を継ぐ後世の人々が、必ずや解明してくれるでしょう」

「そうだといいわね」

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

その夜は多くの者たちが眠れなかった。

ルーナのことが心配なのもあるが、一番は彼女の叫び声である。

「あまりにも哀れでな、お祈りをしようと思って」

院長が眠れぬ者たちを何人か集めてきていた。

「クピドよ、慈悲深き我らが神龍よ、どうかあなたの信徒ルーナに病と痛みに耐える勇気をお与えください」

全員で祈りを捧げる。この祈りはきっとクピドに届くはずだろう。

「ところでマリカは?」

「爆睡してるよ、よく眠れるよな」

「そう……」

クピドに届いてるといいなぁ!

そうやって廊下を占領していると、夜の見回りをしている衛兵がやってきた。

「ひぃっ!?何の儀式ですか!?」

彼は驚いて腰を抜かしてしまったようだ。

そりゃあ、こんな夜中に大勢の信者が祈りの言葉を呟いていたらね……。

結局、ルーナの苦悶は数日続いた。

眠りも浅く食欲も落ちて、相当体力を削られたようであった……。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

数日後、痛みが完全に消えたルーナの身体にセヴェロが治癒魔法をかける。

彼女の身体はみるみるのうちに元に戻っていく。まるで時間が巻き戻っていくかのようだ。

「……え!?めちゃくちゃ美人じゃん!」

ルーナの元の顔は初めて見たが、どえらい美人であった!スタイルもいい。

「ルーナちゃんすっごい綺麗……!」

「ありがとうございます、みなさんのおかげですよ」

彼女が微笑むと、周りの男たちが顔を赤くした。女たちも赤くした。

が、本人が一番恥ずかしがっているようで、銀の仮面をかぶってしまった。

「わ、私、慣れるまでこれでいいですぅ……」

「いつになったら慣れるのかなぁ、ルーナ?」

「ご、五年……いや五十年……」

「一生じゃん!?」

結局仮面はそのまま付け続けるようである。しかし包帯を外すことが出来た。

何年も日に当たっていない肌は不健康にも思えるほど真っ白で、美しかった。

「それで、還俗して元いた家に戻るの?」

「えっと、それは……」

私の質問に答えあぐねる彼女。私は少し意地悪な質問をしてしまったかもしれない。

「あのー……まだみなさんと一緒にいてもいいですか……?」

上目遣いに聞いてくる彼女に私たちは頷いた。

「もちろん。還俗するって言ったら命に替えてでも止めるつもりだったわ」

「え、えー!?」

驚く彼女をみんなが笑う。

もう数日滞在したが、もう体に異常は起きず、完治したようだ。

伯爵は大喜びし、ルーナとルグヨン伯爵は固い握手を交わした。

かくして、ルーナの体を蝕む病は克服された。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「誰かと一緒に食事ができるだなんて、思いもしませんでした!」

病が消えてからのルーナは距離感がちょっとおかしくなっていた。

ルグヨンの街を出発し、北へと向かう道中も会話をしていたが、距離が近いしボディタッチが多い。

今まで出来なかった分だけ存分にやってもらって構わないのではあるが……。

「どうしたんですかセヴェロ、こっちを向いてくださいよ!」

今はセヴェロに構っている。仮面をつけているとはいえ顔が近いし、手や体をしきりに触ろうとする。

彼の方は顔を真っ赤にしているが、それでも拒絶はしないあたり満更でもないのだろう。

これは老若男女誰が相手でもこうだが、セヴェロに対しては特に激しい様子だ。多分弟か何かだと思ってる。

さながら餓狼のように人肌に飢えているルーナと、純情な少年の組み合わせ。これはいいぞぉ。

「わかりみ、深い……」

キョーコもうんうん頷いている。彼女はこういう方面の造詣は異常に深いのであった。

 

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