【完結】龍教団物語   作:ターキィ

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27話:追跡

 

珍しくもなんともないが、マシニッサは冷静さを欠いていた。

アーデルヘイトやギヨームに一言も告げずにキョーコを追ったのは明確に失敗であった。

「待つッス!」

彼は狐獣人であるため、夜目が利き、嗅覚も優れていて、健脚でもある。

すぐに追いつけるのだが、アーデルヘイトはそうではない。

彼女は暫く走るとマシニッサを見逃してしまっていた。

「あぁ、あぁぁ、駄目だこりゃぁ~」

そしてとうとう、夜の闇の中で完全に見失ってしまったのである。

しかしマシニッサはそんな彼女を気にも留めず、そのまま走り続けた。

やがて彼の視界にぼんやりと灯りが見えてきた。

その光は、森の中にある館の中から漏れ出ていたものだった。

新築らしく真新しい壁と、しっかりとした造りの扉が見える。

「……こんな場所に、屋敷……?」

それは明らかに不自然な建物だった。

「これは……一体……」

次の瞬間、彼の頭に衝撃が走った。

何者かによって後ろから頭を殴られたのだ。

「うぐッ……!」

マシニッサはそのまま地面に倒れ伏す。

薄れゆく意識の中で彼が見たものは、フードを被った人物の姿だった。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「あんにゃろ、もっと冷静に……いや、私こそ冷静になるべきだったか……」

マシニッサを追っていたはずが、彼の足の速さにはついていけなかった。

夜の森……暗いし、視界悪いし、地面は凸凹だし、木の根とか岩とかあるし、躓くし、転ぶし、もう散々である。

なんとかマシニッサを見失わないように必死に追いかけたが、結局見失ってしまった。

「……困っちゃったなぁ、もう」

引き返すわけにもいかない。意を決して歩みを進める。

「灯火よ、導け」

私は明かりを灯す呪文を唱えた。光の玉が私に追従してくれる。

これなら足元も見やすいだろう。

「……ん?あれって……館?」

視線の先に見えてきたのはとても綺麗で立派なお屋敷だ。こんなところに人が住んでいたのだろうか。

窓から明かりが漏れているので、誰かがいるのは間違いないだろう。見張りは見当たらなかった。

もしかしたらマシニッサがいるかもしれないと思い、私はその館へと近づいた。

「光の剣よ、我が身を守れ」

再び呪文を唱える。私の周りに光の剣が二つ現れた。私はその一つを手に取り、扉の前に立つ。

そしてゆっくりとドアノブに手をかけ、扉を開けた。

鍵はかかっていないようだ。不用心だなと思いながら、中へ入る。

内装は豪華……おそらく豪華であった。異国の物と思わしき奇妙な物品が並んでいる。

奥の部屋から少女の啜り泣く声が聞こえる、おそらくはキョーコの声であろう。

私は声のする方へ向かった。そして部屋の入り口に立ち、中を覗き込んだ。

両手両足があらぬ方向へと曲がり、息も絶え絶えなマシニッサが倒れ、それを庇うようにキョーコが抱きかかえている。

「もういいでしょ、同じ人間でしょ、どうしてこんなことをするの」

「人間?獣人だろ?」

キョーコの言葉に若い男の声が答えた。黒地に黄色に輝く丸い装飾が縦に並んだ服を着ていた。

「俺たちは神に選ばれてここに来たんだ。なんでそんな獣を庇う」

「そんなの知らないわよ!あなたたち、なんなの!?なんでこんなひどいことできるのよ!」

「酷いことだって?害獣を駆除するのが酷いことか?なあ、機嫌直せよ、酷い生活だったんだろ、俺とくれば現代のニホンと同じ生活ができるよ」

男はそう言って笑う。口ぶりから、この男も転生者なのだろう。

男の甘言に、キョーコは押し黙った。彼女はきっと葛藤しているのだろう。

……彼女が元の世界の生活を選ぶのなら、仕方がないことだ。だが、マシニッサは返してもらわなくてはならない。

「お取込み中のところ悪いけどさ、ちょっといいかしら」

私が声をかけると、彼らは一斉にこちらを見た。

「あなたは……」

「少なくとも、そこのボロ雑巾は返してもらうわ」

「誰だお前は!おい、見張りはどうした!おまっ、なんでまだこの部屋にいる!」

「その獣人を連れてきたからですよ!」

どうやらマシニッサはまだ生きているらしい。良かった、これで彼を連れて帰れる。

「聖女教徒ね?うちの子においたしたことは見逃してあげるから、私たちを黙って帰してくれない?」

「……はぁ?」

男の表情はみるみる怒りの色を帯びていく。彼は懐に手を入れ何かを取り出した。

持ち手がクロスボウに似ている黒いそれが何なのかはわからないが、よくないものだとは想像がつく。

「け、ケンジュー……」

キョーコが呟いた。これがニホンの武器なのだろうか。

「なんだぁ、お前、NPCが俺の邪魔をするのか」

「やめて!ユーイチさん!その人は生きてる人間なのよ!?」

「そうプログラムされてるだけだろ。最近はAIも発達してるし」

男が指を動かした瞬間、私の目の前に光の剣が現れた。

そしてそれは矢らしきものを弾き飛ばすと消える。

「えっ!」

男は動揺する、私はその隙に男の武器を持つ手を斬り落とした。彼の手首から先は地面に落ちる。

そのまま距離を詰めると、男の腹を思いっきり蹴り上げた。

骨と内臓が砕ける感触があった。男はうめき声を上げながら床を転がる。

「あ、ああ、手が……」

手を失ったことでパニックになっているのだろう。

「く、口ぶりの割にはって感じね……」

先程までの雰囲気はまるでなくなってしまった、妙な感じだ。

「貴様!聖人さまに危害を加えるとは!」

見張りと呼ばれた男とキョーコを連れ去った女がこちらに詰め寄ってきた。手にはナイフを持っている。

女の動きはとても素人とは思えないほどに洗練されているように感じた。

手に持った光の剣で受け止めると、女は後ろに下がった。

別の方向から見張りの男が斧で襲いかかってくる。

なんとか躱す、二対一は分が悪い。

「くっ……」

おそらくキョーコは戦えない、あの男もいつ立ち上がるかはわからない。

ギヨームたちがここに辿り着けるかどうかも不明だ。八方塞がりってやつだ。

「クピドよ、私に敵を打ち滅ぼす勇気を与えたまえ!」

私は半ばヤケクソで祈りの言葉を叫んだ。

「邪教め!」「聖人の前で不遜であるぞ!」

二人の怒声を聞きながら、私もまた剣を構える。

意図はしていないが、挑発になってしまったようで、彼らは連携も何もない大振りで攻撃してきた。

隙だらけだ、彼らの攻撃を難なく避け、反撃に転じる。

一人は顔を斬りつけ、もう一人は返し刃で肩口から斜めに切り裂いた。

「ぎゃっ」「があっ!」

血飛沫が飛び散る。彼らは床に倒れ伏した。床で痛みに悶える彼らを見下ろし、息を吐く。

「……ふぅ、死ぬかと思ったわ」

「二人とも、死んだの……?」

キョーコが怯えた様子で私を見ていた。そこで、マシニッサが目を覚ましたのか彼女に声をかける。

「き、きょーこ……ちゃ……」

「マシニッサくん!」

「けが……ないすか……」

マシニッサはダランと垂れた手を何とか持ち上げて彼女の頬に触れた。

「なんで!?自分の心配してよ!!」

「ぼ……くは……ちゅーしてくれたら……治るす……」

こいつさてはまあまあ余裕あるな?

マシニッサはそう言うと、意識を失ってしまった。

「そ、それ伝えるために目を覚ましたの……?」

キョーコは困惑していたが、少し嬉しそうな表情をして……っ!!

その刹那、私の右手が吹っ飛ぶ。何が起きたかわからなかった。

「うぐッ……!」

焼けるような痛みと共に、血が吹き出す。

「人は、成長する……お前に手を斬られて……覚悟を決めたよ!」

 




次回で書き溜めが終わっちゃうよぉ~!
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