【完結】龍教団物語   作:ターキィ

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エピローグ

 

巡礼団は、ドワーフたちの集落や街に滞在しながら南へと進む。

私の心は晴れやかとは言えなかった。父は戦場で傷つき、母は違法に奴隷を使役した犯罪者となってしまった。

次に訪れた時どうなっているのか、そもそも訪れることがあるのか。今生の別れとなってしまったのかもしれない。

元より父が戦場へと旅立った時点で家庭の崩壊は免れなかったのだろう。

私は……家族よりも、自分の幸せを選んだ。私は薄情者なのだろうか。

「私は、そうは思いませんけどね」

考えが口に出ていたのか、キョーコが私に語り掛けてきた。

「いわゆる毒親ってやつですよね。あ、これは私の住んでいた世界の価値観なんですが」

親だからといって公明正大で高潔な人物というわけではない、考えてみれば当然の事なのだが、子供でいるうちにはわからない。

「そうやって苦しんでいる子どもたちって、やっぱりこの世界でも多いんですよね……」

「あら、その子たちを私に助けろって言いたいの?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

冗談めかしてキョーコに言うと、彼女は慌てて否定した。

「でも、そうね、私なら、手を差し伸べるかも知れない……助けられるなら、助けたいかも」

だって私は、助けて欲しかった……のかもしれない、から。

回りくどい感じだが、多分私は誰かに助けて欲しかったんだろうと思う。確証はないので、こういう表現になるが。

救いの手が必要だったかどうかなんて、救ってみないとわからないものだ。

私も最初はニックを恨んだが、色々あって、色々考えて、今ここにいる。

彼はというと、環境が激変したせいなのか精神的に若干不安定だ。とはいえ肉体的には元気である。

療養を終えれば、いずれ彼も敬虔なクピドの信徒になるのだろうか、それとも世俗に生きる道を見出すのだろうか。

「そういえばキョーコ、例の、ニホンの下着、助かったわ」

「日本の下着?」

「あの、マイクロビキニってやつよ。ニホンの伝統衣装なんでしょう?」

「えっ」

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

ヴェネトリオ修道院第七次大巡礼は終わり、一行はヴェネトリオ修道院に戻った。

修道士、修道女たちは彼らを帰還を盛大に祝った。

私たちは再び祈りの生活に戻るのだ。

「お姉様、私、あなたをずっとずっとお待ちしておりましたのよ!」

懐かしの令嬢、ザスキアは真っ先に私の元へとやって来た。

「私もあなたの顔が見れて嬉しいわ。アーデルベルトは元気?」

「うふふ、元気過ぎて夜寝る間もないくらいですわ……」

育児は大変そうだが、それでも幸せそうな彼女を見て、私も嬉しくなった。

長かった旅もようやく終え、私たちの新しい生活が始まる。

成長した修道士たちや、ミカやニックなどの新たな仲間を加え、修道院に賑やかな日常が戻った。

巡礼を終えてから数日ほど経ったある日、私とニックは二人で街に出かけることにした。

気分転換というか、久々に羽を伸ばしたかったからだ。

「なんというか、10年という月日を改めて感じるよ」

ニックはしみじみと言う。私の普段働いている姿を初めて見て、思うところがあったようだ。

「あんたは……年齢より老けてるわね」

同い年、22歳のはずだが、精悍というよりはくたびれた感じを受ける。

奴隷として使役されていた間にきっと壮絶な経験をしたのだろうから、無理もない。

「……ここでようやく、僕と君が出会えたのは、神龍クピドの思し召しなのかな」

「違うわよ、お互いに間が悪かっただけ」

「そうかな」

「そうよ」

ニックは少し寂しそうな顔をした。

「でも、僕はクピドに祈ることにするよ。そして立派な修道士になりたい、アーデルヘイト、君みた…」

彼が言いかけた言葉を制止する。

「私みたいな生臭尼僧を目指すことはないわ、目標はもっと高く持ちなさい」

ニックはまだ何か言いたそうだったが、私はそれを遮って言った。

「別に、俗世にいたって会えないわけじゃないし、自由に職を見つけていいのよ」

自由の身になったのだから、好きなことをすればいいと思ったのでそう言ったのだが、彼は首を横に振った。

「いや、僕の居場所はここだよ。君の隣が、僕の、生きる希望だったんだ……」

彼は私の手を握る。彼の目には涙が浮かんでいた……なんだか申し訳なくなってくる。

「……ごめん、ちょっと意地悪だったわ。私も一緒にクピドに祈ることにするわね」

そう言うと、ニックは嬉しそうに笑った。

「でもその前に、街で美味しいものでも食べましょう! ロタールの料理は絶品よ、絶対あなたに食べさせるんだから」

私はニックの手を引っ張って街へと繰り出したのだった。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

ふと気がつけば、マリカは忽然と姿を消していた。更に、院長と私を除いた全ての人間が彼女の存在を忘れてしまっていたのだ。

「思えば不思議な少女であったなぁ」

院長は呟く。少し寂しくは思うが、仕方ないことであるというのはわかっていた。

彼女はどこへ行ってしまったのか? それとも最初からいなかったのだろうか? そんな疑問が湧いてくるが、答えは出ないであろうことはわかっていた。

神霊の類は気まぐれなものだ。彼女は時々こうして下界に降りて人々をからかっているのだろう。

「ところで、賭博で儲けた分の金が見当たらないのだ」

……とんでもないやつだわ!

「神龍クピドへの寄進と思うことにしましょう。きっとこのヴェネトリオ修道院に幸運をもたらしてくれるでしょう」

「そうだといいんだがねぇ」

窓から、夏の始まりを感じさせる爽やかな風が吹く。少しお腹の張りを気にしながら、今日もまた、一日が始まるのである。

 




これにて完結です。
お付き合いいただきどうもありがとうございます!
途中のライブ感の部分はチョットアレですが、お楽しみいただけていたのなら嬉しいなぁ!
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