緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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鎖野郎 二

(どういうことだ!?)

 

 アイリスを傷つけないように、クラピカは攻撃を繰り出す事をしなかった。

 銃弾を鎖で避けることをしなかったのも、もし誤って弾が跳ね返ってアイリスに当たってしまったらいけないからだ。

 

 念能力者でないアイリスに当たれば、大怪我じゃ恐らく済まない。

 

 禍々しい雰囲気を漂わせながら近づく彼女は、もはや一般人とは思えない程に身体能力が上がっている。

 クラピカは凝をしながらアイリスと一定の距離を保ち、アイリスから感じ取れる僅かな気配を視る。すると、首もとからちらりと見えている棒のようなものに、オーラが集中しているのが見えた。

 

(あれは……)

 

 瞬時にアイリスは何かに操作されているのだとクラピカは理解した。

 クラピカはわざと隙を作り、アイリスがその隙を利用してクラピカの懐に飛び込んだ所を手首を掴み上へと引き上げ動きを止め、素早く首の後ろの棒を抜き捨てた。

 

 するとアイリスの動きがぴたりと止まったかと思うと、クラピカの胸へと人形のようにどさりと倒れ込むのを、クラピカは受け止めた。

 

(操作系能力者か)

 

 恐らくどこかでこの棒を伝達してアイリスを遠隔操作をしていたのだろう。

 念は主から離れるにつれ弱くなっていくもの。これだけの身体能力をアイリスに与える事が出来るのだから、操作者はそう遠くは無い。操作主はこの付近で様子を伺っていたはずだ。

 

(アイリスを安全な場所に連れて行かねば……)

 

 そう思った時、腕の中でアイリスが虚ろな瞳で顔を上げた。

 

「私、何を……して……」

 

 胸の中でアイリスが虚ろな目で顔を上げた。

 

「いや……君は何もしていない」

 

 とっさにそう嘘をついた。

 

「うそよ……私……クラピカを……」

 その瞳は涙を溜めて、まばたきをする度に雫が頬にポロポロと流れ落ちていく。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 力なく震える体があまりにもか弱くて、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られた。念能力も殺しも知らない純粋な彼女が踏み込むには、あまりにも残酷な世界なはずだ。

 

「謝るな。悪い夢を見ていただけだ。アイリス……危険な目に遭わせてすまなかった」

 

(一体誰がこんな事を……)

 

 アイリスを一人にさせたこと、スクワラに護衛を任せたことを酷く後悔した。

 クラピカは辺りを入念に見回す。しかし、操作者らしき人物は見当たらなかった。

 

「身体が勝手に動いて……私……わたし……」

「ああ、わかってる」

 アイリスの震える手が、クラピカの腕にしがみついた。

 

「大丈夫、わかってるから」

 クラピカは優しく言った。

 

「……旅団が……」

 アイリスが消え入るような声で言う。

 

「旅団……だと? アイリス、旅団(クモ)に会ったのか!?」

 

 その言葉で、アイリスは旅団の何者かに操られていたのだろうと瞬時に悟った。アイリスはこくんと頷く。

 旅団が狙うとすれば、恐らく自分。アイリスは利用されたのだ。

 

「アイリスを囮に使い、私を誘き出す作戦か……どこまでも卑劣な奴らだな」

 力を入れた拳がミシッと音を立てた。

 

 しかし、それでも解せない点がいくつかあった。

 自分の姿を知る者は、殺したウボォーギンと言う男のみのはずであり、アイリスとの接点も知られていないはずなのだ。

 

(オレが何者かバレている……? いや、そんなはずは──)

 

 

 ***

 

 

「あーあ、バレちゃったか」

 木陰で舌打ちがする。シャルナークは操っていた携帯電話をポケットにしまった。

 

 

 ── このアイリスって女。あの時の鎖野郎が起こした事故で死んだと思っていたけど、生きてた。鎖野郎と接点があるみたいだからね、この女に近づく人間がいたら徹底的にマークしな。

 

 シャルナークの脳裏に、マチの言葉が浮かんだ。

 

「……あの男……鎖野郎かもしれないね」

 

 金色の髪を揺らしながら、シャルナークは立ち上がった。

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