私、アイリスはあれから、噴水のある公園で膝に頬杖をついてため息をついていた。
帰ろうと思ったものの、道がわからない。いや、その前に電車もバスも運行していない。
とりあえず朝が来るまでこの公園にいることにした。
夜の公園にはちらほら人がいる。さすが都会の真ん中にある公園である。人がいなくなることはなくて、寂しさもそんなに感じなかった。
噴水の水しぶきが、時々私の顔をぬらす。
(ねむ……)
段々と睡魔がやって来て、私は頭を膝に埋めて目を閉じる。
野宿もまあ、悪くない。
そんな風に思いながら意識が遠のいてきたところで、
「君、こんなところに一人でいたら危ないよ?」
突然真上から声が聞こえて私はバッと顔を上げた。
するとそこには、黒髪の男の子と、白い髪の男の子が立っていた。
(こ、こども……?)
見るからに自分より年下である。
寧ろこんな男の子の方が危ないのでは、と思わずにいられなかった。
「あなたたちこそ危ないと思うけど……?」
私がそういうと、黒髪の男の子が言った。
「オレ、プロハンターだから」
「は!? プ、プロハンター……!?」
どこかで聞いたことのある言葉だ。
そう、クラピカはじめ、センリツやバショウ……またアイリスの仕事仲間であるテキサスもそういえばプロハンターであった。
(えっ、でもこんな子供が……?)
呆然としていると、黒髪の男の子が手を差し出す。
「家はどこ? 送ってくよ」
「気持ちは嬉しいんだけど……」
(道が……わからない……)
白い髪の男の子が声をかけた。
「どうした?」
「道が……わからないの……」
「まじ? 野宿した後どうやってここから帰るつもりだったんだよ」
白い髪の男の子は驚いた顔をした。当たり前の反応だ。
「まあ適当にバス時刻でも見て、知ってる場所まで行ければ帰れるかなー……なんて」
私は愛想笑いをしていると、黒髪の男の子が、
「地名だけでも教えてくれれば、送ってくよ」
と言った。世話を焼いてくれる、優しい子なのだろう。
「おい、ゴン。オレたち朝イチからクラピカに会う約束があるんだろ? 遠くに行くと間に合わないぜ」
白い髪の男の子が黒髪の男の子をゴンと呼び、クラピカの名を出し、思わず私の視線は白い髪の男の子に向いた。
「ねえ今、クラピカって言った?」
確かに今、この子はクラピカと言った。
「あ、ああ……そうだけど?」
白い髪の男の子は困ったようにアイリスを見た。
「もしかして知り合い?」
ゴンがアイリスに言う。
「う……うん、ちょっとね。あなた達こそ、クラピカとは知り合いなの?」
「オレたちはハンター試験を受けた頃からの仲間だよ」
ゴンが答えた。
意外だと思った。こんなクラピカと性格も年も遠いであろう子達が、クラピカと仲がいいだなんて。
この子達とあのクラピカが気が合うのかな、と思った。
でももしかしたら、この子達の前では違う顔を見せているのかもしれない……と思ったら、少しこの子達が羨ましいと思った。
「クラピカと知り合いなら君も来る? せっかくだしさ」
笑顔で言うゴンに白い髪の男の子が困ったように止めに入る。
「お、おいゴン」
「いいじゃんキルア」
ゴンが白い髪の男の子をキルアと呼んだ。
キルアは眉をひそめてふうっとため息をついた。
クラピカに会いたくないわけは無い。
けれども、あんな事があってすぐになど、クラピカに会わせる顔が無いと思った。
あんなに嫌われてしまっては──……
「ううん、私はいいよ」
「でも」
ゴンが寂しそうな顔をして言った。
「クラピカが元気なら……それでいいの」
アイリスはそう言うと立ち上がって二人から離れた。
クラピカに合わせる顔なんて、あるわけない。
気付いたら私の頬は濡れていた。
噴水の水と違って、少し塩の味がした。