その頃、ヨークシン郊外にある廃墟ビルのとある一角で、滅んだはずの幻影旅団のメンバーが勢ぞろいしていた。
昼でも夜のように暗い廃墟ビルの中は、廃墟になったその日から恐らく人の手が入っていないのだろう。
風が吹けば割られたガラスの窓から砂埃が音を立てて入り込んでくる。
ここはかねてより旅団がアジトとしていた場所だ。
廃墟になってから何十年と経ったこの廃墟は、身を潜めるには格好の場所である。
「……緋の眼を持っていた女が鎖野郎と何かしら接点がある、ということか」
黒のロングコートに身を包んだ男が、冷静な声で言った。
彼は幻影旅団の頭、クロロ・ルシルフルである。
「ああ、シャルが取り逃がしたけどね」
クロロの前で腕を組み、ため息をつきながらマチが言った。
「でもあらかた示しはついた。あとはあの女をどう利用するか、だ」
マチは腕を組み直した。
クロロは視線を床に落とし、しばらく考えた後
「ただ殺すのじゃつまらないだろう。玩具は遊んでから捨てるものだ」
と言って、
「鎖野郎の歪む顔が見てみたい」
クロロは口元を緩めた。
「あの女を探し出して捕らえろ。オレにいい案がある」
クロロは顔を上げた。
***
「あーあ♥」
廃墟の屋上で手にトランプを持ちながら、少し高い擦れた声でクッと笑った男がいた。
「目ェつけられちゃったねェ……♠」
男は携帯電話を人差し指でくるくると回し、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
***
一方、クラピカはかつての仲間であるゴン、キルア、レオリオの三人と久々の再会をしたのも束の間、旅団の件で早速緊迫した空気になる。
「おい! クラピカ! どーしたんだよ急に!?」
突然早足で歩き出すクラピカの背中にキルアが言う。先程まで、ゴンとキルアの目的や旅団についてを話をしていたばかりだ。ゴンは旅団を止めたい、そう言ってくれたばかりだったのだが。
──状況は一転した。
ゴン達が宿泊しているホテルのロビーに移動して、携帯電話を片手に依然険しい顔をするクラピカにキルアが伺うように声をかけた。
「まさか、ヒソカから……?」
「ああ」
クラピカは振り向かずに言う。クラピカの手に持っていた携帯電話には、ヒソカからのメールが映し出されていた。
クラピカは以前からヒソカとコンタクトを取っていた。
クラピカは旅団を倒すため、ヒソカはクロロと殺り合うために裏で協定を結んでいる、言わば利害関係というわけだ。
「旅団の死体はフェイクだと」
クラピカの言葉に一瞬辺りの空気が凍りついた。
「旅団の中にそういう能力者がいるらしい。くそっ……何故こんなことに頭が回らなかったんだ」
旅団の頭が死体で発見されたわけだが、どうやらそれは偽物で具現化系能力者が死体を具現化したものであることがわかった。
少し考えればわかるはずだった。やはり旅団があっさり殺られるわけなど無いことに。
するともう一度携帯電話が鳴った。ヒソカからだ。
『そうそう♠ キミの大事な大事なお友達を団長が狙ってるんだよねェ♣︎ 団長のコトだからきっと……♥♥』
メールはそこまでしか書いていなかったが、ヒソカの言う"大事なお友達"が、アイリスの事だとクラピカは瞬時に悟った。
(まずい……!)
鎖のかかった右手に思わず力が入った。行き場の無い怒りが込み上げてくる。
(早くアイリスを捜し出さなければ)
そう思ったときには勝手に体が動いていた。
「アイリスが危ない」
クラピカは駆け足でエントランスに向かった。
「お、おい! クラピカ!」
勝手に動き始めるクラピカを、レオリオが後を追う。
レオリオはクラピカの腕を掴み、引き止めた。
「誰だよアイリスって!? 何があったんだよ」
「仕事仲間……いや、私がかつて護衛していた女性だ」
レオリオが見たクラピカの顔には、今まで見たことも無い焦りが伺えた。
「もしかして昨日の子かな」
レオリオに続いて後を追ってきたゴンが言う。
「ゴン、アイリスと会ったのか!?」
「名前までは知らないけどね、昨夜噴水の前で野宿しているところを声をかけた子がいたんだけど──クラピカを知ってる様子だったから、一緒に来ない? って誘ったら逃げられちゃったから」
(アイリスだ)
クラピカはすぐにそれがアイリスだとわかった。
「細かいことは割愛するが、私が鎖野郎であるばかりに今、旅団に目を付けられている。しかも彼女は念能力を使えないただの一般人だ」
「マジ!? それって……まずくね!?」
キルアが言った。
「ああ、非常にまずい。時は一刻を争う」
焦りで手が震える。クラピカは歯を食い縛った。旅団に捕まれば、恐らく死は免れないだろう。
「だからと言って作戦も立てずに動くのはよくねぇ、一回冷静になれ。お前の心理状況じゃ、今何をしても悪化するだけだ」
再びエントランスへ向かおうとするクラピカの腕を力強く引き止めてレオリオは言った。
とにかく動いて考えたいと思ったが、アイリスを救うことができるのなら──
「……わかった。作戦を練ろう」