緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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自我 一

 ──ここはどこだ? 

 

 クラピカは暗い闇の中にいた。

 

「ねえ、いや! やめて!」

 

 女性の悲鳴が聞こえる。暗闇はやがて蝋燭の光でうっすらと、ぼんやりと情景が見えるようになった。

 

 オレの目の前で、あの男がアイリスを凌辱している。

 その男はオレを見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 

 ──お前はオレに嫉妬している

 

 

 男の声がクラピカの脳内でこだました。

 

 

 私が? 

 どういうことだ? 

 

「……クラピカ助けて……」

 

 アイリスが涙を浮かべてオレを見る。

 その瞳は、オレに助けを訴えていた。

 オレの身体は、まるで何かに拘束されているかの如く動かす事が出来ない。

 

 ──お前はオレが羨ましいのだろう? 

 

 再び男の声が脳内を支配した。

 

「違う! 私は──」

 

 ──本当にそうなのか? 

 

 自分の声が勝手に自分自身に問いかけた。

 再びアイリスに目をやれば、熱い吐息と潤んだ瞳がオレの胸の奥底を刺激して、欲に似たような感情が湧き上がってくる。

 

 オレは……何を考えている? 

 

 目の前の男はアイリスの足を掴んで、自身をアイリスの腟内に強引に挿れた。

 アイリスは、苦痛に顔を歪めながらも、男のそれを受け止めている。

 苦しみ紛れに喘ぐ声を聞いて、すぐにこの男を殺してやりたい気持ちにさせられる。目の奥が熱く燃え上がり、具現化した鎖がまるで意思を持つかのようにギリギリと音を立てているのに、ただ行為を見ていることしか出来ないオレは──

 

 オレは……羨ましい……? 

 

 オレも彼女をそんな風に? 

 

 男が腰を動かす度に彼女の声は次第に熱く甘いものに変わっていく気がして──許せなかった。

 

「やめろ!」

 クラピカは声にならない声で言った。

 これ以上見ていられない。アイリスのあんな姿を。

 

 それをするのは貴様じゃない──

 

 男は最奥に自身を突くと、しばらく止まってからゆっくりと引き抜いた。するとアイリスの秘部からどろりと白い液体が溢れ出した。

 

 それはオレが──

 

 そう思ったところで、涙目になったアイリスがオレを見た。

 その瞳は何よりも艶めかしく、愛しいと思った。

 

 オレの手で……彼女を──

 

 :

 :

 :

 

「……ピカ」

 

 :

 :

 

「クラピカ!」

 

 

 声と共にクラピカはハッと目を開けた。

 目の前には心配そうに覗き込むアイリスの姿があった。

 

(ここは……?)

 

 クラピカは目だけで頭上を見回す。見慣れない天井が映った。視線を横にずらせば、明るい日差しが窓から差し込んでいる。昼間なのだろう。

 

「クラピカ、凄くうなされてたよ」

 

 心配するアイリスの瞳を、クラピカはまともに見られなかった。

 当たり前だ。あんな夢を見たのだから。

 

「……そうか」

 目を少し逸らしながらクラピカは言った。彼女の姿が夢の中のアイリスとかぶって、あのような夢を見た自分が情けないとさえ思う。

 

(嫌な夢を見た)

 

 熱のせいだ、と思った。

 否──熱のせい、にするつもりはない。飛行船の中で、クロロに厭味を言われてから自分はどうかしていたのだ。

 確かに、ヤツは確信をついていた。なぜなら、自分でも気付いていなかったこの、秘めた気持ちを気付かさせたのだから。

 

 ──オレは彼女を誰よりも愛している

 

 紛れもないこの事実に──気付かされたのだ。

 

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