緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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自我 二

「またクラピカは旅団追うのかな」

 クラピカとアイリスがいる隣の部屋で、お菓子を食べるキルアにゴンが話しかけた。ゴンはソファに座って困ったような顔をしている。

 

「ここにまだあいつらがいるってわかったら追うんじゃないか?」

 

 キルアはポテトチップスを一枚口に放り投げながら言った。

「それに、アイリスのことで余計に報復の念に拍車がかかったかもな」

 

 親指を舐めながらキルアは言う。ゴンは俯いた。

「まあ……そうだよね。一般人であるアイリスまで巻き込まれちゃそりゃ旅団も許せなくなるよね」 

 

 その瞬間、ポテトチップスの袋に伸ばしたキルアの手が止まった。

 

「お前、本当にそれだけが理由だと思ってんの?」

「え? 違うの?」

 

 目をぱちくりとさせるゴンに、キルアは呆れたようにため息をついた。

 

「お前って本当に鈍感だな、まだわかんない?」

「わかんないよ」

 

 全く、と小さく呟きながらキルアは再び大きくため息をついた。

 そして立ち上がるとゴンの座るソファにどかっと腰を下ろした。

 

「好きなんだよ、アイリスが」

「え?」

「言っとくけど、人としてとかじゃなくて女としてだかんな」

 

 キルアは持っていたポテトチップスの袋に手を入れ、出したチップスをゴンの口に無理矢理詰め込んだ。

 

「それって恋ってやつ?」

 モゴモゴとさせながらゴンが言った。

 

「そうそう」

 キルアもポテトチップスを口の中に入れながら頷いた。

 キルアはクラピカとクロロの間に何があったか、おおよそ察しはついていた。

 

(そりゃ正気でいられなくなるよな)

 キルアは塩味になった親指を舐めた。

 

「それにしても、クラピカも人間だったんだなって思うよ」

 キルアは呆れたように笑うと

「どゆこと?」

と、再びゴンが目をぱちくりとさせて言った。

 

「だってさ、あいつ旅団の事しか頭になかったろ?」

 キルアが言うとゴンは

「まあ、確かに」

と、納得したように頷いた。

 

「なんかよっぽどの事があったんだろうな。あいつの闇を解くのは至難の業だと思うぜ?」

「確かにそうだけど……。でもオレはキルアの心の闇を解いたつもりだよ」

 ゴンがにこりとしてキルアに言うと、キルアのポテトチップスを食べていた手が思わず止まった。

 

「そう考えたら、きっとアイリスもクラピカの闇を解く事が出来ると思う。痛みを理解して寄り添ってあげる、アイリスはそんな人だとオレは思うから」

 

 そう言ったゴンの瞳は優しさに溢れていた。

 

 

 ***

 

 

 一方、クラピカはあれからすぐに意識を手放して、苦しそうに眠っている。アイリスは熱くなったクラピカの額の手ぬぐいを水でゆすいで、再び額に乗せた。

 

「アイリス、入るよ」

 そう言って入ってきたのはゴン。隣の部屋からやってきたゴンが私の横に腰を下ろした。

 

「このままクラピカ目を覚まさなければいいのにね」

 私はそうだね―……と頷きそうになったところでハッと我に返った。

「えっと……ゴン、今凄い事言わなかった?」

「だって」

 ゴンは困ったような顔をして言った。

 

「クラピカにはもう旅団と戦って欲しくない……いや、戦っちゃ駄目な気がするんだ」

 ゴンは真剣な表情を浮かべ、アイリスを真っ直ぐに見た。

 その真っ直ぐな瞳に、私は目を逸らす事が出来なかった。

 

 私が旅団に捕らわれている間、クラピカは旅団を追っていたと聞いた。

 詳しくは聞いていないが、クラピカの能力のこと、旅団との接触……色々とあったようだ。

 

「私ももうこれ以上戦って欲しくないと思う。ヨークシンにまだあいつらがいるってわかったら、クラピカはきっと後を追おうとしちゃうよね」

 

 あの鎖が、クラピカの憎悪の産物だと知った。

 復讐に生き、復讐に死ぬ覚悟。

 その覚悟は一見素晴らしく見えるが、それはとても愚かな事なのだ。

 

 復讐は想像もつかないほどの大きな力を生むが、成し遂げた後に残るものは喪失感と、新たに起こる復讐の連鎖。

 

 復讐の過程で得るものは、人格の破滅。

 

 いい意味でも悪い意味でも、もう過去には戻れないのだ。

 

 人質になった私を助けてくれたあの日の、抱きしめてくれた温もりが目を閉じるとまだ残っている。

 

 本当は優しくて温かい青年のはずなのに……

 

 飛行船で再開したあの日、初めて彼の眼が緋く燃えているのを見た。

 

 もう彼には復讐をして欲しくない。

 けれども、止める権利はない。

 

「大丈夫、クラピカの事は支えてみせるから」

 

 止めるとは言わなかった。ただ今後彼にとっての復讐が、人生の最大の目標と言う焦点から外す事ができればいいと思った。

 

 復讐の後に帰る場所を作ってあげたい──それが私の願いだった。

 

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