緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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再会を約束して

 翌日、アイリスはレオリオと共にクラピカとセンリツを見送るために空港にきていた。ゴンとキルアの二人は部屋で修行をしている。修行の邪魔をしたくないというクラピカの意向で、見送りに来るのは私とレオリオだけ。

 

 クラピカとセンリツは出発ロビーでチェックインをしている。

 遠くでチェックインをするクラピカの後姿を、私はぼーっと見つめていた。本当に最後だという事がまだ実感できないでいる。

 

(もう二度と会えないのか……)

 

 ふとそんな風に思ったら、少し涙目になった。

 

「大丈夫だよ、心配するな。また会えるって」

 レオリオがポンとアイリスの肩を叩いた。

 

 私が考えていた事は、どうやらレオリオに見抜かれていたようだ。

 私はうん、と頷いてみたけれど──昨日されたキスが、まるで最後を物語るかのように切なかった。

 

 未だに残る、抱きしめられた時のクラピカの温もり。

 頬に残るクラピカの手や唇の感触──思い出すたび、ズキンと胸が痛む。

 

 チェックインを終えたクラピカとセンリツがこちらに戻ってきてクラピカが

「アイリス、レオリオ、それではそろそろ行くよ」

といった。

 

 クラピカは大きな荷物を持っている。その姿を私は黙って見つめて、昨日見せた切なげな顔のクラピカを思い出して、昨日見せてくれたあの表情とは別人なんじゃないかという程に──まるでそんな事はなかったかのような、普通の顔をしている。

 

「レオリオ、二人にまた会おうと伝えてくれ」

「おうよ」

 いつもの普通の声で言うクラピカに、レオリオは軽快に答えた。

 

 そしてクラピカはゆっくりとアイリスに向き直って

「アイリス、これを」

 クラピカは一通の封筒を差し出した。

「後で見てくれ」

 

 そう言うと、クラピカはじゃあまた、とあっさりと後ろを向いて歩き出した。あまりにもあっさりとしていて、ズキンと再び胸が痛くなった。

 

 昨日の事は夢だったんじゃないか──なんて思うほどに。

 

 手渡された綺麗な白い封筒。それをしばらく呆然と見ていたら、気づいた時には既にクラピカの姿は小さくなっていて

「クラピカ!」

思わずそう大声を出した。

 

「また会えるよね!?」

 大きな声で問いかけると、振り返ったクラピカが少し笑って、小さくうなずくのが見えた。

 

 

***

 

 

 飛行船の中で、センリツがクラピカに問いかけた。

 

「本当に良かったの?」

 

「何が──と返したいところだが見抜かれているのだろうな」

 

 クラピカが言うとセンリツがクスッと笑った。

 窓を見ながらクラピカが言う。

 下を見れば、既にヨークシンの街は小さくなっていた。

 

「あなたらしいわね。少しアイリスが可哀相」

 

 心音で何でも見破られている。クラピカはあえて何も言わなかった。

 鞄の中から本を取り出す。しおりを挟んでいたところを開いた。

 

「あの封筒は何だったの?」

「それは心音ではわからないのか」

「さすがにそこまではわからないわ」

 

 センリツの言葉に、クラピカはふっと笑った。

 再び窓に目をやると、ヨークシンの街を覆う雲だけが視界に映った。

 

 

***

 

 

 ゴンとキルアが待つ部屋に戻る車の中で、アイリスは封筒を丁寧に開けた。

 その中には縁に美しい刺繍が施されたしおりが入っていた。

 鮮やかな紫色の小さな花が中心に押し花になっていて、中心に四葉のクローバーが押してある。しおりの縁に丸い穴があいていて、水色のサテンリボンが控えめに結んであった。

 

「お? ハーデンベルギアじゃねーか、綺麗だな。クラピカから貰ったのか?」

 運転しながらレオリオが助手席に座るアイリスを横目で見た。

 

「でもこれだけしかないの」

「え? 他に何も入ってなかったのか?」

「うん」

 封筒をひっくり返しても、何も出てこない。

 手紙やメモらしきものは見当たらなかった。

 

 信号待ちをしながら、レオリオが手を伸ばししおりに触れた。

「しかし綺麗なしおりだな。わざわざどこかで買ってきたんだろうな」

 

 レオリオはそこまで言って、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「わかったぞ」

 信号が青に変わる。レオリオがアクセルを踏んで、車は再び動き出した。

 

「え、何?」

「花言葉だよ」

「花言葉?」

 きょとんとしている私に、レオリオは得意げに話し出した。

 

「わざわざ押し花されたしおりを贈るなんて、普通じゃなかなかないだろ」

「随分詳しいね、どうして?」

 

「オレのダチが昔病気でな──ってもう亡くなったんだけど、そいつによく花言葉の意味を考えながら花や小物を贈ってたんだ。それもあって、多少花言葉には詳しい」

「へえ」

 顔に似合わない、と私は思った。

 でも、こうして色々世話を焼いてくれるのだから心は熱い人なのだろう。

 

「ハーデンベルギアの花言葉は『再会』だ。つまり、また会おうぜって事なんだろうな」

「ふーん……そっかぁ……」

 

 意外と普通の花言葉だな、と思った。もっと何か意味を持たせてくれてればいいのに──そんな事を思ったりもしたけど、多分それがクラピカという男なのだろう。

 

「まあいいんだ。あんなに心を閉ざしてたクラピカが、心を開いてくれて、また会おうって思ってくれて凄く嬉しいよ」

 私はしおりを封筒に丁寧にしまって、バッグの中に入れた。

 

 レオリオはそんなアイリスの姿を横目に、『再会』それはハーデンベルギアだけの花言葉だけどな──レオリオは車の運転をしながらそんな事を思った。

 

──四葉のクローバーの花言葉は『私のものになって』

 

「ったくキザなヤローだぜ」

 

 レオリオは呟いた。

 

 そんな呟きが聞こえて、アイリスはちらりとレオリオを見た。レオリオもこちらを見て何か言いたげな顔をしていたが、

「レオリオ?」

と、私がレオリオに問いかけると、レオリオはなんだか気まずそうな顔をして鼻を指で擦った。

 

「そのしおりが全てだよ。クラピカの」

とだけ言ったのだった。

 

 

 ***

 

 

 飛行船のエンジンの音がわずかに聞こえる。

 

 ブロンドの横髪をすこし耳にかけながら、クラピカは開いていた本のページにしおりを挟んだ。

 それは、アイリスに贈ったものと同じ、紫色のハーデンベルギアの花を散りばめ、中心に四葉のクローバーが押し花になった鮮やかなしおり。

 

 

 ──君と出会えた事に感謝する

   再会したら、今度こそ君を私のものにしたい

 

 

 別に彼女に何かを気付いてもらおうとは思っていない。これはただのオレの自己満足なのだ。

 

 言葉にしてしまったら──彼女と離れる覚悟を決めた、オレの気持ちが揺らいでしまいそうだから。

 

 彼女を抱いた温もり、唇を寄せた時の柔らかな肌。

 瞳に涙を溜めてこちら向く彼女に胸の奥底から湧き上がるような熱い気持ち。

 今でもまだこの身体に残っている。消えることはないだろう。

 

 次こそは絶対に──

 

 窓を見れば、すっかり外は夜になっている。

 

 クラピカはゆっくりと本を閉じて、瞳を閉じた。

 

 




クラピカ、船編の続きを書こうか悩んでいます。
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