緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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黒い瞳の青年 一

 クラピカの案内で、ノストラード組長(ボス)のところへ通された。

 組長の名はライト・ノストラード。

 

「この子が例の女か。クラピカ、大丈夫なのか?」

「ご安心を。仕事には影響ありませんし、彼女を巻き込むつもりもありません」

「ならよいのだが……」

 

 ライトはギョロっとした目で私を見る。その嫌な目に、私は思わず後ずさった。

 

「しかし……アイリスという娘は、何の仕事をしていたんだ?」

 突然そう話題を振られて、肩がびくっと上がった。

 

「あっ、……オークションの仕事です」

 思わず正直に答えてしまった。本来は仕事は秘密厳守であり、よほどのことがない限り外部へ漏らしてはいけない。

 クラピカもそれに気付いたのか

「娘さんの安全は必ず確保します」

 と、慌てて話を戻した。

 

「ほぉ、なるほど出品者側か」

 

 ライトは些細な私の言動から、出品者側だと悟ったようだ。

 ライトは嬉しそうに口元を緩めた。出品物は何としても言えない、私はしっかりと口を噤んだ。

 

 ライトが何か言おうとしたその時、クラピカは

「では任務に戻ります」

 と切り出し、そしてさっさと私の腕を掴み部屋を出た。

 

 部屋を出て、クラピカはため息と共に言う。

 

「あまり易々と喋るものではないよ、アイリス。落札側である者は、出品物の内容によっては個人取引を迫ってくる可能性がある。もし手元に競売品がまだあると知れたら尚更だ。きっと多額の金を積んで交渉してくるだろう」

 

 オークション外での競売品の取引は原則として禁止である。先に個人取引を行い 、規約逃れで見かけだけのオークションを行う組が摘発されることもあった。発覚した場合は多額の罰金、ブラックリストに掲載され、今後のオークション参加不可にされてしまうのだ。

 

「ごめんなさい……」

「今度から気をつけてくれれば問題ないよ」

 クラピカは優しく言った。

 

 その時、クラピカの足元がふらついた。やはり昨日の疲れがまだ抜けていないのだろう。

 

「クラピカ……大丈夫……?」

 瞬きをするクラピカの目をじっと私は見た。

「え?」

「なんだかやつれているみたいだけど」

「あ……ああ、大丈夫だ。心配かけてすまない」

 

 旅団と戦ったんでしょ──とは言えず、私は黙り込んだ。

 なぜなら、クラピカはそれについて自分からは何も語ろうとしないからだ。言いたくないのかもしれない、だから敢えてそのことには触れなかった。

 

(なんで旅団の人と戦ったんだろう……?)

 

 一瞬任務なのかと思ったが、昨日のセンリツの言葉を思い出して、任務ではなく、何かの恨みがあるのだろうということを思い出した。

 

 ──強い憎しみを抱いているの

 

 

(強い憎しみって何だろう)

 

 旅団は凄く恐ろしい集団だと聞く。彼らに関わることは死を意味するのだ。任務でもなく、たかが私念のために危険を顧みず入り込むなんて、ただ事ではないはずなのだ。

 

 そう、たかが憎しみ。たかが私念。

 

 そのたかが私念のために、自分の命すら投げて旅団に向かうには、彼を動かす大きな理由があるはずなのだ。

 

 考えられるとすれば……尋常ではない程の大きな憎しみと怨み。憎悪。

 

(大切なもの……そう、例えば肉親や恋人を殺されたとか……いや、もっとそれ以上の憎しみを抱いているのかもしれない)

 

 私はクラピカの横顔を見た。

 黒い瞳が、凄く哀しい色に見えた。

 

 

 ***

 

 

「お茶淹れました」

 

 私は丁寧に紅茶を淹れたカップをテーブルの上に置いた。カチャ、という食器の音が、静寂な室内に響く。

 

「ありがとう」

 窓を見ていたセンリツが、テーブルのイスに腰掛けた。

 一人読書をしていたクラピカに、私は紅茶を持っていく。筋肉質の男、バショウにも紅茶を淹れて持っていった。

 

 念も何も出来ない私が唯一出来る事としたら雑用ぐらいで。ここにいる人達は皆、才能のある選ばれた人達なのだと思うと、自分に何となく劣等感を覚えた。

 

(念、ていうものが使えたら……クラピカに何かしてあげられたりするのかな)

 

 読書をしながら紅茶を静かに飲むクラピカを、テーブル席からぼーっと見ながらそんな事を思った。彼が背負う、尋常ではない憎悪。とても外見からはそんな人には見えない。

 

 ごく普通のハンター。いや、青年。

 時折見せる瞳がとても哀しげなこと意外は……。 

 

 

「何を考えているの?」

 

 

 センリツにそう言われてはっと我に返った。

 クラピカをずっと見ていたのを見られて、少し顔が赤くなる。

 

「あ……いやその……」

 

「クラピカの事でしょう?」

 

 彼女には何でも見透かされているような気がして、複雑な気持ちになった。

 私はセンリツから目を逸らし、頷いた。

 

「うふふ、心音でわかるの。私の特殊能力よ」

 そう言って、センリツはニコリとした。

 

「あなたがクラピカを見ている時、心音はとても穏やかだけど、少し不安が混じっているの。そうね、例えるなら森のざわめきのようなものかしら」

 

 確かにセンリツの言う通り、胸はざわざわしている。でも、クラピカを見ていると、そんなざわめきも不快では無い。

 

「大丈夫よ、彼は強いから。心配しなくても」

 カチャ、という音を立てて、センリツはカップを置いた。

 

 ──彼は強いから

 

 その言葉が何となく胸に刺さった。

 確かに強いかもしれない。旅団の一人を殺したりできたんだから。

 でもそれは力が強いという意味で。

 

 本当はきっと……強く装ってるだけなのかもしれない。

 

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