緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

6 / 25
黒い瞳の青年 四

 色黒の男、スクワラのいる部屋に競売品は置いてある。私はスクワラの部屋に入り、競売品に触れた。

 能力者の言う、オーラと言うものは見る事も感じる事も出来なかった。

 

(できれば今夜のオークションに間に合わせたかったんだけど)

 

 そう思いながら、蓋に手をかけ、開かないとわかりつつも開けようと力を込めた。 すると思いのほか蓋は簡単にパカッという情けない音を響かせて、呆気なく開いてしまったのだった。

 

 開かないだろうと思って力を込めて開けたせいか、力の反動で後ろに少しよろめいた。

 

 ── 彼が死ぬか、彼自身が開けるかしない限り念は解けないそうだ。

 

 クラピカが以前そう言っていた事を思い出した。

 

(え……)

 

 一瞬時間が止まったようだった。

 

(開いた……!? まさかテキサスは……)

 

 念というものをかけたテキサスが死んだのだから、念が解けたのだろう。

 

「アイリス?」

 

 私の後を追ってきたセンリツの声が背後から聞こえた。私は振り返らないまま、後ろにいるセンリツに言った。

 

「……テキサスは死んじゃったみたい」

「え……?」

 

 蓋の開いた競売品を見て、センリツの声色が変わった。

 

「……それは緋の眼……!」

 

 2つの瓶が対になった箱。それぞれの瓶に眼球が浮いている。これを見て緋の眼だとわかるのはただ者じゃないと思った。

 

「センリツさん、緋の眼を知っているの?」

 

 緋の眼はかなりマニアックな逸品。世界七大美色とも言われているが、それを目にすることができる人間は──極わずか。

 

「知ってるも何も、ボス(ネオン)が欲しがっているもので、落札予定の一つよ。それに──」

 

 センリツはそこまで言ってやめた。

 

「それに……なに?」

 センリツは私の問いに答えない。センリツはなんとも言えないような表情をして、目を逸らす。

 嫌な予感が私を襲うが、それを呑み込んでセンリツが言葉を発するのを待った。

 

 そして、やがて長い沈黙のあと、センリツがようやく重い口を開いた。

 

「あなたの心音を信じて……あなたの事を信頼して、あなただけに言うわ。クラピカは……クルタ族の生き残りなの」

 

「う、うそ……でしょ……?」

 

 アルバイトとして雇われてから、オーナーに緋の眼について教わった。オーナーは気味が悪いほどの人体収集家で、特にお気に入りだという緋の眼を所持していた。

 

 クルタ族とは、感情が激しくたかぶると瞳が燃えるような深い緋色になる、種族固有の特質を持っている。その緋の輝きは、世界七大美色に数えられているほど美しいと言われているのだ。

 

 しかし、その瞳の美しさ故に盗賊に虐殺され今では絶滅したとされており、その瞳は大変貴重で想像を遥かに絶する高い値で取引されている。

 

 オーナーが一番お気に入りだというコレクションをオークションで競りにかけようとしたのも、お金の為だ。億、兆、京、じゃ済まないほどの金額で売れるからだ。

 

「嘘でしょ、クラピカが……クルタ族の生き残りって……」

 

 発した声は、自分でも消え入りそうな声だった。

 クルタ族は途絶えたと聞いていた。

 まさか生き残りがいたなんて思わなかった。

 

「まさかクルタ族を虐殺したのは……」

 

「そう、幻影旅団よ」

 

 センリツの落ち着いた少し低い声が、胸の奥に響いた。

 全ての辻褄が合った瞬間だった。

 

 

 ── 旅団に強い憎しみを抱いている

 

 

 彼が背負う、旅団への強い憎しみの念。それは、一族の命を絶やした旅団への怨みと憎しみ……そして復讐。緋の眼に魅せられ、金という欲にまみれた下劣な人間が生んだ、哀しい惨劇。

 

 旅団に腹が立った。許せなかった。それをコレクションしていたオーナーも、そしてそれを欲しがる人間も。

 

 でも、一番許せないのは自分だった。

 

 クルタ族の惨劇を知っていながら、今まで何も思わずこの手で緋の眼に触れていたこと。

 クルタ族の犠牲の上で、この緋の眼が売り捌かれていることなど、深く考えもしなかったのだ。

 

 そう、この時まで──何も。

 

 緋の眼──それは自分にとって、オーナーから依頼された"ただの出品物"でしかなかったのだ。

 そう、たとえば街で売られた動物の毛皮と同じように、動物が犠牲になっていることを深く考えない。形では知っているけれど、あまり深くは考えない。それと同じだった。

 

 

「私……」

 

 センリツが心配そうに見る。私の足元に、大粒の涙が落ちて、高級そうな絨毯の色を転々と変えた。

 

「……私……クラピカのこと……」

 

 好きだった。心を開いてもらいたかった。彼の闇を取り除きたかった。

 

「それなのに私っ……こんなこと……」

 

 上手く言葉が出なかった。クラピカの闇を照らす存在になる資格なんてない。

 

「アイリス。もう言わなくていい。私にはわかるから」

 優しいセンリツの声。肩をふわっと抱いてくれた。

 

「自分が許せなかったのね……。でも、大丈夫だから。あなたなら、クラピカの心を埋めることができるって信じてる」

 

 センリツの優しい言葉が、余計に涙を溢れさせた。

 年甲斐も無く、大きな声で……子供のように泣いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。