緋色の欠片 ー私は、緋の眼の代理出品者でしたー   作:秋田慶

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蜘蛛 一

 センリツとバショウがネオンと共に空港へと向かってからのこと。現在こちらに残っているのは私とスクワラの二人だけ。クラピカはボスと共に殺し屋チームの会議に出席している。

 

 静かな室内。私はソファに座り俯いていた。

 

 私は箱を抱きしめた。先ほど涙を流していたせいで、まだ目が腫れている。クラピカの事を知ってしまった以上、何食わぬ顔で出品なんて出来るわけがなかった。けれども、だからと言って出品しないわけにもいかなくて、本当に辛くて消えてしまいたかった。

 

「アイリス。入るぞ」

 会議を終えたクラピカが、部屋に戻ってきた。私は腫れた目を隠すようにして体育座りをして顔を膝に埋めた。

 

「会議終わったんだ」

「ああ、これからボス(組長)と共にセメタリービルへと向かう。アイリスはこれからどうする」

「私は……ここに残るよ」

 

「そうか」

 

 クラピカにテキサスが死んだ事、これが『緋の眼』であるという事は言わなかった。

 

「アイリス? 具合でも悪いのか?」

 布の擦れる音が近くでした。クラピカが横に来たのだと音でわかった。

(なんで来るの……あっちいってよ……)

 腫れた顔を見られたくなかった。私は顔を膝に埋めたまま黙って、

「なんでもないから大丈夫」

ようやくそう言った自分の声は、先ほど流した涙のせいで少し震えていた。

 

「どうした?」

「い、いや、あっち行って!」

 

 思わず私は顔をあげた。クラピカと目があって、自分が顔を上げてしまった事に気付いて慌てて再び顔を膝にうずめた。

 

「……」

 クラピカは何も言わない。

 少し、はぁ、と息遣いが聞こえた。

 そのまま沈黙が流れて布の擦れる音がしたかと思うと、扉の閉まる音が聞こえた。クラピカは部屋を出たのだろう。

 

 

 ***

 

 

 時は変わって車の中。色黒の男、スクワラが運転しながら言った。

 

「ったく、会場に連れてけって……お前むちゃくちゃだな」

「仕方ないの。こうするしか方法はないんだから」

 

 私は静かな声で言った。

 あの後、一人で出品するから会場に連れていけと無理矢理スクワラに頼み込んで、こんなところにいる。

 

 膝の上に置いた緋の眼の箱が、車の振動でカタカタと音を立てている。

 

「クラピカには言わなくていいのか?」

 

 その問いに、私は黙り込んだ。

 

「な、どうしたんだよ急に黙り込んで」

 

 スクワラは、自分のポケットから携帯電話を取り出し、助手席にいる私に投げた。

「ほら、電話しろよクラピカに」

 

 渡された携帯電話には、クラピカの電話番号が映し出されている。

 

「……悪いけどこのことはクラピカに秘密にしておいて」

 私は運転するスクワラの膝の上に携帯電話を戻した。

 

「はぁ!? どういうことだよ」

「クラピカに迷惑かけたくないの」

「迷惑ってお前、念使えない奴が無防備に出歩く方が迷惑だっての」

「だ、大丈夫。テキサスがいるから」

 咄嗟に嘘をついた。

 

 ──そう、スクワラには『テキサスと連絡が取れたから待ち合せをする事になった』と、嘘をついているのだ。

 

 念能力のない自分が、ここで一人になってしまったら、

 命の保証も緋の眼の保証もない事は明らか。

 

 でも、もう耐えられなかった。

 

 "これ"を持って、ずっとここにいることは──……

 

 ただでさえ深い彼の傷を、更にえぐるようなことはもう、したくない。

 クラピカを好きだったことも、自分の仕事のことも全部。

 

「クラピカとはこれを出品するまでいてくれるって約束だったの」

 

 車の走行音が響く。

 

「でも、もういいんです。今夜出品したら、もう終わりだから」

 

「ちっ、わかったよ」

 スクワラは舌打ちをすると、片手で膝の上に置かれた携帯電話を自分のポケットに戻した。

 

 ── そう、これでいい。

 

 ── これでいいんだ。

 

 私は静かに瞳を閉じた。閉じた暗闇が一瞬、緋く燃えた。

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