一方プロの暗殺集団のグループに配属されたクラピカ。
十老頭に雇われたプロの暗殺集団の彼らは、連携を取らずそれぞれ単独行動をしている。クラピカもまたその一人だった。
今から数時間ほど前、センリツ達と空港に向かったはずのネオンが行方不明になり、そしてこのビルで意識を失って見つかった。しかし彼女は正式な参加証を所持しておらず、このビルに入る手段はないはずだった。
その報せと同時にテキサスが死んでいた事をセンリツから聞いたわけだが──
クラピカは人気の無い廊下を歩く。蛍光灯で反射した窓に、自分の顔がくっきりと映し出されていた。反射した自分の目と目が合って、すぐに目を逸らした。
(アイリス……)
あれからアイリスはどうしているだろうか。
涙目になったアイリスの瞳が、頭に焼きついて離れなかった。あの時、どうしていいかわからず無言で立ち去ってしまった事を少し後悔している。
テキサスが死んだ事をその時既に知っていたのだろうが、あの時何も聞く暇も無かった。膝に顔を
(くそ。そうならそうと、何故言わないんだ)
気付けば、携帯電話を取り出し、スクワラに電話をかけている自分がいた。
数秒呼出音が鳴った後、
『クラピカ、どうした?』
と、スクワラが電話に出た。
「ああ、少し気になる事があってな」
一呼吸おいて、
「アイリスは今どうしてる?」
と言うと、
『会場へ連れて行ったぜ? 何しろテキサスと待ち合わせしてるとか言って』
「はあ? 馬鹿か貴様は! テキサスは死んでいるんだぞ! 念能力者でもない彼女をたった一人会場に置いてきたというのか!」
『嘘だろ!? だって、アイリスがテキサスは生きてるからって……』
「いつの話だそれは」
『ついさっき、さっきだよ』
スクワラの慌てぶりからすると、スクワラは本当にテキサスの死を知らないようだった。
──アイリスの競売品の蓋が開いたのを、二人で確認したわ。テキサスは死んでる。一応スクワラに護衛をお願いしているから大丈夫だと思うのだけど
センリツが電話口でそんな風に言ったのを思い出す。
だから、テキサスの死を知らずに一人会場に向かった可能性も、誰かの罠に嵌められた可能性も低い。
恐らく、何らかの意図がありスクワラに嘘をついて──
「既にアイリスはテキサスの死を知っていたはずだ。そんな嘘も見破れずによくもまあ、このファミリーに入れたものだ」
『いやだって、アイリスがどうしても出品するって言うから……どうしても連れてけって言うから……』
「そうか。それで念能力者でもない彼女をろくに護衛もせず、競売品と共に貴様はのこのこと外へ連れ出したわけか」
『や、ちゃんと忠告はしたよ! でもどうしてもって言うし……あ、あのな! でもこれだけは聞いてくれ。……アイリスの様子が変だった』
「変……?」
『泣いてた』
くだらない、と一瞬思ったが、スクワラの言葉を聞いてホテルで
その時、アイリスは涙目だった。泣いていたわけではなかったが、目が腫れていたのを覚えている。
「仲間が死ねば耐性のない彼女なら泣くだろう、想像力も無いのか貴様は」
『いや待て、俺の話を聞け! クラピカの話題をふったら……様子がおかしくなった』
(オレの話題を……?)
『それに今回のことクラピカには秘密にしろとか言ってたし……』
クラピカの携帯電話を持つ右手に力が入った。正直、意味が分からない。なぜ突然出品に踏み切ったのか、何を隠しているのか……読めない事ばかりである。
「……わかった。会場に連れて行ったんだな? とにかく私はアイリスを捜す」
クラピカはそう言うと携帯電話を切った。
── 今回のことクラピカには秘密にしろとか言ってた
スクワラの言葉が何度も頭の中で再生されて、行き場の無い苛立ちがクラピカを支配した。
「……くそっ」
ぎゅっと拳を握る。
ふと窓の外を見れば、遠くで煙が立ち上っているのが見えた。ここは恐らく戦場になり、オークションは中止になるだろう。念能力者でないアイリスが屋外に出れば間違いなく命は無い。
クラピカはビルの見取り図を取り出し、右手の薬指の鎖を地図の上にかざした。