誰よりも!何よりも!語り継がれる存在にあたしはなりたいの! 作:UNponpon
「クロード・ヴィクトリアの【称号】は……勇者だと!?」
「へ? 僕が勇者だって!?」
なんの変哲もない村で行われた【称号】の『選定の儀』が大勢の村人の前で行われていた。
そこで、10歳になる村の子であるクロードはお伽噺でしか存在しなかった勇者に選ばれてしまったのだ。
神から与えられる【称号】が勇者だと言われたクロードは村長から告げられた言葉に動揺した。
まさか自分が勇者に選ばれるなんて思いもしなかったからだ。
「何かの間違いではないのですか? 僕が勇者だなんて……」
「いいや、間違いなくクロード。お前は勇者だと神がそう示したのだ」
信じられないといった表情で、口をあんぐりと広げてしまうのも無理もない。
自分より優れた人がたくさんいるというのに、なぜよりによって勇者に選ばれてしまったのか理解ができなかった。
勇者としてやっていける自信はない、と顔を曇らす。
「そんな顔をするなよ、クロード。選ばれるだけの理由があるんだろ」
村に住む見知ったおじさんが、クロードを励ます。徐々にみんなが応援の言葉をかけてくれた。
心が軽くなったのか不安がっていた表情も少しずつ和らいでいき、照れ臭くなったのか笑みがこぼれる。
「ボクが必ず、復活するであろう魔王を倒してみせる!」
10歳の彼は未熟とはいえ、心構えは一丁前だった。だからこそ声を張って宣言をした。
王国の預言者曰く、魔王復活までに時間があるらしい。だから勇者としての力や知識をそれまでに鍛えればいい。
そうみんなを守るために覚悟を決めた顔つきをした。
(ボクはみんなを、世界を……絶対に守ってみせる。聖剣で必ず魔王を倒してみせる)
「それに『英雄』様もいるんだし、魔王なんて余裕なんじゃないのか!」
【称号】が英雄だと告げられたクロードの幼馴染である少女を見ながらガハハ、と笑う男に村の空気が緩み、クロードも思わず笑ってしまう。
(そうだ、ボクは一人じゃないんだ。幼馴染のネロと一緒に戦えばなんだって勝てる)
これは、幼馴染のネロと仲間と共に魔王復活という絶望を聖剣で希望を切り開いていく勇者クロードの戦いの物語!!
ではなく……
(なんでクソ雑魚でなんの努力もしてないアイツが選ばれるのよ!!!!!)
勇者に選ばれなかった英雄ネロの物語である
***
あたしは誰よりも、何よりもずっと目立ちたかった。
その場限りにおいて目立つのではなく、後世に語られるくらい目立ちたかった。
あたしという存在を永遠に忘れられないくらいに名を残したかった。
具体的にいえば、誰もが知るお伽噺に登場するような物語の核となる者──主人公に憧れていた。
その名を聞けば、お大雑把なあらすじを全国民が語れるくらい圧倒的に有名な存在になりたかった。
例えば、『桃太郎』と聞けばどういう話かすぐわかるように。『寿限無』と聞けば、フルネームを言えるくらいに。『アンパン』と聞けば、自然とヒーローを思い浮かべるまでに。
あたしにとって最も憧れるのは、『勇者』だ。
人々の唯一の希望にして、魔王を滅する聖剣を振るうことのできる存在。
まず、唯一無二という点が主人公らしく目立つ。敵との戦いで勇ましく戦う姿も目立つ。ヒロインなど誰かと話しても目立つ。お風呂に入るだけでも勇者として目立つ。
もう何をしても目立つ。それが私にとっての勇者だ。
さらに勇者の死後、勇者の綴った冒険譚は美化され、劇や物語として勇者の存在を知らしめ、魔王が復活した時も、死んだ勇者の冒険を参考にして対抗策を考えるだろう。
もうわかるだろう。『勇者』とは、いつの時代でも誰よりも有名で印象に残る存在なのだと!
残念ながらあたしのいた前世では魔王なんていないし、物語もデータとして残り続けて美化もされない悲しい時代だった。
それでもあたしはせめて歴史に名を残すために、とりあえず政治家になろうと勉強をしていたら、いつの間にか死んだ。
どういうふうに死んだか覚えてはないが、とにかく前世の私の人生はここで終わってしまった。
そして記憶を保持したまま、転生した。
よくある異世界転生というやつだ。前世でも勇者系の話をよく読んでいたからそこまで動揺はしなかった。
名前はネロ・セネット。住んでる所はミルート村。畜産業が盛んなただの田舎だ。
性別は薄いピンク髪の女だった。前世では女勇者よりも男勇者の割合の方が多かったから少し残念だが、まぁいい。
それよりもあたしが転生したこの世界は、いわゆるテンプレ要素が詰め込まれたファンタジー中世系。
よくあるスライムとかゴブリン、ドラゴンもいる。ドラゴンは見たことないけど、ゴブリン程度なら倒したことはある。
そして、この世界にはなんと魔王がいたらしい。お伽噺なので、本当にいるかは知らないけど、それよりもあたしは大興奮した。
勇者が登場したのだ! このお伽噺に! あたしが前世から憧れていたあの勇者が!
話の内容は、仲間との涙あり、別れなり。魔王の幹部と激闘を繰り広げ、やがて魔王との死闘の末、打ち勝つ良くある王道系だった。
日常の小話も仲が良さそうな雰囲気が伝わってきて好きだけど、やっぱり聖剣で敵をやっつける戦闘シーンには憧れるものがある。
もちろん魔法もある。属性魔法や回復魔法、生活魔法まで老若男女問わず、あらゆる場所で魔法が使われていた。
体内に魔力を保有するタイプの魔法が主流であり、外の魔力を変換して魔法を打つタイプはあたしが見た感じ見当たらない世界であった。
残念なことに生まれながらにして魔法の才能が決まる世界らしく、一般的には魔力上限を増やせないところが難点ではあるが……。
あたしは上限を突破する主人公の小説を前世でいくつか読んだことがあり、それを参考にやったら出来たので、特に問題はない。
上限という限界を超えてもなお、成長し続ける勇者は、王道でありながら強くてカッコイイし目立つからとてもいい。
さらにあたしにとって都合のいいことに、詳しい年まではわからないものの、近いうちに魔王が復活するらしい。
魔王が復活するということは、つまり勇者の出番であり、あたしの物語が始まるということ。
そして、あたしが魔王を倒して死んだ後には、話が盛られまくった伝記とか物語ができるんだろうね。
ちなみに勇者になる方法だが、神が人間に定める【称号】勇者に選ばれなくてはならない。
【称号】とは簡単にいうと、10歳の時に将来の職業をこれにしろと神から任命されるものである。
神がその人間にとって最適な職業を選んでくれているので、それ以外の職業に就くことはあまり推奨されないようだ。
そして勇者の条件は、聖剣に選ばれた者が自動的に【称号】勇者が与えられるらしい。
自分の好きな職業に就けないのは前世的に違和感を覚えるが、あたしが勇者に選ばれればいいので問題ない。
ただ、とある疑問が浮かんできた。聖剣に選ばれる前に【称号】貰ったら、勇者になれないのでは? と。
つまり、【称号】をもらう前に聖剣と対面しなければ選んでもらえる機会すらないのではないかと。
それに気づいた当時4歳に私は聖剣が保管されているヴァリアント王国に旅行したいと熱望した。
母親にお願いしても、小さすぎるからダメだと言われてしまったが、今の5歳半の私ならと、改めてお願いしたら連れて行ってくれるらしい。
普段、おねだりしない分、珍しい娘のおねだりに甘やかしたいのだろう。
本当に欲しい物だけ以外を我慢すれば、いざという時に、こうやって快くお願いを聞いてくれる。
何でもかんでも欲しがる図々しい村の友達には出来ないあたしだけの特権だ。
それから私は、小さい身体で村の周りを走りまくって身体を鍛えて、困っている大人を子供の柔軟な思考と称してアドバイスをしたりした。
元気がいっぱいで、他人を助ける勇気、見返りを求めない精神は自他共に認め、将来は強くて優しい子になることが間違いなかった。
聖剣に選ばれる条件がわからないけど、善よりな思考、行動を誰よりもしてれば、選ばれるのではないかと思う。勇者はも心優しい性格の人がほとんど選ばれるし。
だから小さい頃から我儘もないめっっちゃ良い子、優等生してたし、選ばれるに違いない。
というか、そのために今まで良い子を演じてきたから選ばれないと困る。
あ、そうそう。ヴァリアント王国には、幼馴染のクロード君の家族も来るらしい。
クロード君は私が生まれる前から家族ぐるみで仲にいいヴィクトリア家の子供である。
名前的に主人公っぽさを感じたが、貴族や王族にヴィクトリア家なんていなかったし、こんなクソ田舎の貴族が来るわけもない。
それに主人公補正があったとしても、あたしが3割程度の力を出した腕相撲でギリギリ負けたクロード君は私よりもクソ雑魚なので、私を差し置いて聖剣に選ばれることはない。
私よりも強く、聖剣に選ばれそうだったら、当日に毒でも食事に混入させて阻止するしかないが、クロード君が雑魚で助かった。
ヴァリアント王国に行くまでにまだ時間がある。
残りの時間はバレないように鍛錬をして、本を読みまくって教養を深めてその日に備えよう。
待っていてね、聖剣。私がいつか出会うその時まで。
***
「ママ! あたし、ここにいきたい!」
3歳であったネロ・セネットは母親であるメディカ・セネットにおねだりをしていた。
子供が親に旅行に行きたいとお願いする。どこにでもありそうな光景。
しかし、母メディカにとってそれは、動揺する出来事だった。
ネロは生まれつき、とても賢い子供だった。
食事やおねしょをする前に泣く以外は、夜泣きも全くしない手のかからない良い子。
平均的にハイハイや早くて掴まり立ちをする頃には、ネロはすでに立ち上がっていた。
やがて、様々なものに興味が湧く時期には、同年代と遊ばず、ネロはひたすら本を読んでいた。
勇者のお伽噺、聖剣の伝説、称号の秘密といったマニアックなものまで、なんでも読む。
親が頼まなくても、勝手にお手伝いするし、受け答えも完璧だった。
何か欲しいものはないかと聞いても、本以外何も望まなかった。
ある日、メディカは本の中で完結していたネロの世界を広げてほしいと、ネロに外で遊ぶように伝えた。
ネロは嫌がるだろうと思った矢先、すぐに飛び出ていった。
しばらくして帰ってくると、ネロが帰ってきた。家族ぐるみで仲のいいクロードと遊んだらしい。
今まで自分から遊びに行くことをしなかったネロが……とメディカは呆気に取られて開いた口が塞がらなかった。
また、別の日に今度は、おしゃれを教えようと近くの服屋にネロを連れていった。
女の子なら誰もが興味を持つおしゃれに、ネロは見向きもしなかった。
おしゃれの良さを教えても、いらないと答えるネロにメディカはダメもとで、着飾ると誰もがあなたに見惚れるよ、と囁いた。
すると、ハッとびっくりした後、人が変わったかのように服を選んでいく。
ネロが手に取った服は、サイズもぴったりで、とても似合っていた。
おしゃれを知らないはずのネロがなぜ着飾ることが出来たのか今でもわかっていなかった。
両親に連れられる以外、基本的に家で過ごし、生活に必要な行為と両親との会話以外、ずっと本を読んでいた。
ネロはなんでもできるせいか、ただ興味がないだけか、今まで自分から何かを望むことはなかった。
そんなネロが今、初めて子供らしくおねだりをしていた。
ネロは聖剣が眠っているというヴァリアント王国に行って、聖剣を見たいらしい。
母親としては叶えてやりたかったが、ネロはまだ小さすぎた。もしも旅行の道中に盗賊に襲われたらなす術もなく、攫われてしまう。
ヴァリアント王国で迷子になるかもしれない。身長のせいで、肩車しても目的であろう聖剣を見れないかもしれない。
せめて物心がほぼ完成し、ある程度身長が伸びてくる5歳までは連れて行くことを躊躇っていた。
「ネロちゃん、実はね……」
だが、娘の安全のためにもと、罪悪感を覚えながらも、メディカは正直に全てを娘に伝えた。
聞いてる間、ネロは真っ直ぐに母親を見ながら無言で聞いている。
やがて、一通り話し終えると、メディカは娘の反応に怯えていた。
癇癪を起こすのか、駄々をこねるのか。初めてとも言えるようなお願いを拒否してしまったら、母親である私を嫌いになるのでは、と。
「うん、わかったよ、ママ。おおきくなったらぜったいにつれていってね!」
メディカの目は大きく開かれる。拒絶されると覚悟していたが、あっさり引いてびっくりしてしまった。
その代わり……とネロが上目遣いをする。
「明日から毎日牛乳とたまに、鶏肉も食べたいな!」
「っ! わかったわ。これからそうするわね」
ネロは牛乳を飲んで、大きくなろうとする子供らしい発想に思わず笑みがこぼれる。
小さくても初めてのお願いだ。メディカは嬉々とした様子で牛乳を買いに外へ出た。
それから毎日、ネロに牛乳を渡すと一気に飲み干して、どこかへ遊びに行くようになった。
夕食前には帰ってくるが、ある日は汗だくだったり、泥だらけだったり、木の葉が服に散らかりまくったり。
ずっと本を読んでいた頃には考えられないほどに活発になって逆に心配したが、夕食の時に楽しそうに話すネロを見て特に何も言わなかった。
それからメディカが買い物に行くと、ネロに助けられたと声をかけられることが増えた。
聞くと、ネロは困っている大人のお手伝いをしているようで、大人じみた知性で解決してくれるらしい。
その時メディカは、ネロが本を読んでいたお陰だと気づいた。
今もネロは家にある難しめな本を読んでいるが、その知識を人助けに使っていることに、両親に自慢しない謙虚さも兼ね備えていることに感動した。
このことから、ネロはこのままいけば将来、人を導く偉い人になるのだろう、と陰ながら応援することにした。
それからメディカ達は1つ決めたことがある。
一体、娘が何を考えているのか、何を目指しているかはわからない。
ほしいものもやりたいことも特に言わない娘は私たち親をどのように思っているかもわからない。
でも、目指すもの、叶えたいものを見つけたのならば、打ち明けてくれるなら、私たちは全力でサポートしよう。
だからいつか来るその時まで、私たちは温かい目で見守っていこう。
そう決めた。
だから今は──
──娘のなりたいものに成れますように、と。
メディカは、今はただ娘の将来を神に祈ることしかできなかった。
初めてなのでマナーとかルールとか何かおかしいところがあれば、教えてくれると嬉しいです。