誰よりも!何よりも!語り継がれる存在にあたしはなりたいの! 作:UNponpon
『ルーティン』と『ルーティーン』どっちがいいか10分くらい悩んだ。
念の為、クリケットはスポーツの方ではなく、ある食料のことです。
いよいよ、ヴァリアント王国に旅行に行く前日になった。
あたしが4歳から憧れていた聖地へとついに赴くことができるのだ。
ここ数日、テンションが上がって落ち着きがないくらい浮かれきっていた。
ママもあたしに「楽しみなのね」と言ってきたから顔にも出てたのかもしれない。
とはいえ、いつもやっている日常──ルーティーンを忘れるわけにはいかない。
『継続は力なり』ともいうし、続けることは誠実性、忍耐力の証明にもなる。
聖剣がどのようにして主を認めるかは知らないが、少しでも将来の有望性のあった方がいいに違いない。
というわけで、昨日と変わらずルーティーンを始めるとしよう。
朝になって日差しがあたしを照らしながら、ベッドから飛び起きた。
リビングへと行くと、ママが台所で朝食の準備をしている。
覗いてみると、テキパキと動きながら忙しなく動いている。
あたしはまずやることは、料理を予測すること。正確には材料で何を作ろうとしているのかを当てる。
……なるほど。卵とウインナーを焼いている。目玉焼きセットね。
ん、鍋に水を入れて火をつけた。これは、いつもの温野菜を作ろうとしているのか。
昨日、買い物かごに野菜が少なめに入れてあった。旅行に行く前だから普段より量が少なかったのだろう。
作る料理は大体わかった。後は──
「おはようございます、ママ。あたしも手伝うね」
「おはよう、ネロ。いつもありがとうね、今日は……」
「目玉焼きと温野菜と焼きパンでしょ。野菜持ってくるね!」
「いつもよくママが作る料理がわかるね、本当にすごい」
どうやらいつも通り、当たっていたらしい。当然ね。
ママが朝食に作るレパートリーは10パターンくらいだから、何年も過ごせば覚えられる。
そして小さい子供であるあたしには、野菜を持ってくること、柔らかい野菜を切ることしかできない。
例え、やることが小さいとしても、やらないよりはマシだし、善行も積み重ねれば大きなものとなると思う。
だから、毎日ママのお手伝いをしている。
「おはよう、ネロ、メディカ」
「おはようございます。パパ! 朝ご飯できたから早く食べよう!」
やがて朝食を作り終えるとリビングにはパパがいた。
パパは、ミルート村が属するアグリカル共和国の騎士団に勤めている。しかも上位の実力らしい。
身内に戦闘技術を持つ人間がいるのは運が良かったとしかいえない。
しかも勇者になるためには必須と言っていいほど、必要な剣の達人だった
あたしはいつの日か父に剣を教えてもらうことを約束している。
最初は女の子が……と躊躇していたが、上目遣い&抱きしめ&可愛くお願いしたら陥落した。小さい女の子には誰も逆らえないのだ。
身体の発達を阻害しない程度に6歳から始めてくれるらしい。鍛えてくれるだけでも感謝だ。
ママとパパとの団欒を楽しみながら、食事をとる。
パパはよく騎士のお仕事の話をしてくれる。訓練だったり、教育だったり、悪い人を捕まえたり。
あたしを騎士にさせたいのか、笑顔で話すパパにママは相槌を打ったりして微笑んでいた。
パパの目論見は残念ながら叶うことはないけれど、身体の鍛え方、動かし方、捕縛術などは本当に参考になる。
勇者として身体を鍛えるのは当たり前だが、悪人を殺さずに捕まえることでは心優しい勇者として、また一つ物語が生まれるだろう。
「あたし、クロード君に会いに行ってくるね」
「夕飯前には帰ってきてね、明日は朝早いからはしゃぎ過ぎないように」
牛乳を飲み干して食事を終えて、旅行の準備を最終確認する両親を手伝いたかったが、子供のあたしにできることは特になかったので、外に出ることにした。
クロード君と会うのは、旅行に一緒に行く仲として少し話した方がいいと思ったからだ。
あとは、クロードの母親が作るクリケットクッキー目当てでもある。というかほぼそれが目的となっている。
身体にキツイ負荷を掛けるのは身長に影響を及ぼすとはいえ、下地は整えたい。
なので、タンパク質豊富なクリケットクッキーは実質プロテインクッキーであり、あたしにとっては大変ありがたいものである。
クッキーを貰えるのは、家に入って椅子に座った直後にくれる。これはプロテインを摂取するのに最適な筋トレ直後から1時間のゴールデンタイムでもある。
ということで、筋肉をつけるためにも、いつも通りクロード君の家までは全速力で走ることにした。
***
「ハァ……ハァ……やっぱり……10分近くの全速疾走は、キツイ……」
身体が悲鳴をあげそうなくらい疲労困憊している。適当な場所を毎日走っているとはいえ、まだまだ心に身体が追いついていなかった。
まぁ、それは13歳くらいの成長期のいくら動かしても身体が壊れない時期に追い込むとして、今は呼吸を整えよう。
酸素を求める肺をねじ伏せて、口呼吸から鼻呼吸へと戻していく。
心臓がバックンバックンうるさいけど、これがまたあたしの肺を強くするのだ。
今は、これでいい。肺を鍛えていつかは無呼吸運動を始めるための準備として考えているからこれでいい。
数滴流れた汗も軽く拭いてから、ヴィクトリア家のドアをノックした。
「あらあら〜いつぶりかしらね、ネロちゃん」
「5日ぶりです、グレーネさん。クロード君はいますか?」
クロードの母親であるグレーネさんが艶のある灰色の髪を揺らしながらあたしを出迎えてくる。
あたしは要件であるクロード君のことを尋ねた。
「えぇ、今は明日の旅行に備えて自分の準備をしてるわよ。クロード! ネロちゃんが来たわよ〜! さぁ、中に入って入って」
「ネ、ネロちゃんが来たんだ……。待って、今行く」
相変わらず自身なさげに返事をするクロード君の声を聞きつつ、あたしは家へと入る。
日光が差し込むリビングの隅には纏まった荷物が置いてあり、すでに旅行の準備が完了していることが窺える。
木製の椅子に座って、疲れている身体を休ませているとクロード君が向かいの席に座ってきた。
「ネロちゃんは準備は終わったの? 僕はまだ終わってないや」
「クロード君が真っ先に玄関のドアを開けてくれないからそうだろうと思ったわ。まだ時間はかかりそうなの?」
「うん。まだ何を持って行こうと悩んでて……」
何に悩んでいるのかはわからないけど、クロードの反応的に大したことじゃなさそうね。
どうせ子供らしくおもちゃを何持っていこうか悩んでいるのでしょう。聖地に行くから遊ぶ余裕なんてないのに。
心配する様子も、心優しい勇者の幼少期エピソードとして後世に刻まれるのでグッド!
観光したい場所について雑談していると、グレーネさんがお待ちかねのクリケットクッキーを持ってきた。
「ん〜〜!! グレーネさんのクッキーは全身が欲しがるのがわかるくらい美味しい!!」
「ふふっ、いつも美味しそうに食べてくれて嬉しいわね。可愛いネロちゃんのためなら毎日焼いちゃいたくなるわ」
「えぇ!? こんな美味しいのが毎日食べれるなんて。あたしはとっても幸せね!」
「あら、お世辞でも嬉しいわね〜。ありがとうね」
お世辞でもなく、ホントに毎日食べたい。そのためなら全力で褒めるし、家族以外に滅多に見せない笑顔だって見せます。
お菓子というか料理全般が前世より劣っているからか、あたしにとって美味しいものがそもそも少ない。
そんななかで、このクリケットクッキーは美味しい部類に入るので好きな食べ物の上位に君臨する。
そして、原材料が虫なのでタンパク質が肉よりも豊富で筋肉にもいい。そう、筋肉にいい!
筋肉を増やし、聖剣を棒切れのように振り回すことで、聖剣の力に振り回されていた初代勇者よりも優れた存在だとアピールできる。
聖剣をいずれコントロールしていく物語も悪くはないが、あたしがやると二番煎じになんてしまう。
だったら最初から使いこなしていく方が映えるし、かっこいい。
お伽噺になったら『彼女は生まれた時からすでに勇者だった……』と語られるのでしょう。
あたしは将来の妄想で頭がいっぱいになった。
「変な顔してどうかしたの? ネロちゃん」
「変な顔? もしかしたらこのクッキーがいつもより美味しかったからかもしれないわ。気持ち悪かった?」
「そんなことないよ! その……可愛かったし」
「そう、ならよかったわ……あたし、そろそろ帰るね」
妄想に夢中で顔がニヤけてしまったのか、クロード君に指摘されてしまった。恥ずかしい。
それよりもクロード君が可愛いって言うなんて……。気持ち悪い悪寒がしたあたしはつい、帰ると言ってしまった。
顔色を変えずに言ったとはいえ、これじゃあまるで、『変な顔をしていると指摘されて恥ずかしくなった彼女は家から出てしまった』となってしまう。
あたしは、主人公に惚れる逃げヒロインじゃない。勇者になる主人公があたしなの。努力もしない脇役が出しゃばるんじゃないわよ。
「明日の早朝にまた会いましょうね、ネロちゃん」
「はい、明日からよろしくおねがいます。……クロードもバイバイ」
「もしかして、ネロちゃん怒ってる?」
「怒ってないんですけど何か? あたしもう行くね。それじゃあね、バイバイ、さようなら」
「う……うん、また明日ね、ネロちゃん」
恨みを込めてクロードを睨みつけて、グレーネさんの帰ることを伝えると、お土産にクッキーをくれた。
あたしは貰ったクッキーを生まれた子鹿を持つように大切に持つと、あたしは胸に残るモヤモヤにイライラしながら家へと帰っていった。
家に帰ってもやることがないあたしは本を読み始め、早朝から旅行に行くからと、パパに早めに寝かされた。
もちろん、寝る前の牛乳とクリケットクッキーは忘れずにね。
***
ボクこと、クロード・ヴィクトリアは実はみんなに内緒にしていることがある。
これは母さんにも父さんにも誰にも言っていないこと。
実はボクは転生者なのだ。トラックに轢かれて神様にこの世界を救えと言われてから、この世界で過ごしている。
まるでテンプレみたいな転生だったけど、ボクがまさか転生できるなんて夢心地だった。
しかも、身体強化のチートを貰えた。ボクの普段の力を10倍まで引き上げて力を扱えるようになるらしい。しかもデメリット無し。
これで神が言うにはこのチート(この世界では異能)を持つことで誰にも扱えないという聖剣を扱える資格を貰えるようだ。
つまり、ボクが勇者になることは約束されたも同然であり、人生勝ち組確定なのだ。
しかもボクには、可愛い幼馴染がいる。名前はネロちゃん。
ピンク髪の左右に伸びるツインテールが特徴的な赤みがかったオレンジの瞳の美少女だ。
控えめに言ってとても可愛いし、勇者の幼馴染みとしてよくある展開で僕は興奮した。
そしてなぜか彼女はとても強い。
腕自慢なところを見せつけようと大人をチートで8倍に引き上げて、瞬殺していたところにネロが挑戦してきて、接戦の末、敗けたくらい強かった。
だけど、そんな力を持ってしても優しい性格でボクの好みのツンデレだ。デレ要素は少ないけれど、そんな彼女が好きだ。
今日だってボクの家に遊びに来たし、周りには見せないような笑顔で美味しそうにクッキーを食べていた。
ボクが準備できてないか心配してくれたし、ボクたちだけに笑顔を見せてくれるなんて。
可愛いと褒めたら、冷たさを感じる視線を僕に送りながら、さっさと帰っていった時は特にツンデレだった。
怒ってないフリもまさにツンで良かった。バイバイ3段罵倒も照れ隠しだと思うと可愛くてしょうがない。
少なくとも彼女がボクに気を持っているのは確かだ。僕は将来の勇者だし、ある意味当然とも言える。
もしかすると、前世でよく見たハーレムの一員になるかもしれない。
いずれ復活するであろう魔王をぶっ倒す頃にはどのようになっているか楽しみだ。
全人類からヒーローとして憧れて、女の子はボクに惚れて、王様は僕に感謝を伝えて褒美を与えるだろう。
もしかしたら、僕を王様にしてくれるかもしれない。自分だけの王国。転生系のラストらしくていいや。
明日は、聖剣が保管されているヴァリアント王国に行って、もしかしたら聖剣が反応するかもしれない。
ボクが聖剣に選ばれたと知ったらネロはきっと驚いて好きになるに違いない。
だって、ネロが勇者が好きなのは知っている。本人は否定しているが、勇者の話は絶対に真剣に聴くネロを見ればすぐわかる。
ボクが勇者だと知ったネロの様子が楽しみで仕方がない。
とりあえず、明日何が起こるか期待を膨らませながら、僕は明日に備えて眠った。
人のセリフを小説に入れるの難しいな、うん。
ストックはもう使い切っちまった……
クリケットは、とある虫です。秋にチロチロ鳴いてるやつです。可愛いですよね。
部屋で飼えば秋を身近に感じられて、死んでもタンパク質豊富で一石二鳥。
タグに『チート』『幼馴染』を入れたほうがいいのかな……