誰よりも!何よりも!語り継がれる存在にあたしはなりたいの! 作:UNponpon
家具屋でソファを買おうとしたら、常に6人くらいの店員さんが私の近くを歩いていて、ロックオンされているみたいですごく怖かった。電気屋さんよりもエグい対応に、人見知りの私は満足に座り心地を確認できないまま、お店を出てしまった。
書きたいシーンや妄想を取捨選択するのは、とても難しくかなり時間がかかってしまった。しかも過去最長の文字数になっていた…
──これは紛れもなく聖剣だ。
あたしが聖剣を見た最初の感想がこれだった。
お伽噺で描かれていた聖剣とそっくりだが、レプリカではないと断言できるほどの貫禄を感じられる。
まずは大きさ。かつての勇者が両手で扱うとされていた聖剣は、あたし達の身長よりも長大であった。大剣と呼ばれるであろう剣が持つ重厚感や力強さがひしひしと伝わってくる。
次に形容。あたしの知る鍔と剣身の幅が同じくらいの大剣ではなく、片手剣をそのまま巨大化したような鍔の広さであり、剣身の幅より1.5倍くらい長めだ。この鍔で大型魔族の攻撃を受け止めながら戦うシーンは、勇者の剣の技術と受け止めるだけのタフさを認識させた功績を持っている。
また、鍔が重くなったことで剣の重心が手元側に寄って剣が振りやすくなっているのも利点もあった。
そして、装飾。ルミエール教会の特徴である『純白』を中心として、刃先や剣身の中央の一部、鍔がきらりと金色を放つ。さらに、この検診は中央の白い芯のような物以外は透き通っていて、この世のものではないことを証明しているようにも見えた。
鍔の中心には白い宝石が埋め込まれていて、そこから強い力を感じるので多分力の源なのでは? と勝手に予想してみたり。
透明とも不透明とも言えるような絶妙な色彩、白と金とのコントラスト、鍔の宝石に秘められた強大な力。少なくとも人の手で作られた物だとは考えにくい。
ステンドガラス越しに照らされているはずの聖剣は、その透明感からか逆に光を自ら発しているようにも見える。
勇者が戦闘で傷ついた患者を癒す際に、聖剣を神々しく輝かせながら回復魔法をかけ、患者が眩しさから閉ざした目を開けると傷がすでに癒えていたという伝説から『癒しの太陽』なんて呼ばれていたが、魔法を使っていないにも関わらず、すでに光が出ているのだから、実際に使ったら本物の太陽のように光り輝くのかもしれない。見栄えもいいし、傷を一瞬で回復させる勇者の特異性がよく目立っていいね。
視界を下に移動し台座の方に目をやると周りは背の丈より大きい格子状の柵に囲まれているが、何かの文字が刻まれている。普段使う文字ではなく、魔王討伐後から使われなくなった古代の文字だった。
残念ながら古代文字は、勉強途中で簡単な単語と読み方くらいしかわからない。
勇者になるなら古代文字くらい読めて当然、当たり前だと思うかもしれないけど、何故か古代文字の研究が全く進んでいないんだ。マジで本当に何も進んでいない。どうやら古代にロマンをかける熱い人間はあんまりいないらしい。
そのため、そもそも家にある資料が数冊と少なすぎて満足に勉強ができないのも事実。
王都の本屋でも探したけど、本棚の奥の端っこにあるボロボロな本1冊しかなかった。でも挿絵が勇者の御伽噺とそっくりだったからお小遣いで買った! ボロいという理由で格安で売られていたのはラッキーだったし、本のカバーもくれた。見た目も新品みたいになって最高の買い物をしたと気分も上がる。
内容は多少は似ている部分もあるだろうし、今のお伽噺と照らし合わせて自力で翻訳でもしてみようとまた1つやるべきことが増えた。
穴だらけの解読技術のため、ほとんど読めなかったけど幸いにも聖剣の名前は目立つように囲ってあり、固有名詞だからかなんとか読めた。
聖剣の名は『アポトロン』というようだ。お伽噺にも聖剣としか書かれていなかったので、聖剣に名があることに驚いたけど、ちゃんとした名前を知れて、理解が深まったことに嬉しくなった。
あたしは誰も読めていないであろう聖剣の名前を教えてあげようと顔を両親へと振り返った時、ママの口が僅かに開いた。
「ここに眠るは聖なる剣『アポトロン』ねぇ……」
誰にも聞こえないようにボソッと小さな声で、そう呟いたのをあたしは聞き逃さなかった。
「ママはこれy……」
ママはあたしが喋ろうとしていた口を咄嗟に手で防ぎながら、しぃーッと指を立てながら無言の圧をかける。
神聖な場所で声を出すな、ということだろうか。いつもならありえないママの行為に、あたしは黙り込むことしかできなかった。
しばらくすると、ママが屈んできて耳元でごめんね、とささやいてきた。
「ふぇ!?」
耳元にママの吐息が吹き込まれ、全身の力が抜けるほど気持ちよく大きな声が出てしまった。その結果、部屋にいる全員があたしの方へと顔を向ける。恥ずかしさのあまり顔を俯かせるが、物音が全く立たないこの部屋に嫌というほど声が反響してきてそれがあたしの羞恥心を助長させた。
「ネロちゃん、変な声あげてどうしたの? 虫でもいたの?」
こんな厳かな場所に虫なんているわけないでしょ! 機嫌が悪かったあたしは、思わず怒鳴りそうになったがぐっと堪え、何でもないという風に苦笑いで手を振り、首も振った。あたしの様子を見兼ねてか、グレーネさんがあたしを呼んでくる。
「さぁ、こっちにきて世界平和をお祈りするわよ」
グレーネさんに手招きされ、聖剣に触れられないようにする柵へと寄った。
目の前で見る聖剣は、さっきよりも全然違うもののようにも見える。
白く輝いているように見えた聖剣は、見る角度を変えなくとも赤や青、黄色が現れたり消えたり。半透明ながら幾重にも色が重なる様はまるでオパールのようだ。その虹のゆらめきは美術品の価値が出るくらい神秘の輝きであった。
隣に顔を向けるとママ達が目をつぶり無言で手を合わせている。グレーネさんと同じようにお祈りを捧げていた。 あたしはみんなに合わせるように手を合わせてお祈りをする。
この世界は面白いことに世界平和は神様ではなく、人類最悪の魔王の脅威から救った勇者に関連のあるものに祈祷するらしい。
実際に世界を救ったのは勇者だということを昔の人間が認識したからだろうか。そのため、最も勇者に縁がある聖剣が最高の聖地となっていて、大規模なルミエール教会に保管されるようになったようだ。
つまりだ。あたしが勇者として魔王を倒せば、あたしの遺品が永遠に奉られることになり、世界平和の象徴として永劫に崇め奉られるに違いない。
あたしの所持物の数々が、後世においてあたしの存在の証明であり、肯定するものとなる。架空の存在としか思えないのに、実在した証明が数多ある人間。祈念する文化が無くならない限りは誰もあたしを知らないまま死ぬこともないし、忘れることもない。それってとても素敵なことだと思うんだ。
といってもあたしの願いは勇者になって魔王を倒すことであるため、馬鹿正直に世界平和よりも世界の混乱を祈ると最低な人間扱いされてしまうだろう。
なので、あたしは聖剣に選んでもらえるように、志と真剣な思いを届けなくてならない。
(……聖剣アポトロン様。どうかあたしを選んでください。
あたしは今まで勇者になるために勉学に励み、肉体を鍛え、交流を盛んに行なってきました。古代文字の習得にも挑戦しておりますし、魔力保有量も日々血反吐を吐く思いで伸ばし続けています。
全ては来たる魔王復活に備え、人々の安全と世界の平和を守るために。
魔王を倒すためにはアポトロン様の力が必要です。どうかあたしを勇者としての力を貸していただきませんか?)
なのであたしは努力、目標、理由、意思を簡潔だが心の中で伝えた。
あたしの願いの言い回しを変えただけだが、人を守ることや平和については本心に近い。人がいなければあたしの存在を覚えている人間は少なくなり、平和でなければ人々が物語を楽しむ余裕もなくなる。あたし自身ものんびりとした平和は好ましいから割と素直な意思でもある。
そうしてあたしの祈りに感銘を受け、ついに聖剣があたしを選ぶ──ことはなかった。代わりに何かアクションが起きたり、変化が生まれることもなかった。
……今のあたしの力でもまだ条件を満たしていないのか、それとも10歳未満は選考対象外なのか。後者はともかく、前者なら剣の心得のないからかもしれないね。なら10歳までの残りの期間を全力で鍛えよう。
「ネロちゃんも、クロードも早く行くわよ」
「わかったよ、母さん。ネロちゃんもいこ」
クロード君に手を引かれ、名残り惜しむように聖剣に背を向けた。
ママ達はすでに部屋から出て先に階段を登って行ったらしく、姿が見えない。少しくらい待ってもよくないですか?
改めて聖剣を見ると、柵に囲まれた聖剣は白く輝いているだけで何も変化はなかった。
あたしと聖剣。手を引かれ空いた距離があたしの近づける限界であり、それがまだあたしが勇者の素質や条件を満たしていないということを示しているようだった。
──必ずあたしが貴方に相応しい持ち主になってみせる。だからそれまであたしのことを待ちなさいよね
聖剣を睨みつけるように注視しつつ、決意を胸に秘めた。
とりあえず、現状維持だと物足りないことが判明した。お伽噺だと勇者が現れた時に台座から尋常じゃないくらい光っていたらしい。しかし、今は微弱な光を発しているように見えているだけで可愛らしく光っているだけだ。
ここから考えられるのはただ1つ。現状維持では勇者として認められないということか。ならあたしはより、危険を顧みずに高みを目指すしかない。
そうだね。例えば次に会う時までには、全人類に勝てるように、危険で気が進まなかった肉体の改造と今までの比にならない魔力保有量の上限解放。改造で得た睡眠時間短縮による教養の底上げなどなど。
かなり辛いだろうな。でもこんな決心しなきゃ勇者になれないかもしれないんだ。そう考えるとお伽噺の勇者はすごいよ、あたし自身の夢のためではなく、人のために魔王を倒すために頑張れるのは尊敬の念しかない。
だから勇者より強くなろうと肉体は凌駕できたとしても、精神は叶いそうにない。生まれつきのこの打算的な考えは死んでも治らなかったわけだし、もし仮に精神を改善させるには記憶消去か人格崩壊して新しくあたしを作る方法しか思いつかない。鏡に向かって『あたしは勇者だ』って自己洗脳でもするのもありかもね。……これは流石に最終手段だけども。
「わっ! 眩しっ!」
あたしが危険を度外視して今後の未来設計図を劇的に変えようと思考を膨らませていると突然、聖剣が強烈な光を放ち、突然目の前が真っ白に染め上げられる。クロード君が声をあげ、あたし達は咄嗟に手で目を覆い閉じる。クロードがぶつぶつ何かを言っているが、その間も光が収まることはなく、放ち続けている。
閃光によって視界を奪われることを想定し、太陽を直視する訓練をしてもなお耐えきれないレベルの光で、視力悪化や失明するんじゃないかと心配になっていると──
『そなたが今代n……』
ザザッ……
中性的な声が聞こえてきた。耳というより脳に直接話しかけられているような気がする。ノイズ音を皮切りに聖剣の声が全く聞こえなくなった。
こんな芸当ができるのは聖剣しかいない、とあたしはすぐに導き出した。もしかするとあたしの決意に応えてくれたのかもしれない。
やはりそうか。あたしには覚悟も努力も何もかもが足りなかった。
いや、今までが生ぬる過ぎたのか。安全に10歳まで成長させることが目標だったけどダメだよね。そうだよ、お伽噺の勇者は生きるか死ぬかの命を懸けた戦いをしているのに、あたしのキツイだけの鍛錬では甘すぎるんだ。
それもそうだ。今のあたしの決心したばかりの精神に応えてくれたのであって、身体も精神も未熟そのもの。むしろ声だけ聞かせてもらったのは、今後のモチベにもなるし、非常にありがたい。
いいよ、聖剣アポトロン。貴方があたし以外選ぶ迷いすら生まれないようにしてやる。先代の勇者も余裕で超えるし、目立つ貴方をおまけ扱いできるくらい最高の
──だから、絶対あたしを選べよ、アポトロン
***
「わっ! 眩しっ!」
聖剣が突如として光が襲いかかってきて、ネロちゃんと違って反応が遅れたボクは目が焼けるように痛くなってから、ようやく手で隠した。一体何が起きたのかわからないまま。動揺しているとどこからか覚えのある声が聞こえてくる。
「それは聖剣が勇者に反応して光が生じているのですよ、クロード」
「この声は女神様? お久しぶりです」
「えぇ、貴方がここへきた時以来ですね。あと脳に直接話しているので小さな声で大丈夫ですよ」
ボクが死んで転生した時にお世話になった女神様がボクの疑問に答えてくれた。ボクの記憶から消えそうなくらい久しぶりの女神様だった。
「ボクに何か用ですか?」
「そうですよ、魔王を倒す代わりに
「もちろん覚えていますよ。『ボクを勇者として仲間と協力して魔王を倒し、みんなからチヤホヤされたい』を叶えてくれるんですよね」
「その通りです。私は貴方が勇者になる条件を今から満たそうと話しかけにきました」
ボクの望みを忘れていなかった女神様は、ボクが勇者になるためにわざわざ駆けつけてくれたらしい。魔王を倒すために女神様が珍しく素質があるらしいボクを勇者にするためにも必死だな、とボクは他人事のように思っていた。
「今から何をするんですか?」
「貴方を聖剣に選ばれることが勇者の称号を得る条件なのです。今から聖剣に貴方を選ぶように調整させます。しばらく待っていてください」
女神様の声が途絶え、ほんの少し立つと別の声が聞こえてくる。
ザザッ……
『……いの勇者に相応しい。鍛え上げられた肉体。物事を冷静に捉える精神。慢心せず向上心溢れていs……』
チャンネルが切り替わったかのように、声が途中から聞こえてきたが『勇者』というワードは聞き逃さなかった。
聖剣に選ばれるように女神様がしてくれたのか。聖剣から声が聞こえるなんてファンタジー!
声が萎むように消え、ちょっと経つと声が戻ってくる。
『女神に選ばれし勇者よ。名はなんと申す?』
「ボクはクロード・ヴィクトリアです」
『……クロードか。そなたの名は覚えたぞ。ではそなたが10歳になることを楽しみにしておるぞ。では、さらばだ』
「聖剣さん。ちょっと待ってください」
『……なんだ?』
「聖剣さんが最初に言ってた肉体が鍛えられてるとか精神とか、あれはどういう意味ですか?」
肉体は女神様から10倍まで力を引き上げる能力をもらったし、精神は人生二周目で前世は確か……何歳で死んだっけ? 覚えてないけど実年齢より歳を重ねているのは確か。この聖剣はボクの転生した事情を知っているのか、と聞きたかったが……
『すまぬが、我はそのように言った記憶はないな。我が人を褒めることはないし、褒めるとしても我が必要でないほど強い人間のみだ。そなたは力は確かに全盛期の勇者を超える力を秘めているが、魔力保有量も我が強化する前の先代の勇者並みである。精神に至っては普通であるが……そなたの聞き間違いではないのか?』
「絶対に言ってましたよ」
いや、結構力説してたよね。向上心とかなんとか色々言ってたよね? なんだツンデレか?
『だが、本当に覚えがないのだ。……そもそもなぜ我はそなたに声をかけたのだ? 女神様に選ぶように命令されたとはいえ、声をかける道理はないはずだが……』
「でも、こうしてお話できているよ。ボクが女神様から選ばれた勇者だから自然と話しかけてくれたんでしょ」
『本当になぜなn……』
ザザッ……
『そうだったな。女神様に選ばれた勇者に声をかけたくなったのだったな』
ほら、誤魔化しきれなくて本音が出てきたよ。やっぱりツンデレじゃないか。
『もう用件は済んだか? ではさらばだ。あと、聖剣さんではなく、アポトロンだ』
そう言って聖剣──アポトロンからの声は消え、それと同時に光が弱まって完全に消えた。
光が収まったのを確認すると、ボクたちは恐る恐る目を開けた。部屋の様子は何も変わっていなく、まるで幻だったのではと思うほどの自然さだ。
夢見たいな体験だと鑑賞に浸っていると、背後から肩へぽんぽんと叩かれた。
そこには顔を赤く染めながら、そわそわしているネロちゃんがいた。顔を合わせずらいのか下を向きながらボクに話しかけてきた。
「さっきのこと、夢じゃないよね? クロード君も見てたよね?」
「うん。聖剣が目を開けられないくらい光ってたよね。しかも長時間」
「そっか。やっぱ現実だったんだぁ〜。そっかぁエヘヘ」
ネロちゃんが今まで見たことがないくらい、だらっとニヤけていて嬉しさが溢れ出ているようだった。それがボクにも伝染してきて勇者に選ばれたことを思い出して、思わず笑ってしまう。
「クロード君も嬉しかったんだね、聖剣が光って」
「それもあるけど、それ以上に嬉しいことがあったんだ」
「……そうなの? 何かあったの?」
「ん〜秘密!」
「……そう」
一瞬、真顔になったネロちゃんになぜか恐怖を覚えたが、再び笑顔になって部屋の出口へと歩き始めた。ボクも慌ててついていく。
二人だけの空間には足音だけが響き渡る。コツコツと反響する足音を背景に聖剣の言ったことに疑問を覚えていた。
ボクの肉体は、お伽噺の勇者より力が強いけど、それ以外は平凡だという。それなのになぜアポトロンは肉体や精神を称賛するようなことを言ったんだ? それこそ他の人よりも強いとはいえ女神様に選ばれただけのボクに声をかけるだろうか? アポトロンが声をかけるほどのボクより強い10歳未満の子供はいるのか?
………………1人いた。ネロちゃんだ。腕相撲でボクにギリギリ勝ったから力はネロちゃんの方が強い。ボクよりも魔力保有量は生まれつき多かったけど勇者を超えるほどの魔力は持っていなかったはずだ。では精神はどうだ? 周りの子よりは落ち着いているけど、両親が大好きな普通の子にしか見えない。向上心なんて勇者のお伽噺が特に好きなだけの読書家だ。
…………やっぱ気のせいか。ネロちゃんはアポトロンのお目にかかりそうにない、ただ力がめっちゃ強いだけの普通の美少女だった。
前を歩くネロちゃんを見る。ステンドガラスから降り注ぐ穏やかな陽光は、ネロちゃんを照らしだし、教会の神聖さも相まってまるで天使のようだった。
ネロちゃんが部屋の出口を潜る前に足を止めた。ボクもそれに合わせて止まった。ボクとネロちゃんの2人きり。呼吸音以外、無音そのもので、緊張感が生まれる。ネロちゃんがボクの方に振り返り、ボクの方へと近づいてくる。彼女の顔は無表情であって、顔色豊かな彼女からは見たこともない無だった。
「ねぇ、クロード。1つお願いがあるの」
感情の伴っていない冷徹な声に一瞬誰かの声かと疑いたくなるほど、彼女の口から発せられたと否定したくなるほど、冷たい声だった。ボクは無意識のうちに後ずさった。ネロの様子にボクは恐怖を覚えてしまっていた。
そんなボクの様子を気にせず、目の前に立ち止まった。彼女がどういう顔をしているか見られなかった。怖いという感情がボクの心を支配する。
「それで返事は? それとも聞こえなかった?」
「ううん。聞こえてたよ。もちろん叶えられる範囲ならなんでも」
ボクはなるべく恐怖を悟られないように平然とした様子で返す。ボクは一体何をしてしまったのだろうか? いつも通りだけど何か悪いことでもしたのか? ボクには全くわからなかった。
「じゃあ、耳貸して?」
ボクは言われるがまま、ネロに耳を向ける。人には言えないことなのか。でもここに人はいないからわざわざこんなことする理由がない。
彼女の吐息がボクの耳に撫でるように触れ、くすぐったかったが、必死に我慢した。ここで多分怒っている女の子に刺激を与えるのは良くないと知っているからだ。何を言われるか不安に感じる。
「あのね、クロード。今日のことあたし達だけの秘密にしない?」
「え?」
あんなに不機嫌丸出しだったネロちゃんのお願いがそんなこと? ボクはつい、声が漏れ出てしまった。
「アハハハ、驚いた顔してて面白いね。そんなにあたしが怖かった?」
フフッ、とイタズラに笑うネロちゃんを見て、ようやく彼女がボクに演技をしていたことに気づいた。
「ひどいよ、ネロちゃん! ボクがどれほど不安だったか」
「ごめんね。秘密って言われて悲しかったからその仕返し! あと、変な声出した時にこっち見たのも」
「ネロちゃんは怒ってないの?」
「そんなことで、キレてたらキリがないでしょ。それに今のでスッキリしたから別になんとも思ってないよ」
気にしてないよ、という風に呆れ顔で肩をすくめるネロちゃんを見てボクは心底安心した。イタズラの理由もとても可愛いらしくて、心の中でこっそり笑う。
「それで、さっきのこと秘密にしてくれる?」
「うん、いいよ。ボク達だけの秘密だよ」
ボクはそう言って、握り拳から小指だけを突き出した手をネロちゃんの前へ向ける。ネロちゃんは首を傾げ、ボクの顔を困惑気味に見つめる。あ、そうか。
「これは『指切りげんまん』って言ってボクと同じような指にして、小指を絡み合って約束の誓いを立てるんだよ」
「……こう?」
「そうそう、上手上手。これでボクが歌うから終わるまでは手を離さないでね」
そう言って、小さい頃、前世でやった誓いをネロちゃんと一緒にやった。彼女は眉をひそめてたけど、一応最後までやり通してくれた。
「これ何か意味あるの? 針千本って何? 魔法で飲ませるの?」
「違う違う。ただのおまじないだから気にしないで」
頭に疑問符が出て来そうなくらいに当惑していたけど、そんなに深い意味は考えなくてもいいよ。ボクはそう伝えると怪訝ながら納得してくれた。
「さぁ、早く母さん達に追いつこう。待ってるだろうし」
ボクはそう言ってネロちゃんの手を握って引っ張った。彼女は納得のいかない表情だったけど大人しくついてきてくれた。
長い螺旋階段を登っている間、ネロちゃんが心細いからか力強くボクを握りしめてくる。少し薄暗い階段に怖くなったのか自然と力が入ったように感じる。結構痛いけど我慢我慢。ここで手を振り解いたら、拒絶されたと心を痛めてしまうかもしれない。だからボクは黙って痛みを我慢した。
ボクはネロちゃんに頼られたことと嫌われてなくて良かったという安堵と勇者になれることが確定した喜びから、気分が最高潮に上がっていた。
そして気分に乗ったボクは勇者としての未来の像を思い浮かべていた。
もしも魔王が復活する前に学園に通えたら、勇者だから前世で見たように色んな女の子とかと関わり合えて、剣の技術や教養を学んで。
魔王が復活して、村がもし襲われててボクが助けたら、勝利の主役として崇められて。
魔王を倒し終わったら、その栄誉ある功績にあらゆる褒美や名声が手に入って、女性にもモテまくって人生薔薇色間違いない。
ボクを勇者にしてくれると約束してくれた女神様のおかげだ、ありがとうございます!
ボクの輝かしい勇者の未来へ胸を膨らませながら階段を登るボクは──
「負けないから」
──小さく呟いたネロちゃんの言葉を聞き取ることはできなかった。
ストーリーの重要なシーンであるため、色々悩みながら消したり書いたりしてました。本当はエイプリルフールの次の日に投稿したかったけど、クロード視点入れようと思い立ったのが原因です。その結果。書いてたら9000字越えしてしまって、正直驚いています。分割すれば良かったかな?
聖剣とか教会の名前、固有名詞を決めるのは正直すごく苦手で、聖剣の名前は特に最後まで全く決まりませんでした。聖剣の口調はすぐにイメージがついたから書きやすかったけども……
最後の伏字は見れないとは思いますけど、大した意味はないです。
読み直していますが、私の妄想で文の欠陥を補完している場合があります。わからない部分は質問を下さると助かります。
前回のと別のAIにネロちゃんを書いてもらいました。こっちはなかなかうまくいかなかった。
【挿絵表示】