12月31日。
一年の終わりを告げる日。
労働が尊いものとしている我が国も、今日ばかりはどこも閉めていることだろう。
いいや、嘘だ。
コンビニはいつもどおりやってた。
今日もありがとう。今日もお世話になります。24時間営業お疲れ様です。
彼らに足を向けて眠れない。
そんな事を思いながら、ボクは炬燵に入り、年末特有の笑ったらダメなヤツを見ていた。
今日ばかりは何もしたくない
忙しい日よバイバイ。頭を使いたくない。何にもしたくない。このままゆっくり、寝たい気持ちでもある。
実家最高。
正月休みも貰い、実家に帰省したのはいいが、何もやることがない。
このままではモンスターが生まれる。何もしたくないモンスターが誕生してしまうが構うものか。ボクは何もしたくない。実家に帰って、いい年して母さんに甘えているが知るもんか。
もう一度言おう。
実家超最高。
「兄さん」
そんな駄目人間こと、ボクに声をかけるのは妹のウマ娘。
第一印象は儚げな美少女。その実は走ることしか考えてない大逃げモンスター。どこぞの誰かは、スズカさんはウマ娘の夢そのもの、なんて言ってたけどそんな大層な存在ではない。
今も昔も、我が妹は走ることしか考えていない。それがたまたま、周囲の理想がコイツの本質と噛み合っただけ。
どこにでもいる、見た目が可愛く、足の速い、逃げて差すウマ娘。
それがボクの妹――――サイレンススズカであった。
スズカはボクと同じく炬燵に入っている。
その表情はどこかとろけており、いつも以上にボーっとした様子。
「どうした?」
「みかんを剝いて?」
炬燵の中央に、みかんが入った籠。
帰ってくるボク達に母さんが用意してくれたものだろう。
「自分で剝けよ」
「ダメ?」
「ダメ。今日は何もしたくないんだボク」
「……ダメ?」
妹よ、ズルくないか?
何でみかん如きにそんな目をする?
上目遣い、甘えた声、そして首を傾げる。
みかんだぞ、みかん如きだぞ? なんでそんな表情出来るの?
ほら、母さんもなんか言ってほしい
えっ、嘘だろ? お兄ちゃんなんだからそれくらいしてあげなさい? 時期が時期ならグレる言葉だよそれは。優秀な妹を持って、グレる言葉第一位の言葉だよ?
これは人権を守るためにも戦わなければなるまい。
お兄ちゃんにだって人権はある。何をするかといえば――――実力行使だ。
ボクは手を伸ばす。
もう許すものか。泣いても許さない。その見をひん剥いてやる。
「……ほら」
ボクの手には丸裸になったみかん。
そうとも、勝てないさ。いつの時代だって、お兄ちゃんは勝てないのだ。息子は刃向かえないのだ。妹と母にはイエスマンになるしかない。
「白いヤツも取ってほしいな」
「ワガママ言うんじゃありません」
「だって嫌なんだもん」
「ばっか、お前。これ栄養あるんだぞ?」
「そうなの?」
「そうそう」
「また嘘ついて、私を騙しているだけじゃないの?」
「ボクが嘘をついたことなんてないだろう」
なんて失礼な妹だ。
ボクはこんなにも正直に生きているのに
「最近、バクシンオーのトレーナさんと一緒になって――――」
「オッケー、何も言うな。ボクが悪かったから」
アレは嫌な事件だったね。
追求されるとダメだ、とボクは急いで話題を変えるために適当なことを言おうと、あることを思い出した。
「そういえばさ、最近逃がした魚はでかいって言葉が咄嗟に出てこなくて」
「うん」
「とんでいったバナナはでかい、って言ってやり過ごしたんだけど、今思うとやり過ごせてなかったな」
「何でそれでやり過ごせると思ったの?」
「たまたま聞いてたビワちゃんに、それはどれくらいの大きさのバナナなんだ? って聞かれて困ったよ」
「何の話??」
いや、本当にまったく。
彼女は真面目だ。一時間くらい討論して、結局バナナは美味くて神食材だね、ってことで話しは終わったことを思い出す。
結局、みかんの白い筋も取り始めてるし。
「いや、本当だって。食べられるんだって」
「……食べたくない」
「好き嫌いはやめなさいよ。ウマ娘は栄養も取らないと」
「これ0本食べたい」
「数学的拒否するな」
それでも食べない。
むしろ拗ねた様子で何か睨みつけてくる。
「兄さんは意地悪だよね」
「意地悪なんてしてないよ」
「してるよ。私が小さい頃だって、転んでも“痛いの痛いの生きてる証”、って言って痛いの飛ばしてくれなかったし」
「アレはお前が勝手に走るから悪いんじゃん」
ボクは注意した。
危ないから急に走るな、と注意したのにコイツは勝手に転んで泣いた。
絶対にボクは悪くない。
にしても白い筋のヤツあまり美味くないな。
今度からボクも取ろう。味ないしこれ。本当に栄養あるの?
「おっ?」
「あっ」
そうこうしているうちに、鐘の音が聞こえる。
除夜の鐘。いつの間にか一年が過ぎたようだ。
「兄さん」
「ん?」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「ん、あけおめ。ことよろ」
ボクは適当に答えて、テーブルの籠の中にあるみかんに手を伸ばす。
そんなボクを尻目に、妹は「よし」と炬燵から出て、清清しい笑顔でワクワクした調子で。
「ちょっと走ってくるね?」
「嘘だろ?」
ニッコリ満面の笑み。
冗談じゃない。本気だ。コイツ本気で今から走ろうとしている。
ほら見た事か。
コイツは走ることしか考えてない。何がウマ娘の理想だ。
いや待って、本当に待って。
今はオフだから。何もしたくないから。ほら、行こう兄さん、じゃないから。今日はボクも本職お休みだから。
抵抗空しく、ボクの身体は炬燵から引き離されていく。
なんて惨め。妹に力負けする。ウマ娘に力で勝てるわけがない。昔からこうなのだから、この先もボクはコイツに振り回されるのか。
――――その時、ふと閃いた。このアイディアは、スズカとのトレーニングに活かせるかもしれない。
>>兄さん
スズカさんのお兄さん。ボクっ漢。
いつも妹に振り回される。
口癖は嘘だろ
>>サイレンススズカ
妹。
走ることが大好き。
嘘でしょ?は兄の口癖がうつったっていう設定。