ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
時は流れ、4月になった。
春。それは出会いの季節。
青春の学園生活というものをコミックの中でしか知らない魔美子は、柄にもなく新生活の始まりにワクワクしてソワソワしていた。
入学式の朝。
父の運転する車に乗り込み、生徒の通学時間よりよほど早い教師の通勤時間に学校入りした魔美子は、とりあえず余った時間で校内をうろついてみた。
「イモムシ……?」
「久しぶりだな、八木」
「あ、なんだ。イレイザーさんか」
校内で最初に発見した人は、イモムシのような寝袋に入った中年男性。
抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。
メディアへの露出を嫌うマイナーなヒーローだ。
しかし、魔美子とは面識があった。
「……久しぶりなんて言っておいてなんだが、よくわかったな。10年ぶりくらいだろうに」
「記憶力にはそこそこ自信がありますからね。さすがに最初の暴走以前の記憶は殆ど無いけど」
「……そうか」
短いやり取りで、早速イレイザーの顔が曇った。
彼との出会いは父に保護された直後にまで遡る。
抹消ヒーローと呼ばれた彼の個性で、魔美子の暴走を抑えられないかという試みで引き合わされたのだ。
結果は半分成功、半分失敗。
発動前であれば抑えられるが、発動中のものを強制停止させることはできなかった。
魔美子の個性は発動に1秒とかからないので、抑止力としては微妙という判断を下され、それ以降は会う機会が無かった。
しかし、そういう繋がりがあったので、彼は魔美子の事情を全て知らされている。
「まあ、とにかく。お前の担任は俺になった。あと、俺の本名は『相澤消太』だ。相澤先生とでも呼んでくれ」
「了解! よろしくね、相澤先生!」
「ああ」
(あの人形みたいだった子が、随分変わったな)
テンション高めに「先生とか学校っぽい!」と口走っている魔美子を見て、イレイザー改め相澤は少し優しい目になった。
前に会った時は、まともな教育など受けておらず、約4歳くらいなのに言葉すら話せない、物心すらついていない、空っぽの幼い人形だった。
それが今では、ちゃんと感情豊かな女子高生になっている。
個性と心に抱えている問題もオールマイトから聞いているが、とりあえず表面上はまともな人間になっているのを見て、あの時、自分の力では助けられなかったという後悔が少しはマシになるのを感じた。
まあ、だからと言って贔屓はしないが。
「校内を歩き回るのは勝手だが、ホームルームが始まるまでには教室に戻れよ。遅刻は容赦なく厳罰に処すからな」
「はーい!」
そうして相澤と別れ、魔美子は学校探検を続ける。
さすがはヒーロー科の最高峰である雄英と言うべきか、広い。
朝の探検だけでは、到底全部を見て回ることはできないだろう。
ガイダンスというものに期待だ。
いや、毎朝少しずつ、自分の足で開拓していくというのも面白いかもしれない。
そんな開拓し甲斐のある校舎を回っているうちに、いい時間になってきた。
自分の教室、1年A組に向かう。
中にはもう結構人の気配があって、クラスメイト達は集結してきているようだ。
こんにちは青春!
そんな気持ちで、魔美子は教室のドアを潜った。
「おはようございまーす!」
「死ねぇ!!」
魔美子に真っ先に反応したのは、不良だった。
見覚えのある不良だった。
もはや条件反射のように、魔美子の声に反応して威嚇してきた。
どうやら彼も合格していたらしい。
そして、同じクラスだったらしい。
「私のワクワクを返せ!!」
期待していた青春を一瞬にして粉砕され、魔美子は思わず叫んだ。
しかし、すぐに「いや、これはこれで青春なのかな?」と思い直した。
不良なんて青春コミックの彩りみたいなものだろう。
そう思えば粉砕された期待感も修復されていく。
「あ! あんた、ヘドロ事件の人だよな!?」
「わぁ! ホントだ! あれカッコ良かったよ!」
「お会いできて光栄だね、マドモアゼル☆」
そして、修復された期待感を更に満たしてくれるように、好意的な感じのクラスメイト達が寄ってきた。
魔美子の機嫌が上向いていく。
逆に、黒歴史とも言えるヘドロ事件の話が出て、不良こと爆豪の機嫌は急降下していった。
「あ! 八木さん!」
「お、緑谷少年。君も同じクラスか」
次いで、父の後継者である緑谷も出現。
その後に入ってきた麗らかな感じの少女を入れて、席の数と同数の人数が教室に揃った。
自分を含めて、合計21人。
それが、これから一年間を共にするクラスメイト達だ。
必要ではあっても興味の無いヒーロー免許を取る作業は面倒そうだが、彼らと共に青春を謳歌できるなら、悪くない学校生活になりそ……。
「お友達ごっこがしたいならよそへ行け」
そんな気分は、現れた
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
そして、有無を言わさず教室から連れ出される。
連れ出された先のグラウンドで告げられたのは……。
「「「個性把握テスト!?」」」
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る時間無いよ」
「おっふ……」
容赦の無い相澤に、魔美子は乾いた笑いを浮かべるしかない。
そうだった。
ここは滅茶苦茶なシステムで有名な、雄英高校ヒーロー科だった。
せめて全教師がプロヒーローで構成されている雄英の管理下でないと、ヒーローという表舞台への進出を許さんとか言って、この学校以外の進路を潰してくれやがったヒーロー公安委員会め、許さん。
「爆豪、中学の時、個性無しのソフトボール投げ、何メートルだった?」
「67メートル」
「じゃあ、個性ありでやってみろ」
魔美子が黄昏れている間にも、話は進んでいた。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈。
中学までは個性禁止でやっていた体力テストを、ここでは個性ありでやる。
先発は不良少年こと、爆豪のソフトボール投げから。
「死ねぇ!!」
物騒な掛け声と共に、掌から発生させた大爆発によって吹き飛んでいくソフトボール。
記録は、705.2メートル。
「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
「なんだこれ! すげー面白そう!」
「705メートルってマジかよ!」
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
生徒達は大盛り上がりだ。
基本的に、個性の無断使用を禁じて回っている超常社会。
魔美子のような、縛りつけることで明確なデメリットが生じる個性でなくとも、生まれついての自分の力を使うなと言われて育てばストレスを感じる。
それを思いっきり解放できるとあって、生徒達のテンションは高いのだ。
「……面白そう、か」
ただ、それは相澤の気に触ったようで。
「ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
顔が中々に怖いことになっていた。
「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「はぁああああ!?」」」
そして、大分滅茶苦茶なことを言い出した。
「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン達。いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。
そういうピンチを覆していくのがヒーロー。
放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。
プルス・ウルトラさ。全力で乗り越えてこい」
ニヤリと笑う相澤。
最初の苦難を前に、魔美子は弟弟子のような存在の少年に目を向けて、「緑谷少年、大丈夫かなー」と思った。
現状100か0かでしか個性を使えず、100を使えば体がぶっ壊れてしまう未熟な緑谷少年。
怪我自体は優秀な看護教諭の個性で治せるとはいえ、一回使ったらぶっ倒れるような体たらくを、この厳しい先生が許してくれるわけがない。
案の定、緑谷はそれを察して冷や汗をかいていた。
彼にとっては、いきなりドデカい受難である。
「ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ」