とある男が、自分の半生を振り返る。安定した収入を求めて城に来て王に騙され勇者にされてから苦難の道は始まった。魔王を倒しに行けと言われても、ただの人間が七人だけで倒せる訳が無いだろう?長い長い旅を終えた青年達はいかにして本懐を遂げたのか?雇われ勇者のお話し。

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以前書いた短編集の一つを再投稿しました。


魔王を倒しに行け?何それおいしいの?

 

長い長い旅だった……スタートは確か金に釣られて兵士に志願したんだっけか?下らない動機だと言われてもなぁ、動機なんてその後の行動からしたら対して関係無いだろ?……話が逸れたな。そんで妙な試験を受けて、王様の前に俺をはじめ七人が連れられて、一言。

 

『そなたらは合格じゃ。魔王を倒す勇者を集めていたのじゃ。と言う訳で銭を渡すから行け、主らが魔王を倒すまでは城下町の出入りを禁ずる事になったからのぅ、さあ、とっとと行け、勇者共!』

 

見事に騙されたんだよな俺達。って言うか世界でも指折りの兵士を従えてる国が魔王討伐の人員ケチって即席勇者を募ってほっぽり出すとか正気の沙汰じゃねぇよな。あの時の俺達は本当になんも知らない馬鹿だった……18のガキんちょだから仕方ないにしろ、もう少し疑う心を持って良かったと思う。王国全土に洗脳教育してたか知らんけど、疑いの心は悪とか教えてるの、あれ、良く考えなくてもおかしいよな?疑う心、善悪に限らず、未知のものには疑いの念がまとうんだからさ、矛盾してるよね?お陰で国から出るまで俺達は糞国王の文句の一つも言えなかったよ。言ったら打ち首だよ?

 

え?七人いたら純真な真っ直ぐ君や真っ直ぐちゃんがいなかったのかって?先にも言ったように俺達は金に釣られたの!社会人一年目、何はともあれまずは手銭を稼がにゃ理想もくそも食っていけねぇからな。

 

〔王国の未来を担う兵士、15から20歳の若者募集中!給与は月に金10枚支給します、笑顔溢れる働きやすい職場です!未経験者には更に金10枚支給!〕

 

ああ、今考えるとこれ街のあるある求人広告だったんだよなぁ、当時の俺達はなーんの疑いも無く、金に釣られて行きましたとも。実際は金10枚渡されて城下町からおん出された阿呆な若者だった……気付いたのが国の外れの村で公募の裏事情を知っていたおじさんに真実を聞かされた時だった……開き直った俺達は、だったらこの原因を作った魔王とやらを倒しに行くべとやる気だしたんだけど、聞いてた話と全く違うのよ。魔王は人にあらざる者とか国では言われてたけど、実際は最近後継者が成り上がった隣国の大将だった。つまりは人間だったわけよ。怪物を従えて人々を蹂躙してるって聞いたけど、実際は怪物なんて存在しねぇの……異形の怪物?いないよ?入国して目に入ったのは武器を担いだ何処の国にもいるお兄さんお姉さんの兵士だけだった。国王の糞野郎、早い話が出兵するの銭がかかるから面倒くせぇからって俺らに隣国の大将殺してこいって言ってるわけよ。ふざくんな!

 

怪物でも何でもなく、倒しに行けと言われた相手が、血の通った人間だった……国王があんなのだから俺ら学の無い馬鹿な若者を捨て石にされてるなんて事がまかり通っちまう。城下町の貧富の差が開きまくってるのに暴動が起こらないのは、正規兵が優遇されてるから……糞野郎だよなあの国王。

 

ん?大冒険で無いから長い長い旅は盛りすぎだって?魔王と呼ばれた者は隣国の大将だよ?その人らから見たら俺達って敵性国家のヒットマンだよ?だから隣国に入る時点で五年かかったっての!通行証もない人間を通す馬鹿が何処にいるのよ?そりゃあ最初は入ろうとしたよ?でも直ぐに不審者として捕縛されかかったんだよ、俺ら泣きながら逃げたよそりゃあ。矢は飛ぶし槍は飛ぶし石は飛ぶしで、よく死ななかったと逃げ切った後でみんなで抱き合って泣いたよ。

 

このままじゃ駄目だと思った俺らはとりあえず真実を教えて貰ったおっちゃんに匿って貰う事にしたよ。手銭を出し合って先ずは文字の読み書きや世界情勢を教えて貰った。学がついてくる内に、俺達は悟った、やっぱりこの世界に俺達がイメージした魔王なんてのは存在しない事、魔王とは、悪政を敷いている暴君暗君の異名であり、隣国の大将はとてもそうとは思え無かった事、何より隣国の大将はクーデターにより王を倒し、国自体が民の代表が統治する新しい国に生まれ変わったばかりで、戦争する暇なんて無かった事……ははっ、やっぱ俺達ピエロだったんだよ、涙が出たね、悔しさと自分達への情けなさで。

 

俺達は村で生活しながら、とりあえず体と頭と心を強くする事に専念した。魔王を倒さずそのまま村で定住すればいいじゃんって?そりゃそうしたかったよ、でも糞国王が定期的に俺達がちゃんと魔王討伐をしているかを偵察に来る兵士を各地に回してるから表立って住めなかった……だからおっちゃんに匿って貰いながら力を付けてきた。国を出てしまえば偵察の兵士は回って来ないけど、やる事を実行するにはまだまだ頭が空っぽだったからね、だから五年掛かった、故郷の城下町から百里位しか離れて無い隣国の城下町に入るのに。ホイホイ国に入れるんだったら糞野郎の兵士で事足りるだろうに……畜生、あの糞野郎、俺達が仮に大将倒して帰って来たら用済みとばかりに消す算段だ、見え透いてるよ、尤もそう思えるようになったのは学を積みはじめてからだったけどね。

 

 

……五年の歳月の末、城下町への通行証を手に、漸く隣国入り出来た。偽造したのかって?村の村長が隣国と数年の内に交易してたから正規の発行してくれたんだよ?何も犯罪行為してまで入る必要無かったんだよ。村の人らは優しかったから、全てが終わったらここに帰ると伝えて俺らは旅立ったよ、おっちゃん、必ず帰って恩返しするからってね。

 

勇みながら隣国に入ってびっくり、奴隷もいなければ貴族もいねぇ、ある程度の貧富の差こそあれ、大体の人間が対等なんだよ……うちと大違いじゃねぇか。俺達はそれを見てどうしたかって?それならと普通に大将とコンタクト取りに行ったよ、事情も話したし、向こうも真剣に聞いてくれたよ。だからもうここの大将を倒す大義名分は無くなった。

 

そして俺達は国に戻る。何でかって?魔王を倒しに行くのさ。誰って?あの糞野郎しかいねぇだろがよ何度も言わすなよ……魔法もドラゴンも亜人種もいねぇ、野生動物は一杯いるけどこの世界には伝記ものや小説に書いてあるようなもんは存在しない。だが魔王はいた、俺達の住む身近だった、そんだけの話よ。

 

だが今度は城下町に入る手立てを立てねばならない。糞野郎の発令した魔王討伐令の有効期間は、俺達が死ぬか、奴が死ぬかすれば失効すると言う、ふざくんなってやつさ。なら死んだ事にすればって?何であの糞野郎が悠々自適に天寿を全う出来て、俺らがガタガタ震えて生きにゃならねぇんだよ!それだけは納得出来ないね、納得なんてしてやんないね!あの糞野郎を殺すまでな!

 

 

城下町に入る手立てはやはりあの村の人らに頼る事になった。村長が商業用の通行証を発行してくれた……何から何までありがたい。俺らは貨物馬車の荷台に入れて貰える事になった。念には念を入れて二重底のやつに。馬車を引っ張ってくれたのはおっちゃんが志願してくれた……俺達、貴方に一生ついて行きます!通行証を見せて、普通に城下町の門を通過した。城下町にて食料の買い出しをする為、空荷であると伝えたら、箱は調べず、中を覗いただけだったらしい。空荷だから不自然に荷物が無くったっておかしくないもんね、頭いい!村自体も良く買い出し行くみたいだし、かつ大体二泊するから宿屋で無事に悟られる事無く降りる事が出来た。

 

さて、憂いも無くなったし糞野郎を成敗するか。ん?久々の故郷なのに、実家帰らないのかって?帰れないさ、糞野郎は家族の命は保護すると言っていた、ありゃあ人質にされたって事さね。糞野郎を殺さぬ限りは家族の命もないのだ、母さん、父さん、迷惑かけますが、まだ帰れそうにありません。

 

一泊目の夜に、俺一人が城の様子を覗いた。夜営の兵士、寝ています、仕事しろ税金泥棒と言いたいが今は助かる。あっさり入って物陰に隠れ、王の寝室まで忍び足。この五年間、どれだけ気配を悟られずに忍べるか訓練してきたんだ、城でぬくぬくとしている糞野郎の兵士に後れはとらん。寝室、角を曲がった先に、兵士が一人。忍び足で王の寝室の前の廊下の窓、カーテンがしてあるのでそこまで行く。糞野郎は……いた。若い妾の姉ちゃんとしっぽりやって寝ている。いまならやれる、なんなら素手でも殺せる。しかしやるならみんなでと決めていた。一人でもやれるが、そうなると妾の姉ちゃん叫ぶし、要らん殺しをせねばならない。〔死すべきは魔王のみ〕ね……てめぇの言葉、そっくり返してやるよ。

 

 

そして、二泊目の夜。昨日同様に忍び込んだ。今日は七人、兵士の寄合い所や交代所も調べ尽くした、全く悟られていない、こいつらが兵士?笑わせるよな全く、ブクブクに太りやがって……こう思いながらも、全く気を弛めて無い。王の間の前にやって来た、七人全員で。おい、いくらなんでも気付くだろって思うだろ?一人が兵士のふりをし、目の前の兵士と交代する。顔と声でばれるだろって?フルフェイスの兜を付けて、声でなく手の合図で交代を知らせるのさ、王の情事と眠りを邪魔すると死罪だからってこうしてんだとよ、ホント屑だけどお陰で何の負い目も無く殺せるよ。

 

俺達は各々、妾を引き離す者、縛り上げる者、王の寝室の音を消す者、王の退路を断つ者、そして、王の息の根を止める者に別れた。さあ、魔王、覚悟しな。

 

 

ーー

 

ーーー

 

……あっけなかった、余りにも。妾を縛り上げるまでもなく、泥酔していて目覚めない、糞野郎も。目覚めさせてやろうかとも思ったが、一思いに止めをさそうと思っていたら、ゲロでそのまま窒息死してやがった……糞野郎とは言え、一国の王とは思えない、惨めな最期だった。結局、俺達は魔王を倒すまでもなく、本懐を遂げてしまった、何の感慨も無く、虚しいだけだった。俺達は宿に戻り、おっちゃんに報告した。おっちゃんは落胆する俺達に優しく言葉を伝えたよ、誰も人殺しにならずに済んだなら、それでいいじゃないかって。翌朝何事もなく馬車で門を通過し、村へと帰った。

 

 

一ヶ月位して、俺達は旅立った時の服装をして、城下町へと行った。父さん達が無事か、もし無事なら、村で暮らすよう必死に説得する、駄目なら今生の別れさ。それに、糞野郎が死んだ後も、俺らの事をどうの言う後継者がいたら町には入れないしな。そう考えてたんだけど、城下町の門はびっくりする程オープンになっていた。王が死んで喪に服すどころか、新王になってとっとと忌明けしたらしい。因果応報だったんだな、哀れな……なんて言ってやんねぇが、お陰で幾分か胸がスッとした上で父さん達の元へと帰れたよ。父さん達は俺の話を聞くと村へ行く事を了承した。他の皆も同じだった。俺達がいない間、兵士らからの嫌がらせが酷かったらしい、糞野郎らしい所業、ありがとう、お陰で何のしこりも無くなった、地獄に落ちて落ちて落ちまくってそして地獄でも死ねと糞野郎の哀悼の意を伝えた。

 

そして荷物を纏めて村へ引っ越した俺達は、村で平穏な生活を送る事になったのさ。本当に長い長い旅だった。俺達は英雄でも大罪人でもない、只の村人。でも、それの何が悪い?人殺しにならずに済み、生きた普通の人間に戻れた、これこそが俺らの終着点さ。

 

 

 

 


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