聖鳥の遍歴   作:乏月小町

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自由と罪、雨

──ふと、目が覚めた。

 

 

どことなくおぼろげで、

まるで夢でも見ているかのような……

 

そんな…曖昧で、独特な浮遊感を感じる。

 

 

 

不思議に思いつつも……

身体を起こし、辺りを見渡す。

 

 

 

霧が立ち込めていて、雨音が聞こえる。

 

 

 

 

遠くに不気味な赤い月が見える。

 

 

 

「──まだ………夜?」

 

 

 

考えるより先に、言葉が出る。

 

 

ボクは──朝には絶対起きるんだ。

 

だからこそ……自然と夜に目が覚めるなんて、

今まで経験した事もないし……知りもしない。

 

 

初めてなんだ。

 

 

早すぎる早起きも、

今からやろうとしていることも……

 

 

これが……遠足を前日に控える子供の気分?

 

 

あっはは、ボクもまだまだ子供みたいだ。

 

 

あれ……口角が…(あが)ってる──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、フィーちゃーん?」

 

 

「うわああああっっっ??!!!!」

 

 

あまりにも大きい声で起こされた。

昨日、ボクに本を渡してくれたチャラ男だ。

 

──それと、よくボクに強く当たる人。

 

 

「おっはー、フィーちゃん。

 俺が渡した本、役に立てたかな?」

 

 

「あのふざけたラインナップでよく言う」

 

 

「うっせー、俺の職権で出来る最大限なんだよ。

 お前は監視員として未熟すぎるんだ、バカ」

 

 

ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。

夜に見た霧は消えているし……

月はそもそも灰色の雨雲で見えない。

 

──夢だったのかな。

 

 

「……人には得手不得手がある。

 俺にはこの職は向いていないと言った筈だが」

 

 

「そーゆートコだぞ相棒ッッッ!!!

 というかお前、神聖なるフィーちゃんに

 まさかまさかの恫喝してただろ!!!」

 

 

「あれは演技だ、仕方がないだろう」

 

 

「知らねー!!!可愛い女の子に頑張って欲しい時、

 しれっとフォローできないのは監視員として

 ──いや、男としてどうなんだよ!!!

 大事なコトだっていうのによ……」

 

 

まるで自分が良いことを言ったかのように……チャラい方が、得意げな顔でもう片方の方に言うけれど──その瞬間、場の空気が凍りついた。

 

一昨日の夜からずっと降っている、

雨音しか聞こえなくなった。

 

 

その光景が……面白かった。

 

 

「あっははっ!!…自分でそれ言ったらダメだよ、

 ヘンな男の人……ふふっ」

 

 

「お?フィーちゃんが笑ったぞ!!

 縁起が良いなぁ!!」

 

 

「ああ……そうかもな」

 

 

いつも通りの二人の一連の会話が、

ボクの目の前で行われた。

 

一昨日(おととい)までは、ボクにとって敵だったけど。

今は──この二人が、味方だってわかる。

 

 

最近怒鳴ってばかりだった赤髪の彼は…まさかの全て演技だったという衝撃の事実が明らかになった……考えとかは掴みづらいけど、今見せているのが自然体の彼なら──悪い人ではないのだろう。

 

掴みどころが無かったように見えた金髪でチャラ男の彼は、心から味方だったらしい──胡散臭いのは普段の彼そのもので、自然体で接してくれていたんだ。

 

 

──役に立ちそうだ。

 

共犯者は、この二人組に決めた。

 

 

「……君達、名前は?」

 

 

「俺はクラース・ナヤだ」

 

 

(かて)ぇなぁ相棒……あっ、俺は──

 ジョール・トイってゆーんだ、ヨロシク!」

 

 

息が合っている二人は、それぞれ名乗った。

 

ボクの事を多少信仰している上で、監視員という地位にいる──この二人組がいかに優秀な人材かというのは…それでわかる。

 

だから、この二人を共犯者として決めた。

 

 

「クラース、ジョール…一度しか言わない──

 ボクは今日限りで知識の家畜(フィー・スチエンティア)を辞める」

 

 

ワクワクしている。

 

胸の高鳴りが抑えられない。

 

ニヤけが止まらない。

 

 

「ついでに、白亜国も滅ぼすつもりだ。

 そのために、二人にはやってほしい事がある」

 

 

そんなボクの様子を知ってか知らずか──

ジョールはどこか嬉しそうに聞いているし、

クラースは真剣に耳を傾けてくれている。

 

 

「この計画に必要なのは、生贄として人間一人。

 ボクが脱獄するための生贄だということを、

 快く受け入れてくれる信心深い者が必要だ」

 

 

昨日、寝るまでに考えておいた事がある。

その計画は……あらゆる前提が無いと失敗する。

 

──ボクはこの国を許せない。

 

母さんを邪神であるとでっちあげ、

ワラク家と母さんから(ボク)を奪い、

その上ボクを私利私欲のために利用した。

 

 

「君達二人の職権を乱用してでも、

 そんな人間を見つけて、ここに連れて来て。

 今日で、この国の全てが終わるからさっ!」

 

 

そのためなら……どんな代償も(いと)わない。

 

完膚無きまで、徹底的にやってやる。

 

もう、この鳥籠の中は嫌なんだ。

 

 

ボクを殺そうとするのなら──

 

ボクは、この国の全てを滅ぼしてやる。

 

 

「危ないと思ったら即座に逃げて。

 どんな状況でも無理だけは絶対にしないで。

 ボクが死んだとしても、自分の命を優先して。

 そして、こんな国を滅ぼすのを楽しんで!」

 

 

「「Yes, sir(イエッサー)」」

 

 

軍人の癖が抜けてない返事をして、仲良しな二人組は知識が書かれた紙を所望することなく、監視所へと戻っていった。

 

 

──雨が降っている。

 

 

一昨日の夜からずっと……止まないまま。

 

今までの愚かなボクを、洗い流すかのように。

 

 

「まぁ……そもそも濡れてすらいないけどさ」

 

 

ボクを囲う鉄格子も、自由のない鳥籠も、

誰からも望まれないボクも、今日で終わりだ。

 

失敗は死を意味する──でも、それでいい。

 

 

ボクと生贄の命2つで、国が滅ぶかどうか?

 

 

もし完璧に成功したら、お釣りが来そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、聖鳥の雛鳥様──

 二人組に呼ばれて馳せ参じました。

 奴隷78452号、アレックス・マッガーザです」

 

 

雨が止んで、少しだけ明るくなってきた頃──

いつも掃除奴隷が来るであろう時間で、

彼はボクの目の前にやって来た。

 

とても大柄で、筋骨隆々な好青年だ。

今からやる神術の生贄としては十分過ぎる。

 

ただ──問題は、まだ残っている。

 

 

「自己紹介ありがとう、アレックス君。

 知っての通りボクはフィー・スチエンティア。

 聖鳥の雛鳥で、君の信仰対象でもある──

 さて、二人組から話は聞いてるかな?」

 

 

「はい。生贄の件でしたら、既に聞いています」

 

 

彼の目からは、覚悟の念を感じた。

 

ボクのために全てを捧げるつもりで、

アレックス君は──ここに来たようだ。

 

なら、話は早い。

 

 

「アレックス・マッガーザ。

 君は今から、君じゃなくなる。

 そうなったら二度と戻れないし、

 死ぬまで苦しみに包まれる事になるけど」

 

 

「構いません。貴方様が自由になるのなら、

 私めの命一つで済むのなら安い物です」

 

 

食い気味で言葉を並べてきた。

 

覚悟の念?…そんなものじゃない、全然違う。

 

 

彼の目は──狂信の目だ。

 

 

何をされてもいい、何をしてもいい。

 

ボクがどんなことをしても……

彼は否定しないし、全て受け入れる…ような。

 

そんな目をしている。

 

 

これは──母さんの威光なのかもしれない。

 

 

けれど今は、それすら利用するんだ。

 

母さんなら……許してくれるはず。

 

 

「──言い遺すことも、未練も……無い?」

 

 

「何もありません──私には、貴方様だけです」

 

 

彼の表情からは、諦めのようなモノも感じた。

質の良い覚悟ではない……そう思った。

 

死にたいだけなんだと、なんとなく悟った。

 

 

この時点でボクは──激痛を覚悟する。

 

 

「──わかった…そう言うなら………

 ボクは君に、力を与えよう」

 

 

ボクはクラースとジョールから受け取ったナイフを取り出し……左手で刃を握り、右手を軽く引いた。

 

左手に鋭い痛み──慣れているから平気。

 

紅い液体が…つうっとナイフを伝う。

 

 

「"お前の信仰が力となり肉となり"

 "全てを喰らい尽くす獣と化せ"

 "その名も、名無使之怪物"」

 

今あるだけの言霊と魔力を流れる血液に込めて、

アレックスに手で器を作るよう指示する。

 

紅い血液が淡く朧気で不気味な光を伴い始め、

信者が作った手の器に並々と注がれていく。

 

 

「──君自身が十分な量だと思ったら、

 一息に全てを飲み干すんだ」

 

 

ボクはこの後……彼がどうなるか知っている。

 

だから──注ぐのを止めない。

 

アレックス・マッガーザは──

聖鳥の熱烈な狂信者ではあるものの、

"ボク"を信仰しているわけじゃない。

 

 

かつて存在していた、母さんの信者だ。

 

 

白亜国も、ワラク家も、ボクの行く先も、

彼にとっては……どうでもいい事なんだ。

 

 

"全能の図書館"に、そう記されていた。

 

 

だから彼は──ボクの力を少しでも多く得て、

聖鳥フィルマメントに少しでも近づこうとする。

 

だから……溢れて零れ落ちてしまう程にまで

両手に溜め込んでから──飲み干す。

 

そして、不用意に神に近付こうとした人間は──

 

 

「う゛ッ…??!!グォえ゛っ………ぷッ…」

 

 

魂の容れ物である肉体が改造された上で、

魂ごと自我が破壊され──怪物と化す。

 

 

これが……数千年前、混沌に満ちた世界で──

溢れ返るほど跋扈(ばっこ)していた妖魔の正体。

 

 

 

「名無使之怪物──」

 

 

 

身体の内側から瓦解していったアレックス・マッガーザは、"力"の代償を受ける……驕りがある力は、身を滅ぼし、それを受ける者を(ケダモノ)に変える。

 

 

「だから言ったんだよ、アレックス。

 十分な量だと思ったら飲み干せ──って」

 

 

大木が(きし)み、繊維が乱暴に崩されるような、

(むご)い音を鳴らしながら、彼は変わっていった。

 

筋骨隆々な身体は(つや)のある赤い塊になり、

そこから露出する赤に汚れた骨は爪となり、

人である証拠の背骨や頭蓋骨は変形する。

 

不気味で、耳にこびりつく、嫌な音を立てて。

 

 

彼は、太古の昔に存在した妖魔と化した。

 

 

「縺ェ縺懊□縲√↑縺懊↑繧薙□」

 

 

黒く変色した肉体、人間離れしたシルエット。

歪な爪と牙を備え……ただ破壊のための存在。

 

一目で"勝てない"と思わざるを得ない異形。

 

それが、名無使之怪物。

 

生まれ変わった彼は、想像を絶する痛みに悶えているのか、それとも思っているような結果じゃなかったのか……耳を貫くほどの、轟音のような叫びを上げている。

 

 

「なぜって──君が欲張っただけだよ。

 ボクは君に"力"を与え、その正統性も与えた。

 それを大量に接種するのであるならば、

 魂も強くないと釣り合わないんだよ」

 

 

「繧医¥繧ゅ♀繧後r縺?縺セ縺励◆縺ェ!!!」

 

 

「生贄になるって二人組から聞かなかったの?

 人の話をちゃんと聞かないからこうなるんだ。

 だからボクは最初にこう言ったろ──

 言い遺すことは無いか…ってさ」

 

 

「縺オ縺悶¢繧九↑縺ゅ≠縺ゅ≠」

 

 

下手な警報よりも脳に刻まれるような声を浴びせられ……彼はボクに、魔力で形成されたトゲのような爪を、鉄格子越しのボクに振り下ろす。

 

 

「ッッ?!!!!」

 

 

幸いにも鉄格子が予想以上に堅牢(けんろう)で、

ボクは多少吹き飛ばされるだけで済んだ

 

──というのが、理想だったんだけどな。

 

 

左肩から袈裟懸けにやられたみたいだ、痛い。

 

いや──痛いどころじゃないッッ!!!!!

 

 

「ぅ……ぐぁッッ…!!──ッッ…くぅッ……!!!!」

 

 

痛みは覚悟していたとはいえ──

人生で……初めてだっ……この痛みッッ…!

 

動け…ないッ……まずったか…ッ……!!!

 

 

 

鳥籠の鉄格子は破壊された。

 

脱出しようと思えばできるかもしれない。

 

 

傷が大き過ぎることを除けば──ね………ッ!

 

 

「縺。縺九i繧偵○縺?℃繧?〒縺阪※縺?↑縺??縺ッ

 縺阪&縺セ縺?縺」縺ヲ縺翫↑縺倥□繧阪≧縺

 

 

「よく──喋るなぁ………まったく…ッ」

 

 

破壊した鉄格子を踏み鳴らし……その質量と巨大な体躯による威圧感をひしひしと受けている──瀕死の重症を負っているのにも関わらず。

 

 

縺輔☆縺後?閨夜ウ・縺ァ繧ゅヲ繝翫〒縺ゅl縺ー

 莠域Φ螟悶▲縺ヲ莠九′縺ゅk繧薙□縺ェ!!

 

 

悪質なのは……"彼"が、

意思の強い人間だということだ。

 

精神面で弱くても、意思が強ければ──一定の間、自我を保った状態で名無使之怪物でいられるんだ。

 

 

「──ボクが…そこまで、

 予測……して、ない………と…でも?」

 

 

ただ──それは………

 

強い痛みを受けない、という前提での話。

 

 

「縺ェ繧薙□縺ィ?」

 

 

「撃てェーッ!!!!!!」

 

 

無数の銃声が、ボクの目の前に居る妖魔を襲う。

 

 

黒い液体が飛び散る。

 

 

肉を(えぐ)り、貫く音が何度も鳥籠に響く。

 

 

「縺舌o縺√≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺」

 

 

妖魔の断末魔──これを引き起こせるだけ、

白亜国はまだマシかもしれない。

 

 

……となると、賭けになりそうだ。

 

 

「いや、違う……これは、多分──

 アレックスの、意思………最後の…断末魔」

 

 

頭が…回らなくなってきた。

 

でも……まだ…意識を手放すワケにはいかない。

 

 

谿コ縺吶?∵カ医☆縲∵スー縺吶?

 蛻?j蛻サ繧?縲∝」翫☆縲∵サ?☆繧

 

 

妖魔が叫び、白亜国陸軍の面々に襲いかかる。

 

 

「うわああああ!!!!!!」

 

「怯むな!!!!撃ち続けろ!!!!!」

 

「あんぎゃああああああ!!!!!!!!」

 

 

遠目で見ると──その恐ろしさがより伝わる。

 

5〜6mはある黒い巨体が、縦横無尽に──

かつ、人知を超えた速度で動き回っている。

 

一度(ひとたび)動けば、水溜りに飛び込んだかのように、

血飛沫と肉と骨の破片(人間だったもの)が盛大に飛び散っていく。

 

人間の意思が関与しない名無使之怪物は……

脊髄反射でしか動いていない──

 

それを制御する理性も、脳も無いからだ。

 

 

ただ、目の前にある全てを──壊すだけ。

 

 

 

「何をしている!!!戦車を出せ!!!!速く!!!!

 ぎょわあああああああああああ!!!!!!!」

 

「タルスコフ少佐は?!!タルスコフ少佐──

 ひぎゅああああああああああああ!!!!!!!!?」

 

 

 

断末魔が……聞こえる…………

 

 

 

身体中が……痛い………

 

 

 

 

 

爆発の衝撃………街が崩れる音──

 

 

 

 

 

 

やったぁ………成功……した………んだ……

 

 

 

 

 

 

 

「壊せ…壊し尽くせ………

 ボクらが………壊されて…しまう……

 その……前…………に──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────ポツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポツ、ポツポツ、ザー。

 

 

 

 

 

………雨が、振り始めた。

 

 

 

 

音だけじゃない。

 

 

 

 

身体が……雨に触れ──てッ??!!!

 

 

 

 

「ッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

咄嗟に目を開けると……

 

そこには、灰色の空が広がっていた。

 

 

雨が、ボクの視界に向かって落ちてくる。

 

 

鉄格子の無い、純粋な景色が広がっている。

 

 

顔に、肌に、髪に、

腕に、脚に、胸に、

腹に、手に、口に。

 

 

五感の全てが──"雨"を感じている。

 

 

本当に、液体が降っているんだ。

 

 

本当に、水が天から落ちてきていたんだ。

 

 

 

「あはっ………はははッ…あっっははははッ!!!」

 

 

 

笑みがこぼれる。

 

 

 

あぁ…心が、いい意味で落ち着かない。

 

 

 

 

これは………何?

 

 

 

 

 

 

 

 

──それどころじゃないっ!

 

 

「そうだ、アレックス・マッガーザは──」

 

 

背後に、何かが着地した衝撃と──音。

 

 

振り返ると……瓦礫と化した鳥籠を踏み鳴らし、

"彼"はそこに立ち尽くしていた。

 

 

「──どうだった?君を苦しめた国を、

 自分の手で、一人で滅ぼした感想は……」

 

 

それを聞く前に──妖魔は、両膝を折った。

 

 

もう、限界なようだ。

 

 

『縺ゅ=窶ヲ窶ヲ

 閾ウ鬮倥?繝偵ヨ繝医く縺?縺」縺溘h』

 

 

疲れ切ったような、やり遂げたような声で……

彼はそう言って…力無くうなだれた。

 

 

「……それなら何より」

 

 

力を使い果たした妖魔(アレックス)は、

雨によって溶けはじめた。

 

構わず、鳥籠の跡地を出ようとした時──

 

 

讌ス縺励°縺」縺溘●縲(貴方様が自由になれてよかった)

 繝偵リ繝峨Μ縺輔s窶ヲ窶ヲ(俺なんかの命一つで足りてよかった)

 

 

──人間は、いつもそうだ。

 

 

最期の瞬間でしか、()からの言葉(本音)を言わない。

 

 

ヒトは……いっつもそうやって、身勝手なんだ。

 

 

「最初っから……そう言えば良かったのに。

 力を欲したのも、自分のためじゃないって。

 最初から──そう言えば良かったのに」

 

 

だったらボクだって……

酷いように言わなかったさ。

 

 

「……ありがとう、アレックス・マッガーザ。

 ボクの──最初の眷属であり、奴隷だった者」

 

 

 

あの異形の巨体は──雨に溶けて、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裸足で、歩きたかった街中を歩く。

 

 

 

地とボク自身を、始めて繋ぐ。

 

 

 

厳密には、その間に雨による水溜りがあるけど。

 

 

歩きながら……空を見上げ、辺りを見渡す。

 

 

 

辺りに充満する、鉄と火薬のような臭い。

 

それに、雨の匂いが混ざっている……

 

 

 

跡形も無く崩れきった白亜色の街並。

 

 

 

全てが、つい昨日まで栄えていたんだ。

 

 

 

でも──ボクが名無使之怪物を生み出して、

何もかもが滅茶苦茶になって……滅んた。

 

 

 

今日産まれた赤ちゃんだって居たはずだ。

 

 

今日が誕生日の人だって居たはずだ。

 

 

昨日が結婚記念日で、

これからも幸せに暮らそうって──

 

そう約束した人だって居たはずだ。

 

 

 

 

 

みーんな、ボクのせいで死んだ。

 

 

 

 

全員、ボクが自由を望んだばっかりに死んだ。

 

 

 

 

全国民、ボクがワガママになったから死んだ。

 

 

 

 

「ふふっ……ははははははッ………」

 

 

 

笑わずにいられるか。

 

 

背徳感?罪悪感?優越感?

 

 

どれでもない。

 

 

 

「あッッははっははははッ!!!!!」

 

 

 

英華を誇った、あの白亜国が!!!!

 

 

永遠とも思えた栄光が!!!

 

 

ずっとこの暮らしが続くと思っただろ!!!!

 

 

ボクを懐柔して、全て上手くいくと思っただろ!!!

 

 

 

んなわけ無いんだよッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

笑うしかないじゃないかッ…!!

 

 

 

こんな、いとも簡単に壊れるなんてさ!!!!!

 

 

 

 

思いつきの、雑な作戦だったんだよ??!!!

 

 

 

 

それが…あっっはははははッ!!!!

 

 

 

 

「はははははッッ──はぁ………」

 

 

 

充実している。

 

 

 

目が覚めたときの興奮が治まらない。

 

 

あぁ……楽しいッ…楽しいよっ!!!!!

 

 

瓦礫の山を登り、両腕を広げ、

流れる空気と降り注ぐ雨を一身に受けるんだ。

 

 

ずっっっっっっとやりたかった。

 

 

昨日の夜から……ずっっっと!!!!

 

 

 

雨が……黒くなってきた。

 

 

気体になった妖魔が、雨に溶けたのかな。

 

 

それとも、破壊による黒煙が雨雲に紛れた?

 

 

 

ううん、そんなのどうでもいいッ!!!!

 

 

 

黒く染まるなら染まってしまえっ!!!

 

 

 

 

白亜は今……漆黒の黒土と化す──

 

 

 

白亜色の煉瓦が──

黒い雨によって、黒くなっていく。

 

 

ボクの白い髪も、きっとそうなってる。

 

 

構うものか。

 

 

 

だって…今のボクは、今までで一番幸せなんだ。

 

 

 

そんなものは、ノイズにすらなりやしないッ!!

 

 

 

身体に刻まれた傷も……

 

淡い水色の光が消してくれた。

 

 

 

ボクを妨げるモノは…もう、なんにもないッ!!!

 

 

 

 

──その刹那。

 

 

 

 

 

 

どっっと……空腹と疲労が襲いかかった。

 

 

 

 

「うっっっぐぁ………死──ぬ……」

 

 

 

前言撤回──唯一、餓えには逆らえない………

 

 

大量に魔力を使ったし──

 

長く歩いたりするのも始めてだしなぁ……

 

 

生まれてから数十年……

こんなに運動したことはないよ──

 

 

「どこかに……美味しいもの、

 転がってないかな………

 パンとか、水とか──」

 

 

ふと……目に映った。

 

 

 

雑貨屋、という文字。

 

 

 

元は看板だと思う……そんなフォントだ。

 

 

少ない体力で瓦礫をかき分け、

 

雑貨屋だと推測した建物の中へと入る。

 

 

「っ……!」

 

 

そこには…あまりにも多い情報があった。

 

 

色とりどりの食べ物と飲み物はもちろん、

 

服や調理器具、果には玩具まである。

 

 

「ごはんっ……おみずっ………!」

 

 

飢えているし、乾いている。

 

 

 

どっちも欲しい。

 

 

これだけ欲しい。

 

 

これが良い。

 

 

あれが飲みたい。

 

 

これが食べたい。

 

 

全部──あれも、これも。

 

 

 

集まったそれらを……一口、また一口。

 

 

口に含んだものが………

 

旨味を帯びて、喉を通る。

 

 

 

「はぁぁ……ぅあっ…はぁっ……はぅ…!!!」

 

 

 

美味しい。

 

 

味が…する。

 

 

 

幸せだ。

 

 

 

 

こんな事をしても……誰も止めやしない。

 

 

 

 

 

そっか………これが……これが──ッッ!!!!

 

 

 

 

 

「これが──自由なんだッ…!!!!」

 

 

 

 

気持ちがいい。

 

 

 

 

何も考えられない。

 

 

 

 

脳が溶けちゃうような、ヘンな感覚………

 

 

 

 

ダメ…だ……もう──無理……………

 

 

 

 

意識が………保て……な──

 

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