結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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わすゆ編、後日談です


エピローグ:あなたと出会ってから一度目の冬

 

 10月1日――

 

 勇者の戦いは一つの区切りを迎えた。

 過去最大の規模を見せた大橋での合戦にて、乃木園子は十回、三ノ輪銀は五回、鷲尾須美は二回の満開を使用。

 桐ケ谷和人は夜空の剣と青薔薇の剣の記憶解放術を合計十八回も繰り返し、最終的に全てのバーテックスを撃退した。

 

 

 

 

 

 

 沢山の赤い星と金色の星が激突して、視界を埋め尽くすほどに輝いた。あの光景をわたしは生涯忘れないだろう。

 気が付いた時にはわたし達を囲っていた障壁も樹海も消えていて、戦いが終わった後の現実世界は無数のバーテックスの侵攻と攻撃で多くの被害を受けていた。その最たるものが消滅した大橋だったけど、わたしとミノさんは目もくれずにあの二人(・・)を探した。

 

 たった一人で戦ったキリトさんがどうなったのか。

 わっしーは無事なのか。

 

 結論から言うと、彼は左腕と右足を失った状態で倒れていた。

 抱き起こして何度呼びかけても、固く閉じた目が開く事はなかった。

 

 わっしーも同じように意識を失ったまま戻る事はなかった。

 

 この時、理解してしまった。何度泣いても、叫んでも、もうわたし達の声が届くことはないんだと……

 

 

 

 数日後、大赦の神官を名乗る女性(・・)によってその後の顛末を聞かされた。

 わっしーは『満開』の代償によって勇者だった――厳密に言うと鷲尾須美だった――期間の記憶を失い、面会も不可能であると告げられた。

 キリトさんは度重なる大技の使用によって、脳の記憶や感情を司る部分に多大な負荷がかかり、疑似的な脳死状態になってしまった。

 

 大好きな二人、ずっと友達だと約束した人達。けれどもう、一緒に歩く事も、話す事さえ出来ない。それらの事実は途轍もなく悲しい事で、わたし達の心に影を落とした。

 

 ボロボロになった二人の現状を聞かされても、どうする事も出来ない。今のわたし達は無力だった。

 

 わっしーとキリトさんの容態は今語った通りだが、わたしやミノさんも無傷とはいかなかった。満開の代償としてわたしの心臓は止まり、ミノさんは左目の視力が失われた。

 尤も、本来なら複数回分であるはずの『散華』の後遺症がこの程度(・・)で済むはずがない。

 

「満開って、した分だけ体が削れて行くんだよね?だったら、何でわたしもミノさんも一つだけで済んだの?」

 

「言われてみれば、確かにそうだよな?あたしも片目が見えなくなった以外には、特に悪い所とかないし……」

 

 ミノさんも不思議そうに疑問符を浮かべた。

 そんなわたし達の疑問に、神官は答えた。

 

「検査の結果では『散華』の直後、何らかの力によってあなた様方の体が作り直された形跡があったそうです。それがどういった原因で、何者がおこなったのかは定かではありませんが……」

 

 返答を聞いて、思い当たる節があった。

 キリトさんと別れる直前、彼は意味不明な言葉の後に妙な力を使っていたのを覚えている。確か「システムコール」と言っていた。

 状況だけにその場では気付かなかったけど、生成された光に触れた体の至る所が修復されていた。ミノさんも同じ結論に至ったのか、視線を向けると頷き返した。

 

 

 

 

 

 

 連日の検査を終えて、ようやく退院した。

 

 わたしの自室。

 折角の我が家だと言うのに、わたしの気持ちは晴れる所か曇ったままだった。そんな折、机の上にある物を見つけた。

 

「……手紙?」

 

 一通の封筒が置かれていた。

 『乃木園子へ』と書かれたそれを手に取ったわたしは、その文字の筆跡で書いたのが誰なのか直感で分かった。

 

「これ、キリトさんの字だ!」

 

 丁寧に封を開けると、中には数枚の便箋と一枚の資料のようなものが入っていた。

 わたしは手紙の方が気になって、そこに目を通した。

 

「拝啓、乃木園子へ――」

 

『この手紙を読んでいるって事は、きっと俺は帰ってこなかったんだな。

 約束、守れなくてごめん。

 それでも、そのっちや皆を守れたんなら心残りはない。無事でよかった、って言って良いのか分からないけど・・・少なくとも手紙が読めるくらいには元気って事だろ?

 もっと一緒に居たかったな。でも、過ぎた事はしょうがない!

 そのっちにも、銀にも、須美にも未来がある。

 三人がいつまでも変わらずに元気で、仲良く笑い合う未来さえ守れたなら、俺はそれ以外は何も望まない。きっと、そのっちの心には大きな傷が残ってしまうんだろうけど、少しくらい寂しくても思い出が温めてくれるよ。

 許してくれ。何て言わない。

 だけど、覚えていて欲しい。

 

 俺はいつまでも、皆の事をかけがえのない親友だと思ってる』

 

 そこまでが一枚目。それ以降は、出会ってから今までの追憶と、別れの時に語った倍はある熱烈な言葉の数々だった。

 

「あ、あぁ…………」

 

 溢れる涙を止めることは出来なかった。

 こんなにも悲しいのに、こんなにも心が温まってしまう。

 ポロポロととめどなく流れて、心から零れた雫は机の表面に落ちては消えていく。

 

「会いたい……」

 

 こんな物を書いてしまうくらいには、キリトさんの決意は固かったんだろう。

 覚悟の上でしたはずの『散華』すら治してもらって、最後の最後まで守られた。

 

「何で、こんなに……遠すぎるよぉ……」

 

 少しくらい強くなったと思った。

 一対一の勝負でも勝って、今のわたしならキリトさんを守れると信じていた。

 現実には、大切な人の背中はずっと先にあって、追いつく為の時間を世界は与えてくれなかった。スタートラインに立った時、その先は既に崩れ落ちていた。

 

 涙がようやく止まった時には窓の外は暗くなっていて、鏡で見たわたしの顔は酷いものだった。

 

 

 

 

 

 

 淡い昼下がりの陽光が差し込む部屋の中で、わたしは花瓶の花を差し替える。

 

「キリトさん、もうすぐ冬だから出かける時はちゃんと厚着しないとね~」

 

 ベッドの上に横たわる人物、桐ケ谷和人の目は虚ろで時々「あぁ」と声をこぼす事はあっても言葉になる事はない。意識が喪失しているから当然だけど、そんな彼を見る度に胸が張り裂けそうになる。

 

 あれから一か月が経過して、わたし達の身の回りには様々な変化があった。

 まず、ミノさんが勇者システムの入ったスマホを大赦に返還した。わたしはその行動に驚いたけど、彼女の瞳には諦めの色なんて一切なくて、むしろ戦士としての炎が以前よりも燃え滾っていた。「少ししたら、園子にも話すよ」とだけ言って、ミノさんは笑った。

 

 わたしの方は、こうして毎日のようにキリトに寄り添う日々だ。

 

 主だった騒動を挙げるなら、退院してから少し後、大赦がキリトを何処かへ連れて行こうとした事があった。何でも「一時的に神の領域に近付いた桐ヶ谷様をより相応しい形でお祀りするため」などと言っていたけど、そんな彼らにわたしとミノさんは激怒した。

 

『こんな状態になってまで戦ったキリトさんに、まだそんな事いうの?』

 

 自分でも驚くほどに、目の前の神官達への怒りを隠させなかった。

 

『ふざけないでよ』

 

 情緒が保てなくなった経験は少し前にあったけど、ここまで純粋な怒りを覚えたの初めてだった。

 ミノさんは声を荒げて怒鳴っていたからわたし以上の迫力だったけど、感情と思うところはお互いに同じだ。わたし達がそこまで反対すると思わなかったのか、神官達は慌てて地に頭を付けた。

 その結果、キリトさんは乃木家に再び引き取られる事になり、今はこうして屋敷内の彼の自室で過ごしている。

 

「……絶対に、一人になんてしないよ」

 

 その時の事を思い出して、そう言う。

 何年でも、何十年この状態が続いても、キリトを見捨てるつもりはない。こんなにも痛々しく壊れた彼を、大好きな人を、どうして一人になんて出来ると言うんだ。

 

「よし、出かける準備しよっか?」

 

 部屋の掃除やら、花の手入れやらを終えて、わたしはハンガーにかけたセーター取るとキリトさんの上半身を起こして着せる。

 傍らから車椅子を取って、キリトさんを座らせると、わたしもコートを取って羽織った。

 

「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」

 

 車椅子を押して、部屋を出る。

 容態が一変しない限り、こうして出歩くこと自体には特に制限はない。

 

「今日は思い切って、ちょっと遠くに行ってみようかな~」

 

 家の近所を回るのでも良いけど、どうせならより多くの景色を彼に見せてあげたい。

 それが少しでも記憶を刺激すれば、自失状態から戻る足掛かりになる可能性だってある。

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 

 向かう先は、心の赴くままに決めよう。

 

「変な話だよね~。今まではキリトさんがわたしの手を引いてくれてたのに……」

 

 歩きながら、答えが返ってこない事を分かりつつも届いていると信じて話す。

 今まで、何処に出かけるのだって一緒に時はいつもキリトが手を握ってくれていた。本人は仕方なくって感じだったけど、そうして前を歩く背中が見たくてわたしはいつも甘えていた。

 今はすっかり、わたしが導く側に回ってしまった。

 迷いそうになっても、彼が道を正してくれる事はない。だから、自分の目と足で行き先を決める。

 

 かなり歩いて、気が付くとわたしは大橋の近くまで来ていた。

 

「うわ、さっむーい!」

 

 海辺特有の冷えた風が頬を撫でる。

 それなりに厚着してきたけど、冷たい風は容赦なく防寒着を貫通してきた。けれど、そんな視線の下で小刻みに震えるキリトさんを見て、わたしは優しく笑った。

 

「……その恰好じゃ、寒いよね?ちょっと待ってて」

 

 わたしは上着のコートを脱ぎキリトにかけた。

 ただでさえ寒かったのが更に悪化したけど、彼の体の震えは止まったのでオールオーケーだ。

 

「今までわたしが着てたから暖かいでしょ~?ふふ、次はもう少し厚着して来ようね~」

 

 その殆どの形を失った大橋を見れば、その被害は悲惨に思えるけど、後ろを見れば今も平和に沢山の人々が生きる町がある。

 

「……見て、キリトさん。これがあなたの守った世界なんだよ」

 

 春に出会ったわたし達は、今こうして一度目の冬を迎えようとしている。

 

「また、四人で歩きたいね」

 

 楽しそうに笑う四人の少女達の姿は、今はまだ遠い春の果て――




これにて、わすゆ編は完結となります
まずここまで長いこと付き合って頂いた読者様方に感謝を

今回のあとがきではわすゆ編内での設定の補足なども一部しようと思います
それなりに長いのでスキップしても大丈夫です

+++


キリト君に関してですが、男に戻った後も肉体年齢は中学生のままです(なので、印象としてはSAOログイン当初の少し幼い感じ)

銀の視点は今回書きませんでしたが、彼女もキリト君から手紙を受け取っています

園子様も同様に原作よりも十回分満開が少ないので、そこをある要素で補助しています
なので強さは原作の園子様と殆ど同格です

この二人の伏せている要素に関しては『ゆゆゆ編』で明らかになります

園子様と銀の満開の代償が一つまで減っていますが、満開によって得た力はそのままです(一度『散華』した後に修復した感じなので)

+++

こんな感じで
改めてわすゆ編は完結とさせて頂きます
次からは新章に入ります

ゆゆゆ編→https://syosetu.org/novel/311553/107.html
(こちらから読んでいただいても大丈夫です)
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