ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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お久しぶりです。
だいぶお待たせしましたm(_ _)m


百四十三話 女神の───

 

『ゴホッ、ゴホッ……ガハっ』

 

重い咳と共に吐き出された血。全身が重く、息するのも苦しく感じながら自身の服を捲り上げ己の蝕む呪いを見やる。

まさか、時代の残骸となった身となってもこの呪いが蝕んでいるのを見て皮肉に鬼人は笑う。

 

あの大神との契約で得られた延命処置(■■魔法)の猶予が尽きる前に自身は呪いで自壊してしまうだろう。

 

あれから数百、数千の年月を経ったが誰一人も我等を越える者など一人もいなかった。

 

ある時、神代の能力と記憶を継承していた〝逸脱者〟が挑みに来たが俺とジャブラだけで事足りた。

 

そして、時が経つに連れ脆弱する此の世界に、願いが叶わないことを悟り、絶望したこの身は果てるまで待つしかないかと思われた時に我等の前に奴等(希望)が現れた。

 

機神の器、慈神の後継、始祖帰りに竜人族……そして、女神の生まれ変わりかもしれない兎人族。

 

それを見たジャブラは決断したのだろう、期待したのだろう。覚悟を決めたのだろう。

 

自分達の全てを預けるべき存在を……

 

そして、全てを賭けることにしたのだろう。

 

アイツの覚悟を理解し、それに乗った。

 

眠る三人も起こし最後の戦場に出陣することに決意する。

 

それこそ我等の願いが叶う最後の手段であるのだから…………。

 

 

================================

 

 

密林の南、生い茂る木々の中でぶつかり合う金属音と火花が散りばめる。直後、辺りの木々が一瞬にして切り刻まれて残骸と成り果てる。

その空中に散りばめられた残骸を踏み台にして移動している青年が一人。

 

「っ、(迂闊には逃げられませんか)」

 

そう辺り一帯が更地になってしまった光景を見て青年ことアレス・バーンが思った。

 

そして、

 

「! 来るっ」

 

こちらへ急接近してくる魔力反応を感じ取ると己の武器である聖槍ロンギヌスを構えると、飛び散る残骸を木っ端微塵にしながらこちらへ回転しながら突き進む円盤。

近付く円盤に対してアレスは勢いよくロンギヌスを振るう。その瞬間、ぶつかり合う二つの間に甲高く鳴り響く金属音と火花が散り、押し寄せる力にアレスは眉を顰める。

 

「(重いっ)ですが………ハァっ!」

 

更に力を乗せたことでアレスの方が勝り、円盤を弾き吹き飛ばした。そして、弾き返した円盤の武器──手裏剣を一人の人物が楽々と掴み取り空中(・・)に着地した。

 

「やはり、やるな。アレス・バーン!」

 

「そちらこそっ」

 

手裏剣を持ってそう口にする鬼人──チャクラムは己の手裏剣技を総て捌いてみせたアレスを笑みを浮かべ称賛する。対するアレスも笑みをしながら短い一言で返しロンギヌスを振るう。

 

「切り刻め!」

 

「ハァァァアっ!!」

 

常人ならば何も見えない速度ほどの剣戟を交える二人。

 

二人の戦闘は周囲を巻き込み、発した衝撃の波は木々を薙ぎ倒し、斬撃の余波が切り刻み、大地を割り、空気を激しく震撼させる。

 

空を切り裂くが如く放たれる槍による突きを手裏剣の刃で逸らし弾くチャクラム。

手裏剣を織り交ぜたトリッキーな体術を己の直感と経験で上手く対処するアレス。

 

二人の戦闘スタイルは違えど積み重ねられた極みに近い技の練度に互いの攻撃の起こりを見極める観察眼があるからこそアレスとチャクラムはの二人の戦いを拮抗させていた。が………

 

「(今っ)〝震天〟!」

 

「!? カハッ」

 

ロンギヌスを振り回してチャクラムの視界を一瞬でもアレスから外させた瞬間、無理矢理、圧縮させた空間を解放させて放つ防御不可の衝撃波の魔法〝震天〟を発動。

それも、範囲を狭め威力も底上げした魔法に対して爆散はせずとも幾つかの内蔵が潰れたチャクラムは血を吐き出したが、それでも手裏剣を振るってアレスの接近を妨げる。

 

「(空間魔法っ)………厄介な」

 

「ハハッ……なにを、この距離で震天を受けて爆散しない貴方も厄介極まりないです、よ!」

 

ほぼゼロ距離の〝震天〟を受けてなお、戦闘を続け厄介ていどの認識で述べるチャクラムにアレスは呆れ引き攣った笑みを向け、間をつく暇もなく二人の手は次の一手を繰り出していた。

 

「フッ!」

 

「シッ!」

 

アレスのロンギヌスによる素早い薙ぎ払いが炸裂するが、其の攻撃にチャクラムは内臓を潰れても尚、即座に反応し両手で持つ手裏剣を盾にして防ぐ。

互いの得物がぶつかり、けたたましい金属音が鳴り響くと同時に二人の武器は激しく反発し勢いよく弾かれた。

 

「「っ!」」

 

反発に引っ張られ各々の武器の担い手である二人も同じ方向へ飛ばされる。アレスは反発によって震えるロンギヌスの状態を瞬時に確認してからチャクラムに視線を向け、チャクラムも口元に付着した血を拭いながら同様にアレスを見る。

 

「流石に動き過ぎたか……」

 

「ここまで差がありますか………」

 

潰れた内臓の再生時間を無視しての戦闘。流石のチャクラムであっても酷なものらしく潰れた内臓がある部分に手を当てている。

しかし、それもアレスも同様でロンギヌスを持つ手が震えているのを見て己とチャクラムとの差を実感し冷や汗を流す。

 

「(内臓を潰されて尚、自分の力と拮抗………いえ、押されてますね。これは)」

 

チャクラムというより鬼人族の頑丈さとその常軌を逸した強さを見誤っていたアレス。内臓を潰れて尚、あれ程の巨大な手裏剣を振り回せているのだ。

このままだと何れ負ける。それがアレスがこのぶつかり合いで導き出した答えであり覆すには手段は選べない。

 

故に、差を覆すためにアレスは動く。

 

「はああああっ!」

 

瞬間、アレスを中心に橙色の魔力の奔流が吹き荒れる。そのアレスから放たれる魔力と覇気に僅かにチャクラムは鳥肌が立つ。

 

「何をする気だ、アレス・バーン!」

 

潰れた内臓を完全に癒し終え、止めようと駆け出すチャクラムに対してアレスは両手でロンギヌスの柄を握り体を限界まで反らせた攻撃の構えを取って一気に魔力を収束。

それを見たチャクラムは何をする気か分からないが脳が警鐘を鳴らし危険だと手裏剣を投擲するが、一早くアレスが動く。

 

「魔力収束………〝界穿・乱ッ〟」

 

口を開き現れたのはチャクラムを覆い囲む百を超える無数のゲート。そして、アレスの前には他とは一回り大きいゲートを展開した。

次にアレスは先程の収束させた魔力を全てロンギヌスに注ぎ込ませていく。

ロンギヌスは注がれた全ての魔力を全てを吸収し、その刃は太陽の光の如く橙の輝きを放つ。

 

「行きますよっ!」

 

アレスは、空高く振り上げたロンギヌスを一気に地面まで勢いよく振り下ろし極大の斬撃を放つ。

 

「〝天翔閃・絶〟!」

 

放たれた極大の斬撃はゲートの吸い込まれ、直後、無数の一つ一つゲートから先程の斬撃が雨となって降り注ぐ。

 

「───複合魔法〝天翔・斬り雨ッ〟!!」

 

──複合魔法〝天翔・斬り雨〟

空間魔法と光属性の魔法の複合魔法。入り口となるゲートを一つに対して、複数の出口のゲートを展開。

ゲートを放った攻撃を僅かに境界を乱し事象結果を歪ませることで本来なら一つでゲートから出てくる攻撃を出口のゲートの数だけ増やすという空間魔法の在り方を熟知したアレスの絶技。

 

「っ!?(空間魔法で事象を歪ませて結果を捻じ曲げたな!)」

 

その絶技なる魔法を目の当たりにしたチャクラムは下手に避けようと、防ごうにも死ぬ一つ手前になるだろうと理解したからこそ瞬時に全身が動く。

 

「ちっ、これは……やむを得ん!」

 

降り注ぐ極光の斬撃の一つ一つが最上級魔法と同等の魔力を乗せた塊。雑に言えば辺りを消し飛ばすほどの物量を持った魔力の流星群の前にはチャクラムであっても回避は不可能。

 

グローブを付けた右手を地面に叩き付けたチャクラムは自身の奥の手の一つを使わせる負えない状況になってしまうことに悔しながらも笑い言う。

 

「──〝刻む〟」

 

直後、チャクラムのいる場所へ無数の斬撃の雨が降り注いだ。

 

斬撃の雨が止み、降り注いだ斬撃によって周り一帯の木々が切り刻まれ、地面は酷く抉れており密林とは言えないような地形へと変貌していた。

 

「………」

 

まさに天変地異の如き強大な複合魔法。

 

その威力を空中から見ていたアレスはその目に映る光景の代わり様に町の近くでは使わないしようと思う中、一部の場所を見やり頬を引き攣るらせた。

 

「………まさか、この魔法でも崩せないのですか」

 

そこには、直径三メートル程の円の範囲だけがアレスの魔法のダメージを受けておらず、その円内に佇むチャクラムにを見る。

 

「貴様も大概だなアレス・バーン。天変地異並の魔術をたった一人に対して行使してくるとは思わなかったぞ」

 

両手の視線が互いを射抜く。アレスは何かを勘繰るかのような視線を、チャクラムは肩で息をするアレスの様に多くの魔力を消費させたと見る。

 

互いの視線は揺るがない中、得物だけを握り締め動かない中、アレスは円に刻まれた術式を見て何か思い出したかのように口を開いた。

 

「その刻まれた術式、覚えがあります。付与魔法と同じようで違う魔法〝刻印魔法〟ですね」

 

「──ほう、知っているとはな。このマイナーな魔術を」

 

「えぇ、知識としては……」

 

──〝刻印魔法〟

付与魔法とは同じようで違う魔法。明確に区別するならば支援を主にしたのが付与魔法、攻撃を主にしたのが刻印魔法とされているが刻印魔法は付与とは違い扱いが難しく、刻印した術式を対象の物に触れないと発動しないという条件がある。

その為、〝刻印魔法〟は一般的に世間に広まっておらず使うとすれば罠を仕掛けるのに使われる程度の魔法。

 

たが、アレスは理解する。チャクラムは其の魔法を上手く扱いこなしていた。いや、寧ろこれがチャクラムの本領なのだろう。

 

しかし、

 

「ですが、分かりません。たとえ、刻印魔法であっても私の魔法をどうやって対処した?」

 

チャクラムの使った刻印は、アレスの知る刻印魔法より明らかに凌駕しており、〝天翔・切り雨〟をどうやって防いだ術がまるで理解できない。

 

そんな、アレスの問いにチャクラムは躊躇うことなく答えた。

 

「なに、カラの持つ技能〝地質変化〟と〝守護者〟の能力の一部の結界の力を使っただけさ……」

 

カラの持つ技能である地質を変換させる技能〝地質変換〟とタンク系の技能〝守護者〟の派生技能〝多重障壁〟と〝段階硬化〟の術式を刻んだことで術式内の地面の地質を鋼鉄並に変換、同時に障壁が破壊される度に次の障壁の硬度を引き上げる障壁を展開させることでアレスの魔法を防ぎ切ることに成功した。

 

技能の術式化に刻印。チャクラムに告げられた内容に刻印魔法の本来の在り方にアレスは驚愕せずにいられない。

 

「まさか、貴様等は刻印魔術を属性魔法だけの術式を刻むだけのものだと思っていたのか……」

 

アレスの表情を見たチャクラムは呆れと力が知識が衰退していっている現状に嘆く。

 

「刻印魔術は極めさえすれば汎用性が広がり己や他人の技能さえも刻むことさえ出来る」

 

「……な」

 

チャクラムの言葉に嘘はない。目の前の鬼人は下手をしたらあらゆる技能を持ち合わせていることになる。

 

「この身に拝命せしは女神の半身。かの御方の技すらも模倣する。故に、アレス・バーン……」

 

手に持つ武器を強く握り掲げる共に真剣な眼差しがアレスを射抜く。

 

「俺は貴様に絶対に勝たなければならない」

 

「っ」

 

明らかに纏う覇気が変わった。アレスは肌で感じ瞬時に警戒して構える。逆にチャクラムは手裏剣を持つ手とは逆の手を密林の奥の方へと突き出した。

 

「来い」

 

そうチャクラムが告げると密林の奥から現れたのは、もう一つの手裏剣。それを軽々と掴みと取った。

 

「なにを………」

 

嫌な予感を感じるアレスにチャクラムは含みのある笑みを向けながら構えた。

 

「ギアを上げる。早々にくたばるなよ?」

 

「!」

 

そして、アレスの嫌な予感が当たり、チャクラムは二つの手裏剣を同時に投擲して駆け出す。

 

「さぁ、これはどう対処するアレス!? ──〝手裏剣を操る魔法(シュリケス)〟!」

 

「〝界穿〟!」

 

左右から迫る手裏剣にアレスは空間魔法〝界穿〟を発動。空間転移して二つの手裏剣から逃れる。

しかし、空間魔法対策も確りしているのか逃げたゲートの先にチャクラムが待ち構えており、その掌を突き出していた。

 

「(これはっ)!……くぅ」

 

目を見開くアレスだが、瞬時に手に持っていたロンギヌスを両手で携えながら突き出し槍の柄を盾にしてなんとか防ぐことに成功する。

 

「……これを防ぐか。だが、捕まえた」

 

「!」

 

チャクラムは突き出した拳でロンギヌスの柄を掴むと一気に自身の方へと引っ張り、もう片方の手でアレスの腕を掴む。

 

「っ、離しなさい!」

 

「無理な要望だな──〝刻む〟」

 

「ぐっ、これは毒!」

 

刻まれた術式は触れた者を毒に犯す技能〝毒牙〟。アレスの腕に刻まれた箇所から毒が侵食し始める。

 

「っ!」

 

毒が蝕み腕が痙攣し始めアレスの顔はみるみると青く染まると同時に口から吐血する。

 

この状況は不味いとアレスは、どうにかして離れようと藻掻くがチャクラムの力が自身よりも上回っているためか腕の拘束が外れず苦戦する。

その間に、二つの手裏剣が背後から迫ってきてることを確認したアレスは普通では有り得ない手段を即断実行に移す。

 

「っ、貴様、正気か?!」

 

アレスの行動にチャクラムは驚愕する。それもそうだろう、目の前の男は毒の術式が刻まれた自分の腕を己の槍を使って躊躇うことなく切り捨てたのだから。

 

「──〝光爪撃〟!」

 

片腕を失い、切り落とした箇所から鮮血が舞い散り酷い激痛が押し寄せる中、アレスは光の爪撃を放ち攻撃を会してチャクラムの動揺をする間を狙うかのように迫る。

 

「くぉっ!」

 

驚愕を隠せずともチャクラムは片方の手裏剣で光の爪撃を弾き、もう片方の手裏剣で迫るアレスの槍を防出てみせた。それほど正確な判断で対応してみせるがアレスは物怖じとせず果敢と迫り口を開く。

 

「フッ………救界を成すために捨てましたよ、正気など」

 

「……化け物が」

 

笑って答えるアレスにチャクラムは其の狂気に近いソレ(・・)に畏怖と共感を抱く。そして、理解するアレは自分達の信仰の様に決して折れることのない信念なのだと。

 

だが、それも束の間、〝再生魔法〟を発動させ失った腕をすぐに元通りにさせたアレスは、一息つく間もなくチャクラムへ迫る。

 

「っ!」

 

「ハっ!」

 

槍を回転させチャクラムの伸ばす腕を弾き、石突きの部分を持つことでリーチを伸ばした大振りの一撃に僅かに穂先がチャクラムの頬を切り付ける。そして、そのまま手を滑らせてからの突き技を繰り出しす。

しかし、チャクラムも突き技を予測していたのだろう。身を捻り、紙一重に躱し反撃に出るのだが………

 

「……でしょうねっ」

 

「なっ」

 

チャクラムは目を見開く。アレスはロンギヌスを突き出さず、そのまま全身を翻しながらの石突きによる突き技がチャクラムの鳩尾に直撃。

 

「ガッ!(フェイントっ……)」

 

「〝大天閃っ〟!!」

 

してやられたと顔を歪めるチャクラムにつかさず体を回転させながら光纏う槍を振るって魔法を発動。

弧を描いた光の斬撃の魔法〝天閃〟が通常よりも巨大の斬撃となってチャクラムへ放つ。

 

「っ!!」

 

迫る光の斬撃にチャクラムは引き寄せた手裏剣を盾に前へ突き出す。瞬間、光の斬撃が手裏剣に直撃する。

 

「ぐ、ぐぅぅ!(なんて、魔力密度!)」

 

手裏剣を盾にしても抑えきれない程の魔力密度を持った斬撃にチャクラムは対抗する力を引き出す度に奥歯を噛み締める力が強くなっていく。

 

「チィっ、ならば!」

 

チャクラムは片手を伸ばしてもう一つの手裏剣を手繰り寄せようとする。しかし、手裏剣を掴む寸前に一つの閃光が奔りコチラへ飛来していたチャクラムの手首から先ごと手裏剣が弾き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

チャクラムは失った手を見て驚愕して目を見開く。そして、視線を転じれば何かを投擲して後のアレスの姿を見て気付く。

 

「っ、槍か!」

 

あの閃光の正体はアレスが投擲したロンギヌスだと理解する。

そして、当のアレスはゲートを手元にゲートを展開させ投擲したロンギヌスを既に回収しており次なる攻撃を繰り出そうと構える。

 

「ぐうっ(クソ、見誤っていたっ、奴の力量を!)」

 

アレス・バーンという男の覚悟、異常性、信念を見誤ったからこそチャクラムの形成していた全ての策が根底から崩れる。

 

「神代技能の術式は余り使いたくなかったが………しょうがない」

 

強力な神代技能系はストックが少なく余り使いたくないが失った手をジャブラの神代技能は〝不撓不屈(ベルセルク)〟の力でなんとか再生させ、二つの手裏剣を持ち対抗する。

 

「〝天穿槍(てんせんそう)〟!」

 

「廻り加速せよ!〝手裏剣を操る魔法(シュリケス)(ツヴァイ)〟!」

 

突きと共に射出された光の槍と投擲された二つの手裏剣。二つの攻撃が衝突するが、亜音速の速さまで加速された手裏剣の前に光の槍は無残に粉々に破壊され、そのまま二つの凶刃がアレスへ向かう。

 

「ハッ!」

 

「しッ!」

 

亜音速で迫る二つの手裏剣を前にアレスは石突きと刃を使って見事に弾き軌道を逸らす。

その槍捌きを見たチャクラムは表情には出さないも、アレスの研鑽された槍術に舌を巻く。

 

「(まさか、この速度の手裏剣までも捌くか……)」

 

寿命が短く、亜人よりも身体能力が低く、魔人よりも魔力が低く脆弱な種族である人間族がこれ程の力を、研鑽された技術をどうやって得たのか理解不能だ。

刻印も先程の以外は確実に触れられるのを警戒して動き、上手く立ち回りつつ、槍で躱しているのも驚きだ。

 

最初、その力を目にした時は〝逸脱者〟だと思えたが鬼人族を知らず、神代を知らないのなら該当しない。

 

ならば、アレ(アレス・バーン)はなんだ?

 

異質すぎる。脆弱していく世界で生まれた存在が、神代の自分達と渡り合っている現実を受け入れ難いが、チャクラムは其の思考を今は必要ないと切り捨てた。

 

「(異常であるがそれでいい。強くあればなんでいい)」

 

我等の願いを果たす為に………

 

「これを耐えてみせろ、アレス・バーン!」

 

チャクラムは、手にしていた二つの手裏剣に術式を刻むと同時に投擲。そして、空いた両手をまるで指揮棒のように振るった。

 

「切り刻め──〝乱獄斬〟」

 

その言葉を口にした途端、二つの手裏剣は一気に回転速度を上げてアレスへ迫る。

 

「っ!(速度が増したっ)」

 

アレスは突然、チャクラムの纏う覇気が強まったのに比例し、一気に加速を始めた手裏剣に戸惑いを見せる。

 

先程よりも速度が上げて迫りくる手裏剣にアレスは魔法障壁を利用してなんとか捌くが………

 

「まさか、これで終わりだと思ってるのか?」

 

「!」

 

その言葉に視線を転じるアレス。そこには邪悪な笑みを浮かべたチャクラム。そして、まるで意思を持ったの如く更に速度を上げて此方へ返ってくる二つの手裏剣。

 

「これは……まさか!」

 

気付いた時には、もう遅い。敵を切り刻むまで止まることのない死の螺旋が始まった。

 

迫る、弾く、加速。再び迫る、弾く、加速。また再び迫る、弾く、加速……迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。迫る、弾く、加速。

 

あらゆる方向から襲いかかる刃の嵐にアレスはあらゆる手で直撃を避け続ける。しかし、二対の手裏剣も弾かれる度に速度が増すに比例して四、六、八へと残像が増し、手裏剣の回転によって発生した無数の風の刃がアレスの行く手を塞いでいく。

 

「〝界っ──くっ」

 

ゲートを展開しようとも〝空間系〟を貫通する手裏剣がアレスの魔法行使を阻み、風の一刃が頬を掠り薄皮が剥ける。

障壁を展開して防いでも威力も増した手裏剣によって一撃で破壊され、手裏剣も障壁にぶつかった反動で更に速度が上がり続ける。

 

「これは、手強いっ」

 

身動きが取れず八方塞がりな状況に陥る中、アレスはこの状況を覆す策を講じていた。

 

───聖絶を発動、一撃で障壁が破壊。

───強度を高めた聖絶、二撃で障壁が破壊。

───何層にも重ねた聖絶、数撃で障壁が破壊。

───強度を高めて層を重ねた聖絶、約十撃で障壁が破壊。

 

今のところ四つ目の聖絶で何とか直撃を防げてるが、強度を高めると共に層を重ねているので必要以上に魔力を消費している。

だが、魔力を節約するために周りに展開させてる障壁を減らし、ロンギヌスでの防御の手数を増やすが………

 

「!………ぐっ!?」

 

やはりと言うべきか、障壁を手数を減らした瞬間に刃と風の刃が合わさった無数の斬撃がアレスを襲い、服の所々が裂かれ、手裏剣の刃が肩口を切り裂き鮮血が舞う。

 

大量の血が流れ始める肩を抑え、痛みに眉をしかめるアレスは傷の方へ意識が向いてしまい一瞬の隙が生まれてしまう。

 

そこへ嘲笑うが如く、無数の斬撃の嵐にアレスは苦悶の顔を浮かべ、致命傷だけは避けようとロンギヌスを振るう。

 

「っつ!」

 

しかし、防ぐ度に威力と速さが上がり続ける無数の斬撃に為す術なく切り刻まれようとなっているアレス。それを見ていたチャクラムは残念そうに呟く。

 

「やはり、嵐の檻の前には何もできずか」

 

チャクラムの放った刻印奥義〝乱獄斬〟

刻印魔術で〝反射〟、〝変速〟、〝連斬〟の技能と風系最上級魔術〝天嵐〟の術式を手裏剣に刻んだことで、衝撃が加わる度に加速する手裏剣に併せて回転によって発生する風の刃で敵を刃の檻に閉じ込め斬り刻む嵐の牢獄を作り出す奥義。

 

これに囚われてしまえば最後、諦めて全身を切り刻まれて死ぬか、必死に抵抗して無残に死ぬかの二択しかない状況に置かれたアレスにチャクラムは目の前の人間はどのような選択を取るのかと思った直後……

 

───世界に一つの境界が生まれた。

 

 

================================

 

 

──数分前。

 

永遠に続く刃の嵐の牢獄に囚われる中、アレスの手札は底に尽きかけていた。

 

「(このままでは、魔力枯渇で終わりますね……)」

 

残り魔力量が五割を切った状況にアレスは少しばかり焦りを見せるが、諦めるという考えはない。

 

「仕方ない。アレを使いますか」

 

何処で自分達を視ているのか分からないため重要な手札は使うのを極力避けていた。が、この状況をどうにかするにはこの魔法(■■に干渉する魔法)しかない。

一応、ハルツィナで〝昇華魔法〟を手に入れたお陰で以前よりも詠唱節を減らすことが可能になったが魔力消費に心配がある。

 

しかし、今は考えてるだけ無駄だ。と、アレスは動いた。

 

「ふぅ───〝禁域解放〟!」

 

瞬間、橙色の魔力の螺旋の波紋が広がりアレスの全ステータスを昇華させた。

 

──昇華魔法〝禁域解放〟

自身の全ステータスを昇華させる魔法。

 

これにより、全ステータスが昇華されたアレスは片手を突き出し久しく詠唱を紡いだ。

 

「界を隔つ力 神の領域たる秘法 我が隔つは境界 あらゆる干渉を許さない虚空の領域」

 

今から発動するのはアレスでも未だに簡略できないほどの魔法。故に、長文詠唱。それを邪魔しようとする斬撃の嵐はアレスは詠唱を唱えながら槍で捌くという高等技術──並行詠唱により最小限の動きで直撃を避けている。

 

「これは至上なる結界 数多の厄災を跳ね除ける絶対領域を此処に!」

 

これでも二十を越える節を六節にまで短縮させることを可能にしたのは、アレスの才能故である。

 

()でよ──〝虚天蓋(きょてんがい)〟!」

 

そして、詠唱の末に現れたのはアレスを包む境界。

 

──光・空間複合魔法〝虚天蓋〟

光属性最上級結界魔法〝天蓋〟を軸にした結界外から結界内への干渉を否定するという境界を策定させた魔法。

これにより、ありとあらゆる干渉を跳ね除ける超位結界。

 

これは、空間魔法の正しい定義である〝■■に干渉する魔法〟を断片的に理解を得たアレスが為せる秘技。

完全な理解をしてない故に術式を簡略化もできず、魔力消費量も半端ではないが、これによりチャクラムの〝嵐獄斬〟の攻撃を全て跳ね除けた。

 

二対の手裏剣も反射させる対象物を失いチャクラムの手に戻る。しかし、チャクラムは目に映る光景を呆然と見つめ口を開いた。

 

「──理の干渉。……まだ完全ではないにしても明らかに空間の術理を、在り方を把握し力を拡張している」

 

神代魔法を持っているだけならば神代を生きた者にとっては、そこまで脅威にはならない。

だが、神代魔法の本来の在り方、定義を理解した者達が扱えば次元が一つや二つ違ってくる。

 

この自分でもあの障壁を砕くことは不可能だ。

 

故に、チャクラムは思う。有り得ない、と。しかし、この衰退の道を辿る世界で目の前の男は其れを成し遂げた。

 

その事実にチャクラムはぐうの音も出ない。

 

「まさか、これほどとはな………」

 

ククッと、独りでに笑みを零す。

 

「アレス・バーン。貴様はどれだけ俺を驚かせてくれる………」

 

人間とは思えない身体能力、己を腕を切り落とすという決断力、手裏剣と自分の行動を予測して動く判断力、そして、幾つもの神代魔法を扱いこなす才能。

 

これほどチャクラムを驚かせる人間は神代でもそうはいない。

 

故に、(呪い)で痛む体を無視してチャクラムは全身に力を入れて懐かしむように口を開く。

 

「やはり、闘いとはこうでなくてはな───」

 

さぁ、次は何を魅せてくれる?

 

「なぁ、お前もそう思うだろう?〝縛獄(バクゴク)〟」

 

両手に持つ手裏剣に語りかけるように口を開くチャクラムに呼応して二つの手裏剣を本来の姿──二つの二重の刃の鎌となってチャクラムの手に宿る。

同時にチャクラムは己の〝神代技能(ディアスキル)〟を発動する。

 

「───〝遮那王(シャナオウ)〟起動」

 

神代技能の発動によりチャクラムの足裏に二重の円が現れる。瞬間、音すらも捨てチャクラムは跳んだ。

 

──神代技能〝遮那王(シャナオウ)

耐久、魔耐の能力上昇に敏捷の倍加。

他にも足裏に二重の円が現れ、敏捷および飛翔能力の倍増と補助。これにより、空間歩法や対空能力の飛躍。

 

そして、この技能には一つイカれた力が備わっている。

 

それは………

 

同じ頃、策定された境界により外からの干渉を跳ね除ける大結界〝虚天蓋〟。しかし、それを一人の鬼人が通り抜けた(・・・・・)のを確認した。

 

「なっ!?」

 

この堅牢なる結界を抜けた鬼人にアレスは動揺を隠せない。一方、相手の鬼人は二つの鎌を構えてただ告げる。

 

「さあ、次は何を魅せてくれる?! アレス・バーン!」

 

──神代技能〝遮那王〟に備えられたもう一つの能力。

 

それは………境界を越える力。

 

そして、驚くアレスの眼前に鬼人によって振るわれた二つの死神の刃が襲いかかるのであった……。

 





中間報告
・編集は原作前から一章までの編集は終わりました(*^^*)
・鬼人編を終わらせたら氷雪洞窟編か集う最高ランク冒険者編のどれにしようか迷ってるところですので投票で決めようと思います。

内容としては下記にある通り
氷雪洞窟編……原作通りの雫のヒロイン化などストーリーが進みます。
集う最高ランク冒険者編……断章です。ギルドに最高ランクの冒険者達が集まります(その中にアレスに無詠唱を教えた人物がいる)。これは、紹介が主なので数話ぐらいしか書かないと思います。

下記のリンクで冒険者編の主要人物が登場します。
https://syosetu.org/novel/311596/98.html


鬼人編の後の章は何がいいか?

  • 原作通りの氷雪洞窟編
  • 断章の集う最高ランク冒険者編
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