ナンジャモと大筒木の居るセラフ部隊   作:たかしクランベリー   

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23話・蒼井の人生

 

━━▶︎ DAY5 19:00

 

いつもの通常課業に加え、

オペレーション・プレアデスに

備えた31Bとの合同訓練が

より厳しいものとなってきた。

 

幾度となく共に訓練した成果が

実り、手塚氏にも

褒められるレベルにまで達した。

 

しかしその分、気になる部分が

より如実に現れ始めた。

 

「ボク……やっぱり気になるな……」

「31Bの隊長さんが気になってんのか?」

 

「流石だねユキ氏。その通りだよ。」

 

「チームワーク

ばらばらみたいだしね。」

 

「ボク一人で、

お話ししに行ってもいいかな。」

 

「あたしは賛成だぜ。

まぁ、あたしは言いたい事いって

さっぱりしたし、

特についてくる理由はない。

っていうのが本音だ。

……後はもう、ナンジャモの

好きにしていいんじゃないか。」

 

「ルカ氏……」

 

一同も同意を示すように、

静かに頷いた。

 

「みんなありがとう。

ボク……行ってくるよ。」

 

決意を固め、部屋を出ると

廊下の椅子で見覚えのある子が

座っていた。

 

(この眼帯……あの子は31Bの……)

 

「何か用ですか?」

「梢氏、えりか氏が今どこに居るか

教えてほしい。」

 

「蒼井さんなら、

飲み物を買いに行きましたよ。」

 

▶︎メイン通り

▶︎行かない

 

取り敢えず、メイン通りの

自販機がある所まで行ってみよう。

 

あ……居た。

 

「おーい、えりか氏ー。」

「え……ナンジャモさん?」

 

「少し大事な話があるんだ。」

「大事な話……ですか。

分かりました。ビャッコはもう、

みんなの所にお帰り。」

「ヴァウ……。」

 

「私は大丈夫だから、みんなとも

仲良しになる時間が必要でしょ?」

「ヴァウ!」

 

ビャッコ氏は

元気よく返事して走り去っていった。

 

「気を遣わせて悪いね。」

 

「良いんですよ。

込み入った話となると、

2人きりに越した事はないでしょう。

……夜風が気持ちいいので、

学舎の方まで歩きませんか。」

 

「うん。

じゃあボクは後で追いつくから、

先に待ってると助かるよ。」

「あ、はい。」 

 

(えりか氏は何も買ってないし、

何か買っていこう。)

 

 

 

――学舎外・噴水付近、ベンチ。

 

「お待たせえりか氏。

良かったら、これ飲んで。」

 

ボクはホットココアを手渡した。

 

「わ! ありがとうございます!」

 

「それと……これも一切れどうぞ。」

 

「え!? 苺のホイップサンドですか!?

こんな夜中に食べるなんて……

罪悪感が凄すぎます!」

 

「気にしないで。

四六時中サンドイッチ食べるなんて、

パルデアでは日常茶飯事だから。」

 

「……ぱるであ?」

「ボクの故郷だよ。

自然豊かで、

ポケ……色んな動物が居るんだ。」

 

「きっと、居心地のいい場所

なんでしょうね……。」

「うん。とっても良い場所だよ。

でも今は、それと同じくらい

ここでの暮らしもボクは好きだ。」

 

「やはり、

気の合う仲間の存在でしょうか……」

 

(えりか氏は鋭いなあ……)

 

「全くもってその通りだよ。

かつてのボクは、1人で抱え込み過ぎた。

あの時、ライムさんに

一声かけてれば変わってたかも

しれないのにね。」

 

「………………。」

 

「この基地の色んな人に触れて

ボク自身の視野が広がった。

もう一度気がつけたんだ。

誰かに頼って良いんだって。

どんなに遅くて歩幅が小さくても、

仲間と共に、一緒に歩いて

成長していけば良いんだって。」

 

「でもナンジャモさん。

お仲間さんとはここで

始めて出会ったんですよね……?」

「うん。

ついこの間会ったばかりだよ。」

 

「それでもうそんなに

親しくなってるなんて……

人見知りの蒼井には真似出来ません。」

 

「ボクだって人見知りだよ。

アカデミーの書庫に独りでこもって

ライトノベル読み漁るくらいには……」

「ぶっ!」

 

勢いよく、えりか氏が鼻から

ココアを吹き出した。

 

手元では、偶然にも

苺ココアホイップサンドが

完成している。

 

よし、今度ココアパウダー用意して

作ってみよう。

って、そうじゃない。

 

「急に吹き出してどうしたの

えりか氏?」

 

「だって、絶対ないような事

言うんですもん……。

人見知りだったらこうして

会いにきてくれる事もない筈ですよ。

鼻かませてください。」

 

「どーぞ。」

 

ボクはハンカチを手渡した。

 

「ずずー。」

 

鼻をかみ終わったえりか氏が、

ハンカチをポケットにしまった。

 

「急に吹き出してすいません。

このハンカチは後で洗ってお返します。」

「分かった。

……それで、聞きたい事が

あるんだけどいいかな。」

 

「はい、なんでしょう。」

 

「えりか氏は、どんな人生を

歩んできたの?」

「蒼井の人生、ですかー……。」

 

しんみりとした表情で、

彼女は語り出した。

 

「そうですね……とても平凡です。

とてつもなく平凡です。」

「そうかなぁ、えりか氏くらい

整った顔立ちなら、浮いた話の

十や二十はありそうだよ。」

 

特に、リップ氏のアカデミー期

モテモテ話はアカデミー七不思議に

入るくらいの逸話だったし……。

 

「絶世の美女かっ。」

 

目を見開いて、ユキ氏のように

強く言い返すえりか氏。

さっきから、予想外の反応ばかりだ。

 

「誰かを好きになるような事も、

誰かに好かれるような事も無かったです。」

「どうして。」

「いわゆる勉強の虫でしたから。」

 

「勉強が好きだったってコト?」

 

「蒼井自身は特には。

ただ両親が教師だったので、

良い点を取ることでしか

褒められなくて……。

それに、ハイパーサイメシアなので

暗記だけは得意でした。」

 

「ハイパーボール入りのサーフゴー?

えりか氏は

ポケモントレーナーだったの?」

 

「ポケ……トレーナー?

ナンジャモさんが何を言ってるか

分かりませんが……

一度見たものをずっと覚えていられる。

という特殊な能力です。」

 

「へー。便利な能力だね。」

 

「そんないいものではないですよ?

寧ろ、ナンジャモさんの持ってる

『楔(カーマ)』の方が羨ましいです。

蒼井の耳にも入りましたよ。

あのDeathSlugを一振りで

両断したと……」

 

「あはは……あれはそのぅ……」

「ナンジャモさん……?」

 

言えない。

イッシキ氏が

好き勝手暴れた結果だなんて。

 

えりか氏、

愛想笑いしか出来なくてごめん。

 

「取り敢えず、話戻そ?」

「そうですね。戻しましょう。

……それで、毎回テストは満点でした。」

「ん……それっていい事じゃないの。」

 

えりか氏は、伏し目がちに

なりながらも言葉を続ける。

 

「でも、『それだけだった』んです。

得意のは暗記した解答を埋めるだけ……

他に取り柄なんかなかった。

みんなは、得意なものがあったり

夢中になれるものがあって

何かを成し遂げようとしていた。」

 

――何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

それぞれがそれぞれのポケモンたちと

ともに歩き、ともに考え、ともに感じ……

自分だけの宝物を見つけて

帰ってきてください……!!――

 

そうか、えりか氏はまだ……

 

「色んなことを暗記できたけど、

蒼井自身は空っぽだったんです。

それに気づいた時には、

愕然としました。」

 

「親と同じ教師になる夢とかは?」

「個人的にはそれもなかったです……。」

 

「でも今は31Bの部隊長だし、

それなりにやり甲斐とか感じてないの?」

 

「ナンジャモさんは、そうなんですか?」

 

「やり甲斐というか、成り行きだからね。

ボクが楔を持っていなかったら、

素の実力や人望的にも、

間違いなくルカ氏が部隊長を

やってると思うよ。」

 

「そんな事ありません。

他でもない

ナンジャモさんだからこそ、

今があると思うんです。」

 

「……お世辞でも助かるよ。」

 

えりか氏は立ち上がり、

噴水の方を見つめた。

 

「でも蒼井は、ナンジャモさんの

ようにはなれていなくて……。」

 

「見てたよ。えりか氏、

31Bの仲間たちと

上手くいってないみたいだね。」

「巻き込んでしまって

すみませんでした……。」

 

「気にしなくていいよ。

いつかきっと、みんな

えりか氏の事を分かってくれるって。」

 

「優しいですね。ナンジャモさんは。」

「そんな事ないよ。」

 

「最初部隊長に任命された時、

蒼井にも全うすべき役目が

宛てがわれた事が嬉しかったんです。

みんなを纏めて引っ張っていこう。

誰も死なせないように頑張ろう。

それが蒼井の生きる意味なんだ。

そう決意を固めました。

でも、出来なかった……。」

 

夜空を見上げ、えりか氏は

苦しそうに告げる。

 

「蒼井には向いてなかったんです……。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

一部のパルデア人は、
サンドイッチ食べて
ピクニックSETを
出し入れしまくってるらしいです。

もし自分が通行人でそれ見かけたら、
そっとスルーして通り過ぎます。
よろしくお願いします。

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