ナンジャモと大筒木の居るセラフ部隊   作:たかしクランベリー   

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24話・ウェイトレス蒼井、参戦!

 

夜空を見上げ、えりか氏は

苦しそうに告げた。

 

「蒼井には向いてなかったんです……。

みんないなくなっちゃって、

一人きりで立ち尽くしていて……

眠りにつく度、

その光景が眼前に広がります。

空が落ちてきて、蒼井は程なくして

赫い水の底に沈むんです。」

 

未来に大きな不安を持ったせいで、

悪夢に陥りやすい……という事?

 

「それは終わりのない地獄のようで……

水中にある一筋の光……蒼い星を頼りに

足掻いて泳いで出ようとしても、

思うように身体が動かず。

泡だけが指をすり抜けるんです。」

 

どうしてえりか氏は、

溺れる夢を見ているのだろう。

一体何が、

彼女を水中に誘っているのか。

……まるで分からない。

 

「蒼井はきっと、地上で生きていくには

あまりに怯懦な存在だった。

そういう『暗示』がこの悪夢の正体で、

終わらない記憶の『轍(わだち)』。

だから、水の中から出られず

どこにも辿りつけない。

どこにも行けないような人間に、

誰かがついてくる訳ないんです。」

 

「えりか氏は、夜な夜な苦しい思いを

して日々を過ごしてるんだね……」

 

「ですが最近は、その悪夢も

少しずつ改善されて来たんです。」

 

えりか氏の声色が、軽くなった。

 

「どういう事?」

 

「水中なのに、手が温かくなるんです。

すると、蒼い星が眩く光ります。

それが晴れると……稲穂の海に居るんです。

心安らぐ夕景に、

果てしなく続く稲穂の海。

蒼井の心は穏やかになって、

不思議と歩き続けてしまうんです。

でも水の底にいたような息苦しさは

なくて……只々心地良いんです。」

 

「それは、アンタが過去の記憶と

向き合い進もうとしてる証よ。」

 

「「――ッ!?」」

 

突然現れた気配に目を向けると、

そこにはイヴ氏と弥生氏が居た。

 

「いきなり現れて悪いわね。

私とした事が、つい気になって

盗み聞きしてしまったわ。」

「お前らの企みは筒抜けでゲス!」

 

「山脇さん……」

 

「いいかい蒼井。

どんなに苦しくとも、

過去の記憶を嫌ってはダメよ。

過去の記憶と向き合える

権利を持ってる。

それだけで人は幸福なの。」

 

「山脇様……どうしてそんな

悲しい顔をするでゲスか?」

 

「豊後、私の為にココアジュース

2本買ってきなさい。」

「はいでゲス!」

 

スタスタと弥生氏が離れていった。

 

「じゃあ話を戻すわよ。

蒼井、無意識だろうけどアンタは今、

変わろうとしている。

それは過去が鮮明に残っていて、

背中を押しているからに他ならない。

過去の残留すら許されない

私たち31Cには無い強みよ。」

 

「……はい。」

 

「過去と向き合い成長を続ければ、

アンタはきっと、

認められる存在になれる。

31C部隊長であるこの私が

保証してあげる。

身勝手なのは承知だけど、

次の夢が迎えに来たら、

私たちにも聞かせてちょうだい。」

 

「山脇様、例のブツを2本

持ってきたでゲス!」

 

あ、弥生氏が戻ってきた。

 

「ほう……!

やるじゃない豊後ぉ!

どれどれ、私に見せてみな……

ってこれ、どっちも

キャラメルラテじゃないかい!?

しょうがないわね!

罰として豊後、アンタにも

一本飲んでもらうよ!!」

 

「はいでゲス!!」

 

「あのー、山脇さん?」

「まあ、私から言えるのはそうだねぇ……

アンタは独りじゃないって事さ。

何かあったら私たち31Cや31Aに

頼ったっていい。」

 

「ありがとうございます……。」

 

「取り敢えず次の作戦が終わったら、

私たち31A、31B、31Cで

纏まって祝杯をあげるなんてどうだい?」

 

「お前は特別に、当日山脇様の

ウェイトレスとして

クリームソーダを献上する権利を

くれてやっても良いでゲスよ……

けっひっひ!」

「……はい?」

 

唐突な弥生氏の謎発言に、

えりか氏は首を傾げた。

 

「ナンジャモ、アンタも異論はあるかい?」

 

「……ないよ。寧ろ大歓迎だ。

えりか氏は?」

「そうですね……

じゃあ楽しみにしてます!」

 

「マジでウェイトレス

やる気かいアンタ!?

私めちゃくちゃ恥ずかしい奴に

なるじゃないか!!」

 

「はい! 

蒼井、ウェイトレス頑張ります!!」

「うん! えりか氏なら

きっと似合うよ!」

「決まりでゲスね!」

 

「主人である私の意見は!?」

「「「………………。」」」

 

「変な所で意気投合するん

じゃないよアンタ達!?

なんだいその悲しい目はァ!?

――分かったわよ!

アンタ達の好きになさい!」

 

 

……………。

 

………。

 

━━▶︎ DAY5 22:00

 

部屋に戻ると、

タマ氏がベットから立ち上がった。

 

「ナンジャモさん。

結果はどうだったのでしょうか……!」

 

「話してきたよ。結構大変だったけど、

心を開いてくれた。

まあ、イヴ氏のフォローが

無かったら危なかったんだけどね。」

 

「え!? あのワッキーが!?

すげー意外ッ!!」

「月歌、何勝手に1人で

盛り上がってんだよ。

それより蒼井の様子は……」

 

「えりか氏の戦う理由は、

みんなを纏めて

誰も死なせないように

頑張ることだった。」

 

「リーダーとして至極真っ当な理由ね。」

「でも、今の様子だと

先行きが不安過ぎですぅ……」

 

「それについては本人も悩んでる。

だから次の作戦が終わったら、

労いの意味も込めて、

31A、31B、31Cの合同で祝杯を

上げることにしたんだ。

……イヴ氏が独断で決めた事だけど、

ボクも了承した。」

 

「何それ最高じゃねーか!

おいお前ら、あたしらの

チャクラ宙返りで祝杯を

めちゃくちゃに盛り上げてやろーぜ!」

 

「そうね。」

「もちろん。」

 

「もしやったら、クソ迷惑だからな。」

「えー。」

 

各々が祝杯の未来に期待を膨らせ

ながらも、今日という1日は

穏やかに終わりを迎えた。

 

消灯をして、

瞼を閉じれば明日が…………

 

ゴポゴポゴポ…………

 

(ここは、座標……?

座標にも、水中があるのか?

……待って。)

 

座標にしては様子が可笑しい。

ボクは、円柱型の水槽の中に居る?

 

いいや、ボクだけじゃない。

周りにある水槽の中にも、子供がいる。

 

呼吸用のホースが

取り付けられた子供たちが。

 

でも、いくつも破損した水槽が

あったりもするし……

ここは何かの研究施設なのかな。

 

ん……大人が2人居る?

楔を発現させてる僧侶のような人と

――アマド氏!?

 

何がどうなってるの!?

 

「随分減ったな。」

 

「やめる理由が何処にある?

アマド……お前と違って我々には、

時間も、選択肢も無い。

全てを円滑に進めるには、

これこそが最短距離なのだ。

たった一つで良い……」

 

ズブッ。

 

言って、彼は水槽と繋がった

水溜りに手を差し込む。

 

オレンジ色の水は気泡を

ぶくぶくと吹き、黒く淀んでいく。

 

中の子供が声も上手く発せないまま

悶え苦しみ、じたばたとする。

 

それでも解放される様子はなく……

忽ち水槽内が黒く染まり、

水槽が破裂した。

 

その悲惨な結果に、

アマド氏が

悲しげな表情で口を開いた。

 

「また失敗だな……」

 

楔の男は、憤った顔となり

破損した水槽を蹴り飛ばした。

 

バリィイン!

 

そして、怒りをぶつけるように

こちらを睨み……告げる。

 

「私を失望させるなよ……『カワキ』」

 

すぐさま移動して、

彼はボクが居る

水槽の水溜りに手を差し込む。

 

また、黒く淀み始め……

 

(何……これ? くる……しい……)

 

「……はぁっ、はぁっ……。」

 

「お嬢ちゃん。

不慮の事故みたいなモンだが、

どうやら見てしまったようだな。」

 

「……アマド氏。ここは……宝食堂。」

「落ち着けお嬢ちゃん。

今君を苦しめる奴は何処にも居ない。」

 

「アマド氏、あの楔の人は一体……」

「アイツはジゲンだ。」

 

「ジゲン……?」

「なぁ、お嬢ちゃん。

記憶の中で聞いたジゲンの声に、

何か既視感を感じないか。」

 

既視感。……あの声。

 

「声が、イッシキ氏と同じだった。」

「ようやく気がついたか。

そう、あの時のジゲンと

大筒木イッシキは同一人物だ。」

 

「ねぇ、アレは何なの。

アマド氏とイッシキ氏は何を……

子供たちは無事なの? 

カワキっていうのは……?」

 

アマド氏は、手のひらを前に出した。

 

「待て待て。俺といえど

そう一辺に説明できる訳じゃない。」

「……急かしてごめん。」

 

「お嬢ちゃんの気持ちもよく分かるが、

一つずつ説明させてくれ。

まず君は、座標墓灊の

『記憶の泡』に

不慮の事故で接触し、

楔経由でカワキ君の記憶を

『追体験』してしまったんだ。」

 

「追体験……。」

 

「カワキ君とは、

大筒木イッシキの

楔を持っていた前任者だ。

そして我々がしていた事は、

『楔』を人間に刻む『作業』だ。」

 

「作業の為に苦しんだ子供たちは、

どうなったの……」

 

「あの子供たちは、

汚れた金で買い取った

身寄りのない孤児だ。

彼らは、楔の為の尊い犠牲となった……」

 

「……そっか。」

「どうした。

俺やイッシキが憎くないのか。

……それとも、失望し、幻滅したか。」

 

「適当な嘘をボクに吐くこと

だって可能だったのに、

アマド氏は正直に答えてくれた。

罪がどうあれ、

それだけでも充分だよ。

どんなに嘆いたって、

犠牲になった命は蘇らないからね。」

 

「お嬢ちゃんはどこまでも甘いんだな。」

 

ふと、手のひらに

ある楔を見てみる。

 

凝視すればするほど、

異質な雰囲気を放つ黒い菱形……

 

けれどこれは、

希望にだってなる筈だ。

 

「この楔で犠牲になった命より多く、

ボクが……ボクらが

キャンサーから人類を救ってみせる。

――それこそが、ボクが彼の楔に

選ばれた理由だと思うから。」

 

「ああ。嬢ちゃんなら

きっと果たせるさ。……健闘を祈る。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

昨日の生放送、最高でした。
待っていたぞ! 蒼井ィ!
(フルフルニィ……)

ウェイトレス蒼井、全力で引きます。
よろしくお願いします。

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