ナンジャモと大筒木の居るセラフ部隊   作:たかしクランベリー   

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7話・適正試験

 

━━▶︎ DAY???  ???

 

あれから、1週間くらい経っただろうか。

もう、時間の感覚も曖昧だ。

 

あの後すぐ、

偶然ジムの視察で通りがかった

リーグトップに保護されて、

ボクは帰宅した。

 

放心状態が長く続いたせいか、

はっきりと意識が戻った時。

 

ボクは我が家のベットで天井を

3分ほど見つめていた。

 

事故の原因は、あの岩山に棲みついた

活性個体のオトシドリによるものらしい。

 

定期的にトップが弱らせて

被害を抑えてるものの、

今回に限っては異常な速度で

再活性化していたそうだ。

 

今のボクはどうしてるかというと……

 

我が家に引き篭もっている。

リンちゃんとの約束なんて

そっちのけで、無気力に、無機質に

パソコンの画面を眺めてる。

 

別に外が怖い訳じゃない。

ただ……強い失望に呑まれている。

 

そんなある日の事だった。

 

ピーンポーン。

 

家のインターホンが鳴らされる。

マイルームのドア越しに、

母から行くよう言われ

ボクはドアを開けた。

 

「……誰ですか。」

 

「俺だ。確かに辛いだろうが、

そろそろ学校に通ってくれないか。

みんな心配してるぞ。」

 

迎えに来たのは、

クラスメートの委員長。カガミ君。

真面目で優しいクラスの人気者だ。

 

彼の善意を蹴るのもバツが悪いので、

学校にもう一度通うことにした。

 

そうして

空っぽの学生生活を進めること一週間。

放課後にカガミ君からまた呼び出された。

 

呼び出された場所は例の岩山の麓。

 

「ねぇ、カガミ君。

ボクになんの嫌がらせ?」

 

「嫌がらせなんかじゃねぇ。

いつまでも死人みたいな顔してる

お前が心配なんだ。

だから今日は、特別ゲスト込みの

ピクニックをする。」

 

「特別ゲスト……?」

「そうだ。」

 

「あぁそうさ、坊や。

そこのお嬢ちゃんが、迷える子羊かい?」

「はい。」

 

急に現れた3人目に、ボクは目を向けた。

 

数日ネットに浸っていただけあって。

それが誰なのか、一目で理解した。

 

褐色肌に下唇の淡いイエローリップ。

黒を着こなすラップ界の女傑。

一時期多くのメディアを飾った

大人気ラッパーの、ライムさんだ。

 

「よぉー、お嬢ちゃん。

良い子だからアタイの前に来な。

そうそう、それで良い。

そんじゃ、歯ぁ食いしばれよ。」

 

パァンッ!

 

鋭く広い痛みが頬に広がる。

ボクは、ビンタされたらしい。

ライムさんの方に向き直ると、

彼女は激昂していた。

 

「いつまでも下向いてんじゃねぇよガキが!」

 

「――ッ!?」

 

「お前のダチは今のお前を望んでたのか!?

違うだろぉ!!」

 

「知ったふうにならないでよ!

ボクは……っ…………」

 

どうして。どうして言い返せない。

 

「実はな、アタイの彼氏も

ここの落石事故で亡くなってんだ。

危険だから登るなって忠告したのにさ。」

「……え?」

 

「別に同情を誘うとか、

そんなんじゃねぇ。ただアンタに聞きたい。

しつこいようだが、アンタのダチは

今のアンタを望んでると思うかい?」

 

そんなの、絶対に。

 

「――望んでない。」

「だろうな。アタイもそれに気がつくまで

相当の時間をかけたモンさ。」

 

「それに気がついた時、

ライムさんはどうしたんですか。」

「歌った。」

 

「歌った……?」

 

「ああ。

元々ラップはアタイの趣味じゃねぇ。

彼氏の本業さ。アイツは何よりも

ラップ音楽が好きでね……

そんなに好きなんだったら、

アタイの気持ちも

ラップで届くんじゃねぇか。

って思った訳よ。」

 

「…………」

 

「少なくともアタイは、

地獄で見てるアイツにも笑って欲しい。

安心して欲しいから、

アタイ自身が楽しんで、みんなが楽しめる。

そんなおもしれーラップを地の底まで

聴かせるつもりだよ。

……それだけさ。」

 

そうか。

ライムさんのラップで魂が震えるのは、

そういうことだったんだ。

 

何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

ライムさんは時間をかけて、

ようやく自分の宝物を見つけたんだ。

 

ボクにも。

 

「……ボクにも、

見つけられるかな。宝物。」 

 

「見つけられるさ。

だってアンタまだ……

宝物探しの『途中』だろ?」

 

「はいっ!!」

 

「ありがとうございます。

ライムさん。」

 

カガミ君が、

深々とライムさんに頭を下げた。

ボクも、続いて下げる。

 

「気にすんな2人とも。

むしろ感謝すべきはアタイさ。

自分を見直す良い機会をもらえた。」

 

「は……はあ。」

 

「あと、そこのお嬢ちゃん。

正気だったら、

結構イケた顔してるじゃないか。

どうだい……

アタイのDJになってみないかい?」

 

「……え?」

 

「今までと違う世界に触れりゃ、

見えてこなかったモンが見えてくるかも

しれないだろ?」

 

「でっ、でも。

ボクみたいな初心者がやったって

顔に泥塗るだけだし……」

 

「へっ! 

そんなモンアタイは気にしちゃいねーよ!

んな心配要らないくらい、

バッチバチに叩き込んでやっからな!!

んで、どうなんだ……

やんのか? やんないのか?」

 

「やりたい……」

「あ? 聞こえねーぞ!」

 

「ボク、ライムさんのDJやりたいです!!」

「へっ、言えんじゃねぇか。ほらよ。」

 

口角を少しあげ、

ライムさんは握り拳を近づけた。

 

「ん?」

「ほら、アンタも握り拳を繋げな。

これでアタイらはシスターになんだよ。

ま、宝物を見つけるまでの

間だけなんだけどさ。」

 

ボクは、握り拳を繋げた。

 

「よろしくな、シスター。」

「はいっ! ライムお姐さんっ!」

 

 

 

━━▶︎ DAY5 20:05

 

 

「――とまぁ、こんな感じかな。

何か気になるところはある?」

 

「あのぅ、ナンジャモさんって以前、

自分のこと配信者とか言ってましたよね。

DJをしている事と、

何か関係があるのでしょうか……と。」

 

「ははっ、鋭いなぁタマ氏は……

大アリだよ。

ボクはあれから半年くらい、

ライムさんのシスターをやってた。」

 

「…………」

 

「その辺りで、シスターを解散したんだ。」

「え……?」

 

信じられないほど口をあんぐり開け、

目をまん丸にしてタマ氏が驚いた。

 

「そんなに早く揉めたんですか?

長続きしそうだったのに……。」

 

「揉めてなんかいないよ。

寧ろ、最後までズッ友レベルくらい

仲良かったし、ボクも

それなりにDJ界で認められたんだ。」

 

「なのに、どうして……」

「ライムさんに言われたんだ。

今のアンタなら、

すぐに宝物が見つけられるってね。」

 

「そう、ですか。」

「でも、ライムさんの言葉通り

数週間で宝物は見つかった。

ま、ボクが色々チャレンジしてみたのも

あるかもしれないけど。」

 

「その宝物っていうのが……」

「うん。配信活動だよ。

ボクもライムさんと活動を続ける度、

彼女の逞しい生き様に

憧れるようになった。」

 

「それって。」

 

「何処へ行き、誰と出会い、何を成すのか。

ボクの配信活動の目的は、

数字やお金なんかじゃあない。」

 

「……………。」

 

そうだ。いつだってボクは。

 

「みんなをボクの企画で楽しませたい。

より多くの人に

この楽しみを届けたい。

天国にいるかもしれない 

リンちゃんにも、心配しないで

楽しんでいるボクの姿を

見ていて欲しいんだ。」

 

「じゃあ、今度は私たちのライブを

お届けしましょう……!!」

「タマ氏……。」

 

突然、

視界に過去がフラッシュバックした。

 

――マルマイン、大爆発――

 

あれ?

ホントにボクって、

いつだって……そうだったっけ?

 

そういう気持ちで、配信に臨んでいたの?

 

どうしてあの時、

意味もなくハルト氏と

使い回しの企画コラボ配信ばかり……

 

そうか……そうだったんだ。

とっくに、逆になっていたんだ。

 

マクノ氏の言葉は、本物だった。

 

ボクは、ボクを信じてるリスナーを

本当の意味で裏切ったんだ。

リスナーだけじゃない。

自分とリンちゃんだって。

 

だから……

 

「ごめん、タマ氏。

ボクは配信時代、

自分とリンちゃんを……みんなを裏切った。」

 

「急にどうしたんですか!?」

 

「ボクがこの世界に来て、

この役目を果たさきゃいけないのは、

贖罪なのかもしれない。」

 

「まだまだナンジャモさんのことは

深く知りませんが……でしょう!」

 

「よーしタマ氏!

明日の適正試験、頑張ろう!」

「はいっ!!」

 

 

 

 

━━▶︎ DAY6 13:30

 

ななみ氏に案内され、アリーナ内へと入る。

中には、手塚氏が待っていた。

 

「よく来たわね。ナンジャモさん。

昨晩何があったのかは

知らないけれど、

中々隊長らしい顔付きになってきたわね。」

 

「ボクは、自分を見つめ直し、

ボク自身が今為すべきことを理解した。

ただそれだけです。」

 

「……なるほどね。

今日はエミュレータは使いません。

あなた達、全力でかかってきなさい。」

 

「え? それはどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。

全力でかかってきなさい。」

 

「やべーよ。

司令官は本気で戦う気だよ……」

「その通りよ。」

 

「待て待て、待ってくれ!」

「どったの?」

 

「怖じ気づいたのかしら。」

 

「そうだよ。怖じ気づくよ。

心の準備をさせてくれよ。

……一回、アリーナの外へ出よう。」

 

「手短にね。」

 

アリーナ外で、少しだけ作戦会議をし。

ボクらは手塚氏のところへ戻った。

 

「戦う覚悟が出来たようね。

……では、行くわよ。」

 

「まさか、あれは……?」

「電子軍人手帳……!」

 

「――夏草や、兵どもが夢の跡!!」

 

 


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