いつか神を滅ぼす日のために   作:観察者X

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準備

「ということはアインズ様、真王国とは本格的に協力関係になったと判断してよろしいのでしょうか?」

「協力関係ではあるな。友好とまではいかないが。お互いに隠し事や欺瞞があると理解してのビジネスライクな関係だ」

「現状はそれでよろしいのではないでしょうか。もし珍しいマジックアイテムなどを譲ってもらえれば宝物殿に送って欲しいですが」

「ああ。彼の創造系魔法で作られた武器には通常のプレイヤーでは有り得ない、ワールドエネミーとしての特殊ボーナスが付くらしくてな。聞いた話では条件付きでパワードスーツまで作れるらしい。今後の契約次第では購入も検討している。支払いは金貨ではなく情報やアンデッドなどの労働力になるが」

「おお! それは素晴らしい!」

「流石にワールドエネミーは敵に回したくない。ナザリックの総戦力を以ってすれば一度なら勝利できるだろう。だが、その代償として失うであろうものは多すぎる。対して、得られるものはあるかと言われたらあまり期待できない」

「はい。他にも協力関係の方がメリットは多岐に渡りますし、あえて敵対される利はないかと」

「だからこそ彼とは末永く現在の関係を続けたいものだ。……この意見を日和ったと思うか?」

「まさか! 勇敢と無茶は異なります。このパンドラズ・アクター、アインズ様のご判断に深く同意いたします。他の至高の御方々がいらっしゃったとしても、反対意見は出なかったと愚考いたします」

「そうか。なら、いいか」

 

 

 

 

「――というわけです、皇帝陛下。速やかに、師が望んだように、エルフの奴隷を所持している者に課税を義務付けてくだされ」

「よし分かった、他ならぬ爺の頼みだからな――などと言うわけがないだろう。おかげで法国から書状が来たぞ。抗議、いや、警告だな。帝国は人類の敵になるつもりか、だと」

「人類の敵、ですか。私からすれば法国こそ無用な大戦を始めて人類を滅ぼすつもりかと聞きたくはなりますがな。師やその背後にいる真王陛下と戦うなど正気ではありませぬ」

「それほどか?」

「ええ。少なくとも、師が私より上位の魔法詠唱者なのは間違いなく。そして、その師が従っている時点で、真王陛下は最低でも同程度。いえ、『奇跡の壁』の痕跡を見るに真王陛下が師どころの話ではないのは確実ですな。果たして私が百人いても勝てるかどうか」

「……神に滅ぼされた竜か。爺がそこまで言うのだ、真実かは判断できないが誇張した話でもなかったか。大樹海から出られないのは本当のようだが、それは此方から戦う必要がないという意味でもあるな。竜本人ではなく、そのアンデッドやエルフが攻め入ってこない限りは」

「ええ。もっとも、真王陛下がいつまでも大樹海に閉じ込められているかは不明ですぞ。何せ『神の奇跡』ですからな。だからこそ、帝国を標的から外すためにも今は大人しく従い、友好のために私を送り出すことを勧めますぞ」

「私欲でそこまで開き直るか。だが確かにおまえの言うことも一理ある。馬力のある亜人ならともかくエルフの奴隷なぞ嗜好品、森での猟犬代わりが精々だからな。禁止にしたとしても個人はともかく国家としてダメージはほぼない。相手もそれを考えての提案だったんだろうな。アンデッドの癖に中々人間のことを理解している」

「おお! では――」

「だが、本格的に真王国との開戦を避けるならば慎重にならねばならない。爺が師と呼ぶアンデッドは人間の理屈が分からぬ相手ではないのだし、エルフたちから戦意を奪うことを優先すべきだろう。そのためにはじっくり交渉を重ねる必要があるだろうな」

「――私には時間がないのだ。まさかとは思うが、試したいのか? 帝国全軍に匹敵すると言われる私の戦闘能力を。私の可愛いジルよ」

「そういう顔の方が好きだぞ、爺。今のは冗談だ。爺の願いのためにも帝国の未来のためにも、今はそのアンデッドの思惑に乗ってやろうじゃないか。法国含め対外には獅子身中の虫を送り込んだとでも言っておこう。あの国にも我々に話していないことが多いようだしな。文句を言ってくるのならば、そのあたりを要求させてもらおうか。これを機に、法国から近隣国家最強の座を奪うとしよう」

 

 

 

 

 真王国国主、竜人ネロ・ネミートス。またの名を大神コスモス。

 

 真王国宰相兼エルフ王、灰妖精レクス・セントラル。

 

 真王国元帥、紫幽王リバス。

 

 王城の一室にて、存在そのものが人類と敵対している新興国家『コスモス真王国』の最高位権力者三名――実質一名――が勢揃いしていた。

 

「とりあえず、異形種動物園に関しては問題が発生するまでお互いに利用し合って、助け合って、補い合っていくことになった。異論は?」

「ございません」

「ねえよ」

 

 レクスは恭しく頭を下げる。対照的に、リバスは不遜な態度でぷかぷかと紫煙を吐き出す。

 

「俺に弟子入りを志願してきた爺さんは、正直あんまり期待できねえからな」

「よりにもよっておまえに弟子入りねえ?」

 

 よく分からない話だ。詳しいことはその老人がもう一度大樹海に立ち入ってからにするとしよう。人類の裏切り者として処刑され、もう二度と来ない可能性だってあるのだから。

 

 リバスが要求したように法律を改正できていなかったとしても、その心意気だけで評価には値する。実験を兼ねてレベリングをするつもりだ。それにこの世界の魔法に詳しいならば、ネロたちが欲しい知識や教育のノウハウを知っている可能性もある。無事に仲間になれば大きなプラスになる。当然、裏切りなどには十分に気をつける必要があるが。

 

「それにしても、アインズ・ウール・ゴウンがこっちに来ている可能性がある、か。しかも法国と因縁ができていると来てやがる。どうしたもんかねえ」

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウン。あの大侵攻は全プレイヤーのトラウマだ。動画サイトに投稿された実際の映像を見た衝撃は今でも忘れられない。あの狂気は瞼を閉じるだけで思い出せる。他の十大ギルドも似たレベルのことはしたはずだが、やはり『千五百人を撃退した』という文句は大きい。

 

「何人来ているのか、ギルド拠点はあるのか、僕の魔王ムーブについてどう考えているのか。そのあたりが分かるまで国外への干渉は最小限にしないとどこで竜の尾を踏むやらだ」

「本体。分かり切ったことを聞くが、アインズ・ウール・ゴウンと戦って勝てるか?」

「本当に分かり切ったこと聞くんじゃねえよ」

 

 リバスからの質問に、ネロは笑って答える。

 

 

「――――絶対に勝てる。負けるはずがない」

 

 

 どこぞの大墳墓に所属する者が聞けば我を忘れるほど激怒するであろう戯言を、魔王竜は一切の見栄なく事実として言い切った。

 

「だけど、真っ当に戦ったら勝てるってだけだ。未知のワールドエネミー相手に、あの連中が真っ当に戦うものかよ。真っ当じゃない戦い方をされるだけだ」

「確かにな」

 

 これもやはり自問自答なのだ。レクスもリバスも反対意見など口に出さないし、内心でも抱かない。ネロ・ネミートスという個人にぶれない解答が用意されている問題において、この三者の意見に差が出るはずがないのだ。

 

「勝てる自信はあるけど、やっぱり苦手意識はでかいなあ。負けるつもりはないけど、真っ向勝負したくないのはこっちも一緒だ」

「それは言えてる」

「元々、十二年の間に法国に対して大きなことをするつもりはなかった。だが、より慎重になる必要があるかもしれないな。あるいは、大胆に外交をしていくか。とにかく十二年後の開戦に向けて、富国強兵に努めよう」

「御意に」

「委細承知」

「まさか六大神の側からヘルプは入らないと思うけど、相手があの魔王どもじゃこっちと戦争している暇はないだろうな」

 

 陽光聖典なる部隊とアインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔法詠唱者の交戦。これは誰かが意図的に起こしたものなのか。それとも偶発的なものなのか。確率で考えるならば前者だろう。しかし、強大な存在が狙うものとは得てして重なってしまうものだ。本当に偶々標的が重なってブッキングしてしまった、とネロは読んでいる。現状では異形種動物園からの情報しかないため、これも間違いの可能性が高いのだが。第一、アインたちが情報を出し惜しんでいる可能性も十分に考えられる。致命的な何かを教えてくれないのかもしれない。

 

「ファンギルドである以上、アインズ・ウール・ゴウンが彼らに接触したらちょっとまずいか? 少なくとも教えた情報は全部流れても不思議じゃないか」

「知られることを期待してワールドエネミーであることを教えたのでしょう?」

「まあね。ぶっちゃけ賭けではあるんだが、分は悪くないはずだ」

 

 具体的にどういう流れで戦闘になったのか、双方の被害状況はどの程度か、一連の出来事を知る第三者は誰がいるのか。当事者たちはこの戦闘をどう考えているのか。知りたいことだらけだ。

 

「まずは自分たちの足場を固めるか。異形種動物園の腹積もりはまだ読めないけど、あえて今の関係を壊す必要はないからな。お互い、貰える物を貰って渡せる物を渡す関係をできるだけ続けていこう」

「そう言うなら今回みたいに授業のある日に突然予定を入れないで欲しいんだけどよ」

 

 煙草を灰皿に押し付けながら愚痴るリバス。

 

「悪かったよ。でも、そのあたりもほとんど趣味みたいなもんだからな。エルフの寿命を考えると成果も期待できないんだし、そこはこっちの事情を優先させてくれよ」

「そうでもねえぜ? 実際、見所があるやつは何人かいる。あんまり言いたくねえけど、父親の血がいいんだろうな」

「その父親に強制的に戦場に出されたせいで結構な数が死んだか捕まったっぽいんだけど。悲しいし、むかつくし、もったいないねえなあ」

「おまえが殺したからいいだろう。死体も肉片まで獣に食わせたから蘇生もできねえよ」

「確かに。生かしていれば戦力にはなったんだが、必然的に起こる不和を考えると割に合わないか」

「そもそも本体が怒り狂って殺しそうですが」

「確かに」

 

 前王デケム・ホウガン。この世界においては英雄や逸脱者すらも超えた例外。デケムの父親は八欲王と呼ばれた者のひとりで、ネロはそれがプレイヤーだと睨んでいる。今のところ、彼の血を引くハーフエルフのアンを除けば、この世界土着の存在でデケムに近い強者は確認されていない。彼の血を引く遺児たちも、ユグドラシルのレベルに換算すれば二十あれば高い方だった。大樹海で見つかった生物も三十半ばが最高値であり、個体数も二十といないようだ。

 

「まあ、俺の生徒の中では『試練の果実』の最大値を出せたやつはまだ一人だけだが」

「もしかして僕がファーストコンタクトしたロリエルフか?」

 

 名前を思い出す前に、リバスは首を横に振る。

 

「だったら物語的にはそれっぽいんだろうが、違うね。生き残っている遺児の中では最年長の娘だ。聖騎士レベル十五を引き当てたし、元々の適正が戦士系だったぽいから相性いいんだよな」

「成程。それはいいことを聞いた」

「ああ。旗印にはちょうどいいし、俺はこいつを最前線の隊長にしたいと思っている。顧客と距離が近くてわかりやすい英雄が主役として必要だよな、やっぱり。だからよ、本体さえ良ければ例の『魔人化』を試してくれねえか?」

 

 魔人化。それはワールドイーター・ラーヴァの特典能力の一つ。ファンタジー的に言ってしまえば、眷属化が適した言い方だろうか。ただし吸血鬼等のそれとは違って、種族レベルではなく職業レベル扱いになる。無制限に使用できるわけではないが、誰にでも『界滅の使徒』という職業レベルを最大十五まで与えることができる能力だ。職業の能力を考えればユグドラシル基準で考えても破格の能力だ。もっとも、合計でレベル百五十になるようにしか分配できないため、与える相手は考えなくてはいけない。

 

「よし、いいぜ」

 

 リバスがそのエルフのことを認めている以上、高確率でネロの目にも高評価になるだろう。一応の試験はするが、ネロの中ではヴィーネを最初の使徒にすると決断した。

 

「僕はワールドエネミー、というかレイドボスとしては厄介な取り巻きを量産するタイプっぽいからね。大樹海から出られないのもあるし、アインズ・ウール・ゴウンや異形種動物園との関係がどうなるか分からないし、配下はどんどん増やしていこう」

「でしたら本体。私からもご提案が」

 

 レクスが手を挙げる。ネロは無言で頷いて続きを促す。

 

「正式に建国宣言をしませんか?」

「うん?」

 

 レクスはネロの頭脳だ。だが、リバスとは違って内面はNPCの『灰神の使徒』の設定がベースになっている。そのため、何を言いたいのか理解できないことが多い。リバスと比較すれば、の話だが。時間をかけて考えれば理解できるとは思うが、わざわざ手間をかける意味もないので詳細を聞く。

 

「建国宣言か。その意味は?」

「現在は『エルフの王都を中心にしたコスモス真王国と名乗る国家がある』と状況です。いえ、客観的に見ればこれまで名前がなく漠然と存在していたエルフの国が識別のための名前を持った以上の意味はございません。そのため、支配下にいる亜人やエルフの間で意思統一ができていないように見られるのです。彼らには――自分たちが何に仕えているのかという自覚がないように見えます。中には、愚かにも叛意を抱く者もいるようです」

 

 人間形態はほとんど誰も知らない。半異形形態で都市を歩くことはあるが、あれは言の葉を発しない魔獣として振る舞っているだけだ。完全異形形態の大神コスモスとして顕現したのは一度だけで、王都のエルフは見ていないはずだ。実際に見たことがあるエルフや亜人から話は聞いているはずだが、正しく想像できているとは思えない。

 

「そのため、本体には恐れ多いのですが再びワールドエネミーとしての御姿となって欲しいのです。部の代表者や実力者を集めておきます。彼らが御身の御威光に触れたならば、正しい信仰に目覚め、より効率的に大樹海全域を支配できるはずです」

「うーむ」

「現在は全域とまでは言いませんが、大部分は支配下に入りましたし、今後のことを考えるとこの時期が最善かと思われます」

 

 確かに、神やら王やらを名乗っておきながら、その姿を見せていないのは不誠実だった。傘下に収めた種族の中には、敵対関係にあった者同士の組み合わせもあるだろう。そういった者たちを集めて、コスモスという王の力を示し、お互いが同胞であるという意識を持たせることは重要だ。

 

「……やるか、建国式」

 

 観客は国民一同。出来れば全世界同時生中継と行きたいところだが、技術的な問題などもあり断念するしかないだろう。

 

 それでは『六色演目』に新しい一幕を追加しよう。

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