いつか神を滅ぼす日のために 作:観察者X
〇真王国元帥の証言
あ? 建国式のことを教えてくれ?
見てわからねえのか、ネイアちゃん。俺は今、忙しいんだ!
今月中に御前試合の会場作らないといけねえからな。魔導国の参加が来なければもうちょっと規模を小さくできたんだが。煙草を吸う暇もねえ。そういうのやりたいならてめえの国でやりやがれよ、あの骸骨魔王と色ボケ悪魔とポンコツ吸血鬼どもがよぉ。
まあ、そっちも仕事なんだろうし本体……は無理か。レクス……も駄目か。フールーダ……はあの時はいなかったか。アン……は論外だな。王妃……はやめておこうか、おまえさんとは気まずいだろうしな。……そんなことない? 揃って心臓に毛でも生えてんのか。
そうだな、ヴィーネにでも聞いてくれ。最近は騎士団も暇しているはずだからな。俺の名前を出せば大丈夫だろう。
と言っても、あの日のことなんてあの時支配下に入った各部族代表が集まって本体の完全異形形態を見せた以上のことなんてねえんだけどな。イベントは準備している時間が一番楽しいんだよな、今もそうだけど。
〇とあるエルフ(親衛隊隊長・当時訓練生)の証言
よりにもよって私に問うのですか、人間。
この私に、真王国軍元帥直下親衛隊隊長たる私に、リバス先生の最高傑作同然ある私に。大神たる真王陛下が建国を宣言された日のことを。
……なーんて、気取った言い方をするべきではありませんか、ネイアさん。
ええ、先生の名前を出さずとも受けますとも。貴女とも長い付き合いですからね。ヤルダバオト戦役からもう十年ですか。……エルフと人間にとって十年という時間の価値は違います。でも貴女が望めば――いえ、これ以上は野暮ですね。
本来なら今頃『大粛清』さえなければ、コスモス真王国とスレイン法国の全面戦争が開幕していたはずなんですよね。私は先生や陛下に、多くの首級を捧げるはずだったのに。
ああ、えっと、それで、建国についてでしたね。一応、建国宣言をする前から「真王国」とは名乗っていたらしいんですよね。大樹海全体の名前というよりは、エルフの国が名前を持ったくらいの意味合いだったようですが。陛下や先生たちは「奇跡の壁」が判明してから一年を目処に大樹海を統一するつもりだったようですが、二か月ほどで大半が支配下に入りました。
私たちの王はすごいんだ、って思ったものです。当時の私たちに、陛下に仕えているという自覚はあまりありませんでした。どちらかと言えば、セントラル閣下や先生が支配者という印象でしたね。神とは支配者ではなく信仰対象でした。
そんなタイミングでしたね、陛下が建国宣言をなさると決めたのは。どちらかと言えば、各部族の代表に陛下の玉体を見せるという意味合いの方が大きかったのですが。陛下の姿――ああ、人型の方ではなく巨竜の方です――を見たことがある者は当時限られていたので。顕現されたのも一度だけでしたし。
だから、あの建国式は陛下の威光を教える意味もあったのです。エルフの多くも知りませんでしたからね。法国軍の基地を破壊しまくったセントラル閣下だけでも身内への示威行為としては十分だったんでしょうけど、陛下たちからすれば足りなかったのでしょうね。改宗せずにいた民もそれなりに多かったので。
実際、式典の次の日には、市民のほとんどが改宗していましたね。エルフだけでなくすべての亜人が。やっぱり大事ですよね、わかりやすさ。
〇とあるダークエルフの証言
元々、俺の村では真王の支配下に入ることには否定的だったんだ。
当然だろう? 突然恐ろしい魔獣に乗ってきたエルフが「支配下に入れ」なんて言ってきたんだ。一年の猶予こそあったが、ほとんど脅迫だ。当時は俺も血気盛んな若者でな。もしもの時は周囲の村と協力して戦おうなんて思っていた。
だが、あの王都を見て心が折れた。
使者が乗っていた魔獣は、王都ではありふれた家畜の一つだった。あれ以上の獣がうようよいた。特にあの白い虎。白虎のウェス。あいつは別格だった。まさしく魔獣の王だった。俺が百人集まっても勝てないと一目見て理解できた。
エルフたちが言う人間の国への復讐だって、決して夢物語ではないと思った。むしろこんな恐ろしい連中を敵に回した人間たちに同情さえした。
だけど、あの時の俺は想像力が足りなかったんだ。
白虎のウェスですら、あの御方――真王陛下の前座に過ぎなかったんだから。
〇とあるエルフ(森司祭)の証言
当時の我々には王が理解できなかった。
ダークエルフやワイルドエルフのようなエルフの近親種ならばともかく、亜人たちを取り込む理由が。不干渉だった亜人ならばともかく、エルフを食料としか見ていないような異形種まで傘下に加えていったのだから。
レクス様から知恵を授かり、例の果実で強くなったエルフは多い。捕まったエルフたちを取り戻し、法国に復讐をするにも戦力は必要だが、余分ではないのかと。いざという時に頼りになるのか。
理解ができなかったのではなく、思考が足りなかったのだ。あるいは想像力か。
王やリバス様は――、真王陛下はもっと未来を見ていたのだ。今となってはそれを痛感する。もっとも、流石の陛下も『大粛清』の発生までは読めなかったようだが。いや、僅かには想定されていたのかもしれない。だからこその大樹海統一だったのか……。何にせよ、我々は忘れてはならない。幸運に生かされていることを。
〇とあるオーガの証言
いっぱい、いっぱい昔、おれのとうちゃん、コスモスを見た。
とうちゃん、言ってた。コスモス、おれたちの太陽。
〇とあるエルフ(剣士・当時訓練生)の証言
あー、確かに陛下は太陽だな、うん。その例えで言うとリバス先生は月だな。そしてセントラル閣下は雲と言ったところか。
それで、建国式で、陛下を初めて見た時の話だったな。あの時の衝撃は凄かった。生まれて初めて太陽を見たような気分だった。
大樹海の外には陛下より大きい竜なんかはそれなりにいるらしいが、それでも、陛下より強いということはないんだろうなとは思う。
〇とあるトードマンの証言
他の部族は知りませんが、私の部族は早い段階で真王国の配下に入ることを決めました。
強力な魔物を従えていたのもありますが、決定打はもっとプラスの方面です。食料や知識の提供ですね。特に『試練の果実』の存在が大きかったのです。自分たちが、というより自分たち以外の部族が真王陛下の支配下に入った場合のリスクはあまりにも大きいものでした。
それに、セントラル閣下の存在もありましたね。伝説でしか聞いたことがない蘇生魔法を始めとして、我々の部族では到底届かない領域にいる森司祭。当然、攻撃魔法も強力であることはすぐに察しました。そんな存在に逆らうなど有り得ないことです。
余程の暴君でない限りは大人しく従ってその恩恵に預かろうと、部族の代表者たちの意見がまとまるのは時間がかかりませんでした。
反発する者――血気盛んな若い雄に多かったです――もいましたが、式典を境にぴたりといなくなりましたね。
真王陛下に歯向かうなど、愚者という言葉では片づけられないのです。昔も今も。……評議国の竜王たちや貴女が敬愛される魔導王陛下であれば話は違うのでしょうがね。
ちょうどあの頃、トブの大森林でも魔導王陛下相手に同じようなことが起きていたと言いますし、そういう時代だったのでしょうね。
〇とあるライカンスロープの証言
俺たちはあの日まで、エルフどもを皆殺しにして、あいつらの持っている物を全部奪ってやるつもりだった。
新しい神様が来た? 知らねえよ。調子に乗ってんじゃねえ。強い魔獣だってマジックアイテムか何かで支配しているんだろうからそれを奪ってやる。武器も住処もだ。食べるだけで強くなれる木の実も全部俺が喰ってやるんだ。そう思っていた。
だけど違ったんだ。あいつらも従っているだけの存在だった。
俺と似たような考えを持っている亜人は多かったはずだぜ。そして、俺と同じようにセントラル様やリバスの旦那に一度叩きのめされて鼻を折られて、それでも諦めない奴は陛下の姿を見て野心を潰された。
我ながら若かったと思うよ。一歩間違えばこんな風に懐かしむことさえできなかったんだろうがな。
〇とあるエルフ(若者)の証言
あの日、王都――元エルフの王都――には大樹海からあらゆる種族、あらゆる部族が集まっていたました。
真王陛下。我らが大神。黄昏の巨竜。暴君の圧制と法国の侵略からエルフを救った魔王。
セントラル閣下を王となってからは色んなことが良くなった。色々言うやつは未だにいるけど、俺は昔に戻りたいとはこれっぽちも思わない。少なくとも、もうビールとギョーザのない生活には戻れない。
今でもふと妄想するんだ。セントラル閣下がデケム・ホウガンから王座を簒奪しなければ、どうなっていたのか。陛下の炎に焼かれたのは、人間の国じゃなくて、我々の方じゃないのかって。
〇とあるラットマンの証言
実は、僕は式典の前に陛下の姿を見た者のひとりなんだ。大樹海の――なんとかって人間の国――今は滅んだんだっけ――の基地近くに住んでいてね。
そりゃ人間に見つかったら殺されるけど、逆に言えば見つからないように暮らせば安全な場所だったんだ。
そして、だからこそ陛下の姿を見れたんだ。見てしまったんだ。あの黄金の三頭竜を。天変地異の具現化を。余波で死んでいないのは奇跡でしかないんだ。実際、僕の何倍も強いはずの魔獣の死体が大量に転がっていたよ。
逃げようとも思ったけど、どこに逃げるのかって話だった。どこに逃げてもあの災害は追ってくるんじゃないかって気が気じゃなかった。あの竜があらゆる種族を傘下に収めようとしているってエルフが話しているのを聞いて、考えるまでもなく従うことにしたよ。
式典の日、あの広場に集まった者の中にも似たような連中は結構いたと思うよ。そしてその判断は正しかった。判断を間違った奴は全員死んだはずだ。
〇とあるリザードマンの証言
王都の広場を見て儂が最初に思ったのは、「壮観だな」じゃったな。
大樹海内には十六の強者がいる、という話があった。いや、正確な数は分からんよ。大体そのくらいだろう、という認識じゃった。本当は十だったのかもしれんし、二十いたのかもしれない。まあ、大樹海統一の際にレクス様の手で減ったと思われるがな。
とにかく強者に数えられるような、「こいつが例のやつだな」と思うような大魔獣や亜人の英雄がそこに並んでおった。そして、それ以上の魔獣――否、神獣が何体もいた。
特に目を引くのは白い大虎じゃな。お察しの通り、ウェスじゃよ。噂には聞いておったが、想像を超えたな。恐怖や驚愕もあったが、同時に安堵と感謝があった。これほどの魔獣を従える者が、儂らを排除ではなく従属させてくれる道を提示してくれたことに。……あんなのがまだ三体もいるとかわかるわけないじゃろ。リバス閣下やレクス王がそれ以上であることも考えておったが、当たって欲しくはなかったなぁ。コスモス陛下と比較すれば彼らすらおまけなんじゃろうけどぁ。
〇とあるナーガの証言
人間という種族は弱いが、集団になると強い。そして、大樹海の外にある人間の国には強い人間も多い。大樹海の森を切り開いているが、標的はエルフだから関わらない方がいい。それはある程度の知恵と知識がある者の共通認識だった。
だから、正直気が進まなかった。エルフの支配下に入り、人間の国と戦おうなどと。どれだけエルフ王が強くても一人だけではどうしようもないのではないのかと。だが、逆らえば死が待っているのは確実だった。どうにか抜け道を探すつもりでいた。
しかし、違った。何もかも見当違いだった。
陛下は最強の『個』であった。同時に、最強の軍隊を作り出せる権能を有していた。真王国と法国の戦争は始まる前から、我々の勝ちが決まっていたのだ。
……知っての通り、法国との戦争は始めることすらできなかったのだが。『大粛清』は陛下にとってすら予想外だったのだ。
神は完全ではない。だからこそ仕えることを決めたのだが。
〇とあるドライアードの証言
正直、最初はお試し感覚だったのよね、エルフの仲間になったのは。駄目そうなら逃げればいいや、って思ってた。軽く考えてたのよね、あの日までは。
あの広場には色んな種族のすごそうなやつらがいっぱいいたわ。ちっぽけなドライアードなんて場違いもいいところだった。同じ場所にいていいのかな、って心配したわね。
けど、陛下を見た後だと違う感想が出てくるわ。
陛下からすれば――世界を滅ぼす魔王からすれば、私も成体の竜もゴブリンの赤子も区別できないくらいちっぽけなんだなって。
〇とあるエルフ(幼女)の証言
あのね、あのとき、すごかったんだよ! ほんとうに、ほんとうにすごかったの!
おそらがぱりーんってわれてね! そこだけね、まっくらになったんだ! おそらにできたおとしあなみたいだった。そこからね、なにかでてきたの。きれいだったからおひさまかおつきさまかとおもったんだけど、へーかだったの! じめんがごわわわわわ! ってなってね! ぜんぶ、ぎゅわわわわわわわわわん! ってなってね! みんな、びっくりしちゃったの!
〇とあるエルフ(年輩)の証言
よく晴れた日だった。
王都の広場に集まったエルフや亜人を見渡して、大神官レクス様が言った。
「天を見よ。我らが大神が現れる。生命の悉くよ、仰ぎ奉るがいい。此れなるは絶対の黄金なり!」
その瞬間、空が割れたんだ。地面に落とした陶器みたいに。
そこには黒い穴ができていた。大きな穴が空に開いた。それは黒い穴だった。そこだけが夜になっていた。そこだけが混沌としていた。そして、夜の穴から黄金の太陽が出てきた。這い出るように、黄金の三頭竜が姿を見せた。
輝かしい光を宿した、途轍もない巨体の竜。大神コスモス。我らが真王陛下。
陛下は巨大な咆哮を上げた。間違いなく以前聞いた『地響き』と同じだった。あの時、理解したよ。そう、全てを理解した。陛下を実際に見たことがあるという亜人たちが異常なほどに従属を示してきた理由が。いや、理由なんて大層なものはない。強者に弱者が従う。あまりにも当然の摂理だったんだ。
咆哮の後、陛下は穴から完全に身体を出して降り立った。あの威容を表現できる言葉はエルフには存在しない。おそらく亜人や人間にもないだろう。
実際、陛下は本当に竜なのだろうか? 竜の形をしているだけで、もっと強大な存在に他ならない気がしてならない。魔導王陛下が通常のアンデッドとは異なるように。真王陛下も魔導王陛下も、アンデッドやドラゴンではなく、それこそ『神』と分類すべき存在なのかもしれない。
神の六つの目が私を見た。目が合った。後から聞けば、誰もが自分と目が合ったと言ったものだ。火のような赤が、空のような青が、聖なる白が、邪悪な黒が、澱むような紫が、輝かしい黄金が、我々の姿を捉えたのだ。
世界の真理に触れたような気がしたよ。我々はあの日、神がどういう存在か知った。
神は私たちを選んだ。
〇とあるドラゴンの証言
セントラル殿より前のエルフ王に、我が兄は倒された。我の生涯は復讐のためにあると思っていた。
だが、それは違うのだと陛下を前にして気づいたのだ。
我が生涯の意味は、我が生命の価値は、あの御方に仕え、微力ながらその大願の一助となること!
〇とあるグリエイクの証言
讃えヨ、讃えヨ! 神たるコスモスを讃えヨ!
〇とあるオークの証言
当時、俺は都市の中にはいなかった。その外にいた。まあ、今と違って当時のエルフの都市は開発なんて進んでいなかったからなんとなくエルフツリーが並んでいるくらいのもんだったけど。
理由? 言わなくてもわかるだろう。怖かったんだ。都市を見回っている怪物どもがいつ襲い掛かってくるか分からないだろう。みんな怖いのにおまえだけ逃げるつもりだろうって族長たちに言われたけど、万が一の時に備えてとかそんな風に言いくるめてどうにかなったよ。
だけど、都市の外からでも奴が空から出てくるところはよく見れた。そのくらい大きかった。そのくらい輝いていた。これまで見た魔獣なんて、本当に召使い程度の存在だったんだ。
意味が分からなかった。でも、すぐに納得したよ。
あれが神様なんだって。逆らっちゃいけない何かなんだって。逆らったら人間みたいに皆殺しにされるんだって。
〇とあるエルフ(青年)の証言
式典において、陛下は姿を見せただけだった。本当に、姿を見せただけだった。
だが、それで十分だった。知識を増やした今ならば理解できる。陛下はその姿を見せるだけで、真王国という国家の基盤を確立させたのだ。あるいはセントラル様のお考えかもしれないが――いや、よそう。我々にあの御方のお考えなどわかるはずがない。セントラル様も、リバス様も、我々とは比較にならないほどの強者だ。
当時の我々に複雑な式典の礼儀作法など分かるわけがない。というか、あの日を境にそういうものが作られ、種族も部族も超えて共有されたのだったか。正直、一部の者を除けば、今も当時よりはマシ程度だと思うがね。
陛下の威光に畏怖して、ある者は茫然し、ある者は気絶し、ある者は平服し、ある者は狂喜した。時間にして一分もなかっただろうか。一時間あったような気もする。とにかく、陛下は現れた時と同じように空の穴へと戻っていった。陛下の姿が穴の中に消えると同時に、穴も消えて、空が元に戻った。
誰ともなく、安堵の溜め息を吐き出したものだった。敵対的な関係にあった種族同士が、十年来の友人のように肩を組み合う場面も見た。あれも陛下の狙いだったのかもしれない。真王との謁見を生き抜くという試練は、あの場に集まった全員に一体感を与えた。
その後で豪華な食事による宴もあったが、まあ、あまり味の記憶は残っていないけど。いや、恐怖とかではなくて、ただのやけ酒だよ。
〇とあるハーピィの証言
あんときゃ楽しかった。俺なんか小枝みたいに折れるだろうリザードマンやらトロールやらと一緒に食べたこともない飯を囲んで酒盛りした。
まあ、何つうか色々と吹っ切れたってのもあるんだが。それ以上に、わくわくしたってのがあるな。あの恐ろしいドラゴンはおいらたちにどんなものを見せてくれるんだろうってな。
人間どもの神様を殺しに行くってんだから、さぞや面白いものが見れるんだろうなって。
思っていたのとは違うが、実際面白い経験はできたさ。まあ、ヤルダバオト戦役はともかく『大粛清』は嫌な思い出だけどな。今でも夢に見るよ……。陛下の咆哮以上の悪夢があるとは建国式の時は想像もできなかったけど。
〇とあるホブゴブリンの証言
もう十年前だからちゃんとしたことは憶えていない。だけど、「建国式」から帰ってきた族長が随分と疲れた様子なのは分かった。
そして、やけっぱちな口調で「あの竜に従うことになった。逆らうな。絶対に勝てない。逃げることもできないだろう」って言っていたことは忘れられない。
数日後、従属の証として送られてきた強大な魔獣を見て、一応は理解したつもりだった。俺たちどころか大樹海中のゴブリンだって皆殺しにできちゃうんじゃないかってくらい強そうな化け物だった。そいつが俺たちだけじゃなくて、同じ規模の集落全てに配られたって知った時はちょっと頭がおかしくなりそうだった。
そして、「大神」がこの魔獣が比較じゃないくらいってのは、族長が魔獣に一切びびってなかったことで理解できたよ。あのドラゴンを見てしまえばこの程度の魔獣に恐怖するもんかってね。
〇とある人間の証言
あの時、あの場に人間は誰一人としていなかった。しかし真王陛下はエルフや亜人を選んだのではありません。あの時はまだ、人間を選ばなかっただけです。
しかし――『大粛清』の時、あるいはヤルダバオト戦役の時点で、神は我々を選んでくれたのです。人類を救ってくれたのです。神の慈悲によって人類は救われました。法国は滅んだとしても、人の未来は此処にあります。
だからこそ、私は人類を正しい方向に導くのです。それこそが生き残った私の使命であり、私が為すべき献身であり、私の人類への愛なのです。
人類は今度こそ正しい信仰の下で生きるべきなのです。