いつか神を滅ぼす日のために   作:観察者X

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式典後

 それは、アンがそろそろ二通目の手紙を法国に出そうかと考えていたある日のことだった。

 

「式典やるぜー。本格的に国家として動いていくぜー」

 

 六大神の怨敵たる竜はアンにそのようなことを宣った。

 

 見学するかと聞かれたため、特に悩むこともなく肯定した。久しぶりに霧の外に出てみたかった。それに、法国の神殿で箱入り娘として生きて来た身だ。祭典に参加したことも実際に見たこともない。少しばかり期待があった。

 

 当日、アンはエルフの王城にいた。と言っても、部屋ではない。城の屋根の上だ。当然単身ではなく、リバスと一緒だ。ここにも彼の転移で移動してもらった。他人からは見えないように魔獣の能力を使われているらしいが、アンにはその魔獣とやらは見えない。

 

 会場になっている広場がよく見えた。元々は王都に広場と言えるほどの空間はなかったらしいが、レクスが今回のために切り開いたらしい。

 

そこにはエルフを始めとして、大樹海内のあらゆる知的生物の姿があった。アンが知らない亜人や魔獣の姿もいくつもあった。神人でなければ倒せないであろう強力な存在すらいた(これはネロの眷属らしい)。

 

 この軍勢相手でも、近隣国家最強のスレイン法国ならば勝利はできるはずだ。自分がいなくとも、漆黒聖典がいる。だが、余程の幸運に恵まれない限り、楽勝ではない。おそらくは武力で集めた連合であるため、つけ込める隙があるとすればそこか。だが、ぷれいやーがいる。六大神に並ぶほどの怪物がいる。自分が勝てなかった以上、人類には彼に勝つ手段がないと思って間違いない。最秘宝も通じないだろう。どうにかして評議国の竜王と戦わせる必要がある。

 

 そんな風に考えていた瞬間だった。

 

 

 ――――空の一部が夜に塗り潰され、天地を揺るがす怪物が出現した。

 

 

 

 色の異なる計六つの目を持つ三頭の巨竜。竜の形をした黄金の太陽。災害の如き究極生命。神々と殺し合った魔王。

 

 あれこそが、ネロ・ネミートスあるいは大神コスモスの正体だと一目で理解した。

 

 想定が甘かった。理解が浅かった。思考が薄かった。危機感が足りなかった。

 

 神の敵対者という立場。神が滅ぼしたという脅威。支配せず、記録にも残さず、ただ滅ぼした敵。その意味を、自分はちゃんと考えていなかった。

 

 最強の竜王と名高い『白金の竜王』ですら遠く及ばないだろう。かの竜王があの巨竜と同じならば、神人程度を脅威などと認識はしないだろうから。

 

 ネロはきっと自分が神の末裔でなければ興味を示さなかっただろう、とアンは妙な確信を抱いた。

 

「……あれ?」

 

 気付いたら、自分の部屋に戻ってきていた。無論、法国の神殿ではなく霧の中のコテージだ。しゃがみこんで獏のピロを抱き締めていた。

 

「ぷすぷす」

 

 聞き慣れた鳴き声で我に返る。同時に、自分の体が濡れていることに気付いた。恐怖から来る汗と涙であることは考えるまでもなかった。部屋に備えてつけてある鏡を見れば、ひどい顔をしていた。いつものように笑顔を貼り付けようとするが、上手くいかない。どうしても強張ってしまう。誤魔化しようがないほどに恐怖がにじみ出てしまう。

 

「ぷすぷす」

「だ――大丈夫。大丈夫だから――」

 

 自分はまだ折れていない。祖国のために、人類のために、何かできるはずだ。そんな風に立ち上がろうとするアンの決意に水を差すように声がした。

 

「ただいまー」

 

 気楽な挨拶だった。気軽な態度だった。

 

 ピロを抱き締めたまま、ゆっくりと振り返る。そこには人型の竜がいた。黄金の髪と瞳を除けば、どこにでもいるような顔をしている男。ネロ・ネミートス。

 

 笑え、と自分に命じる。笑わないと殺される。だが、嫌だと、出来ないと、怖くて溜まらないと、母に虐待されていた時の自分が泣き喚く。

 

「……そういう反応されると、ちょっと傷つくなあ。正しい反応なんだろうけど」

 

 嘘だと反射的に思った。傷ついているのは本当のようだが、ちょっとどころではない。割と本気で落ち込んでいるようだった。正しいと分かっていてもそこに納得はできていないようだった。その反応があまりにも「らしい」もので、アンは笑ってしまった。

 

 今更ながらに理解する。かつて自分と接する時に猛獣に対するかのように慎重だった者たちはこういう気分だったのだろうと。だからこそ、今の自分の精神状態は彼らとは違うのだとも理解できる。過程や順番の問題もあるのだろうが。

 

「ねえ、ネロ」

 

 彼の名前を呼ぶ。神や魔王としてではなく、個人としての彼の名前を。それだけで、精神異常を回復させる魔法でも発動させたかのように落ち着いた。

 

「お。僕の名前を口にするのは珍しいね、アン。何かな? 僕の完全異形形態への賛辞ならいくらでもいいぜ」

 

 覚悟を決める。そして、自分の中の様々なものを捨てた。

 

「――アンティリーネ・ヘラン・フーシェ」

「うん?」

「私の本当の名前よ」

 

 おそらくアンが本名でないことは最初から分かっていたはずだ。にも関わらず、名前を明かした。どのような反応が返ってくるかは様々なパターンを想定していたが、予想外のものだった。

 

 ネロは未だに立てずにしゃがみこんだ体勢のままのアン改めアンティリーネを優しく抱擁してきた。その力加減や手つきからにはいやらしさはなく、むしろ慈しみに満ちていた。

 

「そうか。では改めて、アンティリーネ。急に、どうした?」

 

 声音からは警戒や揶揄よりも心配が窺えた。若干の後悔もあるように思える。あの巨竜としての姿を見せたことについてだろうか。先程のように動揺した姿を見せられてはそう思われても仕方がない。

 

「えっと、ちょっと待って。頭を整理しているわ」

「うん」

「あ、手を離れては嫌よ」

「うん」

 

 おかしなものだ。つい数分前まで彼に対して汗だくになるほど恐怖していたはずなのに。その恐怖の対象に、信仰する神の敵に抱き締められて、恐怖や嫌悪ではなく幸福感を抱いてしまっている。すでに両手の指では数え切れないほど同衾したからか、彼の体に触れていると安心する体になってしまったようだ。このまま眠ってしまいたくなるほどに。

 

 だが、やるべきことがある。それが終われば泥のように眠るとしよう。きっと、これが自分の人生の意味だから。

 

「質問させてもらうわ。貴方にとって私にはどの程度の価値があるの?」

「六大神を例外とすれば、現在のこの世界にあるものでは最も価値がある」

 

 六大神を例外としている理由は聞かない。話が逸れるという意味でも、自分が知ってはならないないという意味でも聞くべきではない。

 

「だったら――私が結婚してあげるって言ったら、貴方は何を差し出してくれるかしら?」

 

 あえて挑発的な言い方をする。漆黒聖典番外席次としての、最後のちっぽけな見栄だ。交渉なのだから自分を大きく見せようとしていると、口に出した後から思いついた。

 

「それはまた素敵な提案だが――大きく出たなぁ、人間」

 

 声音と表情が一致していない。声音はアンティリーネの上から目線な提案に怒りを覚えつつも、そこに込められたものに感心しているようだった。表情はひたすらに上位存在としての愛があった。慈愛というよりは寵愛が正しい。神にとって人は愛でる対象なのだ。

 

 対等に交渉しているようだが、それは神の側が妥協と譲歩をしてくれているに過ぎない。

 

「一度言ったかもしれないけど、僕は大樹海から出ることができない」

 

 確かに言っていた。あれはアンティリーネがこの空間に監禁された最初の日だったはずだ。何か事情があると言っていた。

 

「あれは状況的にとか、精神的な意味じゃなくて物理的な意味だ。僕はあの力を手に入れたことと引き換えに自分の縄張りから出られないようになった。つまるところ、僕は自分の手じゃ法国を滅ぼせないんだ、絶対にね」

「え?」

 

 茫然とするアンティリーネにネロは続ける。

 

「このルールはレベル三十三以上の眷属にも適用される。君にも分かりやすく言うと、難度百程度、英雄級以上だね。例えば四聖獣――庭にいる玄武のノース、この霧の空間を構築している青龍のイース、王都を守護させている白虎のウェスなんかは完全にアウトだ。例外がレクスとリバス。この二名だけは大樹海の外でも活動可能だ」

「……何でこのタイミングで言うのかしら」

「君が言おうとしていることに関して関係あると思ってね。言わない方が良かった?」

「いいえ。助かったわ。やっぱりもうちょっと待ってくれるかしら。考え直すわ」

「いいよ。時間なら十二年あるからね」

 

 十二年。それはネロが六大神と法国に対して宣告した猶予の時間。ユグドラシルのぷれいやーのみに通じるらしい謎の期間。人が神に挑むにはあまりに短い。だが、アンティリーネにそれに賭けるしかない。祖国が大神を倒せる戦力を持てるという夢を見ているのではない。十二年の間に、人類が法国抜きでも国家を維持できるようにする可能性を見出そうとしているのだ。

 

 ネロは六大神を許さない。許してはならない戦いがあった。法国にその歴史は残されておらず、ネロ本人が語らないため、その詳細は推測と想像に依る。だが、アンティリーネに口出しできない何かがあったと察することは容易い。そして、法国側も真王国の衝突は避けることはできない。ならば自分ができることは法国の逃げ道を用意することだ。

 

 そして、ネロはそれを理解した上でこの話に乗ってくれている。先程のルールを教えてくれたことは彼なりの誠意だろう。あるいは、神としての心意気か。

 

 本当は彼だって気付いているのだろう。法国にアンティリーネ以上の強者はいないと。六大神はこの世界にもう生きていないと。だから、彼が滅ぼしたい神とはまさに概念的なものだ。個人ではなく信仰対象の六大神だ。

 

 だから。

 

 神のために信仰を裏切り、祖国のために魔王に寝返り、自分のために自分を売り払う。

 

 抱き締め合う体勢のまま言葉をいくらか交わし、契約の内容は決まった。

 

 そもそもアンティリーネはネロに完膚なきまでに敗れており、その身柄は戦利品だ。この弱肉強食の世界において、アンティリーネをどうしようとネロの勝手だ。身体や生命、貞操すらもネロに所有権がある。

 

 しかし、一つだけ例外がある。それはアンティリーネが自分の意思で、ネロの妻となることだ。身体や生命だけではなく心を捧げる。ある意味においては代償にすらなっていないが、ネロにとっては十分だった。

 

「大樹海から出られるようになっても、僕や四聖獣、上位眷属は法国に立ち入らない。レクスとリバスを法国で戦わせることはしない。法国以外の国は滅ぼさないし、場合によっては交易や支援を行う。法国を滅ぼした時点で、僕は人類の敵を止める」

 

 それは如何に神人とはいえ人間の女ひとりと釣り合いが取れるとは言えない、破格の条件だった。

 

「契約成立でいいかな? 僕の可愛いお嫁さん」

「ええ。今日からよろしくね、私の愛しい旦那様」

 

 こうして、人類の切り札だった少女は人知れず、魔王の伴侶となった。この婚姻関係を知る者は現在は勿論、これから遥か先の未来まで見てもごく限られた者だけだ。その中に法国の最高執行機関や漆黒聖典の人間が含まれていないことをどう見るかは人によるだろう。

 

 この時の彼女は間違いなく故郷に二度と戻れないことを覚悟した。だが、その覚悟は思いもよらない形で否定されることになる。そのことを神ならざる人であるアンや魔王にして大神たるネロは知る由もなかった。

 

 だが、その惨劇は、彼らの寿命からすればそれほど未来というわけでもなかった。

 

 

 

 

 大樹海には法国軍が放棄した基地跡がいくつかある。その一つに、複数の人影があった。もっとも、そこにいる者たちは「人」ではないのだが。

 

 アインズ・ウール・ゴウンを始めとしたナザリック地下大墳墓のモノたちであった。第三者に身元を尋ねられたら、ナザリックではなく、「異形種動物園」所属と答えることになる。

 

 基地を建造した法国から見れば不法占拠かもしれないが、この大樹海の王とも言うべき真王コスモスの許可をもらっているため、誰かに文句を言われる筋合いはない。周囲に生息する亜人たちにもネロの方から通達してあるらしく、遠巻きに眺める者はいても近づく者はいなかった。当然であるが、目視は勿論、魔法やマジックアイテムでも基地の内部が見えないように対策はしてある。

 

 彼らの前には一つのマジックアイテムがある。その能力は遠視であり、つい先ほどまで真王国建国式を見ていたのだ。

 

「国の式典というにはあっさり過ぎた気もするが、こんな文明も何もない大樹海に住む知的生物にはあれで十分なのかもしれないな。自分たちの王が暴力の具現であると教えるには、その姿を見せるだけでいいのか。やはり大きさは分かりやすくていいな」

 

 そう言うが、欠片も羨ましいとは思わないアインズ。人間サイズの形態があるとはいえ、あのサイズ感は持て余すだろう。その他のデメリットを含めて考えると、ワールドエネミーのオーバースペックと釣り合うかは微妙なところだ。

 

「左様でございますね、アインズ様。それよりも此方をご賞味ください、あーん♪」

「う、うむ」

 

 アルベドが食べやすいように一口大に切り分けたケーキを、アインズに差し出す。

 

 本来であれば骨だけのアンデッドであるアインズには飲食が不可能だ。しかし、この基地内――ワールドエネミー・コスモスが時空ごと改造した空間においては話が違ってくる。

 

 アルベドが差し出してくるケーキを口に含むアインズ。歯はあっても舌も唇もないため、挟んだと表現する方が適切か。すると、ケーキが消えた。文字通りの意味で消えたのだ。

 

「ふむ……」

 

 顎を上下させて咀嚼するような動きを見せるアインズ。その様子を守護者たちはおそるおそるといった様子で見守る。偉大なる主人の言葉をじっと待つ。

 

 アインズとしてはじっくり味わいたいところだが、守護者たちの視線が落ち着かないため感想を言うことに決めた。

 

「美味いぞ。料理長には賞賛の言葉しかないな」

 

 それを聞いて顔色を明るくする守護者一同。

 

(噛んだ感触はあるんだけど、舌触りも喉越しもないんだよなぁ。味も匂いも分かるんだけどなぁ。美味しいんだけど、ちょっと物足りない。あと、出来れば一人でゆっくり食べたい)

 

 この基地の敷地内においてネロが与えたルールは『種族由来のメリット・デメリットがなくなる』というものである。アンデッドに対しては、例えば疲労するようになるし普通の精神支配も通じるようになるし空腹状態も発生する。逆を言えば、食事や睡眠が可能になるし、回復魔法でダメージを受けず回復するようになるということでもある。

 

 本気を出せば効果の範囲は広げられるらしいが、誰にどのような影響を与えるか分からないため、この基地内に絞っているらしい。

 

 アインズのような骨だけの体でも食事ができるのは素晴らしいが、その原理は非常に不可思議だ。肉体が出来上がるわけではなく、先程のように「食事をしたような何か」が起きるのだ。おそらく世界が「食べた」に判定された時点で、その食べ物は消滅し、その味のみがアインズの精神に送られるのだろう。満腹感のようなものは覚えるため、無限に食べられるわけではないようだ。

 

「では、アインズ様。次は妾の分でありんす~」

「あ、ああ」

 

 今度はシャルティアが差し出してきたプリンを食べる。先程のケーキと同じように口に含んだ途端に消滅し、同時にアインズの味覚に甘い刺激が走る。

 

「美味いな」

 

 鈴木悟として生きていた頃、現実世界でこれほど美味なケーキやプリンなど食べたことはない。そもそも、そういう類のスイーツを食べる趣味も金銭的余裕もなかったが。場所が限定されているとはいえ、こうして食事ができることに喜びを覚える他ない。骸骨の体には感謝する場面もあったが、やはり人間だった頃の残滓が食欲や睡眠欲を満たせることに喜んでいる。

 

 ……ユグドラシルが十八禁行為禁止だったためか、性欲に関してはどうしようもないようだが。これに関してはアインズよりアルベドやシャルティアは勿論、他の守護者たちが残念がっていた。デミウルゴスなどは「お世継ぎのためにもこの空間を研究しましょう」と言い出す始末だ。

 

 ネロが「もうちょっとエリアのレベルが高ければ可能だったっぽいんですよね、アンデッド等の完全な受肉とか人間化とか」と言っていたことは黙っておこう。

 

「ん、んん! さて、ティータイムもいいが先程の建国式についてだ。おまえたちの意見を聞きたい。まずはアルベド。何か感じたことはなかったか?」

「そうですね。先程アインズ様がおっしゃられたように、下等な蛮族相手には妥当な催しでした。やはり、アインズ様が国を興される時はもっと盛大に、至高の御方に相応しい式典にすべきでしょうね」

 

 今の俺に国を興す予定なんていないし、これからも作るつもりはないよ、などと言えないアインズはデミウルゴスに視線を移す。

 

「現在私が遂行中の作戦の一つに、アベリオン平原という丘陵地帯の支配がありますが、非常に参考になりました。アインズ様の最終目的を考えれば、支配方針は類似させるよりも対極がよろしいですか」

 

 最終目的って何だとは問えない。この空間ではアンデッドの精神の強制的な鎮静化が発動しないため、墓穴を掘るような真似はすべきではないからだ。同時に、このタイミングで建国式の所感を聞いておかなければ後々失敗をしそうな気がする。

 

 現状はデミウルゴスたちがアインズには大それた目標があると思っている、という勘違いを知れただけでも良しとしよう。

 

「集められた亜人や魔獣もこの世界にしては強いんでしょうけど、私たちの敵じゃないと思います。ワールドエネミーのネロ・ネミートスや、その眷属のレクス・セントラルなんかは強いんでしょうけど」

「お、お姉ちゃんの言うようにあんまり大したことないひとたちがほとんどでした」

「デミウルゴスト似タヨウナ意見ニナリマスガ、リザードマンタチノ支配ニ大イニ倣ウベキコトガアリマシタ」

 

 アウラ、マーレ、コキュートスの意見だ。全体的にネロ以外の者を侮っているように思える。それは決して強者ゆえの傲慢ではなく歴然とした事実なのだろうが、そういう慢心に足元が掬われないか心配だ。

 

「……私は、これから奴らがどのようになるか警戒すべきだと思いんした」

 

 だからこそ、シャルティアがそのような意見を口に出したことを意外に思った。他の守護者たちも驚いている。アインズは続きを促すと、シャルティアは言いにくそうに続ける。言葉を選んでいるようだった。

 

「奴らが蛮族なのは発展する余裕も手段もなかったからでありんす。ネロによって大樹海が統一されてしまえば大樹海の中に名目上の敵はいなくなりんす。そして、スレイン法国という共通の外敵が明確にできていんすから、意思の統一もかなり容易いと思われんしょう? 洗脳の犯人が判明する前に、法国を滅ぼしてしまうかもしれんせん。そうなったら、私は誰にこの怒りを……!」

 

 シャルティアらしからぬ頭の回転の速さは、どうやら自分の不甲斐なさへの怒りと後悔から来るものだったようだ。

 

「安心しろ、シャルティア。コスモス真王国はスレイン法国に対して十二年の猶予を与えている。紫幽王を通してとはいえ、王としての言葉であり神としての宣言だ。これを違えることはないだろう。私たちは十年を目処に確証を得ればいいのだ。焦らず、しかし着実に、尻尾を掴んでやるとしよう」

 

 アインズの言葉に、シャルティアは深く頭を下げ、力いっぱいに頷くのだった。

 

「そういえば、アインズ様。式典に参加しなくてよろしかったんですか? 向こうから声はかかっていたんですよね?」

「ああ。おそらく法国が魔法か何かで見ているだろうからな。ひょっとしたら異形種動物園の存在は伝わっているかもしれないが、だからこそ表舞台への露出は避けるべきだ。今はまだ、な」

 

 魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウン。冒険者モモン。異形種動物園のアイン。これらを同一人物と見抜ける者などそうはいないだろうが、必要なパーツは揃っている。ユグドラシルの知識抜きでもアルベドたちと同レベルの知者なら思いつくかもしれないが、証拠を掴むことは難しいだろう。それを誤魔化すための「異形種動物園はアインズ・ウール・ゴウンのファンギルド」という設定なのだ。

 

「……それに、蛮族相手とはいえ正しい振る舞いができるか分からないしな。いや蛮族だからこそ、不格好を晒して、それが普通だと勘違いされ、真王国のマナーの参考にされたら困る」

 

 最後の部分が本音だったのだが、守護者たちは冗談だと思ったのか苦笑した。

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