「……すいません、もう一回言ってもらってもいいですか」
「一般人の虎杖悠仁君が宿儺の指を飲み込んで呪術師になった」
「──なんて?いや何言ってるかはわかるんですけども」
しばらく任務がないと言うことで休んでいた俺の元を訪れたのはやけにボロボロの伏黒となんか悪巧みしてそうな五条センセ、そして面識のない人の良さそうな青年だった。ついでに衝撃のニュースも。
「んまあ飲み込めないのも無理はないと思うけどね。と言うわけでこちらがその虎杖悠仁くんでーす!」
「はいどうも虎杖悠仁でーす!好みのタイプはジェニファー・ローレンス!よろしくな!えーと……」
元気に挨拶してくる青年……虎杖を見て、俺は警戒するのも馬鹿らしくなってため息をついた。宿儺の器と聞いて気を張っていたものの、少なくとも虎杖自身に警戒すべき悪性は見られない。
「はあ……茜屋刃だ、茜屋でも刃でもいい、好きに呼んでくれや」
「おう、よろしくな茜屋!同級生……でいいんだよな」
「ああ、同じ呪術高専の一年生だ。仲良くやろうぜ、虎杖」
こうして俺と虎杖は友人となったのだった。
「ところでなんで宿儺の指なんて飲み込んだんだ?」
「いや伏黒がピンチだったから咄嗟に……」
「勇気あるな〜お前」
◆◆◆
翌日、俺たちは原宿駅に来ていた。五条センセ曰く、もう1人の一年生を迎えにいくのだとか。
「というか、こんなことしてていいのか1級術師」
待ち時間にマックで買ったハンバーガーを食っていた俺に伏黒が話しかけてくる。ちなみに虎杖は仙台出身なこともあって東京に憧れがあったらしく、あっちへふらふらこっちへふらふらとしながら、目についたものを買い食いしていた。
ちなみに俺は一応東京郊外出身でこそあるものの、ハゲジジイに引き取られて以降山で暮らしていたので、東京に出てきたのは半年前が初めてだった。まあ、利便性もクソもない山の中で育ったとはいえ都会のことなんかほとんど知らなかったもので、都会生活に憧れこそなかったものの、半年前に東京都心に行った時は大層驚いたものだ。
「1級昇格直後だからまだ任務入ってなくてヒマなんだよね。あと何日かしたら忙しくなるとは思うけど」
「ああ、なるほど」
「おーい何の話してんの〜?」
その後は、アイスを咥えた虎杖も交えてしばらく雑談をしていたところ、五条センセがやってきたので、迎えにいくことになった。
◆◆◆
「釘崎野薔薇、喜べ男子、紅一点よ」
「俺虎杖悠仁、仙台から」
「伏黒恵」
「茜屋刃だ、よろしく」
(これはまた濃いのがきたなあ〜)
俺たちが出迎えたのは、何やらモデルのスカウトに自分を押し売っていた女だった。いやまあ呪術師なんて大なり小なりイカれてないとつとまらないのはわかっているけどもさあ、なんかベクトル違くない?
当の本人といえば何やら俺たちの顔をジロジロと品定めをするように観察した後に、
「私ってつくづく環境に恵まれないのね」
と呟き、ため息をついた。聞こえてんぞ。
「……んで?俺まで呼びつけたってことはどっかいくんスか五条センセ?」
「そりゃあね、一年4人集まってしかもそのうち2人はおのぼりさんでもう1人も都会歴半年ときた。いくでしょ、東京観光」
五条センセの言葉に虎杖と釘崎は大喜びしているものの、俺にはわかる。あれは人をおちょくる時の五条センセだ。半年の付き合いとはいえ散々振り回されたからなんとなくわかる。伏黒も最初は驚いていたものの、六本木に行くと五条センセが言い出したあたりで察しがついたのか、呆れたような顔をしていた。
「「……はあ」」
どうせ呪霊退治でもいくんだろう、俺と伏黒は顔を見合わせてため息をついた。
「というかアンタも田舎者なのね」
「出身は東京だけどね、山で生活してた」
「へー、なんて山?」
「あっそれ俺も気になる!」
「知らん」
「「ええ……」」
◆◆◆
はいということで到着しました廃ビル!んなこったろうと思ったよ。
「「嘘つきー!!」
虎杖と釘崎は期待を裏切られて叫んでいる。かわいそう……あっでも虎杖はすぐ立ち直って質問してる。切り替えが早いのはいいことだ。
「ちょっと待ってこいつそんなことも知らないの」
「実はかくかくしかじかで……」
釘崎が虎杖の無知に疑問を抱いたようなので、俺が説明する。話を聞き終わった釘崎は……
「きっしょ!ありえない衛生観念キモすぎ!」
「んだと?」
「これは同感」
うん、俺もどうかと思った。
そんな訳で廃ビル内には虎杖と釘崎が入ることになった。まあ俺や伏黒がどうこうするようなレベルの呪いではなさそうなので妥当だとは思われるが。
そしてまだ呪力の扱いに慣れていないらしい虎杖には五条センセが屠坐魔を渡していた。……あれ真希パイセンのやつだよなあ、壊したらどうすんだろ。
そんなことを思いつつ俺は廃ビルに入っていく2人を見送ったのだった。
「……これ伏黒と俺来た意味あります?」
「顔合わせって大事でしょ?終わったら飯奢ってあげるから」
「俺モスバーガーで」
「お前はそれでいいのか?」
たわいもない雑談をしながら待機する俺と五条センセと伏黒。五条センセ曰く、今日は釘崎のイカれっぷりを確かめたいのだとか。まあ変人であることとイカれていることは別ものだとは思うが。
田舎の呪霊と都会の呪霊ではレベルが違うと語る五条センセ。確かに俺が山にいた頃の呪霊はでかい獣みたいなやつが多かったが、都会の呪霊は狡猾だ。
そうこうしている間に呪霊が廃ビルの壁を通り抜けて飛び出して来た。この程度の呪霊なら術式を使うまでもないと拳を構える俺だったが
「いいね、ちゃんとイカれてた」
その前に空中で消滅する呪霊。おそらく釘崎の術式だろう。そして俺たちは廃ビルから出てくる2人を出迎えるのだった。
「子供は送り届けたよー、今度こそご飯行こうか」
「ビフテキ!」「シースー!」「モス!」
「アンタ何もしてないでしょ!というかモスって」
「うるせえなジャンク好きなんだよ」
◆◆◆
記録──2018年7月
西東京市 英集少年院
運動場上空
特級仮想怨霊(名称未定)
その呪胎を非術師数名の目撃で確認
緊急事態のため高専一年生3名と増援一名の計4名が派遣され
内1名 死亡
釘崎(顔こそいいけどなんか泥臭そう、きっと鹿とか猪とかとっ捕まえて生で食うんだわ)