guitarvillain   作:古本

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drunkbassist

 

 

 結束バンド四人での初ライブを十日後に控えた今日、ひとりは何度目か分からない人生最大のピンチに直面していた。

 

 

 ライブが決まり、それに向けてひとりに課されたチケットノルマは五枚。

 両親が買ってくれたので二枚は捌けたものの頼りにしていた妹と犬は戦力外。藍伽にも買ってもらおうかとも思ったが、ギターのライバルでもある人にここで泣きつくのはあまりにもかっこ悪いのではないかとなけなしのプライドと無限大の虚栄心によって連絡は取っていなかった。

 

 そんなわけで残り三枚のチケット売ろうと、フライヤーを作り地元の駅まで出てきたはいいものの、コミュ障のひとりにビラ配りなんてできるはずもなく。

 薄暗い場所でうなだれているひとりがその時出会ったのが、とんでもない酒臭さを放つ自称天才ベーシストの廣井きくりだった。

 

 そんな彼女と話しているうちにあれよあれよと話は進み、いつの間にか何故かチケットを売るために路上ライブをすることになってしまっていたのだ!!

 

 今日初めてあった人と二人で不特定多数の前で演奏する事を想像して気絶しそうになったひとりは迷わず自分のスマホに手を伸ばして家族しか登録されていない連絡帳をタップした。

 

 数回のコール音の後、出てきた相手に向かってひとりは叫ぶように言った。

 

 

「た、たすけてお兄ちゃん!!!」

 

 

 そう、なけなしのプライドなんてかなぐり捨てて藍伽に泣きついたのだった。

 

 当然のように困惑する藍伽に向かってひとりは事情を説明する。

 

「そういう訳なんだけど、お願いお兄ちゃん! お兄ちゃんも一緒に路上ライブやって!! 初めてあった人と二人で路上ライブなんて私には絶対無理だよぉ」

 

 自分でも面倒なことを言っている自覚はひとりにもあったが、軽く返って来たのは承諾の声だった。

 

「ほんとにいいの? お兄ちゃんも何か用事があったんじゃ……」

 

 耳を澄ませてみれば藍伽はどうやら外にいるらしく、電話越しに外の喧騒が聞こえてくる。

 気のせいじゃなければ藍伽に対して何か言っているような声も聞こえるので何か用事があって外に出ているのは間違いないようだった。それでもやはり藍伽の返事は変わらなかった。

 

「……うん、分かった。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 藍伽の言葉を聞いてひとりの胸中には安堵と共に自分の用事を優先させてしまったことに罪悪感が沸き上がる。

 

 早く自立しなきゃとは思うけれど、だからと言って今から藍伽抜きで路上ライブなんてできるわけないのでそれは明日から頑張ろうと、ひとりは力強く決意する。

 そんなとき横で様子をうかがっていたきくりが話しかけてくる。

 

「それで、お兄さん来てくれるって~?」

「あ、はい。でも今ギター持ってないらしくて取りに帰ってるとだいぶ遅くなっちゃうってお兄ちゃんが……」

「そういうことならお姉さんに任せなさい! 機材と一緒にギターも持ってきて貰うからお兄さんにはそのまま来てもらいなよ」

「あ、ありがとうございます!」

「いいっていいって、実際持ってくるのうちのメンバーで私じゃないしね! あはははは」

 

 自分で言って大爆笑しているきくりにはははと愛想笑いを返しつつ、きくりの言葉と自分たちがいる場所を伝えてひとりは電話を切った。

 

「あと一時間位で来られるみたいです」

「機材持ってきてもらうのもそれくらいだし丁度いいくらいだね~」

 

 それで会話が途切れしばらく沈黙が続く。

 き、気まずい……、なんてひとりが思っているときくりがおもむろに口を開いた。

 

「お兄さん来てくれることになってよかったじゃん。優しいお兄さんなんだね」

「それは、そうなんですけど……。お兄ちゃん、こういう時()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、嬉しいけどちょっと申し訳ないんです。今日も何か用事があったみたいなのに……」

「……ふ~ん、そうなんだ」

 

 きくりはその言葉に目を細めたが、横並びで座っていたひとりは気付かなかった。

 

 

 

 そして一時間程経ち、無事機材とギターが届いた数分後、駅の方からこちらに歩いてくる人影があった。

 

「あっ、お兄ちゃん」

「お~、あの人が君のお兄さん?」

 

 その人影はひとり達に気が付いたのか片手を上げながらこちらに近づいてきた。

 

「どうも、ひとりの兄の藍伽です」

「私は廣井きくりだよ~、よろしくね!」

 

 きくりは藍伽の顔を見て怪訝そうな顔をする。

 

「あれ、私君とどこかで会ったことある? なんか見覚えがある気がするんだけど……」

「俺、SICKHACKのライブ見に行ったことあるんで多分そこじゃないですか?」

 

 藍伽がそう答えるとひとりが不思議そうな顔をしながら口を開いた。

 

「SICKHACK?」

「この人がやってるバンドの名前。廣井さんはそこでベースボーカルやってるんだよ」

「お兄ちゃんが誰かのライブ見に行くなんて珍しいね」

「ん、まぁSICKHACKは俺が知ってる中でもトップクラスの実力があるバンドだからな」

「お、藍伽くん見る目あるね~。これでも私たち結構人気あるんだよ。でも私酔いながらライブやってるからお客さんの顔とかいちいち覚えてないんだけどなー」

 

 そういいながらきくりはしばらく首をかしげているのをよそに、ひとりが突然ハッとして言った。

 

「あっ、そういえばボーカルはどうしよう……」

 

 そう言いながら藍伽ときくりの方を見てくるが藍伽は首を横に振った。

 

「俺たちは今からやる曲知らないんだから歌えるわけないだろ。それに俺たちが歌ったら結束バンドの曲じゃなくなっちまう」

「そうそう、今回はボーカルなしでいいんじゃないかな。それともひとりちゃんがやる?」

「えっ、む、無理です絶対!! ギターやるだけでも逃げ出したいくらいなのに……」

「んー、そんなに怖いなら目瞑ってやってみたら? なんてね。人見知りなんだね~、分かるよ~」

 

(そ、それなら出来るかも。いつも暗闇で手元が見えない状態でずっと弾いてたし……)

 

「さて! メンツはそろったしそろそろ路上ライブ、やろっか!」

 

 藍伽がギターを受け取り準備をしている間にきくりが周囲に向かって声を張り上げる。

 

「金沢八景のみなさーん、今からライブやりまーす!! タダなんで暇なら見てってくださーい!!」

 

 すると彼女の声に興味をひかれたらしい通行人が集まってくる。

 それを見てこの人たちの前で今から演奏するのだということを実感してしまったらしいひとりが急激に顔色を悪くさせ、挙動不審になり始めた。

 そんなひとりを落ち着かせるように藍伽が声をかける。

 

「大丈夫、ひとりなら路上ライブくらい出来ることを俺は知ってる。今日俺は路上ライブができないひとりを手伝いに来たわけじゃない、かっこよくライブをするひとりを見に来ただけなんだから」

「お、おにいちゃん。ありがとう、頑張ってみる……」

 

 藍伽の言葉に少し落ち着いた様子でひとりはギターを構えなおす。

 

「お~、流石お兄ちゃん。かっこいいこと言うね。じゃあ私もひとりちゃんに一応一言だけ。今目の前にいる人は君の闘う相手じゃないからね、敵を見誤るなよ」

「敵……?」

 

 困惑しているひとりを横目にきくりは藍伽とひとりの準備ができていることを確認して再び声を張り上げた。

 

「それじゃあはじめますね~! 曲はピンク髪のこの子のバンド、結束バンドのオリジナル曲で~す!!」

 

 きくりは景気づけとばかりに鬼ころを一気飲みすると、藍伽とアイコンタクトを取ってからひとりに向き直って優しく言った。

 

「ほら、弾くよ」

「は、はい」

 

 そう返事をしてひとりは両眼を瞑ったまま恐る恐るギターを弾き始めた。

 演奏する曲はひとりが詩を書いてリョウが作曲した『あのバンド』。

 

 オーディションでは弾いたことがあるけれど、関係者以外の前で演奏するのは今日が初めての曲だった。

 自分たちでも言っていたけど、藍伽ときくりの二人はこれが聞くのも初めてのはず。そのはずなのに……。

 

(!! 二人とも即興なのに音に全く迷いがない。凄く自信に満ちていて私の演奏を確実に支えてくれる……)

 

 藍伽が上手いことは当然知っていたが、その藍伽が褒めるバンドに所属しているだけあってきくりもとんでもなく上手い。

 二人ともリードギター(ひとり)を引き立てるために抑えた演奏をしているが、だからこそ本当の実力も知れる。

 

 きくりは楽しんで演奏していることが伝わってきて聞いている者も思わず楽しくなってくるような演奏。藍伽はどこか影があるのに何故か惹かれて仕方ない不思議な魅力を放つ演奏。

 二人とも方向性は違えど凄まじい実力の持ち主だった。

 

(それに比べて私は……。私はお兄ちゃんのライバル(ギターヒーロー)のはずなのに、二人がこれだけ支えてくれてるのに、お客さんに笑われてないか心配で目を開けて演奏することすら出来ない……)

 

「が、頑張れー!!」

 

 そんな時、ひとりの耳に飛び込んできたのはそんな言葉だった。

 思わず顔を上げると、そこにいたのはひとり達のライブを聞いてくれている女性の一人。

 

「ちょっとあんた、何言ってるのよ」

「なんかギターの人が不安そうだったからつい……」

 

 それを見てひとりは唐突に気づく。

 

(あぁ、そうか……。初めから敵なんかいない。私が勝手に敵を作ってただけなんだ……!)

 

 そう気付いた瞬間、ひとりのこわばっていた身体から力が抜けた。

 

(私はギターヒーローなんだ。私の曲を聞きに来てくれたお客さんの、お兄ちゃんの前で俯いたまま演奏なんてしてられない……!!)

 

 ひとりはしっかりと顔を上げると()()()お客さんの姿を捉えながらギターをかき鳴らす。

 

(ひとりちゃん目が……。一気に安定感が増した。ひとりちゃん本当はこんな風に弾くんだ、面白い! この短時間で欠点克服するなんてすごいじゃん。この子は絶対上がってくる!! 私の勘は当たるんだ!!)

 

 ひとりが調子を上げながらギターを弾くと、それに完璧に答えるように二人のギターとベースがそれを支えていく。

 その正の連鎖は演奏が終わるまで途切れることはなく……。

 

 ひとりが最後の音を弾き終えた瞬間、拍手が鳴り響いた。

 

(皆、笑顔だ。これからもっと沢山ライブしたらもっとこんな顔が見れるのかな……見れたらいいな……)

 

 

 

 

 

 その後、ライブ中声をかけてくれた二人のお客さんがそれぞれ二枚のチケットを、最後の一枚はきくりが買ってくれることになって、ノルマチケットは完売して路上ライブは成功に終わった。

 警察に声をかけられたので急いで撤収をし、荷物を抱えたまま駅の前にきた。

 

「き、今日は本当にありがとうございました。お姉さんにはチケットまで買ってもらって……」

「私が買いたくて買ったんだから気にしないでよ!」

「というか俺はいつになったらひとりが兄ちゃんの分のチケットを渡してくれるのか待ってたんだけど……」

「えっ! あっ、えと……」

 

 自分でもノルマチケットが全部売れてしまうことを想定していなかったひとりは藍伽の言葉にあわあわし始める。それを見てきくりが呆れたように首を振る。

 

「意地悪だなぁ。チケットくらい当日買ったらいいじゃん。最後の一枚は私がもらっちゃったんだし」

「ま、そうなんですけどね。可愛い妹から売ってもらいたかったっていうのが複雑な兄心ってやつなんですよ」

「も、もうお兄ちゃん、からかわないでよ」

「はは、悪かったよ」

「というかお兄ちゃんもライブ見に来てくれるの……?」

「当たり前だろ。俺がお前の、結束バンドのライブを見逃すわけがない」

「そっか……」

 

 そういうひとりの表情はどこか期待と、その奥に一筋の不安が映っていた。

 それを見て藍伽は笑いながらひとりの頭をくしゃりと撫でる。

 

「ひとり、今日は本当にいい演奏だった。次のライブも楽しみにしてる」

「う、うん!! ありがとうお兄ちゃん」

 

 藍伽はひとりの表情を確認すると、その横で謎にうんうんと頷いているきくりの前に置かれたキャリーバックを引き寄せながら言った。

 

「じゃあ、俺は廣井さんが荷物持って帰るの手伝ってくるから。ここからなら大丈夫だとは思うけどひとりも気をつけて帰れよ」

「えっ、いいよそんな! 私が一人で持って帰るからさ。今日はひとりちゃんと一緒に帰りなよ」

「いや、ギターにベースにその他もろもろの機材全部一人で持って帰れるわけないでしょ。あと、あんまりこんなこと聞きたくはないんですけど帰りの電車賃、持ってるんすか?」

「ぎ、ぎくっ」

「それに妹のために骨折ってもらったのにこのまま返す訳にはいかないんで。俺が今住んでるの下北だし遠慮しないでください」

 

 藍伽がそう畳みかけるように言うときくりはしばらく年上としての威厳がーとかなんとか唸っていたが、しばらくすると諦めたようにぐったりと頭を垂れた。

 

「正直これ全部はしんどいなーって思ってたんだ。悪いけどお願いしてもいいかな?」

「勿論です」

「な、なら私も何か……!」

「いやいや、私が勝手にしたことなのにひとりちゃんにそこまでさせちゃったら流石に私の立場がないよ。多分思ってるよりも疲れてると思うから、ひとりちゃんは早く帰ってゆっくり休みなよ」

「そうそう、後は俺に任せて早く父さんたちにチケット完売できたって報告してやりな。みんな喜ぶだろうから」

「……うん、分かった」

 

 素直に頷くひとりを見て満足げに頷くと、藍伽は背中のギターケースを背負いなおした。

 

「じゃあそろそろ行きましょうか」

「うん、そうだね。じゃ、ライブ楽しみにしてるからね! ばいばい、ひとりちゃん」

「さっきも言ったけど気をつけて帰れよ、ひとり」

 

 そう言いながら歩き始めた二人の背中にひとりはがばりと頭を下げた。

 

「二人とも今日は本当にありがとうございました!!」

「こっちこそ楽しかったよ、ありがとね~」

 

 きくりは手を振りながら、藍伽は軽く頷きを返すとゆっくりと歩き始め、すぐにその姿は見えなくなった。

 ひとりは二人を見送ると、夜空に向かってライブの成功を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、ひとりと別れてしばらくして、藍伽が荷物を持って夜道を歩いていると隣を歩いていたきくりが話しかけてきた。

 

「ねぇ、今日さ、ちょっとだけだけど君と一緒にやって分かった事があるんだけど」

「なんですか?」

 

 そう問いかけるときくりは藍伽の顔を覗き込んで確信を持った声色で言った。

 

「それは君もわかってるでしょ」

 

 あずき色の瞳と青い瞳が交差する。

 そして、二人は同時に口を開いた。

 

 

「「――私と君/俺と貴女は似てる」」

 

 

 同時に発した言葉は内容も一致していた。

 それは藍伽も今日ひとりとともにライブをしている時から痛いほど感じていることだった。

 原作知識で彼女の事は知ってはいたが、一緒に演奏したことで廣井きくりへの理解は深まっていた。そこで感じたのが、それだ。

 

「私はベースとお酒に依存して生きている。そして君は、ギターと、……多分だけど妹ちゃんに依存して生きている。違う?」

「……否定はしません」

「ま、気持ちは分かるけどね。あんな子が近くにいたら私たちみたいな人間は期待せずにはいられない」

 

 きくりはぐっと腰を伸ばしながら夜空を見上げた。

 

「私たちはきっとどこか大切な物が欠けてるんだろうね。でも、

 

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 彼女は普段は空いているか分からない目を大きく開いて、不思議と逸らすことのできない視線で藍伽の顔を捉える。

 

「正直初めてだよ。一緒にやってて私が吞めないと思ったギタリストは」

 

 吸い込まれるように彼女の瞳から目が離せない。

 

「ひとりちゃんのサポートに徹して演るのも楽しかったけどさ、正直言うと不完全燃焼なんだよね」

「、、何が言いたいんです?」

「女の子に全部言わせるなんて酷い男だなぁ。まぁいいか、はっきり言うよ。この後暇なら思いっきり語らおうぜ。バンドマンらしく、これで」

 

 そういってきくりは背中のベースを揺らした。

 その言葉を聞いた藍伽の表情を見てきくりは笑みを深めた。

 

 この後めちゃくちゃセッションした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 きくりとのセッションは刺激的な体験だった。

 

 セッションは疲れたがそれと同じくらい楽しかった。

 きくりのベースに引きずられるように藍伽は思い切りギターを弾いた。普段の演奏も全力で演奏しているつもりだったが、本気で弾いたのは久しぶりだったという感覚があった。

 

 彼女のベースは隠したいと思っていることまで引きずりだしてしまうような不思議な力を持っていて、そしてそれは藍伽のギターも同じだった。

 

 二人は、その力に抗えずお互いに後悔に彩られた薄暗い半生を楽器を通して曝けだし、その中で二人はお互いをより深く理解していった。

 

 その行為はやっちまったという後悔と奇妙な快感を伴った。

 他の女とセックスするよりもよほど深い部分で情を交わしたような気分だった。

 

 途中から藍伽も飲み始め、酩酊により靄がかったその記憶はずっと覚えていたいような、さっさと忘れてしまいたいような不思議な感覚だった。

 

 しかし、彼女と自分が同類だと感じる一方で自分との違いも見つけてしまっていた。

 

 

 ――俺は未だにうじうじとうずくまっているけれど、貴女は既に「道」を見つけているんだな。

 

 

 そう言った藍伽にきくりは君も早く見つかるといいね、と言った。

 そう言った彼女の表情と言葉が脳にこびりついて離れない。

 

 

 歓喜と、後悔と、悦楽と、焦燥と。

 セッションを通して藍伽の中には様々な感情が渦巻いていた。

 感情を揺さぶることが良い音楽の条件とするならば、やはり廣井きくりという女は優れたベーシストだった。

 

 

 

 その後、セッションしながらも飲み続けていたきくりがダウンしてセッションは終了した。

 グロッキーになった彼女を家まで送り届け、藍伽も自分の家に帰ってくると空はもう赤みがかっていた。体は重く疲れていたが彼女とのセッションで得た興奮のせいで目は冴えて眠気は全く来なかった。

 

 藍伽はその興奮のままにギターを引っ張り出してきて、pcとメモを片手に薄暗い部屋で何時間もギターを弾き続けた。

 

 そして日が昇り、再び落ちるころ藍伽は崩れるように横になり寝息を立て始めた。

 

 そんな藍伽の顔の横には、色々と書き込みがされたメモが散らばっており、その一番上のメモにはある単語が殴り書きされていた。

 

 それはこの1日で作り上げた曲のタイトルだった。

 そこにはこう書かれていた。

 

 

 ――【underdog】、と。

 

 

 

 

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