guitarvillain   作:古本

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afterparty

 

 

 

 

「かんぱーい!!」

「お前それ何回目の乾杯だよ……。今日は世話になったしおごってやるとはいったけどちょっとは遠慮しろよ」

「あはは、遠慮なんかするわけないじゃーん。ただ酒サイコー! 藍伽くんも、乾杯しようぜ乾杯」

「はいはい」

 

 藍伽は隣にいるきくりのジョッキに自分のジョッキをぶつけると気の抜け始めたビールを傾ける。

 今藍伽たちがいるのはスターリーの近くの居酒屋。ライブの打ち上げをしているのだ。

 

「おー、いい飲みっぷりだね!」

「いや、きくりさんには敵わないですよ」

 

 藍伽も酒に弱い訳ではないが、この酒乱ベーシストのようには飲めない。

 というか、体を壊すために飲んでいると言われても信じてしまうような無茶な飲み方をするので彼女に付き合っていては直ぐに潰れてしまう。

 

 そんな会話をしながら藍伽は目の前の二つの空席を見やる。

 ひとりと虹夏の席だ。2人は少し前から席を外していた。

 

 今ごろはおそらくはあの名シーンが行われているのだろう。

 

 虹夏がひとりがギターヒーローであることを言い当て、タイトル回収をするアレだ。

 藍伽にとってかなり印象に残っていた場面なので細かい描写はともかくそのシーンはよく覚えていた。

 

「それにしても郁代。ギター始めて四か月なのに今日はライブよく頑張ったね」

「あれ、郁代って誰だ?」

「だ、誰ですかね~。そんなしわしわネーム……」

 

 そんな会話が聞こえて藍伽が視線を横にやると、リョウの言葉に郁代が顔を崩壊させていた。

 彼女は自分の名前がコンプレックスらしく本名で呼ばれるのを嫌がっているのだ。藍伽はいい名前だと思うのだが、本人はどうにも嫌らしい。

 

「俺もいい名前だと思うけどな。郁代ちゃん」

「お、お兄さんまで…! やめてください!」

 

 郁代をからかっていると彼女は自分の殻に閉じこもってしまい、それをリョウが面白そうにつついていた。

 藍伽がそれをぼんやりと見ていると横に座っていた星歌が藍伽のグラスが空になっていることに気づき、ビールを注いでくれた。

 

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちの方だよ。今日は助かったよ」

「あれくらいはさせてください。星歌さんには助けられてばっかりですから」

「別に私はなんもしてないけどな」

「いえ、俺は十分貴女からいろんなものをもらってますよ」

 

 星歌が継いでくれたビールを喉を鳴らして飲んだ藍伽がジョッキをどんと机に置いた。

 

「それにしても星歌さん、久しぶりに会ったらますますかっこいい大人になっててびっくりしましたよ」

「そうか? そんなに変わってないと思うけど」

「いやいや、昔から不愛想なくせして優しいし興味ないような顔しながら人のことよく見てる人でしたけど、スターリー見てたら責任感があってスタッフやバンドからも店長として信頼されててることはよく分かりましたし、やっぱ星歌さんはすごい人だなって改めて思いましたよ」

「……なんだよ、褒めてもなんも出ないぞ」

「別にそんなつもりはないですよ。ただ、……いえ、何でもないです」

 

 途中で言葉を切った藍伽はどこか愁いを帯びた表情をしていた。

 

 昔も今もその整った顔には暗さがあって、沈鬱とも受けとられかねないそれがかえって藍伽の魅力をさらに引き立てていた。

 ……陰のあるイケメンは妙な趣きがあるから困る。

 

 自分の思考が変な方向に言っているのを自覚して、星歌は何かを誤魔化すように口を開く。

 

「ま、まぁ、私もお前の何かのために必死にあがいてるところとかは嫌いじゃないけどね」

「……星歌さん」

「な、なんだよ……」

 

 焦って妙なことを言ってしまったと思いながら、自分の名前を呼んだ藍伽に顔を向ける。

 

 顔を合わせると、暗闇をたたえた藍伽の碧い瞳に吸い込まれそうになる。

 

――やっぱりこいつの瞳って綺麗なんだよな……。

 

 

 

「あのー、お二人さん? 私はもっと見てたいくらいなんですけど、後ろ……」

 

 

 

 突然、PAさんの声がかかった。

 ハッと我に返ると藍伽の顔が目の前にあった。

 

 長いまつ毛、整った鼻梁。紫の髪がかかる眉。

 そして薄く血色の良い唇……。

 

 いつの間にこんなに近づいていたのかと驚きながら、星歌が藍伽の顔から視線を引きはがし後ろを見やるとそこには外から帰ってきていたらしい、虹夏とひとり(妹たち)の姿が。

 

「お、お姉ちゃんのそんな顔見たくなかった……」

「お兄ちゃん、私の前で女の人口説くのやめて」

 

 慌てて星歌がショックを受けた顔をした自分の妹に顔を真っ赤にしながら言い訳を始めたのを横目に、藍伽もジト目で自分を見つめる妹と何故かやたらと引っ付きながら自分の酒を呑ませようとしてくるきくりの相手を始めた。

 

 

 

 

「そうだ、戻ってきたらぼっちに聞こうと思ってたことがあるんだけど」

 

 藍伽がひとりときくりをなだめていると、何を考えているかわからない表情でリョウが藍伽に雑に頭をなでられているひとりに声をかけた。

 ひとりは一瞬固まると、突然ぷるぷると震え始めた。そしてどんな思考回路を経たのかがばりと頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい…!」

「なんで謝った?!」

 

 虹夏の渾身のツッコミにも反応を示さずにリョウはあっさりと衝撃の言葉を放った。

 

「ぼっちってもしかしてギターヒーロー?」

「は」「え?」

 

 ひとりはその言葉に焦ってあわあわし始めたが、虹夏のほうをちらっと見るともう誤魔化しても仕方がないと思ったのか観念したように小さく頷いた。

 それを横で見ていた虹夏は我慢できないとばかりに口を開いた。

 

「それ私だけが気付いて、ぼっちちゃんと2人だけの秘密、みたいな感じだったのに! リョウも気づいてたの?!」

「あんなの聞いたらバンドマンなら分かるに決まってるでしょ」

「き、気付かなかったわ…」

 

 リョウの言葉にショックを受けている郁代をよそにリョウは続ける。

 

「いつも下手だから気付かなかったけど、今日のソロとその後の演奏聞いてて分かった。合わせるのが苦手なだけでぼっちのギター、本当は上手いって」

「そうだったのね! 後藤さん凄く上手なのに先輩方が後藤さんの事あんまりギター上手くないって言ってたの不思議だったんです! 後藤さんがあのギターヒーローだなんてやっぱりすごいじゃない!!」

「い、いやぁ、それほどでも」

 

 先ほどショックを受けていたのが嘘のようにテンションを上げた郁代の言葉に、それほどだと思っている様子で頭を掻くひとり。

 

「他人事みたいに言ってるけど、今日ぼっちがあれだけ演奏できたのはたぶん郁代のおかげでもある」

「えぇ?!」

「普段ぼっちが下手なのはバンドで合わせた経験がほとんどないせいだけど、他にも私たちの演奏がぼっちに追いついていないせいっていうのもあると思う」

「「「……」」」

「でも今日は郁代も頑張って多少はぼっちのサポートも出来てたし、ある程度実力を出せるようになったんじゃないかな」

 

 それを聞いて決意のこもった声で郁代がいう。

 

「……わたしもっとギターもお歌も上手くなります……!」

「うん、でもそれは郁代だけじゃない」

「そうだよね。ギターヒーローに負けないくらい私たちも上手くならなきゃ! 勿論、ぼっちちゃんもライブでも自分の実力出し切れるように練習しなきゃね!」

「は、はい! 頑張ります……!」

 

 良い方向に向かって決意をみなぎらせている少女たちを見て藍伽たちは満足げな表情を浮かべる。

 彼女たちの様子は藍伽にはとてもまぶしいものに見えた。

 

 願わくは、このまま結束バンドが成長していってほしい。

 そんなことを考えている藍伽をよそに、リョウは口調を変えて話を続けた。 

 

「話が逸れたけどぼっちがギターヒーローなのは正直確信してたから、聞きたいことっていうのはそれじゃない」

「な、なんですか?」

 

「――ギターヴィランについて」

 

 そうリョウが口にした瞬間、場が凍り付いたように静まり返った。

 周りの雑音だけが聞こえる静寂の中、空気を読まない女、廣井きくりが疑問の声を上げる。

 

「えー、ギターヴィランって誰?」

「え、しらないんですか?! すっごく有名な配信者さんですよ!」

「そう、一千万回再生超えのオリジナル曲を何曲も出しててチャンネル登録者は60万人を超えている。そして、ギターヒーローと似た名前でチャンネルの開設日も全く同じ。何か関係があるんじゃないかって色んな噂があったけど……」

「え、いや、あのその~……」

 

 そう言ってリョウがひとりと藍伽の方に視線を向ける。

 視線を向けられたひとりは何かを誤魔化すように手をわたわたと振りながら要領を得ない言葉を吐き出し続けているがその視線はちらちらと藍伽の方に向いていた。 

 

 ひとりがギターヒーローだとみんなにバレた時点で隠し通せるとは思ってなかったが、ひとりのそんな言動は答えを言っているようなものだった。

 その証拠に、この場にいる全員が藍伽の方を見ていた。

 

 藍伽は観念したように一息つくと、肩をすくめながら口を開いた。

 

 

「バレたなら仕方ないな、そう、ギターヴィランは俺だよ」

 

 

 芝居ががった様子で藍伽がそういうと、皆驚きの表情を見せたが一番大きな反応を見せたのは意外にもPAさんだった。

 

「えっ?!」

「どうしたのPAさん」

「い、いえなんでも。でも藍伽さんってドラマーの方なんじゃ……」

「あぁ、お前は知らなかったのか。こいつの本職はギターだよ。というかお前もギターヴィラン知ってたのか?」

「えぇ、まぁ一応……」

 

 何故か歯切れの悪いPAさんを見て、郁代が興奮しながらスマホを見せる。

 

「知ってたも何もすごく流行ってる曲とかいっぱい発表してる人ですよ?! ほらこの曲とか!」

「おー、普段SNSとかしないけど私もこれは聞いたことあるよー」

「お兄さん、やっぱりギターヴィランさんだったのね! この歌い方、お兄さんとそっくりだと思ってたの!!」

「私もギタヴィラさんの曲よく聞くよ!!」

「私も。だから気付いた」

「だよね! うわーギターヒーローとギターヴィランの両方と会えるなんて!!」

 

 

 

 

 その後、ギターヒーローとギターヴィランの話で大いに場は盛り上がったのだが、しばらくして、打ち上げは解散することになった。

 

「じゃあひとり、気を付けて帰れよ」

「うん、お兄ちゃんはどうするの?」

「俺は星歌さんたちともう少し飲んでくるよ」

「あ、そうなんだ」

「私も行くよー」

「お前は誘ってないんだけどな」

「じゃ、私たちは帰るね! お姉ちゃん達もあんまり遅くならないようにね!」

「おう」

 

 高校生たちが帰るのを見送っていると、それに乗じてこっそりと帰ろうとしているPAさんに星歌が珍しいものを見たという様子で声をかける。

 

「あれ、もう帰るのか? 次の店で藍伽がいい酒奢ってくれるらしいし良かったらお前も来たらいいのに」

「い、いえ。今日はちょっと」

「そうか? 飲みについてこないなんて珍しいな」

 

 そんなPAさんに藍伽が近づいて行く。警戒した様子を見せるPAさんだが、藍伽は自然な動作で身を寄せると耳元で囁くように言った。

 その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいた。

 

「折角だし一緒に飲みましょうよ、ね、()()()()()?」

「――ッ! き、気付いてたんですか?」

「これでもミュージシャンの端くれなんで声聞いたらなんとなくは。それに俺がギターヴィランって分かったときの反応で確信しました」

 

 そう、ギターヴィランとコラボした配信者、音戯アルトの正体はPAさんだった。

 そのPAさんは耳を抑えると、涙目で藍伽を睨みつけた。

 

「本当は行きたいですけど! ただでさえ炎上しそうだったのにリアルで飲みになんて行けるわけないじゃないですかーー!!」

 

 そう言い捨てると凄まじいスピードで逃げるように帰っていった。

 

「……あいつ何言ってんだ?」

「さぁ、なんでしょうね」

 

 

 

 そして店を移した三人は藍伽のおごりで酒を飲んでいた。

 きくりは酒を水のようにごくごくと飲んでいたかと思うと、飲むペースを見誤ったのか高い酒に私の肝臓が驚いてる……とか言いながら早々にダウンしていた。

 

 寝ているきくりの横で藍伽と星歌は酒を傾ける。

 

「そういやギターヴィランな、初めて聞いた時から私はこれは藍伽の曲だって気づいてたよ」

「あれ、でも俺星歌さんの前でギターと歌やったことありましたっけ」

「実はな、お前と出会う前、お前が高校生の時のライブ見たことがあるんだよ。その後急にそのバンドが解散したって聞いたときは驚いたよ」

「……そうだったんですか」

 

 星歌の言葉に藍伽の表情がかすかに沈んだことに気付く。

 酒のせいかいつもより素直に感情を出す藍伽の様子が、何故か落ち込んでいる虹夏と重なって星歌は気付いたら藍伽の頭に手を載せていた。

 

「お前もいろいろあったんだろうけど、お前は頑張ってると思うよ。今日のドラムもそうだけど、お前の曲聞いてたらギターも歌もちゃんと努力してるってことがよく伝わってくるしな。えらいえらい」

 

 そう言いながら、星歌は藍伽の頭を撫でる。

 藍伽は恥ずかしそうにその手を払いのける。

 

「やめてください。俺ももう子供じゃないんですよ」

「私からしたらまだまだ子供だよ」

 

 星歌は昔の藍伽を思い出す。

 高校生には見えないほど大人びているのに、どこか大人になり切れないアンバランスな彼を。

 容姿こそあの時から成長していたが、その精神性はあまり変わっていないように感じた。

 

 そしてそのことに藍伽が苦しみ続けていることにもまた、星歌は気付いていた。

 

「昔から、お前は誰よりも大人びているのに大人になり切れないようなやつだった。まぁ、世の中そんな奴ばっかりだけどな」

「でも、星歌さんはそうじゃない。誰かのために選んだ道を自分のために進んでいる。たまに俺は貴方がたまらなく羨ましくなる時がある」

「私は、お前ならそういう道も見つけて選ぶことも出来ると思うよ」

「……」

「ま、私もそれを見つける手伝いくらいはしてやるから、その、なんだ、何かあったらいつでも頼れよ」

 

 

 柄にもないことを言った自覚はあるのか顔を赤くしながらそっぽをむく星歌の顔を見ないようにしながら藍伽は酒を口に運んだ。

 

 

 

 

「……ほんとに星歌さんっていい女ですよね」

「……うるせーよ、ばか」

 

 

 

 

 

 

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