幼馴染君がぼっちちゃんを甘やかし過ぎた結果…… 作:Miurand
まあ、私がシリアス書こうとしても多分ところどころギャグが入るでしょうけど()
突然だが、皆さんは夜中に目が覚めることはあるだろうか?私こと後藤ひとりも夜中に目が覚めてしまうことがある。でもまたすぐに寝れるから別にいいんだけど、今日は奇跡が起きていた。
「えっ、ええ!?な、なんで優太君が私の抱き枕に……!?」
おかしい。私は優太君にお願いをしていないはずだ。でも私の腕の中に確かに彼がいる。なんで?どうして?いつもなら絶対に嫌がるはずなのに……。
も、もしかして…!?ついに私に振り向いてくれたのでは……!?中学生の頃、お母さんから聞いたアドバイスに従って今日まで色々アプローチしてみたけど、ようやく効果発揮したのではないか…?
「…………自分から潜り込んできたんだから、これくらいしてもいいよね…?」
多分今は深夜の2時や3時で、しかも前日は徹夜をしていたのだから今すぐにでも寝なきゃいけないのはなんとなく分かっている。でも、このチャンスを逃してはいけない気がした。
「デュフ……。ぐっすり寝てる……」
起きている時にこんなことをしたら絶対に怒られるけど、今なら好き放題にできてしまう。彼のそばで思いっきり息を吸い込むと、愛おしい彼の匂いが私の肺を満たす。最近はバイトや歌詞制作で忙しかったから、何かと優太君成分を補充できていなかった。多分元気がなかったのはこれが原因だろう。もっと欲しい。もっと優太君がほしい。できれば優太君の身も心も全部私のものにしたい。でも、優太君の同意無しに無理矢理やるのは良くないのは馬鹿な私でも知っている。だから、無茶苦茶にするのは優太君のお返事をちゃんと聞けてからだ。それまでは我慢しないと。
「…………そういえば、この前は告白しようとしたのに、優太君寝落ちしちゃったよね……」
あの時は悔しかった。普通あんなタイミングで寝るかな?でも、私も真正面から告白する勇気がなくて無茶苦茶噛んじゃったし、優太君が起きていたところでちゃんと告白できていたかなんて怪しい。だから優太君を責めるのはお門違いだと思う。だけど………。
「………あんなタイミングで寝ちゃうなんて、お仕置き………」
私は優太君が狙ったかのようなタイミングで寝落ちしてしまったことを免罪符にして、彼の頬に自分の唇を軽く当てた。所謂キスってやつだ。
「し、しちゃった……!!ほっぺにだけど、キスしちゃった…………」
本当は彼の唇にしたかったけど、それはちゃんと両想いになってからって決めているんだ。知らないうちに優太君のファーストキスを奪うのも気が引けちゃうし…。いつかちゃんとしたキスができるように、振り向いてもらえるようにこれからも頑張ろう。
優太君から私と寝てくれるようになったんだから、きっと効果は出ているんだと思う。ちゃんと努力していけば、きっと報われる。陰キャでコミュ障な私でもバンドを組めたんだから、きっと…………。
「さ、最後にもう一服だけ………。スゥ〜…………。はぁ…♡癖になる匂い…」
「…………ふがっ…」
こんなに息苦しい目覚めは初めてだ。掛け布団が顔に掛かってるにしては息苦しいにも程がある。起き上がろうにも何かに縛り付けられているかのように動くこともできず…。そして、顔が埋まっているということは、目の前に存在するものの匂いが嫌でも感じ取ることができるわけで………。
(これ、ひとりの匂いでは……?そしてこの柔らかさ…………)
丁度柔らかいものに挟まれているかのような感覚だ。もしかしなくても、そういうことなのだろうか?まさか自分自身がラブコメにあるようなラッキースケベに遭遇するとは思いもしなかった。
あっ?今更何言ってんだって?言われてみればそうだわ。そもそも俺に恋してる幼馴染がいる時点でラブコメ漫画みたいなもんじゃんか。
さて、何に挟まれているか自覚したところで、ある一点に血液が集中しているのがよく分かる。このままではよろしくない。俺のココをひとりに見られでもしたら、それこそ責任を取らなければならない事態に発展しかねない。それだけは避けなくては。お互いのためにも………。
「ぶは……!!!く、苦しかった……」
多分、クラスの男子に話したら嫉妬心だけで殺されるだろう。俺も逆の立場なら殺気を飛ばしている側になっていたに違いない。御宅はともかく、起き上がってひとりを確認すると、本当にひとりのお山に挟まれていたようだ。その事実が確定して、さらに一点に血が集中しているのが分かる。
「い、いかんいかん………。なんとか沈めないとまずい…………」
こういう時の対処法は心得ている。ある男の顔を思い浮かべればすぐに収まる………はずだ。これで収まらなかったら別の危機感を感じてしまう。
「…………よし、収まった。ありがとう某先輩………」
ネット民なら知らない者はいない、あの大先輩に心の中でお礼を言い、取り敢えずひとりの部屋から脱出することにした。
「やあ、おはよう優太君」
…………何故かひとりパピーが部屋の前で待ち構えていた。まるで俺が起き上がるのを待っていたかのような言動である。
「まだ朝早くてね、お母さんもふたりも起きていないんだ。少しの間だけ、男同士の会話を楽しまないかい?」
目の前にいるひとりパピー……いや、直樹さんはいつもと違い、威厳を放っていた。決してひとりママこと美智代さんやひとり、ふたりちゃんの前では見せない姿だ。家庭内ヒエラルキーによって本来の姿が封印されていたことを、俺はこの日初めて知った。
当然、拒否権など存在しない。
「………喜んで」
「いい返事だね。飲み物はコーヒーでいいかい?」
「ありがとうございます………」
そこはアイスティーじゃないんだな…。
少し重い空気のままリビングに移動した。直樹さんの言う通り、美智代さんもふたりちゃんも起きてないようだ。
「さて、なんで娘と一緒に寝ていたのかな?」
「それを話すと深いわけが………」
「別にお母さんやふたりにお願いされたわけでもないよね?君から?」
「いえ、寝ぼけているひとりに連行されまして…………」
「君なら抵抗できるでしょ」
おっしゃる通りでございます。疲れてるだろうから起こしたくないという気持ちが働いてしまったが故に、抵抗できなかったのでございます。
「いや、別に君とひとりが付き合っているのなら僕も咎めはしないよ。でもただの幼馴染ってだけでそこまでするのは………父親としてはちょっと見過ごせなくてね………」
「……………えっ?」
「何かおかしなこと言ったかい?」
「いえ、直樹さんってまともな人だったんだなぁって思いまして………」
「えっ?僕おかしな人として見られていたの!?」
だってこの前は君を歓迎する的なこと言ってたじゃないか。家族で俺を囲い込もうとする大黒柱だと思ってましたよ私は。
「…………優太君。君もいずれは家庭を持つことになるだろうから教えるよ。家族にはヒエラルキーというものがあってね………」
「なるほど全て察しました」
そういうカラクリだったのね。直樹さん的には何か思うところがあったけど、美智代さんに決定権があって逆らえなかったわけか………。完全に尻を敷かれてますねこれは。
ちなみにうちの家族にはそんな概念は存在しないものと思われる。多分ね。
「ということで、できればそういうことは避けてほしいんだ」
「…………善処します」
できればと言っているあたり、俺が断れない状況下に陥る可能性があることを察してくれているのだろう。もしかすると直樹さんは将来の俺の姿なのかもしれない。それくらいにシンパシーを感じた。
「諸君、お待ちかねの給料だぞ」
今日スターリーに来た時、店長にそう言われた。当然みなさま大喜びでございます。特にバイトの経験がなかったであろうひとりは。かく言う俺も初めての給料なので、テンション上がっているのだが………。
てか、今時給料手渡しのところなんてあるんだな。まあスターリーはチェーン店じゃないし、ここにしかない個人経営の店だからこそできることなのかな。今いるメンバーだってほとんど身内みたいなものだし。
「はい、ぼっちちゃんの分」
……そして、最近気付いたのだが、店長ってひとりに妙に優しくないか?当の本人は店長に対して苦手意識を持っているから気付いてないのかもしれないが……。庇護欲でも掻き立てられるのだろうか?もしそうだとしたら店長とは気が合うかもしれない。
「それじゃ、ライブ代を徴収するね〜」
虹夏さんのその一言が、ひとりを絶望の底に落としたらしい。お前は元々ライブのノルマを稼ぐためにバイトしてたんだろ……。まあ、最近は苦手な接客に歌詞制作も頑張ってたから、忘れるのも無理はないかもしれないけどさ。
「……………そんなにお金がほしいなら俺の少し分けようか?」
「ありがとう優太。そのお金は大切に使う」
「いやリョウさんには言ってないです」
「そんな殺生な……!!!」
あなたの実家が太いことは虹夏さんから聞いてるし、なんなら毎月多額のお小遣いをもらっていることも知っている。ベースやギターを買い漁っていることから、恐らく毎月最低1諭吉はもらっていると見た。多分もっと貰ってる。そんなにもらってるんだから自分でやりくりしなさいよ(辛辣)
「えっ……?もらってもいいの…?」
「ちょっとだけだぞちょっとだけ」
「や、優しい………」
まるで普段は優しくないみたいな言い方だな。ちょいと失礼じゃないですかね、ひとりさん?
「ええ!?アルバム作るのにそんなにお金かかるんですか!?」
「うん。せっかくだから物販に並べたいし、ミュージックビデオを作成するのにもお金かかるんだよ」
「じゃあ、夏休みに別のバイトも増やさないとですね」
あらすごい。陽キャ組だけで話がトントン進むな。ここ以外でバイトすることになったらひとりはタヒぬのでは…?大丈夫かこれ?
「みんなで海の家とかでバイトしちゃう?」
「海!いいですね〜!」
あっ。これはあかん。海と言えば、ひとりの青春コンプレックスを代表する単語じゃないですか。……せめてひとりの分だけでも肩代わりしてやった方がいいかな………。
……と、ちらりとひとりを見たらなんか怪しげなサイトを調べているひとりがいた。
「おいお前。碌な収入もないのに借金しようとするな」
「ぎ、ギターを担保にすればなんとか…!」
「そのギターは借り物だろうが……」
そもそもギター売ったらバンド活動できなくなるじゃねえか。海でバイトするのが嫌過ぎてとんでもないことしようとしてるぞこいつ。これだから目を離せないのよ。
「…………優太君」
「なんだ?やっと目が覚めたか?」
「…………結婚しよう!!」
「……………はっ?」
「ほう」
「えっ?」
「えっ…!?」
俺、リョウさん、虹夏さん、喜多さんの順に反応を示した。俺の聞き間違えでなければ、たった今俺はプロポーズされたことになる。もしかして俺以外に言ってる……?あっ、そうかそうか。今はそういう時代だもんね。同性愛にも寛容的な時代だもの。それも良き。
「あー、どうするんです虹夏さん?随分熱烈なプロポーズされてますけど」
「いや今のはどう考えても私に対するプロポーズじゃないでしょ!!?」
どさくさに紛れてぼ虹を生み出そうかと思ったけど失敗。ここはリョウさんにするべきだったか……。初手でまともな人を選んだのは普通に愚策だった。
「ぼっち。告白をすっ飛ばしていきなりプロポーズとは…。ロックだね」
「きゃ〜!!!さて、近藤君はなんてお返事するのかしら?」
「えっ?ぼっちちゃんがプロポーズ…!?」
「後藤さんってやる時はやる子なんですね〜」
おい待て。大人組2人も参戦してきちまったぞ。これギャグで終わらせることできなくない?この前みたいに狸寝入り使えないじゃん。えっ?じゃあ振るか了承するかの2択ってこと?初見殺しじゃん…!!こちとらセーブなんてしてねえぞ!?
…………まあ、ギャグノリはここまでにしよう。俺ほどひとりと関わっていれば、何故ひとりがこのタイミングで唐突にプロポーズしたのか分かる。故に…
「…………お金目的なら断る」
「ということは、お金目的じゃなけれb」
「おい山田黙ってろ。利子10000%つけて返済させるぞ」
「私、ついに呼び捨てされた………」
「日頃の行いだよリョウ」
「(10000%って……。まるで小学生みたいよ、近藤君………)」
話を戻す。ひとりが俺にプロポーズした理由は、結婚すれば財産は夫婦共有になる。つまり、俺のバイト代、小遣いも全てひとりの物にもなるわけだから、それを使ってなんとか追加のバイトを回避しようと考えたのだろう。多分今のひとりにあれこれ計算する余裕などない。大切なギターを担保にしようとしている時点でこれがはっきりと分かる。
「えっ?私、振られた……?」
「金目的で結婚するなら全力で拒否する」
「そ、そんな………。もう私には生きていく意味がない………………」
「えっ、ちょ、ひとり!?」
「早まらないでよぼっちちゃん!?」
「皆さん今までありがとうございました………。また来世お会いしましょう………」
「ご、後藤さん!!?」
「ままま、待て!!本当にそれでいいのかひとり!!!もしこのまま旅立っちまったら、もう2度と俺の体に触れることはできないんだぞ!?一緒に寝れないぞ!?あんなことやこんなことできないぞ!!?それでもいいのか!!?」
「やっぱりやだぁ!!」
「お帰り」
「いや手のひら返し凄いな」
やっぱりこうなったよ。これだから極力ひとりを振りたくなかったんだよ。というか切り替えるの早すぎるって。
「…………優太君、必死だったね」
「そんなことなら振らなきゃいいのに」
「素直じゃないのね〜」
「もうお前ら結婚しろよ」
あれ?なんか護衛砲の数が増えてね?スターリーには星歌砲が新しく配備されたみたいですね。なんでみんなひとりの味方をするの?俺に味方はいないのか……?いや、まだ俺にはPAさんが……!!
「お二人ともお似合いだと思いますよ〜?」
はい終了。わかってましたよ。俺に味方なんていないことなんてね!!
「……つーか何?優太ってぼっちちゃんと一緒に寝てるの?」
「………………あ"っ」
しまった。早まりそうなひとりをいち早く正気に戻すために何も考えずにペラペラと口に出してしまっていたらしい。これは弁明しないと………。てか店長からそんな指摘が入るのが予想外。
「む、昔の話ですよー。いや〜、あの頃が懐かしいや〜」
「無茶苦茶目泳いでるじゃん」
「えっ?優太君、やっぱりぼっちちゃんと…………」
「ごご、誤解です!!俺から一緒に寝ようと思ったことはありません!目が覚めたらいつも俺の布団の中に忍び込んでるんですこいつが!!!!」
「………じゃあ寝てるんだ」
「……………という夢を2人で見てるんですよ」
「優太君って苦しい言い訳しかできないの?」
あーあ………。知られたくないことまで知られちまったよ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。恥ずかしさのあまり顔がどんどん熱くなってるのがよく分かる。ってあれ?この感覚って確か……。
「あはは。あははは………。あはははhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh」
Operating System not found…
「わっ!?優太君の顔がまた真っ青に!?」
「えっ?どうしたの優太君!?しっかりして!!!?」
「近藤君!!?」
「ふむ。恥ずかしさのあまり優太はブルスクを発動させてしまったようだ」
「へぇ。人間離れしたあの芸当って後藤さん以外でもできるんですね」
「やっぱりあの2人お似合いだろ。とっととくっつけよ」
「虹夏、リカバリーの準備を」
「いや優太君はパソコンじゃないでしょ!!?」
「ど、どうしましょう先輩!!私、パソコンの知識には疎くて……!!」
「大丈夫。ここは私に任せて」
「流石先輩!!」
「りょ、リョウさん!私も手伝います!!」
「だから、優太君はパソコンじゃないでしょ〜!!!?」
「あっ、へへ…。これ、レジストリをいじれば優太君に好き放題できるのでは……?」
「おっ、それいいねぼっち。ならレジストリをいじって優太が私にお金を貢ぐように設定しよう」
「へへっ…。なら私は最初から優太君のお嫁さんという記憶を刷り込んで……」
「伊地知先輩。レジストリってなんですか?スタパの新メニューですか?」
「おい山田ァ!!それにぼっちちゃんも悪戯しない!!!」
なんとか意識を取り戻した時、どうやら俺はまたしてもブルスクになっていたことを告げられた。
「えっ?俺ってマジでパソコンなの?コンドウズっていうOSでも搭載されてるのか?」
「優太君。山田の妄言は気にしなくていいよ?」
「えっ?なんかリョウさんにあたり強くありませんか、虹夏さん?」
「気のせいだよ〜。ねっ、山田?」
いややっぱり何かあったでしょ。いつも親しげに名前で呼んでたのに。
「………というか曲できたんだけど…」
「ほんとマイペースだなリョウは」
あっ。呼び方戻った……。ということでみんなでリョウさんが作った曲を聞くことになった。
「…………えっ?めっちゃよくない?」
「はい!凄くいいです!!」
はぇ〜……。素人耳ではあるが、確かにいい曲だった。これに上手くひとりのあの歌詞を上手く適合させたら神曲が爆誕しそうだな。これは今後に期待。
「……凄いですね、リョウさんって」
「ぼっちの歌詞見たら自然と浮かび上がってきた」
「やったじゃん!頑張った甲斐があったね、ぼっちちゃん!!」
ひとりの歌詞を見て浮かんだ、頑張った甲斐があった。そんな言葉を聞いてひとりはとても嬉しそうだった。ネットではギターの腕前を褒められることがあったが、こうして家族や俺以外の人に褒められたことはなかなかないだろう。
「よしよし」
「えへへ…………」
「ガッ…………!!!?」
そしてリョウさんは流れるようにひとりの顎下を撫でる。それにひとりは大変ご満悦のようだ。そして喜多さんは羨ましそうにひとりを見ていた。
「えっ?何?ひとりって猫だったの?」
「ぼっちちゃん凄い嬉しそうだね〜。もしかして妬いてる?」
「はは、まさか……」
いや、むしろリョウさんに依存してくれれば………。ってそれだと結局ヤンデレ脱却できなくね?むしろリョウさん相手にはメンヘラ化しそうな気が……。いやいやダメだ。依存とダメ人間を掛け合わせたらひとりが破滅してしまう。
「せ、先輩!私もこんなに弾けるようになったんですよ!!」
喜多さんも同じことをしてもらいたいのか、リョウさんの近くでギターを弾く。するとリョウさんは上手くなったことを認め、喜多さんはヨシヨシを求めた。リョウさんは何の抵抗もなくヨシヨシする。あっ、なんかこれ……。
「あ〜………。これがてぇてぇってやつか……………」
「急にどうしたの?」
「いや、仲良さげでいいなって思っただけです」
「確かに。バンドとしてもいいことだよ!」
心配されるわけでも、哀れな目で見られるわけでもなく、純粋な疑問としての言葉だった。そうか。虹夏さんは陽キャ側の人間だからネット用語とかに疎いのかな?
「………よし!じゃあ来月ライブできるようにお姉ちゃんに頼んでくるね!」
「えっ?大丈夫なんですか?まだ審査してないのに………」
バイトを始める時に聞いたけど、ライブをする前に審査が必要なのだ。それなりの実力が伴っていなければ、例えどんなに人気バンドだとしてもライブすることを許されないのだ。まあ、人気バンドに実力がないってのは矛盾している話だが、あくまで言葉の綾だ。
「大丈夫!この前も出させてくれたもん!ねっ、お姉ちゃん!」
「あっ?出す気ないけど」
「…………ほぇ?」
うん。まあそうなるよね。そもそもこの前は出させてもらったってどういうことだ?
「店長。この前出させてもらったというのは?」
「あれは思い出作りのために特別にだ」
あーそういうこと。要は初回限定サービスだったわけだ。サブスクとかでよくあるやつだね。最初の1ヶ月は無料だけど、その先は有料です的な。
「思い出作りって………」
「普段はデモ音源審査やオーディションやってるの、知ってるだろ?」
「それはそうだけど…………」
「悪いが、この前のクオリティなら出せないからな」
ふむふむ。確かにあの時のクオリティじゃ集客なんて見込めないからな。経営者としては当然の判断だ。でもここ最近は練習を積み重ねてきたわけだし、あの時よりはよっぽどいい演奏ができるはずだ。
ただ、店長が納得するレベルに到達しているかどうかは分からないが……。
「えっ?出せないって…。それじゃ……」
「一生仲間内で楽しくバンドごっこをやってるんだな」
うぉおいい!?そこは『演奏で私を納得させてみろ』とか言うとこじゃないんですか!?ツンデレか!?やはり店長はツンデレか??この前のクオリティなら出せない。つまり、この前より上達しているなら出す可能性があるということに他ならない。そう説明すればいいだけなのにどうして………。
「………?まだ何かあるのか?」
「未だにぬいぐるみ抱かないと、寝れないくせに〜!!!!」
可愛らしい捨て台詞を吐いて虹夏さんはスターリーから飛び出してしまった。てか店長ってぬいぐるみ抱いて寝るタイプだったんだな。もし彼氏とかいたら、彼氏さんを抱き枕にして寝たりするのかな?いいなその彼氏さん羨ましい。
あっ?お前も同じ体験をしてるだろって?何を言ってるんだ諸君。俺は
あ〜虚しい……。
「………ぬいぐるみって、これのこと?」
リョウさんが当然のように店長さんがぬいぐるみを抱いて寝ている写真を公開した。あら可愛いとPAさんが漏らしていたが………。
「えっ、かわよ……。これで三十路とか嘘やろ?」
素直にそう感じた。いや可愛すぎる。虹夏さんとはまた違った可愛さがあるなぁ。てかリョウさんはどのタイミングでその画像を入手したんだか……。
「えっ?ちょ………。はっ?」
…ん?なんか店長さんが固まっている。ははーん?さては店長、自分のビジュアルの良さに気付いてないのか?それとも…………
あっ、もしかして年齢を気にしてらっしゃる?やべぇぞ、俺普通に三十路とか言っちまったぞ!?大丈夫か俺!?殺される??
「お、お前。素直にそんなこと言えたんだな」
「えっ?一体俺のことどう思ってたんですか?」
「ツンデレ」
「あんたにだけは言われたくねえ!?このシスコンツンデレ!!」
「それ以上言ったらお前クビな」
「うわー大人気ない……」
「えっ?なんか思ってた反応と違うんだけど…………」
いや、だって都合悪いこと言われたらクビって言って脅すのは普通に大人気なくない?冗談だとしてもそう感じてしまう俺が悪いのだろうか……?ここは『横暴だ〜!労基に訴えてやる〜!』とか言った方がよかったんかね?
てか心なしか店長ちょっとショボンとしてないか?凄い分かりづらいけど。割と本気で俺に引かれたと思ってるのかな?むしろギャップを知って好感度上がってるまであるのに。やっぱり店長が一番乙女なのでは………?
いや、虹夏さんが一番乙女だろうな。知らんけど(偏見)
「……優太君って歳上の人が好みなの?」
「えっ?」
「ねえ、どうなの?」
おっとっと。やばいぞ久々にお見えになりましたねぇ、ハイライトどこ行くねーんのひとりちゃん。どうやら店長に可愛いって言ったことがご不満のご様子。ここは先程リョウさんが使っていた技を拝借する。
「ヨシヨシ」
「でへへ………」
良かった。今回のヤンデレ度数は低めだな。もしこれが高めだったらこれでも誤魔化しきれず、後で何か要求されるパターンだった。
「………優太君。ペットプレイが好きなの?」
「はい終わり〜」
「あ〜!冗談だからもう少しヨシヨシを〜……!!!」
「後藤さんに近藤君!!イチャイチャしてないで早く伊地知先輩を追いかけるわよ!!」
「イチャイチャしてねえって。あやしてただけだぞ」
「ペット扱いなの……?」
「や、やっぱりそういうプレイ…?首輪を買ってこないと……!!」
「いい加減にしろや…」
喜多さんが面倒そうにしているリョウさんを押しながら外に出ようとしているので、俺とひとりもプチ家出(?)した虹夏さんの行方を探すべく外出しようとするが………。その前に。
「……店長。何もあんな言い方しなくて良かったんじゃないですか?甘やかし過ぎるのも良くないって意見には同意しますが、言い方に難ありですよ…」
「うっさい。あれくらいで心が折れるようじゃ、この先理不尽な目にあった時にやっていけないからな」
「あ〜…。要は虹夏さんがメンタル的に大ダメージを負わないように今のうちに抗体を作っておきたかったと……」
「話聞いてたか?」
「流石近藤君ですね。同じ属性の人同士だけあって、察しがいいですね」
「いや、俺にはツンはありませんて」
「PA、それ以上何か言ったらクビな。あと私はツンデレじゃない」
「はーい」
全くもって心外である。俺はデレはあってもツンはない。この中のツンデレ属性は店長こと星歌さん一人で十分である。俺がツンデレでも需要なんてないのに何故みんなツンデレにしたがるのか、理解に苦しむ………。
「………ところで、優太」
「はい?」
俺が外に出ようとした時、また店長に声をかけられた。
「………ぼっちちゃんは何してるの?」
「えっ?ひとりなら既に虹夏さんを追いかけに…………」
と思ったら、なんかいつの間にか店長の目の前で仰向けに寝っ転がって変なポーズをしている。
「せ、精一杯服従心を表現しようと…」
「えっ?
「悪意のある聞き間違いはやめろ」
だって本当に復讐心って聞こえたんだもん。ひとりのやつ、店長に何か恨みでもあるのかと勘違いしちまったぜ。紛らわしいことこの上ない。
「早くしないと見失うんじゃないの…?」
呆れながらも微笑んでパシャリと一枚撮っていた。えっ?なんで今のひとりを撮ったの?
「ほれひとり、行くぞ」
「あっ、う、うん…!」
というわけで、ようやく外に出れたはいいものの………。
「あー……。完全に見失った」
「ど、どうしよう……!私のせいで虹夏ちゃんが……」
「何故お前のせいになるんだ」
まあ、誰かしらスマホは持ち歩いているだろうし、結束バンドのグループに居場所を聞き出せば…。ほらこの通り。喜多さんがすぐに既読をつけた上に場所を教えてくれた。
「よし、それじゃあ伝えに行きますかね〜」
「み、皆をお待たせするわけには…!!」
「えっ?ちょ、何故走る!?そんなに急ぐ必要はないだろ!?」
ひとりとしては、早く虹夏さんの誤解を解きたい一心なのだろうが、そんな必死に走るほど急ぎの要件でもないだろうが。てかそれ以上走り続けると………。
「も、もう無理…………」
「呼吸だけはしっかりしろよ〜」
俺が背負うことになり、結果的に普通に歩くよりも遅くなるのだ。だったら最初から普通に歩けばいいのに……。
だが、一刻も早く伝えたい。そう思えるくらいには、ひとりにとって結束バンドとその仲間達は大切な存在になりつつあるようだ。少し前まではこんな光景を想像することもできなかった。あの日、結束バンドにひとりを受け入れてくれた虹夏さんを始めとしたみんなに感謝しないとな。
「………ひとり。甘噛みする余裕があるなら歩けるよな?」
「優太君の首が美味しいのがいけない」
もうやだよこの子。ヤンデレから遠ざかってるかなって思う度にこれだもん。いつになったらヤンデレは治ってくれるのやら………。
「へへっ……。汗がいい匂い……」
そして当の本人は呑気だこと…。てか汗の匂いがいいってマジ?ひとりの趣向って変わってるんだな………。今更それくらいで引いたりしないけど。
「よし、自分で歩け」
「急に冷たくなった…!?」
まーた1万文字いってやがる…。結局週一でしか投稿できなくて申し訳ないです。でも無理矢理書こうとするとエタるって知ってるんですよ。だから無理のない範囲で執筆してます。
さーて、そろそろヤンデレやたまにシリアスタグに相応しい話しを書きたいところだが…………。