幼馴染君がぼっちちゃんを甘やかし過ぎた結果…… 作:Miurand
ヤケ酒をなんとか止めることに成功した俺は、金沢八景に戻って川沿いで雑談中……。と言っても、主に話しているのは廣井さんとひとりだ。だってバンド関係で話が盛り上がってるんだもん。俺じゃ割って話に入ることはできない。
何があったか分からんが、ひとりは廣井さんに懐いているようで、若干の詰まることはあっても基本的に会話は進行していた。さて俺はロインでも……。
『そういえば、ぼっちちゃんはチケット売れたかな?』
『今日は自主練に来る?』
おっと……。気付かなかったな。何故か俺も招待されている結束バンドのグループロインにそんな通知が届いていた。
って、そうだよ!!酔っ払いのお姉さんのせいで忘れてたけど、元々チケットを売るために外に出たんやろがい!!!
「そっか〜……。そうだよね〜……。私も初めてライブする時は苦労したなぁ…!!」
そしてタイミングがいいのか悪いのかノルマの話に移行していたようで、ひとりはなかなかチケットを売れないことを廣井さんに話したらしい。なんか無茶苦茶同情してる………。この人の陽気な感じなら別に苦労しないのでは…?と思ったけど、酔っ払ってると性格変わる人もいるらしいからなぁ……。もしもひとりが酒飲んだらどうなるんだろ……?いや、想像したくもないからやめとこ……。酒に溺れてニートになるか、はたまた………。うん。後者は語りたくない。
「………よーし!ならお姉さんが恩返しをしてあげよう!」
そう言うと廣井さんは上着を脱いで薄着一枚になった。えっ、何その薄着。いくらなんでも目に毒じゃありませんかね?中川見たら発狂しそう()
そしてひとりは何を想像しているのか、顔を若干赤くして………。
「す、すみません。私にそういう趣味はないので………」
「何言ってるの?今から私とひとりちゃんと優太君で路上ライブするんだよ!」
「…………………えっ?」
ひとりが口をぽかんとして驚いていた。ちなみに俺も同じく驚いている。だって唐突に俺も巻き込まれたのだから。
「ちょ、ちょっと待ってください…?何故俺まで………?」
「あれ?君も何かやってるんじゃないの?」
「いや何もしてないです」
「うっそだ〜!君とひとりちゃんでコンビ組んでるんじゃないの〜?ギターとボーカル!みたいな?」
「ひとりが組んでいるのはガールズバンドです」
「あれ?そうなんだ?じゃあ歌はどう?上手く歌える」
「あっ、優太君は高い時は90点台を取ります」
別にそんな上手くないと言おうとしたら、ひとりが勝手に答えやがりました。こいつ、自分だけじゃ不安だから俺も巻き込もうとしてやがるな…!!?ふ、ふふふっ。ならこっちにも考えがあるってもんよ。
「みなさーん!!今から路上ライブをしまーす!!よければ見てくださ〜い!!!!」
路上ライブは無理。かと言って何もしないのは良心が痛む。だから俺は呼び込みに回る!!一人でも多く観客を引き寄せるだけでも貢献できるだろう。
「ということで俺は呼び込みに行ってきまーす!!!」
「あっ、ちょっと〜?ありゃりゃ。無理ならはっきりそう言ってくれればいいのに……」
30分くらい経っただろうか……?駅の周りでとにかく路上ライブの呼び込みをして、結構な人数を集めることができた。もうすぐ祭りだがまだ時間に余裕があるということで、せっかくなら見てみようと考えた人が多いのだろう。
「あれ?近藤じゃん?」
「お前もバンド始めたの?」
呼び込みに全集中していたら、今日俺の家に泊まりにくる中川と西村に遭遇した。
「いやいや、やるのはひとりと今日出会ったベースのお姉さん」
「えっ?今日初めて会ったのに一緒に演奏するのか?それって幼馴染ちゃん大丈夫なのか?」
西村の疑問はごもっともだ。普通なら初対面の人と演奏どころか会話すらも難しいだろう。しかし何故か廣井さんに懐いているし、なんとかなるだろ。
「まあ、なんとかなりそうだな。せっかくだしお前らも見にくる?」
「そうだな。祭りまでまだ全然時間はあるし、何よりひとりちゃんの演奏聞いてみたかったんだよな。どれくらい上手いんだろうな?」
「ソロなら無茶苦茶上手いんだけどねぇ………」
というわけで、西村と中川を引き込んだところで呼び込みは終了。二人がいた場所に戻ると、いつの間にか機材を用意していた。無茶苦茶本格的だな。
演奏が始まった。始まってすぐに気づいてしまった。いつもより演奏が不安定だし、見てるだけでプレッシャーに押し潰されそうなのが分かる。演奏を聴きに足を止めた人も心配そうにひとりを見ている。
しかし、それとは対照的に、廣井さんは自信溢れる演奏をしていた。『私を見ろ。私の演奏を聞け』。言葉でそう言っているわけではないが、そういう幻聴が聞こえるほどに自信に満ち溢れた振る舞いをしている。しかし今回の主役はひとり。それが分かっているのだろうか。多分いつもより控えめに、しかし確実にリードギターを支えようとしているのがよく分かる。
自信満々の演奏もすごいが、何より初めての曲で、初めて合わせる人との演奏であんなに堂々と弾けているのだ。恐らく只者ではない。先程までお酒で酔っ払っていたようにはとても見えない。
しかし、それがひとりにとっては逆効果だったのかもしれない。さっきよりもさらに演奏が不安定になっている。廣井さんと自分の演奏を比べてしまっているのだ。
「が、頑張れ〜!」
応援したのは俺ではない。確かに何か言おうと考えてはいた。だが、実行していない。エールを送ったのは、同年代以上の女子と思われる人だ。もう1人の友人らしき人に何を言っているんだと言われると、『不安そうだったからつい』と返していた。
……やはりみんなも同じことを考えてるんだ。感情は音楽に出るといつか店長から聞いたことがあるが、まさにその通りだと思った。
「…………」
「………!!!」
片目を開き、俺の方をチラッと見たと思いきや、急に演奏の安定感が増した。さっきの応援の効果があったのだろうか。廣井さんも意味深な笑みを浮かべて演奏を続ける。
「おお…。ひとりちゃん、結構上手いな」
「……ずっとギター見て猫背になってるけど、もはやそれが様になってる」
西村がゲーム片手に演奏を聴くことをやめた。基本的に興味ないことにはとことん無関心な西村を聴き入らせるとは、流石ギターヒーローだ。実力を出しきれてなかったとしても、それを平然とやってのける。俺には到底できないこと、俺にはない才能だ。
そうだ。お前はすごいやつなんだ。自信を持て。お前の演奏に茶々を入れるやつがいたら俺がなんとかしてやる。だから、精一杯自分の出せる力を出せ。
……目が合った。俺の意図が伝わったのかどうかは分からない。だが、確実に言えることは、ラスト数秒でひとりのギアが更に上がったことだ。
……無事にライブは終わった。何故片目だけ開眼したのかは分からないが、きっと何か理由があるのだろう。今までのライブで感じ取ることができなかった『ひとりの自信』を感じ取ることができた。まだ本調子とはいかないが、これなら当日のライブもなんとかなりそうだ。
「…………ひとりちゃん、結構上手いんだな」
元から真剣に聞こうとしていた中川はすっかり夢中になっていたようだ。一方で…………。
「……………」
演奏が終わったと思ったらすぐさまゲーム機を取り出して再開した。これを聞いたら『なんだこいつ』と思う人もいるかもしれないが、これでもかなり聴き入ってた方だ。こいつは興味ないと判断したら全力無視で他のことに没頭するので、ゲームを中断しただけでも相当聴き入ってた方だと思う。
「あの〜、チケット買ってもいいですか?」
二人の感想を聞いてると、いつの間にかチケットを求める観客が現れた。恐らく友人同士で来たであろう、女子大生くらいのペア。そういえば、片方の人が頑張れとエールを送っていた人だ。
「やったじゃんひとりちゃん!!」
そして、チケットは2枚売れて残り1枚となったのだ。ひとりにしては本当によく頑張ったと思う。残り1枚は俺が買うことに…………。
「じゃあ、はい」
と、廣井さんは1500円をひとりに手渡した。当の本人は何故お金が渡されたのか分かっていない様子だった。
「鬼ころ5本分以上のライブ、期待してるからね!」
「えっ、あの、いいんですか?」
「うん!今日一緒に演奏して、なにか感じるものがあったからね。期待してるよ?」
「は、はい!!!」
……廣井さん。シラフでは優しい人なのかなとは薄々気づいてはいたが、こんなかっこいい一面もあるとは思わなかった。酒さえなければ普通にいい人なんだが………。なんだがなぁ………。
「あの〜、すみません。ここでの路上ライブは禁止されてますので〜」
「えっ!?ほ、補導される!!?」
「されないされない」
というわけで、警察の人から注意を受けてしまったのでそそくさと機材の片付けを手伝った。なんだかんだで中川も手伝ってくれたが、西村はその辺に座ってゲームしてた。西村ェ………。
片付けも終わり、廣井さんが帰ろうとしたら電車賃がなくて結局俺が貸すことになって数分後。空はそろそろ暗くなる頃合いだった。いや廣井さん、そこは去る時までカッコよくいてくださいよ………。
「おっと。もう花火大会始まっちまうんじゃね?」
「なら早く行こうぜ……。っと…。先にお前の家に案内してくれないか?」
「えっ?なんで?まあいいけど」
中川と西村の希望で家に寄ることになった。まだ花火大会は始まらないからいいものの、そのまま行った方が楽だったんだけどな。まあ二人とも少し荷物が大きいから置きたかったのだろう。
「お〜。ここが近藤の家か。郊外ってのもあって広いな」
取り敢えず家の散策等は後にしてもらって、取り敢えず親はいないからくつろいでくれと伝えると……。
「んじゃ西村、ゲームやろうぜ」
「おう。近藤、このモニター使ってもいいよな?」
「ああ。それは構わんが、お前ら祭り行くんじゃなかったのか?」
「すまんな。俺は路上ライブ聴き入ってたせいで足を痛めたぜ!」
自信満々に中川はそう言った。いや自信持って言うなし。それだとまるでひとりが悪いみたいじゃないか。
「俺はだるい」
そして西村は本音を最早隠す気もない。本当に祭りに行くつもりなのかと疑ってはいたけど、ここまで来たら清々しいな。
「つーわけで、近藤。ひとりちゃんと2人で行ってこい」
「…………はっ?」
「あれ?聞こえなかった?ひとりちゃんと祭り行ってこいよ」
…………なるほど。最初から祭りに行くつもりはなかったなコイツら……?俺とひとりを二人きりにセッティングするためにわざと………。
「………いや、お前らが行かないなら俺もゲームする」
「いやここは行く流れだろ!?天ぷらに従えよ!!?」
「それを言うならテンプレな」
「やさいせいかつ。やさしいせかい」
「順序が逆ゥ………」
そもそもひとりは祭りや都会みたいに人が大勢集まるところを好んでいない。コイツらはそれが分かっていないようだ。まあ無理もないか。ひとりとほとんど関わってないわけだし。
「………悪いな近藤。このゲームは二人用なんだ」
西村がそう言いやがった。そんなわけあるかい。二人プレイ限定のゲームなんて今時あるわけないやろがい。俺は騙されないぞ!!
HYPER MARUO BROTHERS
モニターに表示されていたのは、誰もが知るあのレトロゲーだった。うん。確かにそのゲームなら二人プレイまでだね。
「いやいや、チョイスおかしくねえか?」
「おかしくないだろ!!原点にして頂点のゲームだぞ!!」
「…………近藤。行け」
「いや〜、でもひとりは人混みが……」
「関係ない、行け」
中川は相変わらずツッコミを入れているが、西村はマジトーンで俺に行けと促している。お前はいつからカリスマ吸血鬼になったの?何故か分からんがどうしても行かせたいらしい。なんでそこまでして……?もうわけわかめ。分かったよ行くよ。行けばいいんだろ……?
「…………分かったよ。行ってくる」
「おう。家は荒らさないから安心してくれ」
「もしやったら次会う時は法廷だからな」
「異議あり!!!この家はお前じゃなくてお前の両親が所有しているものだ!!よってお前に訴える権利はない!!」
「なら俺の両親に訴えるように言っとくね」
「いやん優ちゃん怖ーい☆」
「いやキモ」
俺がツッコむ前に西村にツッコまれた中川ザマァ。
「……あれ?お二人は…?」
律儀に玄関前でずっと待っていたらしい。時間かかるから家に上がればよかったのに。変なところで遠慮するのよねこの子は………。
「祭り行くのがダルくなったんだと。だから、一緒に行こうぜ、祭り」
「………………えっ?」
ひとりは目を見開いて俺を見つめてきた。ん?なんか変なこと言った?別に変な提案してないよね?
「…………(えっ?優太君からデートのお誘い!?どどど、どうしよう…!!人混みは苦手だけど、せっかくの優太君からのお誘い……!!む、無駄にするわけには……!!!!)」
………何やら無茶苦茶悩んでいるご様子だ。大方、俺と出かけられるのはいいけど、人混みに行くのは嫌なんだろう。
「……まあ、なんだ?別に無理しなくていいぞ。お前が人混み苦手なのは知ってるし………」
「行く…!!!!」
「いや、戦場に行く覚悟を決めた時みたいな顔されても…………」
案の定、屋台が立ち並ぶ通りは花火目当てに来た人達でごった返していた。ひとりは今にも死にそうだったので、ひとりが好きそうなポテトと唐揚げ、極め付けに体を冷やすかき氷も買って避難した。実はここは俺が昔見つけた穴場スポットで、ここなら人が少ないし、少し遠いとはいえ花火も見ることができる。
「…………ひとり、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……。ありがとう……」
どうやらギリギリセーフだったらしい。あと少し人混みの中で揉まれていたら、ひとりは死んでいただろう。一度死なれると蘇生するのが大変なのよね。
「ほれ、これ食って気を取り直せ」
もしかしたら熱中症気味になっているのかもしれない。なら水分補給も兼ねてかき氷を食べさせるのが効果的だろう。俺がかき氷をすくってスプーンを差し出してやれば、パクリとかぶりついた。
「あ〜……。生き返る〜……………」
「そいつは良かった」
ひとりの安否が確認できた俺は、自分用に買ったかき氷(メロン味)を口の中に入れる。これぞ夏の風物詩って感じがする。ちょっと高いけどそれも愛嬌。祭りの中で食べるから意味があるんだよこういうのは。
「………優太君。もう一口」
「なんだよ、自分で食えよ」
「…………」
ぐっ…。無言で上目遣いを使ってくるのはやめろ……。お前のそれは反則なんだよ。なんというか、庇護欲を掻き立てられるんだよ………。
「………はぁ。分かったよ。ほれ」
「あむっ…。もう一口」
「…………ほれ」
なんだこの状況。側から見たらラブラブなカップルそのものでは…?ひとりが人混みを好まないからダメージは少ないものの………。これは………。
「つーかお前ばかりに食べさせてたら俺の分食えないじゃないか。溶けちまうぞ」
「………それもそうだね」
そう言うと、ひとりは自分でスプーンを持ち、俺のかき氷を掬った。
「…………えっ?なんでお前が掬ってるの?」
「あっ、あーん……」
「………………」
「あ、あれ?何か間違ってる……?」
いや、間違ってない。間違ってないけど………。これはまずくないか?これを受け入れたら俺はもう後戻りできない気がする。なんとか逃れる術を考えなければならない気がする。
「…………あむっ」
俺がいつまで経っても食べないせいか、ひとりは自分の口に運んで食した。なんとか回避することができたか……?そう油断していた時だった。
「んむっ………」
「……ッ!!!?」
な、なんだ?何が起きたんだ?冷たくザラザラしているこの感触は、間違いなくかき氷。それは分かるが、明らかにかき氷ではないものが口の中に侵入している。妙に生温かく、不思議な味だ。こんなものを食べたことも飲んだこともない。
「ぷはっ………」
少しすると、ゼロ距離にあったひとりの顔が少し離れた。そしてひとりの口から俺の口に伸びる糸のような輝き…。
……………ダメだ、頭が回らない。血液が脳じゃなくて顔に集中している。顔が熱い。今の俺は一体どんな顔をしているんだ?ダメだ、分からない。
「………こうすれば、二人同時にかき氷を味わえるよね?」
「お、お前………。何して………」
「……まだ、足りないよね?かき氷…」
その日に食べたかき氷の味は、不思議と甘酸っぱく、体が温まるものだった。時間をかけすぎて最後には殆ど飲み物と化していたのは言うまでもあるまい。
かき氷を二人で食べている最中、花火は何度もあがり、美しい閃光とともに暗い空に綺麗な絵を描く。時間を置いて音と振動も伝わってくる。その音は家の中で窓を閉め切っていても聞こえるほど大きな音だ。でも、その日は花火の音が全く聞こえなかった。花火の音なんかよりも、自分の心臓の音がうるさくて仕方なかった。こんなに自分の心臓がうるさいと感じたのは人生で初めてだった。
一方で、激震が走るほどの進展があったと知る由もなかった優太の友人二人組は………。
「おいおい近藤…!いい性癖してるじゃねえか………!!!」
西村はゲームに集中していたが、俺は人の部屋に勝手に入っては近藤の秘蔵コレクションを発掘していた。えっ?荒らし行為じゃないのかって?あいつが帰ってくる前に片付ければ何も問題ないぜ!!バレなきゃ犯罪じゃないんですよ(某公務員系の邪神)
「つか、これだけ幼馴染モノ掻き集めておいてひとりちゃんのことなんとも思ってないなんてよく言えるな」
そのコレクションは幼馴染系が多かった。その冊数はザッと…
「…………51冊……いやもっとあるか?しかもこれ………」
いや〜驚いたね。本当に驚いた。近藤がここまでコテコテのツンデレだとは思いもしなかった。もしくは自分の感情に対しては鈍感なのか?そう思えるくらいには……ね。
「…大体作品に出てくる女の子が内気な美少女の幼馴染って……。しかも7割方はピンク色だったり長髪だったり大きい子だったり………。これどう考えても意識してるよな?」
やはり今日は2人きりにして正解だったようだな。何やってんだよ近藤。お前のせいで全部茶番みたいになってんぞ。いい加減抱けよ(過激派)
ちなみに近藤のコレクションは、年齢制限がかかるものではなくて一般ものしかなかった。まあ、年齢制限かかるやつは今時ネットで買えるもんな。俺は紙で所有したい派だけど。
まあ、スマホやパソコンの履歴を漁れば似たような結果が出てくるんだろうな。年齢制限付きだろうがな。
今日はいつもと違う1日だった。普段の休日なら、バイトしないなら家でギターを弾くか、ギターヒーローの収録をするくらい。あとは優太君と遊ぶくらいかな。でも、今日はライブチケットのノルマをなんとか捌くために外に出向くことになった。最初は自分でやれと言っていた優太君だけど、なんだかんだで協力してくれることになった。と言っても、私が最初にお願いしたように、優太君とそのお友達がチケットを買ってくれる方式ではなく、あくまで私の力でチケットを捌く方針だった。
優太君曰く……
『これから先もあいつらがライブに来れるとは限らない。もちろん俺も常に行けるわけじゃない。そういう時にもノルマが達成できないようじゃ困る』
……とのことだった。優太君の言い分は分かるし、私も薄々気づいている。自分の力でなんとかしなきゃって。
それで、外に出て作戦会議をしている時に、お姉さんと出会った。何故か昼間から酔っ払っていて、助けてもらってもまたお酒を飲もうとするし、優太君にいきなり襲いかかるし、私と優太君を巻き込んで新宿まで連れて行ったりする人だけれど………。
カッコよかった。お姉さんの発案で路上ライブをすることになった。優太君の呼び込みの効果もあって結構大勢の人が聞きにきてくれた。自信のなかった私と違って、お姉さんは自信満々に演奏していた。しかも初めての曲で、初めて合わせる人との演奏なのに、確実に私を支えていた。
きっとこの路上ライブを発案したのも、私に気づかせるためだったんじゃないかと思っている。敵は観客じゃない。弱い自分自身なんだって。お陰で今日の路上ライブは上手く行った。優太君に頼らずにチケットを売ることができた。最後の一枚もお姉さんが買ってくれたから、ノルマは達成できた。
そして、居酒屋にお姉さんのベースを取りに行く時に聞いたアドバイスも、すごく役に立った。
『優太君がひとりちゃんのことを異性として意識してるかどうか確認したいなら、まずは間接キスとか仕掛けてみたらどう?』
お祭りに誘われた時は正直驚いた。でもチャンスだと思った。人混みは苦手だけど、優太君がわざわざお祭りに誘ってくれたのは何か理由があるはず。でもやっぱり苦手なものは苦手。私の気分が悪くなったのに気づいた優太君は、人の少ないところに避難させてくれた。おまけに熱中症対策なのか私の好物だから買ってきてくれたのかどうかは分からないけど、唐揚げとポテトにかき氷まで買ってきてくれた。そしてかき氷はそれぞれ違う味……。ここで私は閃いた。
このかき氷、間接キスに誘導できるのではないかと。案の定、優太君は私にかき氷を食べさせてくれる。最近は厳しくしているつもりらしいけど、やっぱり優しいよね。流石に自分で食べる力くらいは残ってるし、それは優太君も分かってるはずなのに。
…………今度は私のかき氷をあげよう。既に口をつけたスプーンで優太君のメロン味のかき氷を掬ってあげる。でも優太君はすぐに食べない。やっぱり意識してるのかな?そうだよね……。異性として意識してないなら、間接キスなんて全く気にならないはず………。
でも恥ずかしがってる感じとはなんか違う。確証がほしい。私を異性として意識している確証が……。間接キス作戦がダメなら何をすればいいのかな?……間接……キス?直接的なキス……なら…。いやでも、そんなことしたら………。
………いや、優太君はそんなことで私を嫌いにならない。こんな面倒で陰キャでコミュ障な私とずっとずっっと一緒にいてくれた人だ。仮に優太君が見捨てるような人ならば、私はとっくに見捨てられてるに決まってる。幼馴染と言えども、年齢を重ねるに連れて疎遠になるという話も聞いたことがある。だから、幼馴染だからという理由で今日も隣にいてくれるわけではないと思う。
外で抱きついても、無許可で添い寝しても、キスマークをつけても、優太君は許してくれてるし、心の底から怒ってる様子は一度もなかった。
………もういいや。やっちゃおう。
『んむっ…………』
………ああ。やってしまった。頭でやらない方がいいのではないかと思っても、体が動いてしまう。唇と唇が触れ合っている。優太君は動揺しているみたい。顔は真っ赤。まるで茹蛸みたいに真っ赤だ。
流石に引き剥がされるかって思ったけど、優太君は何もしてこない。それはもう、私が拍子抜けしちゃうくらいには。優太君が引き剥がそうとしても、絶対に離さないつもりだった。もしかして、私のキスを受け入れているのか?それとも頭が真っ白になって何もできなくなっているのか?どちらにしろ、私のことを意識してくれているのはよく分かった。分かったけど、ここで止められるほど私の理性は強くなかった。
『んっ…!?』
せっかくだから優太君のかき氷を食べさせてあげよう。不思議な味だ。かき氷の冷たい感触と、彼の熱い感触を舌に感じる。冷たいのか熱いのかよく分からない。私の体も熱くなっている気がする。ここまでしても彼は抵抗する素振りを見せない。冷たいものを食べてるはずなのに、顔はさっきと変わらず真っ赤。
『ぷはっ…』
何秒か、何分か……。どれくらい時間が経ったか分からない。長かったようにも感じるし、短かったようにも感じる。まだ足りない。もっとしたい。もっと彼の熱を感じ取りたい。
『………こうすれば、二人同時にかき氷を味わえるよね?』
『お、お前………。何して………』
『まだ、足りないよね?かき氷…』
最初は優太君が自分のことを意識しているかどうか確認するためにしたのに、段々と本来の目的を忘れてただただ絡みあった。優太君が引き剥がさないのをいいことに、私は何度も、何度も、彼に深い接吻を仕掛けた。
「………!!」
「どうした中川?」
「西村。ひとりちゃんと近藤、戻ってくるの遅くねえか?」
「確かにな」
「これは何かあったに違いないねぇ。帰ってきたら近藤に聞いてみるか」
中川勇人の直感は当たらずも遠からず。まさか自分達が咄嗟に思いついた案によって後藤ひとりが出陣したとは思いもしないだろう。
「………つーか飯まだ?俺腹減ってきたんだけど」
「………俺達も今から祭りに行くか?」
「もう花火大会終わってね?」
「まだギリギリ終わってないだろ。そこで焼きそばでも買おうぜ」
「いいね焼きそば。買いに行くか」
わーい。ひとりちゃんが本格的に動き出したぁ!(by動かした張本人)
つよつよぼっちちゃん書きたいけど、ぼっちちゃんの性格上なかなか書きづらいから強引に書いてみた。オリ主が自分のことが好きだとなんとなく分かっているからこそできる所業なのだ。そして主人公はぼっちちゃん沼にハマっていく……。ぼっちちゃん罪な女だなぁ…。
実を言うとここでぼっちちゃんに告白させようかと考えていて、実際にその部分も書き出していたんだけど、まだ早い気がして結局没にしました。だって告白したらあとはイチャイチャコース一直線になっちゃう可能性大だもの。まだやりたいことがあるのだ……。
ここからはギャグだけでなくちょっとシリアスな要素も入ってくる……と思われる。多分。恐らく。きっと。楽曲コードはタイトルで歌詞の表現を引用しているので一応。次回もちょっとした難産になりそう。
ちなみに新作の方は4話を最後に全然執筆が進んでおりませぬ()